新たなる力
ショウ「作者が新作に夢中らしい。」
エージ「らしいな。」
ショウ「……。」
ラータ「どうしました?ショウ?」
ショウ「…なんか妬けるな…………。」
エージ「え?」
苦しそうに荒い呼吸をしていたキドラが今は静かに眠っている。
「消滅までの期限とかあんのか...?」
「分からない...。」
彼女が消滅してしまったらエージまで消滅してしまう。アーマーロイドとはそういう契約を交わしているからだ。
《僕はあなたで、あなたは僕。》
彼女と契約したときに言っていた言葉が脳裏をよぎった。エージ本人としても消滅なんてしたくはないはずだ。でも彼としては自分よりも彼女の身を案じていた。
「どうすればいい?」
さすがのショウでも分かるわけない。変に答えを出すことはできないが、状態をよく観察し、仮説をたてて予測をすることは出来る。
キドラの今の状態は、能力や容姿を形成する上で主となるドラゴンのエキスを失い、弱っているとする。であればやることは1つ。
「ルーグを倒してキドラの力を取り戻す。」
サテルの首都にある研究施設の地下にはテオスの拠点がある。ルーグと名乗る赤黒のコートを着た仮面の男は、そこに小さな瓶の中にあるドラゴンのエキスを持ってきた。
「お待ちしておりました、ルーグ様。」
白い防護服を着た科学者がそれを受け取る。
「新しい兵器...アーマーロイドを越える力を持つアンドロイド...か。」
「特攻させるために作った、ただの自爆兵器です。名は、チャージロイドになります。」
「待て。ドラゴンの前に試作品を作ったらどうだ? 失敗して貴重な上級エキスを失いたくないぞ。中級エキスのなにかを使え。」
「そうですね...では、『強制労働』という意味を持つ『ロボット』でも使とします。我々のために懸命に働いてもらいましょう。」
そう言って防護服の科学者はルーグの前から去った。
一人暗い空間で不気味に笑った。その静かな狂気に満ちた声は、この先ショウたちをどのように殺すかに楽しみを覚えてのことか、それとも別の目的があるのか。
「気味が悪ぃ奴だな...あんた。」
柄の悪い男がルーグの背後から声をかけた。
「なんだ、カズトか。」
信藤 和人...サテル軍の特殊部隊の部隊長を務めている男だ。
「チャージロイドの契約者、俺なんだろ?」
「そうだ。だがドラゴンではなくロボットだがな。」
ルーグはそう言って手をヒラヒラさせた。
「あぁ、聞いていた。俺に強制労働させるとはな。どういう身分なんだよあんたはよ。」
しばらく沈黙の間が生まれたあと、カズトは鼻で笑って去っていった。
「ルーグを倒すったって...俺たちじゃ勝てねぇだろ。」
エージの言うとうりだ。今のショウたちの力では...いや、ショウとラータの力では ルーグに勝つことはできないだろう。あの時に当てた攻撃によって鎧に深い傷を負ったとしても、単なるまぐれに過ぎないだろう。
「...なら...そうだな...強化させるしかないか。」
「ショウ、50%以上の強化は出来ませんよ?」
ラータが言った。
「違う。ルーグやイスパードは変な機械をつかって変身してた。ならこちらも機械をつかって強化するんだ。」
「機械をつかって...?」
「...そうだな...。悪い、しばらく一人にしてくれ。」
そう言ってショウは地下室への階段を降りていった。
コンピューターの電源を入れてから、ウーペを作る際に使用した大きな機械のスイッチをオンにした。
「こいつならきっと強化アイテムを作るためのヒントを持っているはずだ。」
コードを繋ぎ、準備をしている間にスーパーの安売りチラシの裏にマジックペンで数式を書きなぐった。それの内容はアーマーロイドを作る際に用いるエキスの配合する分量だ。
「通常がこれなら、もしかしてここまで...いや...そしたら人体に大きな影響が出るよか...。」
一方一階では、買い出しに出掛けていたウーペが帰ってきた。
「皆、どうしたの?」
そうか。彼女はずっと雑用をしていたため、今の状況を理解していないのか。
エージはそんな彼女に、黎兎がルーグという最強の敵であることと、そいつにキドラの力を奪われたことを話した。伝わっていないところはラータがフォローしていたが、最初からラータが話せば良かったのではないかと彼は思った。
