そこにいるのであれば-2
「ゾンビの大群は、現在旧名古屋にて大和隊と激突中です!大和隊の攻勢にゾンビは為す術無しと言った状況です!上手く行けば名古屋の地を奪還できるかもしれません!この後も情報を入手次第、すぐに報告しま、え!?臨時ニュースです!!旧名古屋にてゾンビに対して交戦中の大和隊が謎のゾンビ部隊に攻撃を受け、壊滅状態とのことです!現在、ゾンビから撤退を開始したようですが、場合によっては全滅もあり得るとのことです。二時間後、防衛大臣からの記者会見があります。詳細は会見の場でとのことです。次のニュースです……。」
やっぱり駄目だったか。
そう思わずにはいられないでいた。
2019年に起こったゾンビショックは、日本ではとてつもない被害を出していた。突如大量発生したゾンビに日本政府、いや、当時の大臣たちは自衛隊を派遣。自衛隊が時間を稼いでいる間に市民は安全な場所へと避難するという措置を取った。
現実に起きた出来事はこうだ。
時間稼ぎと期待していた自衛隊は、早い段階で瓦解していた。そもそも、貴様の命は市民以下だと言っているようなものである。今の日本にそんな命令をされても戦うような軍人はほぼいない。
結果、大勢の民衆はゾンビと化した。女子供も関係ない。老若男女問わず、ゾンビと化していった。そんな状態が続々と発生し、大臣各位は辞任へ追い込まれていった。
そんなことより、民衆を避難させる事が優先だろ。と、当時の俺は思ったものだ。
そんな状況の中、生まれたのが自警団である。民衆が武器を取り、自らゾンビと戦うことを決意した。
見るも無惨な結末であったが。
かなり人数を減らした日本人を作り上げた壁の中へと避難させることに成功したのは、日本人が五分の一程になってからである。
あまりに無能、あまりに罪深い。
そして、当時の大臣は辞任の末ほぼ全員が自殺。全ての責任は次の就任者達へと向けられた。文句、苦情、罵倒、人々の醜態を晒すようなそんな状態であった。
しかし、最初から政府を信用せず、自分達で立ち上がり街を守り、遂には自分達で壁を作り上げた集団がいた。
福岡を中心とした暴力団である。そもそも彼らは権力という力を持った警察とも度々抗争になりかけていたのである。政府を信用しなかったのは想定内である。
彼らの街を守るという意志はとても強く、今までは彼らを人の道から外れた外道と認識していた市民も、政府の信用を上回り、共に戦っていた。
その様はとても美しく、政府をひたすら罵倒することしかできないもう片方の壁内は酷く醜いものであった。
結果、日本には日本政府固有の東の壁。
戦いという衝撃によって生まれた友情の西の壁という二つの避難所が誕生した。お互い、ゾンビを駆逐するという条約を結び、日本各地で攻勢を掛けているのだ。
先程の名古屋での交戦は、自衛隊によるものである。彼らを軍へと昇格した旧日本政府は、今や文民統制という言葉が消えかかるほど、軍人が増えていた。
そんな俺の目の前には、ゾンビに足を噛まれながらも命からがら逃げてきた日本軍隊員。
「兵士さん、犬死任務御苦労さま。今はどんな気持ちなんだい?政府によってまるで聖戦のように祭り上げられた今回の攻勢。現実はただの生贄に近い物だったわけだけど、どんな気持ちなのか教えてくれよ。」
ニタニタという言葉が似合う程の笑みを浮かべながら言ってやった。もちろん心から思っての事である。
その言葉を聞いた隊員は、叫びながら手に持ったアサルトライフルを向けてくる。が、そこから銃弾が発砲されることはなかった。
最近になってようやく分かった事であるが、このゾンビになる過程は気持ちの急激な変化によって加速することがある。この兵士は、ゾンビになるという恐怖から俺に煽られたという怒りへと急激に変化したわけである。
そんな急激な変化によって、止めと言わんばかりにゾンビと化してしまったのだ。
「まあ、わざとやったんだけどな。」
理由は勿論、愉しいから。
「じゃあ、醜い臓器を晒しながらくたばれ。ごみ。」
銃弾が一つ鳴り、ゾンビと化したゾンビが倒れる。頭から大量の血を流しながらその動きを止めたのだ。このゾンビも弱点は頭である、これは全世界の共通であった。
「色んなゾンビゲームもやったけど、ここまで似てなくてもいいじゃないかと言いたいよな。たしかゲームだと、ゾンビはウイルス性の物だったか。まあ、そんなことどうでもいいんだけどな。」
俺にとって世界とは、守るものではなく愉しむもの。
だからこんな言葉があるんだ。
「楽しんだ者勝ちってな。」