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アンドロイド  作者: 中川 はじめ
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アイドル

ショウ「平和な国、ルアフ。

そこに突如として現れた化け物、エンディア。

それに対抗できるのは、鎧となるアンドロイド、通称「アーマーロイド」とその装着者のみであり、

てーんさい的な頭脳をもつミカミ ショウは、アーマーロイドのラータと共に、エンディアの驚異からルアフを護っていたのでありました!」

エージ「おい、番外編みたいな前書きになってんぞ。」

家に着いてドアを開けると、いつものように黎兎がコーヒーを人数分用意して待っていた。

「…おかえり…!」

ショウの顔を見て安心したように言った。

「…ただいま…!」

彼にとってラータ以外の家族と言えば黎兎しかいない。いつも戦いに出掛けると必ず家でコーヒーを用意しているのは、戦ったあとのリフレッシュとリラックスのためのようだ。

「おいおいエージ! おまえボロボロじゃねーか! キドラちゃんも! 待ってろ、救急箱持ってきてやっからな!」

ショウがソファーに座り、コーヒーデスクに置いてある、コーヒーが入れられた5つのカップを見つめる。芳ばしい香りでリラックスできて心地がよい。ラータも隣に座ってコーヒーカップを持って一口飲んでからほっと息をつく。

ラータは従者というよりメイドだ。掃除や洗濯を自主的に行い、常に品があることを心がけている。しかし、そんな彼女が最も苦手とするのが料理である。得意な料理といえば鮭のムニエルやハンバーグ、カレーや炒飯辺りだ。充分だと思うが、逆を言えばこれしかできない。料理に関する知識が少ないのだ。一応栄養バランスのことや、彩りの重要性は理解しているようだが…。なので、彼女は積極的に黎兎から料理を教えてもらっている。誰にでも弱点のようなものはあるということだ。

いや、そんなことよりも今の彼は気になっていることがある。

「黎兎さん、コーヒー1人分多くね?」

エージを手当てしていた黎兎がショウを驚いたような様子で見ている。

ショウは、なんであんたが驚いてんだ、とでも言うような表情で返す。

「多くないはずだけどな?」

「…だって、俺とラータとエージとキドラ…あんたのはカウンターにあるし…これもう1人多いぞ?」

「いや? お前とラータとエージとキドラと…。」

カウンターにあった飲み終えたあとのカップを含めて6人分で、やはり多い。ここには5人しか_

「ウーペちゃんだろ?」

「…は?」

知らない名前が出てきて困惑した。

ウーペ…?

「ウーペって誰だよ…? もしかして黎兎さんの元カノ?」

ショウが小指を立ててそれを黎兎に見せる。

「バカいえ! 仮にそうだとしてもなんで用意してんだよって話だろ!」

「未練がましいのかと。」

「そんなわけねぇだろぉ? イカしてる男ってのは、過去の恋愛は過去の恋愛って忘れるもんだぜ?」

「そんなことよりさー…?」

「シカトかよ。」

そうでもないなら、名前の傾向からしてアーマーロイドだろうか? しかし発注した覚えなど…。

「あ、そっか、アーマーロイドか。」

いや、した。

以前タコのエンディアと戦ったとき、同じように液をかけて能力を下げるような敵と再び戦う機会に備え、それを洗い流せる力をもつアーマーロイドだ。それには強制契約モードが搭載されており、装着予定者の意思とは関係なしに契約させる。エージとウーペを契約させてやる予定だったが、キドラと契約することに成功してその必要はなくなった。

「それで、そのウーペはどこに?」

「こっこだよー!」

足音と共に地下に繋がる階段から小柄な女の子が現れた。

白の長袖のシャツの上から淡い桃色のワンピースを着ていた。丈は膝下まである。

「な…!? …なんでそこにいたんだよ!?」

「探検してた!」

好奇心が旺盛な女の子だ。静かなラータと僕っ子のキドラと来て元気な女の子…。上手くやっていけるだろうか?