「そうだったんだね...。でも、こういうときこそ美味しいご飯を食べて元気にならなきゃね!」
沢山の食材が入ったパンパンの買い物袋をキッチンのカウンターに置き、エプロンに着替えて仕度を始めた。
エージはそんな彼女を呑気だと呆れた。
時間は限られている。明確な期限はないが、早くしなければキドラが消えて無くなってしまう。そんなことを考えていると、エージに1つの疑問が生まれた。
「ウーペ、お前に主っていなくね?」
「...そういえばあの時...。」
黎兎さんに強制契約しようとしたとき、弾かれてしまったときだ。今思えばあれはルーグだというヒントだったのかもしれない。
「なぁ、ラータ...今俺がウーペと契約したらどうなる!?」
「...く、詳しくは分かりませんが、通常は二重契約なんて出来ません...。それに、危険です...。」
「通常ではダメなんだろ!? じゃあ無理矢理にでもやれば...!」
突然地下室から奇声が聞こえた。そのあとに急いで階段を駆ける足音も。
「分かったぞ! アーマーロイドの力を2倍にすりゃあいいんだ!」
ショウの顔がドラロクナックルを完成させた時に見せた笑顔のまさにそれだ。
「2倍にするって...それじゃあ人体の影響もこれまでとは比べ物にならないことになりますよ?」
「まぁ聞きなさいよ! いいか?」
(長い解説が嫌な人は⭐️まで飛ばすといいぞ。)
体への負担というのは、通常のアーマーロイドをアームドした時に生じるものだ。生身から直接アーマーロイドをそうすることによって負担が生じる。なら、直接アームドしなれば、負担はないということだ。
「待てよ。つまりどういうことだ?」
つまり、今までのアームドの仕方のせいで負担がかかるってことであり、違う方法でやれば負担は軽減されるということだ。
「直接アームドするから負担がかかるということは、間接的にするということですか? 意味が...?」
アームド時の能力値や機能を全て機械に覚えさせ、それをつかってアームドする。コア・システムと同じようなものだ。
つまり、アーマーロイドがいなくても、その機械さえあれば、直接アームドしたときと同じ力を手にすることが出来るというわけだ。
「アーマーロイドのせいで体に負担が生まれるってことかよ?」
そのとうりだ。
「では、私たちは不要になるということですか?」
半分正解で半分不正解だ。
目的は飽くまで力を2倍にすることである。解説がスムーズに行くように、ここでは機械でのアームドを「変身」と呼ぶことにする。
変身すると、今までのアームド時の能力がノーリスクで身に付けることが出来る。
そこでいつもと同じようにすれば、今までと同じリスクで力を2倍にすることができるというわけだ。
「...なるほど...??」
以上のことを踏まえて分かりやすく纏めると、今までのアームドは体に悪い。けど、機械のお陰で健康的に力を得ることができる。そこに従来のようなアームドをすると、比較的安全に力を倍増させることができる。
⭐️(ここまで解説しておいてなんだが、更に簡単に言うと、ちょっとセコいことして二重にアームドするということだ。)
「...」
ショウが長い解説をまとめたとしても、エージにそれを理解することはできなかった。それを察したショウはじれったいように頭を掻いた。
「ここまで解説したのに分かんないのかよ! 元々旨い牛丼に卵かけるとめっちゃうまいだろ! それだ!」
ヤケクソになって適当な言い方をする。
「なるほど!」
「ショウ、違いますよねそれ。」
「とにかく! ほんっきで強くなれるぞ! 頑張るぞー! おー!」
一人で張り切って階段を降りていった。
Android #20 新たなる力
《茶番》
エージ「はぁいらぁたぁ。」
ラータ「なんの真似ですか?」
エージ「側溝に住んでる白いかおで赤い鼻のおっさん。」
ラータ「“それが見えたら終わり”ですか。」
エージ「……マジで……?」
ラータ「……………?」
エージ「俺何回も携帯で見てんぞ………!」
ラータ「(バカだ。)」




