暴走・怒り/合流地点
「うあああああ!!!」
ラータが大きな声をあげ、魔王に攻撃を仕掛けた。
膝で顔面をめり込ませた。
ボキメキバキっと酷い音がしたのが分かった。
魔王は反撃しようと出るが、その寸前にラータの姿が消えた。
彼女は今度はローナに攻撃をしていた。
ラエルを押さえつけていたその腕を、なんと、折った。
「うわぁぁぁ!?」
あまりの痛みに地面を転がり、苦しんでいる。ラエルは解放されたことによって咳き込んでいた。
「痛いよぉぉぉ!!」
泣きながら両腕を見た。そんな苦しんでいる彼女の腹部を何の躊躇いもなく強く蹴った。頭を掴み、地面にめり込ませた。
「ラータやめろ!! そこまでしなくてもいいだろ!!」
ディノスモード。彼女は今、まさにそれだ。
ショウが制止しても止まらないのは、大きすぎる力に自我を無くし、ただただ兵器として破壊の限りを尽くしているからだ。
「やめろ! ラータ!!」
魔王がラータの後ろから攻撃をしようとした。しかし、避けられ、彼女は奴の肩に乗っていた。
すぐに降り、ハイキックを食らわせた。
「強ぇ...。」
エリアスが腹を押さえながらその様子を見ていた。
今度は魔王に狙いを決めたようで、ひたすらボコボコに殴り続けた。
ローナははじめての敗北と痛み、苦しみに泣きじゃくっていた。
ラータが拳を魔王の顔面に当てた時だった。鎧によって見えなかった素顔が見れた。
中にいたのは、ミユだった。
「......ミユ!? ラータ! よせ!! ミユだぞ!!」
ショウの制止を聞き入れず、ラータは魔王を殴り続けた。
「ラータやめろ!! やめろっつってんだろうが!! 主の言うことが聞けねぇのかよ!!」
大声で訴えるも、聞こえる訳もなく、ただただ兵器として、暴れている。
「こんの...! コーヒーバカ女ァ!!」
それでも攻撃を止めることはなかった。
すると、隣にいたパレンが立ち上がり、武器を取り出した。
「なにすんだ...パレン...?」
「大丈夫だよ、ご主人様...! いま、ラータちゃんはあいつを倒すことに夢中になってるだけ...。集中を切らせるだけだから、大丈夫だよ...!」
彼女はそう言ってブレイクアローのエネルギーをチャージさせ、一気に放出させた。
ラータの目の前をそれが通り、向こうが爆発した。
彼女がパレンを見た。
「ラータちゃん! 目を覚まして! ご主人様が泣いてるよ!」
涙声だ。膝が揺れている。本当は怖いんだ。
初めて見る、無機質に暴れる彼女を見ていて普通でいられるわけがない。
無言で静かに近付いてきた。
「ラータ...?」
「.........。」
目を覚ました_ そう思っていたのに、彼女はパレンの胸部を蹴って飛ばした。
「ラータ!! お前!!!」
地面に転がされたパレンを見て、ショウはラータを止めようとした。しかし、さっき無理矢理起動させたストロフの負荷がまだ残っていたため、できなかった。
「やめろラータ!! パレンだぞ!!」
ショウは、問答無用で一方的にパレンを攻撃し続けるラータに、喉がつぶれる勢いの大声で制止をかける。
「分かんなくなっちまったのかよバカ野郎!! 」
エリアスが剣を構える。しかし、手が震えて上手く構えられない。先程竜の力を解放したため、それもできない。それに、ラエルが心配だった。ラエルは咳き込むのが治まると、荒い呼吸をして気絶した。
ラータがパレンの武器を奪った。
パレンの腕を掴み、武器についてある刃で、パレンの右の腕を__
「!?!?」
__切り落とした。
「ラータ!!!」
「うあぁぁぁあ...!!!」
腕を切られた彼女は、膝から崩れて患部を押さえる。
ラータはその腕を向こうへ投げ捨て、武器も捨てた。
パレンを蹴っ飛ばし、転がす。
「やめろ!!!」
パレンの胸ぐらを掴んで持ち上げ、黒色のオーラを現せ、それはパレンに乗り移った。
「ラータちゃん.....」
手を離し、崩れるパレンに背中を見せた。
「大好き...だよ...。」
回し蹴りを当て、大きな爆発を起こした。
彼女はパレンにトドメを刺した。
ラータは急に一気に崩れていつもの姿に戻った。
ハッとして目の前を見ると、ボロボロになっているパレンの姿があった。
「...パレン...?」
戦闘服のあちこちには穴が空いていたり、焼けた後があった。
先程の爆発で片足を無くし、切断された片腕からは火花が散っていた。
「ラータ...ちゃん...。」
口は動かず、瞳がラータを捉えることはない。
そう言ったのは、スピーカーだ。パレンの喉元にあったそこから声が出ている。
「パレン...! ごめんなさい...! ごめんなさい...!!」
「謝らないで...。お...さまってくれて、良かった...。」
「わたし...わたし...なんてことを...。」
ボロボロになったパレンを抱き上げた。
「心配だな...。わたしがいな...ぃと...。ラータちゃん、寂しそうに...してそうだから...。」
残された力を振り絞り、被っていた海賊帽子をラータに被せた。
「どこにいても、一緒だよ...。」
水色と緑色の光の粒子となり、彼女は消えてしまった。
「覚えてろよ...! くそども...!!」
ローナもそう言って撤退した。
今まで感じたことのない程のストレスがラータを襲った。恐怖に手が震え、無力に地面に手を当てた。呼吸が荒くなり、吐き気がした。
