出会ったのは-2
目が醒めると、辺りは草原だった。
俺が最後にいた村々は消えてなくなっており、あるのは無限に広がる青空と対をなすように存在する草原である。
その草原の真ん中に、ちょこんという擬音が似合う程度の椅子と机があった。というより目の前にあるのだが。
ここはどこなのだろうか。
村々が消えた理由はなんだろうか。
もしかしたら、俺だけ置いて行かれたのかもしれない。時代という誰もが従わなければならない時の流れから。それならそれで新しい時代を満喫するだけなのだが。
とりあえず、折角用意されている椅子に座ることにした。
椅子に座ると、椅子は木の丸太に変貌した。
だが、こちらの方がこの世界には似合っている気がした。というのも、先ほどまで存在していた椅子は、この青空と草原しかない世界には不釣り合いであったからだ。もっと言ってしまえば、椅子の完成度が高すぎた。
机も大木に変貌していたが、それ以上に驚いたことがあった。
とても美しい女性が椅子に座りこちらを見て微笑んでいたのだ。俺がこの世界に驚いているのを、我が子を見ているかのような表情でいたのだ。
しかし、不思議と悪い気はしなかった。
同時に、声を掛けなければいけないと思った。別に女性を見かければ声を掛けなければならないイタリア人気質など持ち合わせていないが、絶対に声を掛けねばならないという一種の脅迫じみた感覚が出てきた。
「はじめまして。どちら様でしょうか?」
無難な言葉で挨拶をした。日本に長く滞在しすぎた影響であろう。遠慮という日本人ならではの特徴が表れていた。
「はじめまして、私は…これ教えちゃったら後々、面倒臭い事になりそうだわ。特に我が子が暴走しちゃいそう。うん、私はあなたのお姉さんです!」
バレバレの嘘であった。
しかし、一つ一つの動きについ見惚れてしまう。
人の視線を集めることのできる、そんな才能があるのではないだろうか。
「俺には姉はいなかったはずだが、気にしないでおこう。それでお姉さん、ここはどこですか?」
「ここは、死後の世界と生前の生前の狭間なの。なんて、嘘よ。ここは私だけの世界。この世界にいるのは私の子供たちだけ…のはずなんだけども、みんないないのよね。昔から一緒にいた人は、友人を連れていなくなっちゃうし、人類で唯一の人は、自分だけは嫌だって言って仲間を連れてこようと必死だし。もう、こんな美女を放ったらかしにして、やになっちゃうよね。」
なぜ彼女だけの世界に俺がいるのだろうか。
そんな疑問があったが、俺は彼女が一番会いたかった人物なのではないかと思った。
「ふふ、もし神さまがいるとしたら、彼ってすっごく酷い人だと思わない?自分が最初に創った子供に対して、最後に創った子供を尊敬し、敬いなさいなんて命令を出しちゃったんだもの。しかも、最後に創った子供はまだ幼かったのにね。」
聖書を読んだことのある者にしか伝わらない、そんな出来事を話し始める彼女。それも、まるで経験したか、身近に見たような素振りを見せながら。
「彼が最初に創った子供に対して言うべきだったのは、最後に創った子供を立派に成長させ、自分より素晴らしい存在へ成長させる事ができたなら、彼に侍りなさい。ぐらい具体的に言うべきだったのよね。」
だから、と言葉が続く。
「最初に創った子供が最後に創った子供を唆して、さらに身元を離れることになっちゃったのも、全部言い方が悪かったせいなんだと思うんだ。だから、例え堕天使や悪魔と呼ばれていようとも、私は彼を愛している。赦すじゃなくて、そもそも怒ってすらいないもの。私はいつまでも彼を愛している。」
衝撃的な事実を聞き、同時に世界が少しずつ消えかけているのが分かった。
「そして、私からいなくなった最も愛した子供も私は愛してる。だから、彼を、堕天使や悪魔と呼ばないであげて。ちょっといじけているだけだから。そして、赦してあげて。ね?」
みんなが戻ってくるのを期待しているから。
その言葉を聞いて、世界は消失した。いや、きっと世界は消失してないのだろう。消失したのではなく、一時的に俺が介入できただけ。本来なら入ることすらできない世界のはずである。
「分かった、できる限り頑張ってみる。」
虚空に向かって宣言する。
何もない場所へ言葉を伝えた筈だが、先ほどまでいた彼女が嬉しそうな笑みを浮かべているのが分かった。
俺は、彼女に赦してもらえたのだろうか。
人殺しという大罪を背負っている俺を、赦してくださったのだろうか。
変わるなら、今しかない。
覚悟を決めた瞬間であった。
価値観って人それぞれだと思います。
キリスト教の神さまを使わせていただいてますが、他の宗教の方々からの意見や反論等あると思います。
お互いの意見を言い合ってより高みに登るのが、本来あるべき宗教なのではないかなと私は考えています。