だれもが冒険者になる 永遠というヒーロー
「本当にいいのか?」
「ああ。前にも言ったが剣の丘での修行も別に期限が決まっているわけではないしな。なによりお前の旅に付き合う方が私にとって利益が大きそうだ。お前もこの世界のことを知らないだろうし、持ちつ持たれつというわけだ。一応腕には覚えがあるし、お前の足を引っ張りはしないはずだ」
「そりゃあ俺は助かるが」
「なら気にするな。旅は道連れ世は情けと言うだろう?」
「……よくそんな日本の諺知ってるな。それも前にやってきた稀人が広めたのか?」
「はは、かもしれんな」
会話を交わしながら道を進む二人。
アイラは剣の丘での修業を切り上げ、俺に同行してくれるらしい。
しかし度々諺が飛び交う辺り、稀人というのは日本人が多かったのか?
数十年とかに一人、あのゲームをやってやってくるっていうのは、ゲーム機歴史的にはありえないし、一体どうなってるんだろうか。
まあ、この辺のこと考えてもしょうがなさそうだ。
「まずは最寄りの街にいって冒険者ギルド登録をするんだったか?」
「お前はこの世界を見て回りたいんだろう? だったらそれがいいだろうな。冒険者ギルドはどの街にもあるし、なにより身分証が発行されて色々と便利だぞ?」
冒険者ギルドか。
まあ異世界に来たら定番といえば定番だ。
「大体のシステムはさっき言った通りだ。依頼を受けて報酬をもらう。ランク制度で受ける依頼の難易度が変わったりする。依頼の達成報告は受けたギルド以外でも一応できるが、手数料が取られる上に手続きが面倒で長いからあまりお勧めはしないな」
「へえ、他の街のギルドでもいいのか」
「一応できる、というだけで本当にお勧めはしないぞ? ギルド同士の確認作業で待たされる上にギルドからもいい顔はされない」
そりゃ確かにコンピューターやネットもないこの世界(アイラに確認したがパソコンやネットは存在しないそうだ)では手作業で確認するわけだから面倒この上ないな。
ギルド職員の苦労が目に浮かぶようだ。
「まあ最初は日にちをまたぐような依頼はないだろうし難しい依頼もない、神経質になることもないさ」
「そうだといいなぁ…」
「おお~……」
目の前に広がるのは中世風のこれぞRPGといった町並みだ。
行き交う人も肌の色が違ったり、髪の色も違ったりしている。
なかなかに圧巻だ。
剣の丘からの道中は平穏そのもので、特に特筆すべきことはなかった。
なにせ日中は芋虫やらLVが低いモンスターしかいないため、特に戦闘を望むでも避けるでもなくあっさりとアイラが一瞬で斬殺してくのだ。
俺は弓を構えはするものの出番は全くなかった。
日が暮れる前に街につかなければならないらしく、少し急いだがそれでも半日程度であっさりと街についたのである。
アイラに出会わなければ一日では着かなかったり、日が暮れてモンスターが強くなったりで苦労したはずだ。
感謝しなければいかんな。
そして辿りついたこの街はイアンといい、フランツ帝国の中ではそこそこ賑わっている街らしい。
とりあえず寄り道はせずに冒険者ギルドへと向かうことにした。
「なにか御用ですか?」
「済まないが登録をしたい。ああ、私は既に登録しているからこの男だけでいい」
「分かりました、ではこの書類にサインをお願いします」
ギルド内に入ると受付に向かい手続きをする。
どうやら書類を書かなければいけないようだ。
っていうか俺、この世界の文字読めないんだがどうすればいいのか。
「(なあアイラ、俺この世界の字を書けないんだが?)」
「(ん? 昨夕お前は私にステータスとやらを書いて見せただろう)」
「(あ、そういえば…)」
確かあの時は文字のことなど気にせず日本語で書いたはずだ。
アイラは特に問題なく読んでいたのを思い出す。
書類を見てみると文字は日本語であった。
ものすごいご都合主義な展開である。
諺のことと言い、もしかして日本人は相当この世界に食い込んでいるのではないだろうか。
そんなことを考えながらも書類を書いていく。
「得意な武器は、弓でいいか。歳は20、と」
「なんだリュウは20なのか? せいぜい15くらいかと…」