いやそれよりも問題な点がある。そう、この子の主がいないことだ。

今はいないのではなく、きっとこの先現れることはないだろう。

空いている人なんて、黎兎くらいだが…。

「そうだ、強制契約を使って黎兎さんと契約しろ。」

「ん? あ、りょうかーい!」

白と赤の光の粒子となって黎兎さんに不意打ちで纏わす。

「おい!? なんで俺なんだよ!?」

「あんたしかいないんだよ、空いてるの。」

『契約! 強制だから意見は聞かないからね!』

黎兎の身を纏っていたそれの輝きは増していく。黎兎は契約しまいと必死に抗うが、それも静まる。諦めたようだ。

「うわっ!?」

しかし次の瞬間に粒子が全て弾かれ、空中でそれが集まってウーペの姿を現す。

吹っ飛ばされてカウンターにドンッと背中を強打してしまった。

「いってて…あれ…? どうして契約できないの…?」

ウーペの言う通りだ。

何故誰とも契約していないはずの黎兎と契約できないのだろう。いや、まて、もしかして拒否反応か? 適性がないということか。

「アーマーロイドってのは誰とでも契約できるっていう代物じゃないんだろ? だったらたまたま俺に適性が無かったってことじゃないのか?」

「まぁ確かにそうかもな…。それを調べるための適性検査だったし…いやでも…。」

強制契約は文字通り強制的に契約させるものであり、例え適性がなくとも契約させることができる。だがその場合は多大なリスクを負うことになる。

「まいっか。分かんないことは分かんないし。」

そう言ってショウはコーヒーを飲み終えたあとに地下室へ向かった。


「ショウ! エンディアが現れました!」

ラータが一階から急ぎながら降りてショウに伝える。

「ラータ、待ってくれ。今Moonを見ていて…。」

彼は片耳イヤホンでスマートフォンの中にいる二人の女の子を見ていた。ミユとミドリだ。

彼女たちはオリジナル曲を歌っているのか、ショウがそれを口ずさむ。

「…なにを…言ってるんですか…?」

「…あ、違うそうじゃなくて! エンディア出現地が記されてんだよ!」

画面の真ん中で女の子が歌って踊っているが、その左端にエンディアが出現している場所と被害状況が記された。

「なんで…彼女たちが…?」

「…いや、よく分からないけどここに行ってみる…か。」

いつもの紺色のコートを着てから急ぎ足で外へ出てバイクに股がりラータを乗せて急行する。

Moonが知らせていた現場に着くと、本当にエンディアが暴れていた。被害状況もほぼ合っている。どういうことだ?

いや、それよりも。

「まって…今回のエンディアって…?」

「よ、容姿からして……ゴキ…ブリ…ですか…ね…?」

見ただけで寒気がする焦げ茶色のテカり、長い触覚と気味の悪い手足にそれぞれ生えている細々とした毛…よく見たら鋭い爪が生えている上にゴツゴツとした手…。

「嫌だぁぁぁぁあ!! 触りたくねぇえええ!!」

「触りたくねぇなら触んなきゃ良いだけだろ!」

後ろからコンビニへ買い出しに出掛けていたエージの声がした。

初っぱなからキドラをアームドしていて、やる気満々のようだ。

右肩を腕ごと回して構えをとる。

「来いよ…ブリゴキ野郎!」

気持ち悪い動きで素早く迫ってくるゴキブリエンディアに、青紫色の光の球体をぶつけて爆発させる。立ち上がった煙から相手が出てきたことから察するにあまりダメージを受けていないのだろう。

「やるじゃねぇか…! でもこっちだってこんなもんじゃねぇぞ!!」

ドラロクナックルを取り出してエンディアに直接攻撃を仕掛ける。

顔面に一撃食らわしてやったことにより、堪らず相手がバランスを崩す。もう一発腹部に食らわせてやろうとするが、腕を掴まれてしまい、エージがブルッと寒気を感じたのが見てとれた。