しばらくレディナに滞在することになった。ダイスケはルアフの大病院に運ばれた。入院レベルの重症を負ったのだ。
あれから1週間経つが、ラータは何も口にしていない。
時々パレンの幻覚を見るようで、酷く怯えている。
ある日、ルアフの首相から緊急で戻ってくるようにと言われた。ショウはエリアスらに説明し、ラータを連れてとにかく急いで戻ることにした。
ショウたちが不在の間、ルーグとネガが暴れまわっていたそうだ。それをエージたちが止めていたが、どんどん強くなっていくヤツらにさすがに堪えたようだ。
ラータは地下室に閉じ籠っている。
「ショウ、ラータに何があったんだよ...?」
片腕を骨折しているエージがショウにきいた。
「...俺が悪いんだ...。俺が...。」
虚ろな目で、彼はそう言った。
「どうしたってんだよ...?」
カズトも話に加わった。
「俺が...。」
彼も、彼女をあのようにした責任を強く感じていた。
「パレンの姿が見えないが...まさか...。」
タクミが察した。しかし少し違った。確かにパレンは殺されたが、殺したのは敵ではなく、ラータだ。
「ショウ...お前...何があったんだよ...??」
エージが折れていない方の手でショウの胸ぐらを掴んだ。
「...もう...いいんだ...。」
「は...?」
「俺...ヒーロー...やめるよ...。」
ショウの口からあり得ない言葉が出た。皆が目を丸くして彼を見た。
「何言ってんだよお前...!!」
「もう戦いたくないんだよ...俺も...ラータも...。誰かが殺されていくところなんて見たくない...誰かを殺すところなんて見たくない...。俺はもう...やめる...。」
ショウの頬を涙が伝った。
「.......ッ...!!」
エージが彼を殴った。
「エージ、よせ。」
カズトがエージにショウから引き離した。
「腕に響くぞ。」
「うるせぇ!! 俺はこんな弱い奴が嫌いなんだよ!!」
ショウは何も言い返せなくてただ下を向いた。
「何があったか知らねぇけど...平和な世の中を目指してボロボロになってまでも戦ってきたんじゃねぇのかよ! それなのにお前ってやつは...!」
「パレンが死んだのは...ラータが殺したからだ...。」
「は...!?」
「そしてラータにそうさせたのは...間違いなく俺だ...。」
俯いたまま、震える声で言った。
「レディナにはローナと魔王がいる...。そいつらが強くて...だからストロフモードを使った...。」
エージ、カズト、タクミが集まって話をした。
「どうすんだよ。ガーディアンズのリーダー・ジクティアさんがあのザマだぞ。」
エージが発言した。
「どうするって...あいつの代わりに俺たちが戦わないとダメだろ...。」
タクミはそう答えた。
「くそ...こんなときに挫折かよ...!」
机を叩き、カズトが怒鳴った。
「ラータ? 大丈夫か...?」
ドア越しに聞こえたキドラの声が、ラータの心を締め付けた。
「ご飯持ってきたよ...?」
グメアだ。脳裏にちらつくパレンの笑顔が苦しい。
「何かあったら...その...迷わず言ってくださいね...?」
ミホの言った。
殺してほしい。今すぐにでも、誰かに殺してほしい。そう思っていた。
あの時一緒に行った遊園地、その帰りにパレンは満面の笑みでこう言った。
「今度は皆も連れて行こうよ!」
自分がその“今度”を奪った。涙が止まらなかった。
ショウはずっとキッチンの隅っこに座っていた。そのそばには、彼の大好物であるカニクリームコロッケが置いてあった。
出動命令を受け、カズトとグメア、タクミとミホが出掛けた。
エージはだいぶ治ってきたようで、リハビリとして筋トレをしていた。
治って早速体に鞭を打つような真似をしているエージを見て、ショウは自分が持っている分のパワーナイフを見た。
「...。」
立ち上がり、地下に降りた。
「...ショウのやつ...。やっと動いたか。」
部屋に入ると、ラータが倒れていた。
「ラータ...?」
「.........。」
息はしているが、意識がない。抱き上げ、ベッドの上に移動させた。
「ごめん...。俺のせいで辛い思いをさせた...。」
ショウはラータに言うと、コンピューターを起動させた。
そして体力が無いのにも関わらず、徹夜をした。そして出来上がったデータをメモリに入力し、それを持ってどこかへ出掛けた。
ラータは目を覚まし、天井を見つめた。
「なんで...私...まだ生きてるの...。」
カスカスの声で、彼女はそう言った。
「何言ってるの、 生きてるのが当たり前だよ?」
聞き覚えのある声だった。
声の方を見ると、そこにいたのは、パレンだった。
「やだ...ごめんなさい...ごめんなさい......!」
また幻覚を見ている。何もないのに、そこを見て手を合わせ、必死に許しを請う。
「ラータちゃん、しっかりして!」
「ごめんなさい...!」
パレンはラータの手を握り、そしてそっと抱き締めた。
暖かい。
目の前にいる彼女は、本物のパレンだった。
「...なんで...?」
「なんでって?」
きょとんとした様子でパレンがきいた。
「わたし...あなたを...あなたを...。」
「あー、大丈夫だよ! 私は今、こうやってラータちゃんの目の前にいる! それでいいじゃんか!」
再びぎゅっと抱き締めた。肌の感触も、温もりも、全て本物だ。何故、彼女がここに?