俺のつぶやきを聞いていたのか、アイラが俺の書いている書類を覗きこんできた。
「15はないだろ、流石に」
「私が17だからな。てっきりもっと下かと思っていた」
童顔なのだな、と関心したように呟くアイラ。
っていうか俺的にはお前が17なのが意外だぞ。
俺は俺で同じ年辺りだと思っていたのだからお互い様ではあるか。
確か日本人は外国人から見ると年齢が低くみられるらしいし、異世界でも似たようなものか。
「と、これでいいですか」
考えてるうちにも手を動かし続け書き上げた書類を職員に渡す。
「…………はい、結構です。ではこのピアスを左耳につけてください。このピアスは付いている石によって冒険者のランクによって色分けされます。最初はFランクの緑色石でランクが上がるごとに色はEの黄、Dで青と変わっていきます」
「へえ、なるほどね」
受け取ったピアスを鑑定眼で鑑定してみた
『冒険者のピアス』
幸運+2
冒険者が身につけるピアス。
緑色石が付属されている』
幸運+2か。
ステータス上昇効果が付いているのは嬉しい。
ふと、アイラのピアスの色が気になりアイラの耳を見る。
『冒険者のピアス』
幸運+4
冒険者が身につけるピアス。
黄色石が付属されている。
※アイリィ・ラドネイ専用
色は黄色。
ということはEランクということか。
15レベルのアイラが俺の一つ上でしか無いということは、ランクを上げるのはかなり難しいと見るべきだろうな。
俺の視線に気づいたのかアイラが、
「ああ、私は別に冒険者で身を立てたい訳ではないからな。修行で様々な場所へ行くための身分証としてしか活用していないから、必要最低限の金銭しか要らなかったためあまり依頼は受けていないんだ」
「アイラさんはあの剣刃踏破を扱う剣士で凄腕なんですから、本来はもっと上のランクのはずなんですけど本人がこの調子でして。ギルドとしては実力にふさわしい色になって欲しいのですが」
「そう言われてもな。まあこれからは気にしてみよう」
お願いしますよ、という職員のお小言に苦笑しながら対応するアイラ。
色々大変なんだな、という感想を抱く俺だがアイラらしいとも思う。
とりあえずもらったピアスを付けるべきなんだが、
「俺、耳にピアス穴が開いていないんだよなぁ」
嫌そうにピアスを見ていた俺に、
「一応偽造防止に血液を最初に付着させなければならないので、そこは我慢してもらうしか……あ、最初に取り付ける際はピアスに付いている針でお願いしますね」
偽造防止ね。
まあ確かに身分証代わりにもなるんだし、石を勝手に変えたり、取り替えたり出来ないようにしないといかんだろう。
チクリ、とする痛みを我慢して左耳にピアスを取り付ける。
「では、登録完了ということで。紛失した場合はお近くのギルドに申し付けてください。再交付に60ベールかかりますが新しいものを用意しますので」
ベールと言うのは通貨の単位だろう。
どれくらいなのか首をひねっていると、
「(そう高くはない。宿での一泊は平均50ベール位だ)」
小声でそう教えてくれる。
「身分を証明する時はピアスに触れて『我が名の下に』と唱えてください。そうすれば石に応じての色をピアスが発色させます」
「こうだな、『我が名の下に』」
アイラが自分の耳に指でふれ、そう唱えると淡く黄色に照らしだした。
何というか……ファンタジーだなぁ。
「他人のピアスでは光りません。地域や街によっては証を提示を求められる場合がありますので、その場合このピアスの光が証明となります」
「よく考えられてるわけね。どれ『我が名の下に』」
ピアスに触れそう唱えると自分でも分るくらいの明るさで緑色に光りだす。
手を離すとピアスはその光を失っていく。
「はい、正常に作動していますね。ギルドとしてはこれ説明は…あ、そうだパーティー登録についても説明を…」
「ああ、そういうのは私が後で説明しておこう」
アイラがそう言って職員の言葉を抑えた。
「そうですか。ではこれからの活躍に期待しております」
そうして俺のギルド登録は終了した。
しかし面白いもんだな、やっぱり異世界なんだな此処は。
なんていう感想を改めて感じる俺だった。