出会ったのは-3
「あの、田中さん?なんでこんなところで寝てるんですか?風邪引きますから戻りましょうよ。」
顔を上げると、空は赤みを帯びていた。家々に明かりが灯り始めており、夜は近いことを教えてくれた。
そして、この子は誰だろうか。何故、俺の名前を知っているのだろうか。
「あのー、すごく聞きにくいんですけどもしかして名前忘れちゃいました?」
「不必要な事は即刻頭から忘却することにしているので、貴方の事は存じておりません。どちら様でしょうか。」
思い出しつつあるが、気にせずに問いかける。
確か名前はポニーだった気がする。
「ひどっ!?
サリーです!サリー・ユーストファ!なんで忘れちゃうんですか!一応命の恩人ですよ!」
どうやら本当に忘れていたようだ。俺にとって命の恩人でも興味がなければ忘れてしまうようだ。恐るべし。
「じゃあ、玲奈のことも忘れてます?」
「仲原 玲奈だろう?
命の恩人の事を忘れるわけじゃないか。いや、忘れたくとも忘れられないといった感じかな。ん?どうしたんだ。何か言いたいなら言った方がいいぞ。」
宗教しか生きる術を知らない女性として知っている。もし、女性からモテモテの男性ならすっとぼけるのだろうが、生憎と俺はモテた事はないし、モテたいとも思っていないので無視する。
「いいです、田中さんがそういう人間なんだって思っておきます。ばーか!ほら、帰りますよ。」
歩き出したサリーを追うように「ああ。」と一声かけてから歩き始める。だが、そこで足を止める。
「どうしました?田中さん。何かありました?」
サリーは金髪で髪型はミディアムである。北欧の人の顔立ちをしており、あまり日本人らしくない。スラッとしているが、出るところはきちんと出ており、顔もどこへ行っても恥ずかしくない綺麗な顔をしている。
十人いれば八人は見惚れるだろう。
その素敵な女性に問いかける。
「サリーはさ、もし、俺がこれまで人をたくさん殺してきた殺人鬼だとしたらどうする?」
きっと拒絶されるだろうと思いながら聞いてみる。
「田中さんは大量殺人鬼なのですか?まあ、可能性はありますけど私が直接見たわけじゃないですし、なんとも言えないですね。でも、今までいっぱい人を殺しちゃったなら、その分だけ人を救えばいいんです。それで足りなければもっと大勢の人。そうすればきっと、自分を許せる時が来ると思いますよ。」
まあ、私は未だに自分を許せないんですけどね。そう付け加えてサリーは歩いていく。
思わず見惚れていた。俺が今まで考えた事もない考えだった。
大量の人を殺してしまったのであれば、大量の人を救うために生きる。
「いつか、自分を許せる時が来るといいな。」
自分に言い聞かせるような言葉に、そうですねと返してくれる。彼女はきっと良い人だ。彼女のような生き方をできる自信はないが、そういう生き方ができたらいいなと思わずにはいられなかった。
多分、俺が見ていた夢は何かを示していたのだろう。
サリーの生き方なのかもしれないし、他の事かもしれない。だが、他人を知る良い切っ掛けだと思った。
「あ、田中さん。明日からは働いてもらいますからね。村に入るなら村のために働きなさい!」
気のせいだったかもしれない。