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クズですが、よろしくお願いします  作者: あきちゃお
第1部 馳け廻る日々
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必要なことは気遣うこと

 次の日に改めて鉄山の下へ訪れた。

 というのも、俺たちが出発するのは今から三日後の事であり、それまでは他のメンバーとコミュニケーションを取る事となったのだ。


 鉄山の下に残ったメンバーはかなり優秀な人物ばかりであった。

 近距離戦なら、八極拳を使うが故に俺と対等に戦う裕紀ひろきと抜刀術の達人である拓也たくや。さらに狙撃の得意な幸司郎こうじろうの三人である。幸司郎はその狙撃によって前線で戦う二人を援護できる上に、戦況を見極めるのが上手いのである。


 唯一の弱点と言えば、突出した才能がなく、裕紀や拓也のような目立つタイプに隠れてしまうことだろう。そして名前の挙がった前線の二人も、馬鹿であるという弱点がある。


「まあ、総合的に見たら悪くはないな。だが、軍隊でも平均に行かない程度のチームでしかないのは確かだな。」


 祖国は偉大なり。


「四三よ、私も一緒に出陣することを忘れてやいないか。」


 鉄山がそう語りかけてくる。

 そう、彼も一緒に死の街(ゾンビシティ)へと向かう事となったのだ。曰く、詩織に万が一があった場合に自分が身代わりになるためだそうだ。


 実際、彼の実力はとんでもない程に高い。

 元々裏の世界でもそこそこ名の知れた人物だったらしいのだが、名が知られる切っ掛けが、一人で敵対していた組へ殴り込みへ行き、相手の親分に土下座までさせたからだとか。


 そんな彼と一度だけ組手をした。

 戦場慣れしている俺に老体で食らい付く彼の身体が恐ろしく感じたものさ。

 だが、結局はそこまでであったのだが。


 そして、彼がなぜ付いてくると言ったのか。

 それは昨日のことであった。





 –––––––––––––––





「そういえば、鉄山は家族とかはいたのか?」


 なんとなく気になったので尋ねてみた。恐らく崩壊時に生き別れになったか、もしくは亡くなったのかと予想はできたが本人の口から聞きたくなった。


「死んでおる。あの馬鹿たれは、私なんぞの身代わりになりおって。身内贔屓と捉えられても仕方ないのじゃが、かなり優秀な息子でな。現役で帝国大学へ受かってしまうと思えば、剣道で優秀な成績を収め、さらに極道の世界でもきちんと筋を通す。自分の手下に対してキツくなる時もあったが、他人が自分の手下に手を出したと知ったら、相手が土下座をするまで殴る蹴ると殺す気で謝らせていた。」


「まさに、極道の頭となるべく産まれたような息子だった。」


 鉄山はそう言いながら、空を見つめる。

 その表情は後悔が見えており、今でも尚後悔しているのだろう。


 俺は、子供はおろか、恋人すらいなければ作った事も皆無に等しい。だから、彼の考えている事が俺の考える事以上かもしれない。


「いつ亡くなったんだ。」


「あれは、世界が崩壊する数年前だったよ。崩壊時に死んだなら、それはそれで割り切れた。しかし、しかしなぁ。あの馬鹿は私の身代わりになったんだ。こう見えて当時はそこそこ名の知れた組で長をやっておってな。私を殺したい奴なんてそこら中にいたもんだ。」


 俺がアラブ諸国でスパイをしていた、もしくは、ロシアでスパイをしていた時のような感じだろう。

 周りは敵だけであり、頼るべき相手は己のみ。


 いや、彼の場合は頼るべき相手はいたのか。

 敵は多かったが、その分味方も多かったといったところだろう。


「その時、組の中にスパイがいるという噂が流れたんじゃ。それも私に近しい者の中に。」


 家族の中にいるとか、親戚にいるとか、側近じゃないかなんて出鱈目な噂が流れまくったらしい。


「当時の私は、何を思ったのかまず息子を疑ったんだ。当時の息子は次期組長なんて噂が出るくらいの勢いを持っておったからな。下剋上がいつ起きてもおかしくない、そう思ったんだ。」


 その時の表情は、今まで開かせなかった罪を告白している。そんな被疑者のような表情であった。


「実際はな、息子ではなく伴侶だったよ。二十年以上連れ添った相手が、まさか自分が最初に潰した組のお嬢なんて、誰が想像できる。そもそも二十年も憎しみを蓄え続けてきたんだ。恐ろしいあまりだ。」


 その後、鉄山が隙を見せた瞬間を狙い、鉄山の命を狩ろうとした鉄山の伴侶は、自分の息子を殺す事になったらしい。

 彼の息子は、自分が父親から疑われているのを知りながら「親父はまだまだこれから上を目指す。この組に必要な人物だ。俺一人の命で守れたなら、まあ、至高ってわけだ。」と周りに言っていたらしい。


 そして、彼は自分で言っていたように、自分の母親から父親を守って死んだとのことだ。


 鉄山は、それ以降口を閉じ、何も話したくないという意思表示をしてきた。

 俺は彼の意思を尊重すべく、「立派な息子だな。」とだけ伝えて部屋を出た。部屋を出て少しすると鉄山が泣いているような音が聴こえてきた。


「あ、あの……お父さん、もしかして泣いてる?」


 そこに詩織が通り掛かろうとしていたので、俺はそれを止める。

 今は彼を一人にしてやるべきだろう。


「いいや、泣いてないさ。」


「でも、泣いてるような音が。」


「漢は泣かないんだ。もし、泣いてるように見えるなら、それは恐らく、ゴミが目の中に入ったんだろうよ。」


 俺はそう言って詩織を部屋から遠ざける。









「まあ、ゴミじゃないならきっと、髭剃りでもミスったんだろうよ。」


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