「やべえ! きめえ!!」

大声で言ったエージに、ショウはでしょうねと返す。

左手で剣を召喚してエンディアの脇腹に突き刺すと、痛みに怯んでつい掴んだ手を離す。

傷口を手で押さえるエンディアの隙をついて腹部に思いきり蹴りをいれてやる。

そして剣をしまってからボタンを長押ししてから離し、それと同時にナックルで胸部を殴ってやる。エンディアがぶっ飛んで爆発した。

「おらぁ! どうだ! ブリゴキ野郎!」

拳を相手に突きだしてどやっとする。

強い。エージはとてもとはいえないが…いや、いえるくらい作戦を考えつくような頭ではない。あのとっさの判断と攻撃は恐らくキドラによるものだ。エージの力任せにできる程のパワーとそれを高めるキドラの能力、そして頭脳面でのサポートも可能である故に、初めての割には結構強い。元々ボクサーだったこともあってか、動体視力も良い。高速で襲ってくるエンディアに確実に攻撃を当てていた。

ぶっ飛ばされたエンディアが立ち上がって見せるが、限界であることが分かるくらいフラフラだ。

殺さない程度にとどめを刺せればいいが、そんな調整はしていない。ショウがいつもやっている “必” ず “殺” さない程度に調整している “技” を放つことはできないだろう。ここでショウは急いでアームドしてそれをエンディアに食らわせてやった。死んでいないことを確認すると、いつものように政府へ連絡して終わった。

エージはショウによって手柄を横取りされたように感じて悔しくなっていた。

「ま、助手にしては上出来だな。」

エージの手がショウの肩に置かれると、さも嫌そうに払った。

「ゴキブリ触った手で触れるんじゃないよ……。」

「うお!? 忘れてた!!」

エージは自分の太股に手のひらを何度も擦る。

『だー!! 鎧で拭くなよ! 汚いだろ!!』

キドラの声が大きく聞こえた。


「ショウ、お前もラーメン食う?」

エージが家に着いて早速買ってきたカップラーメンにお湯を入れようとする。ショウも腹が減っていたので頷くと、それを確認して二つ目のカップラーメンにお湯を入れ始めた。

湯気が立ち上ってくるのと同時に醤油ラーメンの香ばしい香りがエージのいる辺りに漂う。

ショウはずっと何故Moonがエンディアの情報を知っているのかを考えていた。

彼女たちは「ファルト」というSNSで個人アカウントを持っているらしく、それを探し当てて見付けてメッセージを送ろうと試みた。

内容は、例のことを単刀直入に聞き出してみた。「こんにちわ。初めまして。化け物の情報を何故知っているのですか? 答えてもらえるとありがたいです。」と。

それを入力し終わってから送信ボタンを押そうとしたとき、急に玄関のドアが開かれる。もしかして黎兎かもしれないが、念のため玄関まで行って開けた人を確認する。

案の定その人だった。が、なにやら正装でスーツケースを引っ張って来ていた。

「ちょっくらうちの嫁と海外旅行してくるわ!」

小さな円形のフレームのサングラスをかけていつもと違う雰囲気だ。

「あ、あぁ…え? 黎兎さん結婚してたの?」

「俺みたいなイカしてる男が独身なわけねぇだろー? ま、1~2週間は漫喫してこよっかなって思ってるから、よろしく頼むぞ!」

「へ、へぇ…で、どこ…?」

「あー、気になる? なんと、サテルの綺麗な夜景を楽しもうかなって!」

「サテル!?」

サテル…近代兵器の開発を進めている国だ。最近では警備システムを国内の様々な箇所に設置したようで、犯罪率が下がったという話を聞いたことがあった。黎兎が言うように、サテルにはデートをするのに有名な夜景スポットがあるらしい。安全性が高くなってからは、新婚旅行に訪れる人や観光客が増えてきたようだ。

サテルの綺麗な夜景を眺めるデートなんて羨ましい。ショウには嫁どころか彼女すらいないが。

「じゃ、そういうことだから! アディオス!」

そう言って指を二本立てて、“ちょりっす”のようなチャラい感じのする挨拶をしてからスーツケースを引いて出掛けていった。




Android #15 アイドル

ショウ「たまには真面目にあらすじ紹介でもしないとな。」

ラータ「それなら前回のあらすじを紹介した方が良いのでは?」

ショウ「んー、そうだな。じゃあ次回は前書きが長くなるかもな。」

エージ(それ…前書きってなんだっけ…?)

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