神様は武器にいる
「ふぃー……流石にもう日が暮れてるなぁ」
「案外時間の経過が速く感じるな」
坑道の探索も慎重ながらも進み、ある程度の成果を手にした俺達はシャバの空気を味わい疲れた体をほぐす。
坑道を出てすぐに野営準備を既にしてあるので、後は飯を食ってテントで休むだけだ。
しかし初日だというのになかなかの収穫ではあった。
鉄鉱石はある程度、スズ鉱石や銀鉱石も少ないながらも発掘できた。
特に銀が発掘できたのは大きい。
「じゃあさっそく鉱石を色々弄ってみるか」
「私は食事の準備をしよう、できたら呼びに行く」
「ああ、よろしく頼む」
そう言ってお互いの仕事を始める。
アイラはあれで結構料理が上手い。
修行時代はほぼ自給自足の日々だったらしく、依頼も装備品や必要最低限の消耗品が買える程度にしか受けていなかったという。
その為、食べられるものと食べられないものの区別や、狩りはお手の物らしく、アイラと会ってからの日々は殆ど食事を任せていた。
おんぶに抱っこ状態が続いていたわけで、ようやくこれで借りを返していけそうでなによりだ。
色々と性能の良い武具、アイラ専用ワンオフものでも造る勢いで貢献させてもうおうかね。
とりあえず二つ張ったテントの内、色々作業するため大きい方を使わせてもらっている俺のテントに入り、今日の収穫物を分類して並べる。
これから錬成を行うわけだが、俺は錬成をまだ一度しか行っていない。
さてどう取っ付くべきか。
「まず失敗してもいいように数のある鉄鉱石から始めよう」
最初に確認すべきは鉄ではなく鉄鉱石という部分だ。
このまま装備品を作成したらどうなるのか。
というより錬成で鉄鉱石を鉄に精錬しなければいけないんだろうか。
まあいいや、やってみれば分ることだ。
鉄鉱石を一つ台の上に置き、『錬成』のスキルを発動させていく。
頭のなかで腕輪をイメージして形を整えていく。
鉄鉱石が光りに包まれ、塊だった鉄鉱石が形を変えていく。
そして光はだんだんと大きく膨れ上がり、
「ぎゃああああああ!!」
爆発した。
おそらく今の俺は顔を真っ黒にしてカーリーヘアーで輪っかの煙を吐いていることだろう。
「っていうかムズっ!」
台を見ると鉄鉱石は消滅していた。
明らかに失敗である。
だがこの失敗でわかったことがある。
錬成に対して鉄鉱石は反応を示した。
コレは鉄鉱石が錬成の対象であることを示している。
調合の時もそうだったが、まるでピンと来ないただの雑草を調合しようとしたところ、スキルはうんともすんともいわなかった。
つまり調合でも錬成でも対応する材料でなければスキルは発動しないということだ。
今、鉄鉱石は反応を示したわけで、錬成自体は可能なのだ。
「だがなんで失敗したんだ?」
原因1、制御不足。
俺のイメージがしっかりとしていなかったため、暴発したという可能性。
原因2、技術不足
そもそもこのスキルにはステータスとの関連性があり、それが不足している可能性。
原因3,鉄鉱石自体の問題
鉄鉱石は原料ではあるが材料ではなく、鉄の成分が不純物と干渉を起こした可能性
原因4、量が足りない
拳大の鉄鉱石では腕輪を造るだけの量が足りなかった可能性。
1,2は特にありそうだ。
3はどうだろう、もう一度試してみないとわからない。
4はおそらくだが違う。
俺は以前弓を創った後矢も作った。
一本の枝から5~4本錬成されるという、質量保存の法則を無視したような数の矢が出来たため、恐らくは関係ないだろう。
まあ、でも今できることは1,3ぐらいか。
とりあえず回数を重ねてやってみるしか無いだろう。
『鉄の腕輪』
防御力+2
鉄で出来た腕輪。
「で、出来たぁ~………」
失敗を重ねる事数回。
度重なる爆発ダメージとアイラからの苦情にもめげず、俺はやり通した。
自分で自分を褒めてやりたい気分だ。
出来たものはショボイが、偉大なる第一歩であろう。
実験ごとに問題点を洗い、トライアンドエラーを繰り返していく内に法則性を見つけ出すことに成功したのが大きい。
要は集中力とイメージの問題だったのだ。
そして鉄鉱石は原料であり、その中に含まれる鉄を意識すること。
量も関係していた。
矢を作った時は枝から作ったが、枝の総量で矢の本数は決まっていたようだ。
つまり枝の質量を一つの塊として、そこからイメージした矢が質量に合った本数だけ錬成されていたということだ。
後はイメージを完成品にどれだけ近づけて思い描くか。
鋳造品みたいに材料を流しこんで型にはめてプレスするようなイメージだ。
出来上がった鉄の腕輪は無骨で鑑賞品とは程遠いものだが、デザインは装飾の無いただの輪としてイメージした結果、うまくいったのだ。
最初に出来たのは大きな指輪程度ではあったが、もうひとつの鉄鉱石をその指輪に継ぎ合わせていく感じでようやく俺の腕につけられるくらいの大きさになった。
「ってことはアレか? 完成品の性能に手を加えたりして材質の含有量とかを弄れたりもするわけか」
そうすることで+やら-の数値が決まったりする?
