神の愛
俺と山城の言い争いは激化し、遂には暴力によってその言い分の正当性を相手に伝えよう。そんな険悪な状態へなったが、俺らの言い争っていた部屋へサリーと玲奈が突撃、胸倉を掴み会っているのを目撃するとサリーは正義の鉄槌と言わんばかりに殴ってきた。
無論、避けた。
避ける事叶わず、サリーの正義の鉄槌を受けた山城は、心なしか嬉しそうであった。流石の俺も距離を置くことにした。死ね。
「二人とも!喧嘩したならごめんなさいを言いなさい!」
そんな事を言いながらこちらに謝罪を求めるサリー。仕方ないな。
「お前の思想は俺の思想と相容れない存在だが、俺に一切、非がないのだが、本当に屈辱的だが、言い過ぎた部分もあったのだろう。これほども思っちゃいないが、すまなかった。」
「ここまで謝罪をする気がない謝罪は初めてだ。だが、僕も言い過ぎた、謝る気なんて更々ないがこのままだと夕食抜きにされそうだし謝ろう、すみません。」
「二人とも……そこまで謝りたくないの?
田中さんは親の最後の願いが絶対に聞けない願いみたいなそんな苦渋に満ちた顔してまで謝りたくなかったの、私がダメだったの?」
その通りだ。そもそも、人は罪を犯す生き物。なら、その罪を背負って生きていくのが我々人類に与えられた使命であり、宿命であると俺は考えている。それを、理由があるからと受け入れない山城の思想は俺には理解できないものだ。
だが、争ってばかりはいられないのかもしれない。
少なくとも彼も命の恩人である事には変わらないのだから。ならば少しくらいは歩み寄っても構わないのかもしれない。地球の裏側から半歩程度には。
その後、ようやく夕食へありつけた俺は預かっていてもらった日本刀を受け取り、外で抜刀する。
名前すら知られていないが、この刀はかなりの業物であった。それも、正当な市場で売られれば数百万とするような業物も目利きがいないのか、百分の一程度の値段であった。
その刀につけた名は、『怨讐』。
名を忘れられ、時代に取り残された隠れた名刀。その刀は多くの人々を斬り、数多の血を流してきた。一振り一振りにかつて斬った人間の生きたいという欲望や後悔、そして叶わないと知った絶望。その刀に降りかかった魂は計り知れない。
一振り、一キロ程度の重さだが、何も考えずただひたすらに振る。
対する敵は、己の悪なる心。明鏡止水の心で己の太刀筋を読み、そして反撃を与える。
いつか来る決断の時。恐らく俺は人を殺して行くか、人を助けるかの選択を迫られる。いや、もうすでに求められているのかもしれない。だが、自分に終止符を打つような答えには辿り着けない。
「人を殺してきたなら、その分だけ人を助ける……か。」
俺にできるのだろうか。
人の怯え、恐怖しながら死んでいく様を見て彼女が振り返ってくれるのを求めていた、そんな屑以下の俺にできるのだろうか。
「無理、なんじゃないかな。少なくともそんな都合のいい話は僕は認めないねぇ。」
瞬間、聴こえるあの声。
悍ましく、身の毛のよだつような邪悪でありそしてこの世の悪そのもの。そう、堕天使。
「一体、何の用だ。あの街から生きて戻った俺にお前が用事があるようには到底思えないのだが。」
「ああ、君には用事はないよ。あの群衆の中を生き残ったのは素直に素晴らしいと思うけど、その後、気を失う。あそこで立ち上がれたら君は強靭な精神を手に入れる事ができたのにね。残虐にして悪逆非道な精神をね。」
そっちの君だったら魅力的だねと彼は言う。
「さて、突然だけど神に会ったね。一体あの人に何を言われたか知らないけど、きっと碌でもない事だろうね。あの人は、世界を愛で溢れた世界にしようとした。その愛を無視した行動をするのは一体誰なのか、はっきり言ってやればいい。聖書にだって書いてあるだろう?神が人間を大勢殺してる事を。」
聖書において、神は目の前にいる堕天使以上に人間を殺している。確かに、確たる事実であれば隠しようもない。だが、彼女はそれ以上に人類を愛している。
だから彼女は俺の夢で天使の長たるこいつを許していると言ったのだろう。彼女が最も作りたかった己の分身である人間を堕落させた張本人であるこいつを。
「彼女は、お前を……六対の羽を持つ唯一の天使を、明けの明星を示す天使を、天使の長を務め叛逆時には大勢の天使をその気にさせた真の実力者を、愛していると言っていた。許してほしいと言っていた。それが答えだ。彼女は碌でもない人物?そんな事はない。己の全てを捨ててでも誰よりも俺たちを愛してくださる本物の主君だ。」
彼女が愛してくれている、その事実は変わらない。それだけで俺は行動に移すことができる。きっと、彼女は何もかもお見通しだろうが、その全てを受け入れて愛してくださるのだろう。
なんだ、俺は行動できるじゃないか。その事実だけで俺が動ける。彼女に振り向いて欲しいと願っていたが、そもそも彼女はいつも見ていたのではないか。認めていなかったのは俺だ。
「天使長、俺はお前に宣告する。今まで犯した罪全部背負って俺は自分の信念の為に突き進む。一人でも多くの人物を救い、彼女の愛に気付かせる。それが俺が決めた答えだ。」
ルシファーは、驚いた顔をしながらも遂に自分の敵が現れたといった喜びの顔をしていた。きっと数千年の月日の中で彼はあまりにも多くの人間を堕落させすぎたのだろう。隣に立てる人間がいたはずにも関わらず、それに気付かずに戦った。それが今の彼だ。
ならば俺が隣に立とう。
天使の長に戻してやろう。
「俺はお前も救ってみせる、それが俺の到達点だ、希望だ。この混沌とした世界を作り出してしまった哀れな羊を一匹、元に戻すだけの簡単な仕事だ。」
「その簡単と称した事項に成功した人間はいない。だから私がここにいるのだ。あの方の愛に気付いてない?何を戯言を。そんなものとっくの昔に気付いている。貴様が誕生する何世紀も前から知っている。だが、帝王は私だ。世界を秩序ある世界へできるのは私だけだ。あの人では一歩及ばない。それを証明するのだ。」
信念と信念のぶつかり合い。
彼女からの愛を知った二人の勇者は、それでも尚、対立する。一人は極悪な世界を救済するため。一人は極悪な世界に秩序を形成するため。これは、二人の人生を賭けた戦いだ。
「勇者よ、私は貴様を勇者と認めよう。神の愛を知り、自分の使命を持ち、勇気を持って世界に挑むのだ。勇者と呼ばずして何と呼ぶ。次会う時は敵同士だ。だが、貴様が此方側へ来るのであれば歓迎しよう。共に秩序と規律ある本当の意味で正しい世界を作ろうではないか。」
彼から誘われるのは初めてであった。
それは、彼が俺を神の愛の体現者として認めたということだろう。彼には元天使の長として気付き、自分がやらねばならないと信じた事があるのだろう。だが、それは神の下へ戻った後でもできるはずである。
「生憎と先約がいるのでねお断りさせていただきますよ、天使長。次会った時はお互いの意志のぶつけ合いだ。」
お互いに戦線布告をする。
世界を股にかけた戦いを始めよう。




