9月13日
平和な国、ルアフ。
そこに突如として現れた化け物、「エンディア」。
それに対抗できるのは、鎧となるアンドロイド、通称「アーマーロイド」とその装着者のみ。
自称天才プログラマーのショウはアーマーロイドのラータと共に、エンディアの驚異からルアフを護っていた。
夏も終わって涼しくなってきた。外に出ると靴越しにでも分かるくらい高温だったアスファルトも今では静まっている。涼しい風と、それに揺らされる町中に植えられている木々の奏でる音色が心地よい。
ベージュのオーバーコートと、その下に黒いシャツ、淡い青色のジーパンの格好をしたショウという青年はどこかへと向かっていた。彼の履いている焦げ茶のローファの地面を叩く音のリズムがやや速かった。
目的地についたようで、目の前にあるガラス性の扉の取っ手を握ってそれを開き、屋内へと入った。
そこにいたパティシエのような服を着た可憐な顔立ちの女性が彼を見ていらっしゃいませと挨拶をした。そう、ここはケーキ屋だ。今日は9月の13日。あと2日後に誕生日を迎える身内がいる彼は、その人のためにバースデーケーキを買いに来たのだ。
レジの横にあるガラス張りのケースに入っているスイーツを眺めていると、腹の虫が鳴ってしまった。
「こちらでお召し上がりになりますか?」
先程の店員が偶然にもそれを聞いてしまったようだ。
「あ、いえ……。 ほんとはバースデーケーキを買いに来たんですけどね…。 あまりにも美味しそうだったので…無意識に欲してしまったようです。」
そう言ってその店員さんは微笑んでくれた。ショウもつられて笑った。
「あ、バースデーケーキ…ということは、どなたかの誕生日なんですよね? どういった方なんですか?」
「コーヒーが好きな女性です。年齢は多分…自分と同じくらい…かな?」
「…でしたら、こちらのコーヒーケーキなんていかがですか?」
店員さんがガラス越しに指したものは、直径18cmくらいでまさしくコーヒーのような色をしたケーキだった。しかもスライスされたアーモンドがトッピングされている。
「美味しそうですね! でも、彼女はコーヒーはコーヒーとして別で飲みたいってワガママ言うんですよ。」
「コーヒーは別として…。なら、このお店はカフェとしてもやっていますので、どれも合いますよ!」
コーヒーに合うケーキを選ぶ、なんて不要なことは考えなくて良さそうだ。
ショウのコートにあるポケットに入っている金額は6000ガルだ。予算は充分に余裕がある。どのケーキにしようか迷っていると、店内に流れている曲がmoonという人気ネットアイドルコンビのものになった。
<れぼいのべーしょん>という曲だ。いつも聴いていたショウは無意識にそれを鼻歌で歌っていた。
しばらく見ていると、大粒のイチゴがふんだんに盛られているせいでド派手な見た目になったLサイズほどの大きさのケーキを見つけた。
値段は5760ガルでなんとか収まった。彼女が果物を食べているところなんて見たことはない__ といってもその人も女性だからあれば食べるだろう。彼はこれを購入することにした。
先程の店員さんを呼び、大粒イチゴのケーキを買うことにすると伝えると、お辞儀して礼を言った。
「誕生日は確か2日後なんでしたよね?」
顔をあげた店員さんは、すぐにショウの目を見て質問した。彼は頷いてそうだと答えた。
「なら、当日にお作りしてお届け致しましょうか?」
「え? そんなこと頼んでいいんですか?」
「もちろんです! 更にそうすることによって30%お安くなります!」
「なら是非お願いします!」
ショウは良い話を聞いたと得したような気持ちになった。
店員さんがポケットからバーコードが記されているカードのようなものを取りだし、レジのセンサーに近付けた。
「お誕生日をお迎えになられる女性の方はイチゴがお好きなのですか?」
「実は果物を食べているところなんて見たことないんですよ。ひたすらコーヒー飲んでばっかなので。」
「……? 変わった方ですね…?」
レジの機械に表記されたケーキの値段が記されていた。彼は1000ガルと印刷されたお札を5枚差し出し、それが小銭になって戻ってきた。会計を済ました後、店員さんは少々お待ちくださいと言って裏方の方へ向かった。
誰かの誕生日はおろか自分の誕生日すらまともに祝ったことなんてないショウは、ケーキの他に何を用意すれば良いのか分からなかった。よく聞くものといえば、身内を集めて誕生日会を開くらしいが、落ち着いた雰囲気の彼女は多分そんなの苦手だろう。そんな彼女にサプライズをしてもそれがどうしたと言われそうだ。ケーキとコーヒーを用意して飲食だけすることにしよう。ついでにカップラーメンも買っておこう。
