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クズですが、よろしくお願いします  作者: あきちゃお
第1部 馳け廻る日々
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そいつの名は-7

「ふははは!ふはははははは!はっはっはっはっ!生き残ったぞ!俺は生き残ったぞ糞共!敬え!俺を、あの絶望の塊みたいな糞みたいな場所から生還した俺を敬え!慕え!」


 全身の疲労により、ふらふらと歩くことすらままならない状態ではあるが、ゾンビの街より生還したという事実が俺の脳でアドレナリンを分泌させていた。


 今ならゾンビ百人斬りに挑戦しても、余裕でこなしてしまいそうである。しかし、自分の脳で考えた事が実際に身体で再現できるかと問われれば、恐らく無理であろう。記憶が正しければ、オートポイエーシス・システムというシステム理論がこれを説明していたはずだ。


 自分の身体は想像以上に疲弊しているらしく、石に躓いて転ぶ程であった。いつもなら犯さないミスである。


「生き残ったが、ここまでか。ゾンビになるくらいなら、人間として死んだ方がマシか。」


 オートポイエーシス・システムにおいて、死の定義とは脳や心臓が止まったり破壊された時ではなく、完全に自己的なプロセスが構成できなくなり、その影響によって脳や心臓といった部分のプロセスが崩壊し、構成素を算出しなくなる。


 つまり、人の死とはプロセスが崩壊した結果であり、プロセスが構成されているまでは死んでいないと考えられるのである。


 そんなことを思い出しながら、俺は気を失った。




 ––––––––––––––––




玲奈れいな!人が倒れてる!まだゾンビになってないっぽいし助けよう!」


「こ、この人は…。サリー、早く運んであげよう!」




 ––––––––––––––––




 目を開けると、青空が広がっていた。

 なんてことはなく、そこには知らない天井が存在していた。記憶が正しければ、俺は疲弊して倒れ、オートポイエーシス・システムについて思考していたはずだが。


 とりあえず、身体を起こそうと思ったら、誰かに手を握られている事に気付いた。そして、俺の手を握っているのは女性であった。


 彼女は、俺の看病をしてくれていたのか、今は眠っている。

 起こすのも吝かであろうと思い、起こさないように抜け出そうとした。いつも以上に身体が重く、必要以上に時間が掛かってしまった。


 上半身に何も着ていない状態だったので、自分が着ていた服を探し、部屋の隅にある籠の中に服が畳んであることを確認した。律儀に畳んであるので、崩さないべきなのかと一瞬戸惑ったが、半裸でいるよりはマシだという考えに至り服を着た。


 ゾンビの大群から逃げるために使った銃は、弾が無くなり使い物にならないので、残念だがここに置いていくことにした。しかし、愛刀が見つからない。


 仕方ないと部屋の扉を開けると、金髪の女性と鉢合わせた。


「あ、起きたんだ。というより抜け出してるし。玲奈も起きた?」


 きっと俺の横で眠ってしまっていた女性のことだろう。


「いや、まだ眠っている。どうやら世話になったようだな。礼を言う。だから俺の刀を返せ。」


「あんな物騒な物をはいそうですかと渡せるわけないでしょ。それに、礼代わりにここの村で働いてもらいますからね。はい玲奈〜、起きて〜!」


 その言葉でお節介で助かったのではなく、労働力として期待されて助けられたというのを理解した。


 玲奈と呼ばれていた女性は、「んー、朝ですか。おはようございま…サリー!!怪我人さんが逃げてます!脱走してます!まずいです!!」と慌てていた。


 その慌て様に思わず笑ってしまう。だが、その笑いは玲奈と呼ばれていた女性の顔を見ると消えてしまった。


「お前は、あの時の宗教女か。生きていたのか。」


 いつの日か出会った宗教しか知らずに生きてきた彼女がそこにはいた。以前会った時は、狂っている人間という印象であったにも関わらず、今は元気な女性という印象しか受けなかった。


 人間に戻れたのか、それとも元々人間であったのか。

 もし、元々人間であったのなら、俺の目は節穴であったと言わざるを得ない。狂人と人間を間違えるなど、多くの狂人を見てきた俺には許されざる行為である。


「あー、あの時はどうもです。とりあえず、ゾンビに噛まれたりしてませんよね?というか、あなたのことですから笑いながらゾンビを殺して回ってそうですけど。」


「実際、ゾンビを殺して笑ってたからな。俺の場合はあくまで逃走中だったが。」


 二人して笑いあっていると、金髪の女性は「え?え?二人とも知り合いだったの?てかその会話はなに!?怖いんだけどっ!」と困惑すていた。


「生きるか死ぬかの瀬戸際で、られそうになった関係ですよ、サリー。」


「いや、実際にりあってたようなもんだろう、あれ。」


 その会話でサリーと呼ばれた女性は、顔を真っ赤にし、「れ、れれれ、れれ玲奈ががががが、や、ややや、ヤリあったったたたた?」と混乱していた。一体何の妄想をしているのだろうか。


 ハーバーマスのコミュニケーション論を思い出し、これがコミュニケーションの不一致かと思った。

哲学者や思想家として有名なルーマンとハーバーマスを出してみました。


というのも私、彼らの論争好きなんですよね。

しかもどちらも好きという物好き。


ちなみに、オートポイエーシス論に関しては山下和也先生の著書『オートポイエーシス入門』を参考にさせていただいてます。


面白い思想なので一度読んでみてください

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