そいつの名は-8
さて、俺は自分が過去に行ってきた事の影響によって他人と親密な関係になることは不可能であると考えている。親睦を育む事は人にいってはできる。実際、俺は本国で狂った殺人鬼と仲良くなったことがある。
2016年、オリンピックが開かれるこの年に全世界を震えさせる大事件が起きた。多くのスポーツ選手が一箇所に集い、自らの国で鍛え上げたその技術を披露し、切磋琢磨していく大会。その裏で起きたアメリカ大統領候補暗殺事件。
オリンピックが開かれている間、民衆の注目はオリンピックへと向いてしまう。別に悪いことだとは言わないし、むしろ自分の国へ関心を向ける良い機会だとすら思っている。故に、起きた事件である。
当時、アメリカ大統領選で最も有力視されていた候補者が、車での移動中に暗殺されたのだ。
厳重な警備を潜り抜け、アメリカ大統領選候補者の乗っている車を割り出し、ボディーガードを打ち払って候補者を暗殺したのだ。言葉にするのは簡単であるが、実行に移すのは不可能に近い。
犯人は、世界中で指名手配されている指名手配犯達の共謀。アメリカ人、ロシア人、中国人にイギリス人。日本人やイスラームと共通することは指名手配されているという一点であった。
犯罪者の多国籍連合軍であった。
まず、彼は大統領が通過するであろうルートを世界最高のハッカーであるドイツ人犯罪者に割出させた。その後、彼を射殺。アメリカ警察は指名手配犯が殺されていたのを発見し、犯人を捜索することに。
アメリカ警察の面子を潰す作戦であった。それだけではない。アメリカ警察は大統領選候補者より指名手配犯を殺害した犯人探しへ注目してしまう。メディアもそうであった。
次に彼らが採った行動は、無差別殺人であった。彼は後に、「現代のジャック・ザ・リッパー」と呼ばれることになる。イギリス人指名手配犯がデパートで突如銃を乱射。三桁に登る人数を殺害した。警察が突入と同時に、徹底抗戦した。
警察にも被害者が現れ、アメリカ警察の訓練がより過酷なものへとなった。
しかし同時刻、別のデパートでも同じような事件が起きていた。
中国人と思われる二人が、デパートにいる人々を人質に立て籠もる。デパートの五箇所に爆弾を設置した。特殊部隊も投入され、イギリス人の起こしたデパートでの連続殺人事件と同時刻に起こった事もあり、人員が分裂させられ、なかなか対処できずにいた。
指名手配犯達の要求は、軍隊の軍事介入であった。
なぜ、自ら不利な状況へ行動しようとしているのか理由がわからなかったが、恐らく軍隊を縛りつけたかったのだろうと考えられる。
しかし、ここで軍隊のエリート集団である対テロ特殊部隊を投入しなかったことが悲劇を生む。
イギリス人指名手配犯を殺害せずに逮捕することに成功したが、彼は次の言葉を残して暗殺された。
「これはまだ一部にしか過ぎない。今年でアメリカは終わる。そして、四年以内に世界も終わりを迎える。俺たちは世界に対してそのことを伝たいだけだ。ああ、楽しみだな。」
イギリス人指名手配犯が謎の死を遂げた時、中国人指名手配犯二人によって起こっていたデパート立て籠もり事件では、警察の特殊部隊が突入を決行。人質に取られていた40名は皆殺されていた。そして、特殊部隊の多くが突入し終えた瞬間、ビルは大爆発した。
彼らは、この時をずっと待っていた。
この爆破事件によって、市民と警察を合わせて三百人にものぼる死傷者を出してしまった。メディアは強く批判したが、その次の日にアメリカ大統領選最有力候補者が暗殺された。
候補者が車で移動中、突然前の車が爆発。
囮の護衛車が爆破されたことにより、候補者を守るため、多くのボディーガードや警察が動くが、そこに二十人規模の武装した集団が攻勢を仕掛け、候補者を殺害。ライフルによって頭部を何度も撃ち抜かれていた。
後の死亡解剖で即死であったことが判明している。
指名手配犯罪集団はそのまま近くのビルへと立て籠もり、警察に徹底抗戦した。一人一人がかなりの武力を有しており、アメリカ大統領によって軍隊による軍事的な鎮圧が決定した。
俺もその時に選ばれた。
ビルの屋上から進入しようとしたヘリコプターは操縦を誤ったのか、隣のビルへ墜落。作戦本部との無線は繋がらない。警察と軍隊の伝達ミスによる衝突。それらの作戦を指名手配犯罪集団にいたもう一人のハッカーがやり遂げた。
この事件で、アメリカの政府、警察、軍隊は面子を潰され、「強いアメリカは消えた」とのキャッチフレーズが流行。大統領選最有力候補が消えた事により、ライバルは「強いアメリカの再建」のキャッチフレーズによってアメリカ大統領選に当選。
これだけの事件が2016年に起きたのだ。
そして、首謀者はアメリカ人。大学すら行っていないような人物であったが、知識や技術は世界最高峰であり、ネットで指名手配犯達を集めたと言っていた。
アメリカを発つ直前、俺宛にメールが届いた。
そのメールがこの事件の首謀者であり、直接話さないかとのことであった。俺は相手の要求に乗り、直接会った。
「僕の最高なショーはどうだったかい。アメリカ軍エリート筆頭さん。」
軽いというのが一番しっくりくる見た目をしていた。
脂肪があまりついていない皮と骨だけではと心配になる細い身体に、メガネを掛けた高いルックスを持った人物だ。
体重的な軽さではなく、第一印象が軽いであった。きっと、彼は大勢を殺害し、アメリカ大統領選最有力候補を殺すことになったこの事件ですら遊びだったのだろう。そう思わずにはいられなかった。
「さて、僕の計画を色々と妨害してくれたんだから、あいつらの居場所を教えてくれないかな?」
「黙れよ、糞餓鬼。祖国を裏切った奴に未来などない。消えな。」
裏では、20世紀の負の遺産が動き出そうとしていた。その確信を得た瞬間だった。
意思決定会計が楽しすぎて仕事に没頭していました。
復帰します。