俺と親友
『あなたのことが大好きです』
「俺も結衣のことが大好きだああああああ!!」
太陽が徐々に傾き始め、橙色の光が教室に差し込む四月中旬の放課後。多目的室内で見つめ合う俺と結衣。俺たちはそんな中でついに、こうして恋仲として付き合うことになった。出会ってから約一週間、長かったものだ。
『えへへっ、なんだか照れ臭いね』
「えへ、へへへっ」
「うわぁ、きっも」
今なにかノイズ、いや雑音のようなものが入った気がするが気のせいだろう。だってここには俺こと柊小次郎と結衣の二人しかいないはずだ。他に邪魔ものなんていない、きっと。
「ほら、早くそっちの世界から帰ってきて小次郎。いくら先月フラれたからってわざわざそんな“ゲーム”買わなくても」
「う、うるさい! 待ってれば自然と異性から告白されるお前に俺の気持ちなんか分かるかっ!」
こっちはそのゲームの恋に真剣だと言うのに……なんて失礼な奴なんだろうか。
このゲームを始めるきっかけは先ほどそこの“女”が喋った通り、異性にフラれたから……というのはあまりにも切なくなるので新しい恋を見つける為、とでも言っておく。俺は生まれてからそれなりに異性に告白をしてきたが一回も成功した経験が無い。中学二年の冬、中学三年の夏、高校一年の春の三回とも俺は異性に告白をしてことごとくフラれてきた。そして今回は『高校一年の春』が原因でこうして二次元へと現実逃避をおこなっている訳だ。
だがしかし、それを邪魔する人物が一人。ディスプレイの枠上から頬を膨らませて明らかに怒っていらっしゃる土屋涼香という幼馴染み兼親友。
肩まで伸びる黒く艶やかなセミロング髪、肌も色白で鼻先や唇も整っており文句なく美人の部類に入る女の子だろう。おまけにスタイルも良く、制服姿が良く似合っており、胸もちゃんと膨らんでいる(重要)けど何故か本人はその胸をコンプレックスにしているらしいが俺にはよく分からん。
だが神様は幼少期の時に俺の人生というゲームにペナルティを課した。その内容は絶対に俺と涼香の間に恋愛フラグが立たないというものだった。
きっと勝手に解釈しているだけなんだが、俺はあの日彼女の提案に乗ってしまった。だから乗ってしまった以上、それを破るわけにはいかなくなってしまったのだ。
まあそれがなくとも俺と涼香の関係はきっと今のままだったかも知れないが。
「とにかく! は・な・し進めていいかな?」
「おいっ、なんてことをするんだ! 今いいとこだったのにぃ! ゆいいいいい!!」
脳内で説明している間に遂に堪忍袋の緒が切れたと思われる涼香が俺のノーパソに手を伸ばしパタリと音を立てて閉じた。あぁ、俺の青春が。
「『なんてことをするんだ』はこっちのセリフよ! 入ってくるなりいきなり鞄からノーパソ取り出したと思ったらいきなりギャルゲーやり始めるんだもん」
「い、いやあ授業中に続きが気になってつい」
「『気になってつい』じゃないわよ! だいたい、ここをどこだと思っているの?」
「えーっとミス研の部室だよな?」
ミステリー研究部、通称ミス研。今は亡き元部長の話によると(死んではいない)最初はオカ研とミス研で悩んだらしいのだが、オカ研ってちょっとテンプレ過ぎない?ってことでミス研になったらしい。
しかし特にオカルトやミステリーについて調査したりするわけでもなく、活動内容としては文化祭の時にそれっぽい出し物をするだけ。
何故こんなに曖昧なのかと言うと元々この部が創設されたきっかけはこの学校の方針にあまり賛同しない生徒の為にあると元部長は言っていた。現に俺もその一人だ。
その方針、というかほぼ校則みたいなものだが、この学校では必ず部活動をすることが義務付けられている。そのおかげかこの学校自体周りからの評判も非常に良く、推薦入試等でもかなり融通が利くらしい。
だがそれは帰宅部がいないということ、なにかしらの部に所属しなくてはいけないのだから当然だ。けどプライベート時間を大切にしたい人もいる。そういう人の為に作られたのがこの部活らしい。
つまりは限りなく帰宅部に近い部活。それが我がミス研というわけだ。
「その通り。んで、小次郎に重大なお知らせ」
「なんだ? 彼氏でもできたか?」
「もうその返しそろそろ疲れるから反応したくないんだけど」
いやだってなあ? あんだけ告白されているところを見ればそりゃあ出来ると思うだろ普通。
涼香が今までに何回告白されたかは知らないが、少なくとも俺と涼香が帰っているときに四回、また涼香の近くにいるからと告白の相談をされたことが七回。仮にこの相談が全て涼香への告白に繋がっているのなら通算で十一回告白されていることになる。
確かに大抵は顔もフツメンだが見てきた中には性格も顔もイケメンな奴が何人かいた。そういうやつと付き合っていてもおかしくないのだがそれでもこいつは未だに彼氏がいないらしい。
「話を戻すわね。もうすぐこの部活、無くなるかもしれないわ」
「ええ!? ちょっと待て涼香! それギャルゲーどころじゃねえぞ!」
涼香の恋人について考えている場合じゃなかった。ほんとうに重大なお知らせだった。
「そうよ、画面の中でイチャイチャしてる場合じゃないのよ」
「嘘だろなんで、なんで無くなるんだよ!?」
「だってこの部活、私たちしかいないじゃない」
「あっ」
部活動というのは最低三人は所属していないと部として成り立たない。
去年は俺と涼香そして元部長の三人がいたからまだしも、その元部長が卒業してしまった今部員が足りていない。だから部活がなくなるというわけだ。
「顧問は沙綾先輩のおかげで笹島先生がいるからいいけど、部員はどうしてもねぇ」
「はぁ、次の部活どうしよ」
「ちょ、ちょっと待って!? なんでそんなこと言うの!?」
「なんでって、部活無くなるんだろ? そしたらウチのルールに次の部活を探さないと」
「えっ? 私無くなるなんて言ってないわよ。無くなる“かもしれない”とは言ったけど」
「それはつまり、無くならない方法があるということか?」
「方法も何も明日の部活動説明会の場で部員を一人確保できれば万事解決でしょ?」
「……お前天才か!?」
「そんなわけだから明日までに確保する方法考えておいて」
「おうまかせろ! 徹夜で考えてくる!」
「大丈夫かなぁ」
涼香は心配そうな顔で俺を見ているが侮ってもらっちゃ困る。俺はこう見えても発想力だけは自信があるからな。明日まですごいアイディアを出して涼香に「ありがとうございます小次郎様!」と言わせてやる予定だから期待してほしい。
と話がひと段落ついたところで俺はそろそろ時間がやばいことに気付く。
「じゃあ俺、バイト行ってくるわ! ついでにバイトしながら考えてくる!」
「はいはーい、がんばってー」




