Hの名を持つ種族
二人してお茶を飲む。
黙々とお茶を飲み続ける。
そろそろ話を切り出さなければとは思うのだが、目の前にいる男がずっと湯呑みに口をつけてばかりで、どう話し掛ければ良いのやら。まあ、一声かければいいか。
「話があるのだが……。」
「はぁ、はぁ、いつも詩織が使っている湯呑み……はぁ、はぁ、ぺろぺろするのやめられないぜっ!いや、ここでぺろぺろするのをやめたら男が廃るというものだ。つまり、これは私の使命であって、このぺろぺろをやめるということは男を辞めると同義。いや、人間以下の犬になるな。だが待てよ、犬ということは詩織本人にぺろぺろしても問題ない……?ああああああ、なぜ犬に産まれなかった我!犬になれば詩織にぺろぺろクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカをいくらしたって問題なかったはずだ。母上、産まれて初めてあなたを恨みますぞ。犬ならば、詩織のあのスベスベした肌にぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。そして下着にクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカクンカ。しかもそれが犯罪でもなんでもなく、犬がやった事だから仕方ないと捉えられ……だが、こうやって普段詩織が使っている湯呑みをぺろぺろできるのも人間であるが故か。断腸の思いで人間であった方が良いとしようそうしよう。そういえば、今日は詩織の下着をクンカクンカしていない。あの縞々パンティーをクンカクンカしていないとは、もう我、駄目かもしれない。あの縞々パンツをクンカクンカすることを生き甲斐に余生を送っている私としてはこれは死活問題。いや、もう詩織のパンティーをクンカクンカクンカクンカするのは私の呼吸!そう、呼吸だ!呼吸できていないに等しいのだ!だったらもう詩織の縞々パンツをクンカクンカするしかない。私が窒息死してしまうからな!嗚呼、今日の詩織の布団はやっぱりいい匂いしかしなかった。詩織が普段使っている布団へダイブアンドクンカクンカを軽く三時間くらい堪能したからのう。これも日課になっているが、流石にこの間はバレたかと思った。いきなり襖が開くのだからもう駄目かと思ったぞ。だが私のちょっと埃がついてたでなんとか誤魔化せたな。やはり愛は全ての問題を超えられるのだ!」
…………。
えっと、これさっきまでの人と同じ人なのか疑いたいのだが。
さっきまでは威厳のあるオーラを纏っていたが、今はただの変態となっている。本国にいた時に「HENTAI」という日本にしかいない種族がいると聞いた事があったが、こんなのと対峙しても勝てるのだろうか。
俺は勝てる気がしない。勝てるビジョンが浮かばない。というか一緒の空間にいたくない。早く帰りたい。
「今日の日課をできていないのは誰のせいだ?ああ、突然現れたあの男のせいか。詩織を虐めていたようだし、ちょっと抹殺すべきなのかもしれないの。私は詩織を影から守るナイト。詩織に仇成す者は全員抹殺していかなければいつか世界は滅んでしまう!そう、全ての人間は詩織を崇め、讃え、服従する。人類総詩織化計画を綿密に計画せねば。だが、まずは詩織の意識改革から始めなければいけない。どうすれば、どうすれば詩織は自分が美人いや、宇宙一可愛い事を理解してくれるのだろうか。やはり私の過去のように威圧して恐怖させ……いや駄目だ。そんなものは本当の可愛さではない。本当の可愛さとは、本人が美であることを自覚してこそなんぼ。それを無理矢理やらせて何になるのだ。私のこの気持ちを理解できる人物が出てこないではないか!いや、出てきてもブチ殺すけど。なに詩織に近づいてるんだ。貴様ら塵以下の蜚蠊のようなやつは詩織から半径三十八万キロは近付いてはならぬ。これは神の命令より上なのだ。絶対なのだ。守らないやつがいたら全戦力を持ってぶっ潰す!!」
「それ、月じゃねぇか!!!!」
思わずツッコミを入れる。そこで自分が何をしてしまったか気付いてしまった。そう、彼は今まで湯呑みを話さずにずっと独り言という前提で話していたのだ。
序盤で声めちゃくちゃ大きかったけれども。
というか、何故心の声を……みたいな顔をしているんだ。お前心の声が諸々声に出ていたぞ。
「そうか、お主も詩織の美しさを理解したか。」
してねーよ。お前の頭だけだよ、馬鹿なの?アホなの?死ぬの?
くそっ、こいつと一緒にいると頭が悪くなりそうだ。
「し、失礼しましゅ……茶菓子をお持ちしましゅた。」
お前もまだ噛んでるのかよ!
そろそろ元に戻ってもいいだろ!
「入れ。」
男がそう答え、襖を開けて先ほどの女性が入ってくる。お盆を持っており、そこにはおはぎがあった。確かにお茶には合うが、もうお茶は残ってないと思われる。主に向こうの。
女性が俺の前におはぎを置いてくれる。素直に感謝を伝えると、先ほどから赤い顔を更に赤くし、男の顔におはぎをクリーンヒットさせる。もう疲れた、休ませてくれ……。
「し、失礼しましゅ!」
「これは……詩織の手作り!?つまり詩織の手を間接的に口に入れているということか。ぺろぺろしておこう。」
「もう、俺疲れた。」
僕のSiriたんがこの文章を満員電車で読み上げ始めましてね、ええ、大変でした。