「お前、ほんっとすげぇよな。」
帰ってきていたカズトがショウの頭を撫でた。
「そうでもない。」
アーマーロイドはエキスとデータ、そして...まぁ“+α”で作られた存在。
パワーナイフには、それらが全て凝縮されて詰まっている。これをすこしイジって政府に預けた。
もちろん、パワーナイフに情報を入力した後の記憶はない。
言うなれば、それに能力を入力することは、ゲーム等のセーブである。しかし、もうひとつ同じようなものがある。それが、変身パッドだ。それに同じようなデータがあれば、ロードすることができる。
要するに、この二つがありさえすれば、多少の誤差が生じるが、復活させることが出来るということだ。
もちろんパワーナイフは有限だ。死なせないようにすることは当然であるに代わりはない。
「パレン...私...。」
「もー。大丈夫だってー! 私はラータちゃんのこと大好きだよ? ちゅーする?」
「...しません...。」
「フフ、いつものラータちゃんに戻ってきたね!」
パレンはラータをぎゅっと抱き締め、頭を撫でた。
「...戻ってきてくれて、ありがとう...。」
「ううん。ご主人様のお陰だよ。ラータちゃんの抱き心地良いなぁ...。」
「おかえり、リーダー。」
タクミがショウの肩を叩く。
「...あぁ...。」
「ったく。立ち直るのにどんだけかかってんだよ!」
エージが肩を組んだ。
「ごめん。」
「ガーディアンズ復活だな、ジクティア!」
カズトがショウの頭を撫でた。
「あぁ...! ...なんだっけ。」
「そういやカズトのコードネームってなくね?」
エージがカズトを見て言った。
「なら、“レイシス”でいい。かっけぇだろ。」
「どういう意味だ?」
「特にねぇ。」
「ねえのかよ。」
いつものやり取りだ。
ラータはまだ復活まではしていないが、それでもキドラたちと話せるようになっていた。
クレイ、ウルフ、レイシスの三人は、ルアフ政府によってレディナに派遣された。魔王とローナを倒すためである。
早期決戦にしなければ、情報を嗅ぎ付けたルーグたちに暴れられてしまう。
今回はパシーサまでヘリで移動している。
レディナも二つの大きな脅威の排除を依頼しており、今回は特別に認められた。
そして、そこにいたエリアスたちとも依頼の内容が合致していることから、共同の作戦となった。
「着いたぞ。」
レイシスが皆に言った。
「あぁ。久し振りに暴れてやっか。」
クレイの変身セットも更新してやったため、チャージロイドとしての力が正しく使えるようになっている。
リーダーのジクティアは別の目的があるため、ギアルに向かった。
滞在先は、エリアスたちが所属しているギルドだ。
敵に動きがあるまで、しばらくそこにいることになっている。
「うぅ...さむ...。」
そう言ってショウは肩をすくませる。
「待ち合わせ場所を港なんかにするからです。」
ラータがショウの背中をさする。
「だよねぇ...。あと、背中をさすってるけど、俺風邪引いてないぞ。」
彼はそう言ったのに、ラータはその手を止めることはなかった。
「あの、すみません!」
背後から声がした。振り向くと、そこには白衣を着たドクターっぽい人と...誰かいる。しかもどちらも自分より身長が大きい。ショウに近付こうとしたとき、ラータが目の前に立ちはだかった。
「ラータ、彼らは敵じゃない。」
ショウが言うと、彼女は彼らに一礼して道をあけた。
「君たちがお医者さん?」
「あなたは?」
「俺は水上 翔。君たちに連絡を入れた者だ。」
Android #33 暴走・怒り/合流地点
ショウ「あれさー。」
エージ「どうした?」
ショウ「過去形が続きまくって読みにくくない?」
エージ「...??」
ショウ「あー、気にしなくて良いよ。」
エージ「おう!」




