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尻の穴について思いを馳せていたらカレー職人になっていた件について

 君は自分の尻の穴に思いを馳せたことがあるか。いや、決して下品な意味などではない。ただ純粋に尻の穴について真剣に考えたことがあるか、と尋ねているのだ。

 もしかすると、尋ね方が悪かったかもしれない。では、こう言いなおそう。君は自分の尻の穴に何があるか知っているか。賢い人間であれば、今の問いが次のような更なる問いを含んでいることに気づくだろう。君は自分の尻の穴をまじまじと見たことがあるか。

 「知る」ということは、すなわち「見る」ということである。人間が好奇心の塊である以上、知らないものは知りたくて知りたくて(別に「尻」と「知り」を掛けているわけではない)ついつい見てしまう。致し方のないことである。

 だからきっと、十人に一人くらいは、風呂上がりの柔らかくなった体で酢を一杯飲み干してから、頭をグゥッと自分の股の間に突っ込もうとして悶えたり、鏡を手に取りがに股になって上手い位置に調整しようと躍起になった経験のある人間がいてもいいはずである。

 そして、崎田圭吾もまた、そうした知的好奇心に満ち溢れた若人であることを付け加えておかねばなるまい。

 圭吾の尻穴探求は、中学三年の夏の間という比較的短い期間しか行われなかった。というのも、彼が自らの体がいかに硬いかという事実に気づくのに、さほど長い時間はかからなかったためである。自らの目で直接見るということを強く心に決めていた圭吾は、一切の鏡の使用を禁じていたというのも一つの大きな理由である。

 しかし、失敗に終わった尻穴探求も圭吾に一つの新たな突飛な発想をもたらした。圭吾は自分の尻の穴には「不確定世界」が広がっていると断じたのである。

 尻の穴を自分で見ることは出来ない。自分で見ることが出来ない以上、そこに何があるのか、そこで何が起こっているのかは分からない。赤と青と紫と黄と緑と茶と、ありとあらゆる色が螺旋状に渦巻く不可思議な空間がそこにあったとしても、何ら不思議はないと圭吾は思った。尻穴に宇宙あり、である。

 だが、彼の思想はいとも簡単に破壊されることになる。

高校時代のことだった。圭吾は壮絶ないじめに遭うことになる。そのいじめの内容というのが、彼の顔面を便器に見立て、同級生たちがそこに排泄をするというものだった。いじめへの苦も相まって、圭吾の考え方は以前よりずっと狭まったものになった。

結局、他人も自分も同じ尻の穴。自分の尻の穴はいま目の前にあるいじめっ子たちの尻の穴と同一なのであり、そこにはただひとつの穴があるのみで、その穴からは他の何でもなく、人間の体内で蓄積された栄養分の残りカスがひねり出されるだけなのだ。

三年間の壮絶ないじめ人生を乗り越えた圭吾の視界には、もう全てのものが黒ずんだ茶色にしか見えなかった。大学受験も何もかもを諦めた彼は、卒業式の帰り道、ふと、こう思いついたのである。

「そうだ、カレー屋さんになろう」

 高校三年間で世の中の誰よりも他人の尻穴とそこから排泄される物体に慣れ親しんだ圭吾は文化人なら当然持っているべき排泄物とそこから漂う悪臭に対する嫌悪感を完全になくしてしまっていた。それどころか、いじめを受けていたためにまっとうな学校生活を送ることが出来なかった彼が唯一学生生活で知り得たもの(重ねて言うが尻と知りをかけているわけではない)、それこそが、他人の尻の穴とそこから漏れでる物体の温もりなのであった。

 ――俺の高校生活は文字通りクソミソな結果に終わってしまった。だとしたら、俺がこの先に活かせるものは一つしかない。俺はそれを使って、この世界でてっぺんを取ってやる。それこそが、俺の生きた証であり、俺をいじめた奴らに対する唯一の反逆だ。

 圭吾は早速人里離れた山奥にある老舗のカレー屋へと弟子入り志願に行った。今時カレー屋などチェーン店の雇われ店長で十分だと思う者もいるかもしれない。しかし、圭吾の決意は本物であり、目的のためならどんな艱難辛苦にも――たとえ一か月間お前は便器代わりだと言われても耐え忍ぶ覚悟だった。圭吾の胸の中では、茶色い炎が燃えていた。

