救える根拠とそうでない根拠
混乱のなか、まず落ち着くことを目的とし、カズトとエージが外に出た。キラキラと星が輝く夜空だが、悠長にそれを眺めている時間も余裕もない。
すると、目の前に見たことのない爽やかな男が現れた。
「お前らがレイシスとかって奴らか。」
「誰だてめぇ...?」
誰かとのやり取りに気付いたタクミやエリアスたちも外へ出る。
「俺はジェス。少し遊ぼうぜ...?」
ジェスと名乗った男がそう言うと、青の炎に包まれた。それが消えると、中から現れたのは髪色が朱と紺のジェスだった。目もそれに合わせて色別になっており、黒色のコートを着ている。
「上等だコラ...。」
グメアとキドラが現れ、それぞれ自分の主にアームドした。
「“てめぇをぶっ潰す。”」
ジェスに睨みをきかし、指を指してレイシスが言った。
「来いよ。」
余裕をこいたような様子で構えをとった。
2vs1のなか、互角の戦いを見せた。いや、よく見るとジェスが勝っている。彼はレイシスとクレイのパワー系の二人を相手に余裕の表情を浮かべていた。その様子を見たタクミも急いでアームドし、ウルフとなって参戦した。しかし、1人増えたところで無意味だった。そもそも“攻撃が効かない”のだ。
拳をぶつけても精々その衝撃によって一瞬だけ怯ませることしかできない。
サクとレテアが遠距離から射撃をした。しかし、地面に手をかざし、それを突き上げるモーションをすると、その一部が隆起して盾となった。
「は...!?」
クレイがそれを驚いた様子で見ていた。
「俺も最近、姿も能力もバージョンアップしたんだ。慣れないでやりあって殺したら...。悪い。」
ジェスがにやけを浮かべながら言った。
「んだとコラ...!!」
すると、彼の拳が銀色の光を纏い、それをレイシスに当てた。その瞬間、当てられたところを中心に波紋が広がる。
連打を受けて大ダメージを受ける。鎧のあちこちが火花を散らし、強制解除された。
「カズ!」
グメアが彼に駆け寄る。
「あのやろう...!!」
「...あいつに勝つのは無理だよ...!」
彼女が深刻そうな表情を浮かべていった。
「そいつの言う通りだ。お前たちでは俺は倒せない。さて、体も暖まったところだけど...。」
ジェスは姿を通常の人間に戻した。
「今のとおり、お前らじゃ俺らには勝てない。だから大人しくしてろ。」
彼はクレイたちにそれぞれに指を指して言った。
「ふざけんじゃねぇ!!」
クレイが構えを取り、殴りかかろうとしたとき。
「今頃お前らのリーダーも...ボロボロになってるんじゃないか...?」
「...!?」
リーダー、ジクティア...すなわちショウのことだ。
「んなわけねぇだろ! はったりもいい加減にしろ!!」
剣を取り出し、感情的になったクレイがジェスに斬りかかる。生身でもそれをヒョイヒョイと避け、姿を消した。
「どこだ...! どこいきやがった!!」
クレイはアームドを解除し、エージに戻った。キドラがそんなエージを落ち着かせようとしたが、無駄だった。
一方のジクティアは魔王...いや、ミユを相手に戦っていた。
「ミユ! 目を覚ませ!!」
ジクティアの呼び掛けに答えはない。彼女は本気なのだろうか?
そしてもう一人、紫色の鎧を纏った謎の戦士...。
奴はリュウガやフィリオと戦っている。
「強い...!?」
「このままじゃ勝てない...!」
二人はその男を相手に苦戦しているようだ。だが、ジクティアは彼らを助けることはできない。ミユを助けなければならないからだ。彼女の強烈な攻撃がショウを襲う。
「ミユ!!」
名前を呼んでも無駄だ。彼女からの返答は少しもないし、ちっとも反応しない。
「無駄だ、ジクティア。諦めろ。」
ルーグだ。研究所のドームの屋根に立っていた。
「....ルーグゥゥ!!!」
ジクティアの怒りの叫びが夜空に響いた。
「そんなに女を助けたいなら、楽にしてやることくらいしかないなぁ。」
親指で自分の首を掻っ切るモーションをした。その言葉と動きが表すことはたった1つ。
ミユを殺すしかないという。
「くそ...! 残酷なことばっかしやがって!!」
ジクティアの怒りが頂点に達した。ジクティウェポンをガンモードにしてルーグに撃った。スルリと弾丸を避け、屋根から降りた。
「俺も相手してやるかな!」
いくらルーグでも、何度も強化させたジクティアに少々押されていた。
しかも隠し玉を仕込んである。
「やるな...流石だ、ジクティア!!」
「なんでこんなことをする? なんのためにこんなことを平気でやれるんだ!?」
「フフフ...すべてはミッションのためだよ、ジクティア...! 俺にもな、都合ってのがあんだよ!!」
「ふざけるな!!」
感情的になったジクティアがルーグと戦っている。
ラータもひたすらサポートに徹し、赤と青の力の切り替えに集中していた。もしものために背後にも気を取り、いつでもバリアを張る準備もできている。
「いいぞジクティア! その調子だ! 怒れ! もっとだ! もっと!!」
ルーグが煽る。彼はその度に感情を大きくしていった。赤と青の目の色が赤黒く変色した。
ダイスケが彼に教えた。全ての始まりはルーグからだと。
『ショウ! 危険です! 落ち着いてください!!』
「お前を殺してやる!! ルーグ!!」
たくさんの人たちの家族や友人を殺したのは奴だ。
「フッハッハッハ!! その調子だ、ジクティアー!!」
兵士たちを拉致し、エンディアにさせたのも奴だ。
「黙れー!!」
平和だった国々を、めちゃくちゃにしたのは...全ての始まりは...たった一人の男からだ。
「お前を許さない! ぶっ倒してやる!!」
「やってみろ! ジクティア!」
ルーグがどんどん煽りを入れる。
何が目的だ?
