忘れてしまったもの
大変お待たせしました。
更新でございます。
あの後、しばらく暴走していた二人を放置し、自分の世界へと回帰していたが、それでは何も解決しないと悟ったので非常に億劫ではあったが、二人を正気に戻した。
その過程で名前を訊いたが、男の方が愛知鉄山、女の方が愛知詩織とのことだ。二人に血縁関係はなく、崩壊時にたまたま出会い、救ったとのことだ。
それからはずっとならず者達と生活を送っていたのだが、山城との会談で多くが村の方へ行ったらしい。
詩織はそこには着いて行かず、ここに残って鉄山と他に残った数人と一緒に暮らしているらしい。そして今日は、詩織と鉄山だけが残っている日だったらしく、詩織一人だけの時に俺が突撃したらしい。
色々と思うこともあるが、言うのは後でもいいだろう。
「それで、お前はあの死の街に行きたいと言うわけか。それもあの街に行く事を村にいる誰にも伝えずに。余程、言えない理由があるのだな。」
「ああ、国の行く末を決める重要な事の一部だ。」
別にそこまで重要という程でもないが、こうでも言っておかなければこの鉄山という男は動かないだろう。恐らく、崩壊前は裏の世界で生活していた法律に縛られない者のはず。
「だがのう、今、私の元には戦えるだけの兵がいなくてな。それもあの死の街となると並大抵のものではない。それなりの兵力を整えても攻略できないような場所だぞ?」
確かに、鉄山の言い分は一理ある。だが、逆なのである。そもそも、大人数で挑むから甚大な被害が発生するのだ。なら、少数精鋭で挑めばどうなるのか。相手はただのゾンビだ。
相手が同じ人間であれば、徒党を組み、策を講じなければならない。しかし、相手は思考を捨て去ったゾンビだ。策を練れば練るほど相手が分からなくなるのだ。策士策に溺れるとはこのことだろう。ただ、例外はいる。思考を停止しなかったゾンビは存在する。
俺は鉄山に策を講じるから駄目なのであると伝えた。彼は俺の話に対して納得した反応を見せた。そして同時に、自分の部下の命を預けるに値するかを試したいと言ってきた。
当たり前だ。何処の馬の骨かも分からぬ輩に部下を簡単に預けるような頭は、トップに立つ者として失格である。むしろそんな簡単に部下を預けるような頭からは部下を借りたくない。俺は一度、似たような状況をモスクワで経験した。
旧ソビエト軍に所属していた連中に罠に嵌められ、殺されかけた。恐らく、人を簡単に信用しなくなったのはあの事件があったのが一つの原因だろうな。それ程の衝撃が俺自身にあった。
いや、むしろ相手が簡単に貸し出してきた部下の所属をきちんと調べなかった俺自身を信じられなかった。奴らは旧ソビエトの中でもエリート中のエリートであるKGBに所属していたのだから。
裏切られて当たり前だ。命があっただけマシと考えなければならない程だ。それ以降、俺はロシア軍と接する戦争地域には送られなくなったな。
「お前、えーと、田中だったか。いや、お前でいい。お前は飛び道具は何が使える?」
「基本的に何でも使える。武器は一通り扱えるようになった。いや、そうなるように訓練した。」
メインはアサルトライフルだった。だが、戦場では弾が切れることもあれば、武器が故障することもある。絶対なんて状況はあり得ないのだ。そんな事になっても行動できるようにあらゆる武器を使えるように鍛えた。それは銃だけではない。ナイフ、刀、鞭。なんだって武器にできるように鍛えたものだ。
「なら、とりあえず拳銃で良いか。これは日本警察が使っていたものだ。そうだ、使えるか?」
全く問題ない。
鉄山にそう伝えると俺は銃を受け取る。
そして引き金を引く、弾を撃つ、引き金を引く、弾を撃つ、引き金を引く、弾を撃つ。まさしく連打であった。
「お、お前……構えがなってないぞ!?」
「何を言ってんだ。こんなガラクタはな、数撃ちゃ当たるんだよ。それに、単なる物真似は進歩の放棄だ。知らなかったのか?」
そもそも戦争もそうだ。
物量で圧倒できる者が勝つのだ。
第二次世界大戦の独ソ戦。太平洋戦争の日米戦。いや、さらに遡れば第一次世界大戦だってそうだ。歴史は常に勝者を伝えている。戦争の本質を伝えている。
平和ボケへの恐怖すらも捨ててしまった日本人には分からない事であるが、武器を持つ事が平和を守る事なのだ。