 月日は流れて、一五年後。「こ↑こ↓壱」というカレー店が全国で有名になっていた。雑誌やテレビでも大きく取り上げられて、今や飛ぶ鳥を落とす勢いである。

 そして、この「こ↑こ↓壱」は何を隠そう、圭吾が長年の修行の後に生み出した究極ともいえるカレーを提供している店なのである。その味は、舌を心地よく刺激する適度な辛味と、選び抜かれた具材が生み出す豊潤なうまみを併せ持ち、どんな食通もうならずにはいられないというものだった。

 「こ↑こ↓壱」には毎日、大勢のお客が訪れ長蛇の列をなしている。そのノウハウをマニュアル化してチェーン店化しないか、という話も多く圭吾のもとに来ていたが、圭吾はそうしなかった。いや、そうすることは出来なかった。

 ある日、圭吾は店の厨房から二人の男が店内に入ってくるのを見た。二人は長い間待った末にやっと入れたということもあり、興奮した表情を浮かべている。圭吾は二人の顔に見覚えがあった。高校時代、、自分をいじめていた主犯格とその取り巻きの一人である。

「圭吾さん、三番テーブル、カレー大盛り二つ入りました」

 バイトの大学生が圭吾に注文を告げる。二人からの注文である。圭吾はにやりと片頬だけを上げて笑うと、厨房の奥へと入っていった。

 厨房、そしてさらにその奥のカレー保存室には基本的に圭吾しか入ることを許されていない。周りの人間には、カレーの保存には温度管理が重要でみだりに開け閉めして欲しくないから、と説明している。しかし、それは嘘だ。

 圭吾は保存室に入り、空の大鍋の上にまたがると、おもむろにズボンとパンツを脱いだ。そして至って自然と云う顔でそこに用を足していく。もちろん、大だ。

 トイレットペーパーで尻を拭き、大鍋から茶色い物体をすくって、ご飯の上にかける。そしてそのまま厨房に持っていき、バイトの大学生に手渡した。

「これ、三番に頼むよ」

 三番テーブルで、噂のカレーは今か今かと待ち続けていた二人の目の間に、大盛りカレーが二人前運ばれてくる。

「超うまそうじゃないっすか」

「匂いがたまんねぇな、これ」

 そして、スプーンでひとすくい、口に入れ思わず叫び声を上げる。

「うまいっ、なんだこれ」

「カレーじゃないみたいだ」

 カレーじゃないし、まあ多少はね。

 二人はがつがつとわき目もふらずスプーンを次々と口に放り込んでいく。その様子を見ながら、圭吾は慈愛に満ちた表情を浮かべていた。

 圭吾は老舗カレー店で最高のカレーのつくり方を教わった。圭吾は真剣に取り組み、そのレシピを完璧にマスターした。しかし、それはあくまで師匠の猿まねにしか過ぎなかった。どう足掻いても師匠の味は超えられない。圭吾は苦悩した。

 その末に生み出した、調理法というのが、一度作ったカレーを圭吾自らが食し、腹の中で熟成させるというものだった。腸の中に含まれる、なんとかかんとか菌がうまい具合にカレーのうまみを引き出してくれるのだ。

 初めは、もとはいじめられっ子だった自分の排泄物同然のカレーを大勢の人がうまいと言って食べているのを見て、馬鹿にして嘲笑うだけだった圭吾であるが、今ではもう、一人の職人として、純粋にカレーを食べて客の見せる笑顔が生きがいとなっている。

 元いじめっ子の二人を見ても、圭吾の胸の内にわいてきた感情は、復讐などではなかった。ただ彼らを満足させたいという料理人としての誇りである。

 圭吾は尻の穴から生まれ出るものによって破壊された人生を、尻の穴から生まれ出るものによってより良いものへと変えた。まさに、尻の穴には無限の宇宙が広がっているのである。


完。                                     


タクミ・ザ・ロックフェザー先生の次回作にご期待ください!


初投稿…ども… 俺みたいな大3でなろう見てる腐れ野郎、 他に、いますかっていねーか、はは

今日のゼミの会話 あの流行りの謡曲かっこいい とか あの 服ほしい とか ま、それが普通ですわな かたや俺は電子の砂漠でゲイビデオを見て、呟くんすわ

it'a true wolrd.狂ってる(小並感)


好きな音楽 バラライカ(いさじVer)

尊敬する人間 ビリー・ヘリントン(パンツレスリングはNO)


なんつってる間に5時7分っすよ(笑) あ~あ、高等教育の辛いとこね、これ

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに惹かれて読んだのですが、すごく面白くて、電車の中で笑ってしまいました…! おかげで隣のサラリーマンが奇異の眼で私を見てきます… いじめ関連の描写がなんというか、ちょっとシリアスで一…
2015/10/14 10:24 退会済み
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