滅び行く男の話
中華という国がある。
この国は、世界が崩壊する直前、第二次日中戦争を始めた国だ。集団的自衛権によってアメリカも参戦し、密約によってロシアも日本側へと参戦した。ここに初めて冷戦時代があった事を感じさせない程の共同戦線が生まれたのだ。
そして、それが結果的に中国という国を救う事になった。
というのも、アメリカとロシアといった軍事大国を二カ国も相手にしなければいけない状況に陥った中国は、国家総動員法を発令。これによって国内の様々な物が第二次日中戦争に向けられる事になり、アメリカ軍とロシア軍の攻勢に耐えてるその瞬間に世界の崩壊が始まったからだ。
つまり、国が戦える状態でゾンビが現れたのだ。
この体制に移行していたお陰によって多くの被害を食い止める事ができたのだ。とは言っても、多くの都市は陥落しているのであるが。
その中華の国では多くの拳法の達人が存在している。彼らは、日々切磋琢磨して修練を積み、功夫を鍛えてきた者たちだ。その拳法の達人の中でも頂点に位置する人物ら。彼らこそが中国のゾンビを殲滅するのに大いに活躍した英雄達である。
その中でも八極拳を極めた男がいた。
彼の名は黄曹孫。尊敬するのは李書文である。そして彼自身、劈掛掌も同時に極めているので接近戦、遠距離戦共に得意とする。
その彼の目指す場所は李書文と同じ「二の打ち要らず」である。実際にはまだまだ及ばない部分も多々あるが、それでも地元ではゾンビから街を守った英雄として称えられ、組手ではまず負ける事はなく、それでも足りぬと功夫を鍛え続けている。
その噂を聞きつけた中国政府から、日本への調査を依頼された。受ける義理は無かったのだが、彼と同じような経歴で英雄と呼ばれた人物を何人も日本に派遣しているらしいのだが、誰一人帰ってこないらしいのだ。
その話を耳にして黙っていられる程、彼は大人しくなかった。
直様に日本への遠征の準備をし、自分の弟子達に全ての修練方法や奥義などを授け、船へと乗り込んだ。
貧しい農村で育ったので、船に乗るのも初めてであったが、日本という嘗ての敵国での出来事に緊張して船酔いなどはなかった。
そして、今は猛烈に後悔しているのであった。
自分以上に格闘技に精通していたのだ。
使う武術は自分の八極拳も含めて数多の数であった。自慢の八極拳も劈掛掌も通じない相手。
名を、「アインザームカイト」と名乗っていた。
自分と同じ英雄達は、目の前にいる怪物に喰われたのだろう。
自分の得意とする八極拳を発揮するため、間合いに入ろうとした瞬間に腕を掴まれ投げられる。
受け身を取り、掴んできた腕を掴み返してからこちらに引っ張り、引き寄せた所に突きを放つが、それを掴まれている腕とは逆の手でいなし、当身を放ち返してくるアインザームカイトという男。
当身技は日本の古武術の一種であると記憶している。
受けるわけにはいかないので、掴んでいた手を離し、劈掛掌の比較的遠距離からの攻撃に切り替える。
そこから先は覚えていない。
視覚に捉える事すらできない攻撃、連打の嵐。
最後に見たのは雲一つすらない青空であった。