戻ってきた店員さんから46と数字が書かれたカードを渡された。
「2日後に再びご来店した際にそのカードを店員にお渡しください。」
彼はそれをズボンのポケットにしまうと、軽くお辞儀して店を出た。コートにあるポケットのそれぞれに手を突っ込んで道を歩く。風で髪が揺らいだせいで邪魔になった。それを手で直していると、がたいのいい男性とぶつかってしまった。
「す、すみません!」
慌てて謝ったが、ゴリラを連想させるような顔つきのその男性は機嫌を損ねたような態度で小柄なショウを見下していた。
やられる。彼はそう直感した。
「お前の目ェどこに付いてんだ…?」
コートの襟を掴まれてしまってもう逃げられない。見た目だけでも力を持っていることが感じ取れたのに襟を掴まれてからは尚更そう感じた。顔を近付けてきた。吐く息のにおいが煙草のそれで、息を止めた。
「今イライラしてんだよ…。あんまり俺を__」
いかつい男が拳を握って振りかざす。
来る。
「イライラさせんな__ !」
向かってきた拳を手で受け止めた。男性は驚いたような表情で彼を見る。この男性には悪いが、一般の人間でショウを殴ることはできない。何故なら__
襟を掴んでいる手をどかして素早い動きで背後に回り、膝に蹴りをお見舞いしてやった。すると堪らず膝を折ったので、その隙を見計らって再び目の前に回る。両手で相手のうなじをつかみ、足を前後に思いきり振り、自分の体重を使ってさらに転ばす。危うく潰れるところでなんとか脱出した。転倒してうつ伏せになった男性の背中に馬乗りになった。
「悪いね。俺、ヒーローだからさ。」
そう、彼はいつもエンディアと呼ばれる怪物と一人で戦う皆のヒーローなのだ!
「何が一人で戦うヒーローだよ。私たちが居なかったらあんたはなにもできないくせに」
うるっさいねぇ。語りで入ってくるんじゃないよ。
「自分で自分をヒーローって言う辺りもイタイと思うぞ。多分読者もそう思う。」
そういうメタな発言はしないの! ていうか無理矢理メタ発言することもイタイ! ていうかそもそも、いつものアンドロイドには前書きと後書きでこんな感じのユルい会話をするのに、今回は真面目でやるんだもの。物足りなくなってでしゃばりもするよ!
「ヒーローサマがすることじゃないよねそれ。」
ほんっとに珍しいよね、前書きと後書きでふざけないの。
「それが普通なの!」
とーにーかーく! ここからはでしゃばれないからな! 俺も喋れて満足! さて、続きをどうぞ!
「多分もう中身はとんだな。」
家について木製で赤い扉を開くと、見慣れた玄関が出迎えてくれた。扉を開いた音に気付いた誰かが玄関に向かってきていた。
「おかえりなさい、ショウ。」
彼の相棒のラータだ。
ラータは桃色の髪で、兎の耳のようなものと青い触覚のようなものが頭から生えており、黄緑色のセーターと橙色のスカートをはいている。
元々、彼女はアーマーロイドという兵器だ。どういったものかは、名前の通りだ。鎧として身に纏い、戦場で戦う。ただそれだけだ。彼女はそれの初号機だ。ちなみに開発者は不明らしい。
玄関から上がってLDKに向かう。なんの変哲もない普通の家だ。窓際にテレビと、それに向かってソファーとコーヒーデスクがあり、その反対側にキッチンがある。広さは大体八畳程度だ。広いと思う。
「どこへ行っていたのです?」
ショウが脱いだコートを預かってそれをハンガーに通しながらきいた。
ここに来るとすぐに服掛が壁にある。
「あー、ちょっと散歩。」
正直に答えては少し面白味がない。彼はそう思った。彼女はそんな彼の回答に首をかしげていた。怪しまれるのが早すぎる。
「腹へった~! ショウ、なんか無ェのー?」
この品のない筋肉質の男はエージだ。赤茶の髪でタンクトップとジャージのズボン姿で地下室へ続く階段から上がって出てきた。どうせずっと筋トレでもしていたのだろう。タンクトップの一部が汗染みしている。
「なんにもない。あ、昨日の麻婆豆腐ならあるぞ。食べるならシャワーして着替えてからな。」
「マジでか! 貰うぞ!」
色々あってこいつもアーマーロイドの装着者だ。相手は_
「僕も食べる!」
青髪の少女。まさに今出てきたキドラという僕っ子だ。
