後方支援お月様
ショウ「ミユかミドリか…。」
エージ「なんの話だ?」
ショウ「アイドルの推しのはなし」
エージ「???」
時計を見て時間を確認すると、スマホの画面を開いてネットアイドルの配信を見ていた。
「ちわっすー! ミユっすー。」
銀髪の女の子が挨拶する。
「み、ミドリです! 」
隣にいた緑色の綺麗な髪の女の子も挨拶をした。
「Moonのネットライブ!」
二人の女の子がネットライブのopを始めると、画面左端に表示されているコメント覧がどんどん更新されていく。
「ミユたーん!」「こんばんわー!」「今日はなに歌うの?」といったようなそれに違和感を感じた。どうして誰もエンディアによる被害状況を発信していたことになんとも思わないのか。
流れてくるコメントに、その件に触れた内容は一切なかった。
「あ、カズさーん! いつもありがとー!」
ミユたんと呼ばれていた女の子がひときわ目立つコメントに挨拶した。カズという男も何者なのだろうか。気になってその人のコメントを確認しする。
「ミユたーん!><* 衣装のワンピ似合ってるよ!(*´∇`*) 心臓が撃ち抜かれそうー!(>.<) あ、既に手遅れだ(×_×)」
なんだこいつ。ただのドルオタのようだ。しかも顔文字を多用している。
「あ、そうそう、早速メールの紹介なんですけどね…。 ペンネーム『絶対匿名希望』さんからです。」
今日はラジオのような配信をするのか。というよりラジオだ。彼女たちは主に、いわゆるゲーム実況とやらをする。
他には実写として料理の作り方や裁縫、歌ったり踊ったり、時々ワイドショーみたいな配信を2時間に渡ってやっている。
「ショウ、何をみているんです?」
ラータが彼の肩越しにスマホを覗く。
「前のエンディアと戦ったとき、ちょうど彼女たちがライブ配信をしていたんだけどさ、何故か被害状況とかその辺りの情報を知っていただろ? それでなんでかなーって思ってさ。メール送ったんだよ。読まれるかな。」
届いたメールは大量にあると思われる。その中から選ばれたそれを読み上げてコメントしていた。新しく開園された動物園についてや、オリジナル曲の歌詞にある意味、そして私生活について。
友達同士が軽いノリで配信しているようで、微笑ましい。これも人気である理由の1つなのだろうか。
彼女らがしばらく送られたメールを見ていた時、不意にミユがふっと笑った。ミドリがそれに気付いてどうしたのかを尋ねると、何でもないとだけ答えた。そのまま配信を見ていると、突然誰かに「フォローされた」という通知が届いた。名前は「セルーナ」。通知のあとにメールがすぐに届き、画面を開いて確認した。
「君がショウくんだね? 話は聞いている。初めまして。私はミユ。もしかして配信見ててくれたかな? ファン? あはは、嬉しいな(^^) …なんて、そんなことでメールしたんじゃないよね。分かってる。私はあなたに用事があるの。明日の14時に、ララっていう喫茶店で待ってる。重要な話があるから絶対に来てね。」
驚いた。今さっきまで画面の中で見ていた女の子からメールが届いた。返信しようとしたが、エラー表記が出たあとすぐにこのアカウントは存在しないというお知らせを見た。すぐに消したのだろう。
翌日の14時、指定された喫茶店へ出掛けた。店のドアを開けるとベルが鳴り、それに気付いた店員さんが客としてのショウを見てから挨拶をした。
「えっと、ミカミ ショウさんですか?」
店員さんが聞いてきた。そうだと返事すると、席を案内された。
その席には既に色眼鏡を掛けた銀髪の少女が座っていた。
黒い花柄のワンピースを着ていた。
「ごゆっくりどうぞ。」
ショウはラータ以外の女性と二人きりになったことがないため、少々緊張していた。
「お、来たね。あ、緊張しなくていいよ。」
ショウを確認したその女性は、そう言って席に座るように促した。
「なにか頼みなよ。奢るよ。」
女性は掛けていた色眼鏡を外してテーブルにおいた。テーブルには他に彼女が先に頼んでいたコーヒーが置かれていた。それ以外にあるもの、強いて言えば店員さんを呼ぶボタンとメニューくらいだ。
「…カフェオレ…。」
メニューに目を通したショウは、ボソッと呟くように言う。
コーヒーが飲めないことが恥ずかしくて目線をよそに当てていた。
「あれ? もしかしてコーヒー飲めない?」
銀髪の少女はそれを聞き逃さなかった。
小バカにするかのように顔を合わせて言う。
「…るっさいな…。」