だが今のジクティアに、勘ぐるほどの余裕は無かった。
ルーグを殴ろうと固めた拳が赤黒い光を纏った。そしてそれをぶつけると、ルーグは全身が吹っ飛んでいった。
「クッ...! ついに覚醒したか...! この体に刻まれたぞ...! お前の拳...怒りがぁ...!!」
「ぶっ殺す...!」
その時、ジクティアの肩を目掛けて弾丸が飛んできた。
「熱くなってんじゃねぇって。」
緑髪の狙撃手、ガクトだ。
ジクティアは一気に頭を冷やされた。
『感謝します!』
ラータが彼に礼を言うと、親指を立てた。
念のため辺りを回っていたら、ヴェルカーが再び現れたので皆で排除に回っていたらしい。
「あっぶね...。俺が軽くストロフだったわ...。」
『...! ストロフです! 早くケリをつけましょう!』
「...! そうだ、その手があったな!」
今パッドに刺さっているパワーナイフを引き抜き、少し形が特殊な黒色のそれを取り出して起動させ、それをパッドにぶっ刺した。
管が現れ、鎧に形を成す。
赤と青の色だった鎧は、暗めのメタリックシルバーになった。
「名付けて、ストロフ・ジクティア!」
『そのまんまですね。』
「それしかないでしょーが。さぁ、一気にいくぞ!!」
ルーグに...いや、まずはミユを救出することを優先すべきだ。奴は後で良い。
「おい、お前の相手は俺だぞ!!」
ルーグが言った。
「そんなに相手がほしいなら、俺たちがしてやる。」
ヒロム、ガクト、ソウゴたちがルーグの前に立ち塞がる。
対ヴェルカーの武器が完成したことにより、この辺り一帯のヴェルカーは今頃研究所ドームの中に運ばれている。
「“破壊の力で、世界を救う!”」
ストロフ・ジクティアはウェポンをソードモードにして魔王のミユと戦う。
ストロフ・パワーナイフは、従来のそれと違って引っ張るレバーがある。これを引っ張ると、ルーレットが開始され、出てきたエキスの力を使うことができる。
「さて...試しに使ってみるとしますか!!」
例えば、引っ張ってウサギのマークが出たら、
《ラビット!》
と電子音が鳴り、移動速度や跳躍力などの身体能力の向上ができる。
ジクティアは高速で移動し、魔王を斬りつける。
「これだけじゃないぞ!」
さらに、ルーレット画面は二つに分かれており、レバーを二回連続で引っ張ると両画面がコロコロ変わる。
そこで、どちらもウサギが出た場合、
《ラビット! ラビット! アーマーロイド! ラータ!!》
と鳴り、彼女の基本能力を使うことができる。
赤の力で高く飛び上がり、青の力で重い蹴りをいれた。
再びルーレットを回す。
《スナイパー!》
狙撃、つまりはパレンだ。
弱点をスキャンし、ジクティウェポンのガンモードで攻撃を当てる。
どうやら以前ストロフモードを初めて使ったときの傷がまだ完全に直っていないようだ。顔面に一撃を当てられ、そこが割れる。
ミユの顔が見えた。
「ミユ!」
ジクティアは武器を捨て、魔王に向かって走った。
彼女は剣を振りかざし、斬りつけようとする。
《ニードル!》
《ファイアー!》
《アーマーロイド! ウーペ!!》
手がトゲの生えたグローブになり、剣を殴って弾いた。続けざまに腹にそれをぶち当てる。腹筋部分が割れ、ミユのお腹が露に...。
「ミユ...裸なの...!?」
そこに気をとられたジクティアの首を掴む。持ち上げられ、呼吸もできずに苦しむ。そういえばウーペの能力が使えることに気付いた。高水圧の水流...ビーム(のようなもの)を胸部に当てて怯ませ、手を離した隙に距離をとる。
「ミユ裸なの...!? 助けていいの...!?」
『変なこと考えてるなら許しませんよ。』
「いや考えてないけどさ...あーもう! 助けにくいなぁ! だから女の子は__ !」
ルーレットのレバーを三回ひいた。
《ファイナル・アタック! ストロフ・バースト!!》
ジクティアは走りだし、硬い拳を作った。
「苦手なんだよー!!」
それを胸部のど真ん中に当てた。すぐに距離をとると、割れた胸部の鎧から赤い穴が広がった。それはまるで宇宙に存在していると言われているブラックホールのようだ。