外出するときは迷彩のパーカーを着ているが、そうでないときはサイズが合うものが家にないためエージの長袖の服(借りてるやつ)とズボンを着ている。もちろんサイズが合うわけもなく、上は角度次第で下着が見えてしまうこともある。下は麻縄で縛っているらしい。決してふしだらな意思があるわけではない。だが、それならラータの服を借りればいいのに頑なにそれを拒む。何故なら、彼女が特にエージになついているからだ。ならいっそ買ってやれば良い。つまりこうなったのは、金銭管理を徹底しているショウが悪い。まぁ、一番悪いのは服の買い物に付き合わないエージなのだが…。
「おい! シャワーして着替えなさいっての!」
キッチンの冷蔵庫を開けようとするエージに注意すると、動きが止まって嫌そうにショウを見た。
彼はそんなエージを見下すように視線を返していた。
「だーもう分かった! しゃーねーな!」
冷蔵庫から離れて頭を掻く。風呂場へ向かおうとした。
「エージ、僕が背中流そうか?」
キドラが彼の後ろから声をかける。
「あぇ? あぁ…いいよ、そんなん…。」
「遠慮すんなって! ほら、いこー!」
「分かった! 分かったから押すなって!」
騒がしい奴らだ。ショウは心底思ってしまった。
でも、なんだか本当の家族みたいで悪い気はしなかった。この家に住めるのは黎兎という10こも歳が離れている男性のお陰だ。彼は__いや、彼について話すのはやめよう。
「あっづ!!」
風呂場からバカ筋肉ゴリラの大きな声が聞こえた。
ショウはため息を吐いて、ソファーに寝転んだ。
「ショウ、そこで寝ては風邪を引きますよ?」
「寝ないよ。ちょっとテレビ見るだけ。」
コーヒーデスクの上に置いてあるリモコンを手に持ち、電源のスイッチを押した。画面に映ったのはなんとMoonの二人がライブをしていた内容のニュースだった。それを見ていると、そのまま眠ってしまった。
「ショウ!」
エージに呼ばれて目を覚ます。
「お前いつまで寝てんだよ。もう夜だぞ。ほら、飯食え。」
膝立ちになって目線を合わせ、サムアップの形にし、その親指が冷蔵庫を指す。
キッチンの小さな照明がついているくらいで、あとの照明は消されていた。
上半身を起こしてから立ち上がる。
「今日、何だった?」
「カレー。」
「ラータか。」
「そうだ。」
この家では、住んでる者がローテーションで料理を担当する。
ラータが作るカレーは好評だ。隠し味に中濃ソースを使っているので、少し濃いめになっている。具も大きくてとても食べごたえがある。
「…テンション上がった。」
「そりゃ良かったな。早く食え。」
夕食を終えたショウは地下室に降りた。
質素な部屋の奥にデスクとその上に置いてあるコンピューター、そしてそれに向き合う形でオフィスチェイスがある。その後ろにこの家で二つ目のソファーがある。
「ショウ、お疲れのようでしたね?」
ラータが一足先にここにいた。しかも休憩用に置かれていたベッドで横になっていた。鉄の骨組みにマットレスがはまっている形のシングルベッドだ。それに淡い桃色のシーツと水色のモコモコした毛布を使っている。安価だったからこれにしたのだ。
「起こしてくれたっていいんじゃなかったの?」
「あまりにも心地良さそうに眠っていたので。」
ラータがそう言いながらベッドの端に移動する。本当ならこれはシングルだから一人用だ。キドラもエージもここに住んだために寝具を譲った。寝具が3人分なのは、たまに泊まる黎兎さん専用のものだ。といっても本当にたまにであるため、ほぼ使われていないに等しい。だからショウとラータは一緒に地下室で寝ている__ が、お互いはあくまでも異性であるため、ショウはソファーで寝ることが多い。
「ソファーで寝ていた後なので寝れませんか?」
「いつも言うけどラータの隣は寝れないっての。」
「そうですか?」
シングルベッドに二人で寝たらぎゅうぎゅうになってしまう。そうなったらベッドから落ちて最悪怪我でもしたらエンディアとの戦闘に支障を来す。
彼はソファーに寝転んで、そこにあった薄い毛布をかけて四角いモフモフのクッションを抱いた。ラータがそんな彼をずっと見つめる。
「なんだよ…?」
「いえ…。」
彼女はそう言って目を瞑り、深く息を吸ってはき出した。
Android #14.5(前編) 9月13日
9月15日は月が綺麗に見えることから月見というものがあるそうですね。私の小説は架空の世界を舞台としているわけですが、ルアフというのは登場人物の名前からも分かるように日本みたいなところなんです。というか、その他にもサテルとかオーラモとか色々ありますが__これらをスラフ州といいます。が、州内の5つの国は日本みたいな国です。
どうでもいいですね。




