決意表明
あの後、一通り泣いた鉄山が何事も無かったように部屋から出てきた。
そして、出てきて最初の言葉が。
「私も死の街へ行くぞ。」
詩織は自分の父親がいきなりそんな事を言った事に対してかなり動揺していた。自分が行くから残っててくれと言っても、鉄山は一切受け入れなかった。
恐らく、いざという時に詩織の身代わりにでもなるのだろう。
自分の息子が成した偉業を達成するために、超えるために。そこに親子のという関係はない。一人の男として息子を超える。
「そういうことか。そういう覚悟ができているなら俺は反対するつもりはない。」
むしろ戦力が増える事には賛成している。いや、戦力を貸してもらっている分際でこの言葉が悪いな。俺は賛成せざるを得なかったと言うべきだろう。
◇
というような事があった。
だから今日の打ち合わせに鉄山が積極的に参加しているのだろう。
鉄山は遠距離からの援護もできるが、基本的には接近戦に重きを置いている。実際、刀を持たせると実戦でもそこそこ通じそうな太刀筋を見せた。
援護も接近戦もできる俺と、援護しかできない詩織と幸司郎が援護に徹し、接近戦しかできない裕紀と拓也に接近戦の方が強い鉄山を前に置く。
こういった布陣なら、ゾンビ程度なら充分に戦えるだろうと予想する。
戦場では何があるか分からない。だからこそ、各々が臨機応変に対処することが大切になる。そこで、俺は伝えるべき事を伝える。
「恐らく、一人も欠けずに戻る事はかなり難しい。だからこそ、覚悟をしておかなければならない。
一人が死んだら、その分を背負って行かなければならない。
倒れた者の意志を引き継ぎ、立ちはだかる壁を超えて行かなければならない。
そして、もっと大事な事がある。」
今までゾンビと戦い、絶対に守らなければならないこと。
経験則から言える絶対の法則である。
あまりにも残酷であり、常識では考えられないこと。
「ゾンビ化する前に頭を潰せ。
親しかった者も、昨日まで話していた者も、愛していた者も全て全てすべて!頭を潰してやらなくてはならない。」
恐らく、死体に対して行う事としては冒涜的であり、決して許されざる事だ。
しかし、ゾンビは頭を潰さなければ動きを止めない。
そして最も残酷な事は、親しくしていた相手がゾンビとなり、自分を襲ってくることである。
動くのに死んでいる。死んでいるのに動いている。本来なら起こるはずもない異常。それも親しい者の身体で。
そんな環境で生きていくのは、普通の人間には無理だ。普通の人間は精神が狂い、狂気に身を染めるかゾンビに全てを奪われるかのどちらかである。
恐らく俺ならできる。
狂気に身を染めた事があり、戦場経験もある俺ならば確実に事を成せるはずだ。
しかし、今回は俺一人だけで決める事はできない。
あくまで集団での行動であり、俺一人だけ違う行動をすれば確実に全員死ぬ。戦場とはそういうものだ。
そんな中、鉄山が雰囲気をぶち壊しにきた。
「私が責任を持ってその役を買って出よう。」
その役は彼らの上司であり、ボスである自分の責任だ。
そういった意味を込めて俺に言ってきた。俺に拒否権は一切ない。
それは上にいる者が背負うべき責任であり、俺のような部外者がゾンビにならないための処理といって死体を攻撃していいわけではない。それも仲間の身体である。
「できるのか?」
俺は確認のために一度だけ訊いておく。
「できるできないの問題ではない。私がやらなくてはならない責任であり、それを果たせない時点で私は価値の無い男となる。あの優秀な息子を一人の漢として超えるなら、この程度の責任を負わずして何が漢だ、何がボスだ。」
そうだ、それでいい。
それでいいのだ。
そう思いながら俺はニヤっと笑う。
鉄山も俺を見て同じような笑みを浮かべる。
ここには責任を持った男が二人いる。一人は言わずもがな俺である。この計画の提案者であり、全員に対して一定の配慮が必要である。
そしてもう一人は、たった今決意表明した鉄山だ。
こんな時代だが、彼のような責任を背負える男がいる事に感謝しながら、より深く計画を練っていくのであった。