恥ずかしさが増して嫌になってきた。
メニューを戻して頭を掻く。
「…あ、黎兎のコーヒーしか飲んだことないの? だったらさ、ほら、飲んでみ?」
彼女に出されたはずのコーヒーをショウの方へ渡す。
彼はこれ以上恥をかきたくないため一度は断ろうとしたが、自分と初対面であるはずの彼女が何故黎兎のことを知っているのか、そして何故彼のコーヒーしか飲んだことがないのかを知っているのかを問う。
「飲めば教える。」
小悪魔のような笑みを浮かべながら彼女は言った。
まさかそういうタイプか。ショウは渡されたコーヒーを一口飲んだ。
美味しい。初めてこんな美味しいコーヒーを飲んだかもしれない。
「…どう?」
「…おいしい…。」
「でしょーねー!」
女性は彼の前にあるコーヒーを自分の手前に戻すと、
「やっぱ女子との“間接キス”だから?」
とからかった。
「……?」
「冗談。黎兎のコーヒーってまっずいんだよねー。ブラックとかじゃなくて普通にまっずい…。まぁそんなことはいいのよ。カフェオレ頼もっか。あ、私はミユ…もう知ってるか。」
ボタンを押して店員さんを呼んで、カフェオレを注文した。
「それで、なんで俺を呼び出した?」
ショウが呼び出された本題に話を持っていく。
「君さ、ここ最近化け物が町で暴れてる事件、知ってるっしょ? そしてそいつから市民を守るヒーローくんの存在も。」
ミユがそう言ってコーヒーを一口飲む。カップを置くと、すぐにショウの目を見る。彼はそれに少し圧を感じた。視線を窓の方へ移してから、知っているとだけ返した。
「うちのライブのコメントにもさぁ、助けてもらったとか、姿をみたとか、そーゆーんばっか。1つのコーナーにしようかとか考えてるくらい。わたしらMoonはヒーローくんの応援団じゃないっつーの。」
頬杖をつき、ショウに飲ませたコーヒーにミルクを入れてかき混ぜる。
「君でしょ? ヒーローくんって。」
「な__」
「大丈夫大丈夫。ヒーローっていうのは正体不明ってのがカッコいいのは知ってる。バラす気はないよ。」
彼女はそう言ってニッと笑う。
「…何でしってんだよ…?」
「ライブ。君にしかエンディア情報が確認できないようになってる。ほら、アカウントIDだよ。エンディア情報の表示設定を、配信主の私らが指定したアカウントユーザー以外は見えないようにしたの。」
「待て待て、アカウントID…? 何で俺のアカウントID知ってるんだよ?」
「え? あー、黎兎。元々うちの親の親友でさ。君がヒーローであることをうっかりポロリしてさ。見るように薦めるから、あいつらの役に立つ情報を配信してやってくれって言われたの。そんで、後日にIDを教えてもらってから検索して、それで指定した。」
話終えた彼女は、持っていたコーヒーカップを口に運んで一口飲んだ。
一息ついてショウを見つめた。
「お待たせしました。カフェオレになります。」
店員さんが静かになったその場に割って入ってくるかのように注文していたカフェオレを持ってきてくれた。ショウの前にそれを置いた店員さんは、一礼して去っていった。
ショウは彼女のライブ配信から得られる情報があれば今後のエンディア対策もできるかもしれない。それに、彼女たちのファンがジクティアの活躍についてメールを送っているのなら、もしかしたらイスパードやルーグ…さらにはエンディアを生んでいる場所や、その人物についてのヒントを僅かでも得られるかもしれない。それになによりも、知名度が上がる。知名度が上がれば、ルーグ以外の諸悪等どもによる犯罪率も下がることにも繋がる…はずだ。
そう考えた彼の答えは…。
それを伝えようとした瞬間、電話の着信音が鳴った。
「あ、どうぞ。」
ミユに言われて電話に応えるために外に出た。
「はい?」
《ショウ、近くにエンディアです。向かいます。》
そう言えばラータはどこからエンディアの出現情報を入手しているんだ?
「……分かった。エリアの詳細を教えてくれ。」
《エリアDの23区です。》
「分かった。」
通話を切ってから店内に入り、ミユに通話の内容を伝えた。
「…りょーかい。回答はSNSでお願いね。あ、勿体無いからカフェオレ貰うね。」
「あ、あぁ。じゃ!」
店の外へ出て、乗ってきたバイクにまたがりエンジンをかける。ヘルメットを被ると、スタンドを起こして走っていった。
Android #16 後方支援お月様
ショウ「あーもう!!こんなときにエンディアかよ!!もー最悪だ!!」




