出会ったのは
過去の事を思い出し、一緒に思い出した嫌な事を忘れるために外へ空気を吸いに出た。
すぐ近くを川が流れており、木でできた家が何軒か並んでいる。大人達が何人も協力をして畑仕事をしたり、狩りへ出て行こうとするのが見えた。
「俺は今までこういった必死に生きてきた人たちを殺してきたのか。」
俺の目の前にいる人々は、皆が皆必死に今を生きている。
ゾンビという人類史に残っていない敵を前にしても、明日を信じて今日を生きている人々ばかりであった。
そんな生き方は、できなかった。
「眩しいな、本当に眩しい。俺には眩しすぎて近づけやしない。」
生きている世界が違うのだ。
俺は人を殺し殺される世界で生きてきた。その影響によって、人の生死をより身近に感じるそういった刺激的な世界でしか生きられなかった。
思えば、これは俺が俺に対して制約をかけていたのではないだろうか。結婚指輪をし、もうすぐ結婚を果たすであろう女性を殺した。
恋の字すら知らずにその生を俺によって閉じられてしまった少年。
孫を守るために自分の身を差し出す老人。
俺は彼らをなんの躊躇もせずに殺していた。上官からの命令であり、祖国の繁栄のために必要なことであると教育された。
本当にそうか?
俺はただ、思考を停止して人を殺すことに理由をつけて機械的に動いていただけなのではないだろうか。
果たして、それは人間と呼べるのか。堕天使ですら言っていた。「諦めずに何度も立ち上がる事ができる者こそが真の人間である。」
あの境地へ俺は辿り着けるのか。
そもそも、俺は人間なのか。
今まで未来ある人々を殺してきた俺は人間なのか。
何を為すために生まれたのか。
人を殺すために俺は生まれたのか。
自分のしてきた行動に今更ながら若干の後悔が生まれ始める。だが、今まで俺が取ってきた行動を後悔すれば、俺のために死んでいった人々全てを裏切る事になる。
ゾンビとしてではなく、人として最後を迎えさせる。そんな考えを根底から覆す事になる。
それだけは許されない。たとえ誰かが許してくれたとしても、俺だけは許してはいけない。俺は俺が犯してしまった罪を意識しながら生き続けるべきなのではないか。
「ああ、何を考えているんだ俺は。死にてえ。」
死にたい。
今まで生まれてこなかった感情が初めて俺の中で芽生えた。この世から消えてなくなりたいという率直な気持ちだ。
「死ねば、彼女に会えるかな。」
希望である、叶うはずもない希望だ。そもそも、自殺はキリスト教において大罪である。それだけの大罪を犯して、彼女に会えるはずもない。
いや、待て。
じゃあ、人殺しは大罪ではない希望か。自分の思考がここに来てから甘くなっていることに気付いた。
全てを投げ出したくなり、木にもたれかかりながら座って寝ることにした。もう一度だけ、彼女に会いたいと思いながら瞼を閉じた。