『反応を確認しました! ミユはあのなかです! ショウ!!』
「任せなさい!!」
『吸い込まれないよう、バリアを張ります! 急いでください!』
ジクティアは走り出してその穴の中に手を突っ込んだ。
「ミユ!!」
手を突っ込むだけでは足りないと思った彼は、中に上半身ごと入れた。
「......?」
彼女のかすかな声が聞こえた。
「ミユ! 俺だ! 助けに来た!!」
「...! ショウ......?」
捉えた。彼女だ。まさかと思っていた事態ではなかったが、下着姿だったのは事実だ。目のやり場に困る。しかしそんなこと言ってる場合じゃない。
「ミユ! 俺の手を掴め! 早く!!」
彼はそう言うと、ミユは急いで手を握った。
「よしゃ! オラァア!!」
力一杯引き上げようとするが、そうはさせまいと言うように、穴がジクティアごと中に取り入れようと引きずり込む。
「ラータ! ルーレットだ! 早く!!」
《ラビット!》
《ドラゴン!》
ゾロ目にならなかった。だが、これでいい。
ドラゴンの力で能力を高めて引き上げて、ラビットの力で素早く離れることができる。
「オッラァア!!」
穴のなかからミユの救出に成功した。
下着姿の彼女を横抱きにして距離を取ると、魔王の鎧が爆発四散した。
ジクティアはアームドが強制解除され、ショウとしての姿に戻った。
「ショウ...!」
「あー辛かった。大丈__」
彼は無事を確認しようとしたが、その口にミユの唇が押し当てられ、最後まで言えなかった。
「...???//」
初めての出来事に混乱を隠せなかった。
「ほんと...ありがと...あと...面倒かけて...その...ごめん...。」
二人とも顔を真っ赤にした。ラータは悔しそうにして機嫌を損ねた。
紫の戦士と戦っているフィリオたちは、ソウゴらの助っ人のお陰もあってなんとか形勢逆転に持ち込んだ。
「ぬぅ...。こんなもんか...。」
紫の戦士が呟くように言うと、すぐに姿を消した。
「くそ...あと少しだったのに...!」
リュウガをそう言うと、ソウゴが肩をポンポンと撫でた。
あとはルーグだけだ。
「まさかそんな隠し玉を持っていたとはな...くそ...予想外だ...。」
彼はボソボソと言った。しかし、予想外で戸惑う様子ではなく、むしろ楽しんでいるような様子だ。ここまで来たら、いや、奴は最初からサイコパスだ。
「良いだろう...教えてやろう...ミカミ ショウ!!」
ルーグが変身を解除し、レイトの姿になった。
「...?」
ショウがレイトを睨む。ふとしてミユを庇うようにして前に出た。
「何故、お前が適性検査もせず、ラータとアームドができたのか...。何故、アーマーロイドを作れるのか。 何故聞いたこともない“ビビ”という単語を知っているのか...。その答えはただひとつ...。」
ショウが険しい表情で答えを待った。
「ミカミ ショウ! お前が、最初から...“兵器開発”を目的として作られた...試験管ベイビーだったからだよ!」
「...な...!?」
自分の耳を疑った。
いや、そんなわけがない。自分には父も母もいるし、仕事の都合で...。そう思っていると、だんだん記憶が剥がれ落ちるように消えていく。
あれは、嘘だった...?
「今のお前があるから、アーマーロイドという兵器がうまれた! 今のお前があるから、それを使った戦争が起きた! 今の世界の惨劇は全部、お前が産まれたことによって起こっていることなんだよ!!」
自分の存在があるから...? そう思って膝から崩れ落ちた。
「嘘だ...嘘だ嘘だ嘘だ...!!」
覚えていた両親の顔が消えていく。
「信じられないなら調べるがいい...。“あの”USBでな...。あれは俺がお前に贈ったプレゼントだ...。パスワードは、『ラータ』...。」
ルーグは不気味に笑い、姿を消した。
Android #36 救える証拠とそうでない根拠
(いよいよ最終章となります。)