まだ詳しく検証する必要がありそうだな。
刀みたいに複雑な工程で造る武器はまだ無理そうだが、刀みたいな形のモドキ品はできるかもしれない。
まあまずはこの鉄の腕輪を色々弄って見ることにしよう。
『天目一箇神の腕輪』
防御力+80
器用+200
天目一箇神の加護を受けている腕輪
「なぜだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
何故か神様の加護が宿った。
俺はただ鋳造ではなく鍛造っぽいイメージで鉄の純度をひたすら高めて言っただけだぞ!?
予想通り鉄の腕輪の+の数値が上がっていったから、どこまで行けるかと試しただけなのになぜ神様の加護を得られるんだよ!
「なんか知らんが、偉い性能のモノが出来てしまったな…」
鉄はこんな可能性を秘めていたのだろうか。
とりあえずこのぶっ飛んだ性能。
装備でもしておくか?
いやまてよ?
鉄鉱石ならまだここで採掘できるはずだ。
同じ事をすれば恐らく同じものが出来上がるだろうし、ここはこの腕輪を錬成でもう少し弄ってみるべきではないだろうか。
俺は手の中にある腕輪に錬成を発動させようとしたが、
「これ以上錬成は出来ない、ということか?」
ほんとうによくわからないスキルである。
と俺が訝しげな目を腕輪に向けていると、
「おい、何か叫び声が聞こえたが何があった!?」
しっかりとお隣さんに俺の魂の叫びは届いていたようである。
さてどう説明したものやら。
「―――なるほど、わからん」
「だと思ったよ」
事の次第を説明すると、きっぱりとそういうアイラ。
なにせ自分ですらわかっていないのだから。
「しかし加護を受けた腕輪か。そんなにすごい性能なのか?
「ああ、数値上は俺の3倍弱硬くて5倍強器用な腕輪だ」
「………なんといか、実に感想に困る説明だな」
「実際俺も困っているんだ」
手に持て余しているこの天目一箇神の腕輪。
せっかく造ったんだから活用したいとは思っているが、急にこんな性能に出てこられても対応に困るのが本音だ。
「とりあえず身につけてみたらどうだ? せっかく造ったんだろう?」
「うーん、俺は後衛だし前衛のアイラが使ってくれ」
「神の加護など微妙に怪しいから自分で付けたくないだけだろう」
「………」
雄弁なる沈黙である。
アイラはしょうがない、と一つため息をつき、腕輪を受け取りその腕に通す。
すると、手をひらひらさせたり妙な行動をしばらくとっていたが、
「別に変わったような気はせんな」
「………どういうことだ?」
別に専用装備と明記されていたわけでもないし、補正のかなり大きい装備だ。
気づかないってことは無いはずなんだが。
「スマンがステータスをチェックさせてもらえるか? ちょっと気になる」
「まあ構わんが」
断りを入れてアイラのステータスを閲覧する。
しばらく目を通していたが、あることに気付いた。
「………装備されたと認識していないみたいだな」
「ちゃんと腕につけているぞ?」
「多分それだ、剣士の腕輪。反発して打ち消したんじゃないのか? 腕輪の装備は一つまでとかそんな理由で」
「お前が数値を見れるとかそういうのはまあ今さら何も言わんが、腕輪を2つつけては効果が無いなんてそんな―――事があったみたいだ」
剣士の腕輪を外したアイラは不思議そうに自分の手のひらを見つめている。
「凄いな、何かが湧き上がってくるというか……不思議な気分だ」
ステータスを見てみると、
・アイリィ・ラドネイ
LV・17
HP・110/110 MP・24/24
膂力・・34 魔力・・17 耐久・・27
精神・・39 敏捷・・54 器用・・244
幸運・・38
攻撃力・221
防御力・153
魔防御・47
・装備
銀の刀-6
布の服
布の靴
天目一箇神の腕輪
冒険者のピアス
器用がとんでもない数値になっていた。
攻撃力も防御力も激増している。
………これなんていうチート?
っていうか器用って攻撃力に作用するんだな。
妙な所でまた一つこの世界に詳しくなってしまった。
「やはりお前の言うとおり、この世界は数値で表せるのかもしれないな」
よほど効果が気に入ったのかしきりに頷いては喜んでいる。
その腕輪返してくれっていったら返してくれるかな。
まあ別にいいんだけどさ。