表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第三章 刀修繕編
35/37

その学名はゴリラゴリラゴリラ

「これは……すごいな」


 あたりを見渡せば木、木、木。

 3つあわせて森である。

 プチひきこもりであった俺からすれば、この植物の集まる大自然特有の香りは若干落ち着かない。

 俺にとってのくつろぎ空間とはカーテンを閉め切って、空調が完備された狭い空間で、ブルーライトを体いっぱいに浴びてゲームができる場所なのだ。

 広大な森林の気配に軽いめまいを起こしていると、

 

「弁当でも持って来ていればピクニック、といった感じですね」


「全くだ」


 俺とは逆にその膨大なマイナスイオンを体いっぱいに感じているのか、アイラとセシリーは大自然を満喫しているようだ。

 特にセシリーは森の住人であるエルフ族の血を半分受け継いだハーフエルフだ。

 自然の感じられるこのような森は、深い部分での精神的に落ち着くモノがあるのだろう。

 

「だが一応ギルドでの依頼も受けているのだ。仕事も込みであるという事は忘れないようにせねばな」


「シャビの花……だったか?」


「はい。薬の材料になるため、できるだけ多く……との事ですが」


「うーん……」


 イエニスタの森に来る前にギルドに寄った俺たちは、目的地であるイエニスタの森内で行える依頼を探したところ、シャビの花の収穫という依頼が目に入り、それを受けることにした。

 今まであまり採取依頼というのを受けてこなかったため、どの程度採ればいいのかというのがイマイチ理解できていない。

 

「確かこの時期に咲く花なんだよな? できるだけ多くなんていうくらいだから結構珍しいっぽいし。まあ、俺の観察眼があるからそれなりに見つかるとは思うけど」


 俺は意識して目を凝らすと、森のそこら中に半透明のポップが現れ始める。

 以前は漠然とした、ここに何かありそうだという感覚みたいなものだったが、坑道で多用しているうちに使い慣れたのか、こうして近くで観察しなくてもそのポップを見れば名前と効能を知ることができるようになった。

 しかも、このスキルは都合がいいことに雑草などの効能がないものだったり、練成や調合の材料に使えないようなモノだったりすれば自動的に弾いてくれる。

 例えば土であったり草であったり、価値のないものにはポップは浮かび上がらない。

 それでも目に映るだけでも2、30は浮かんでいるのだから慣れないうちは少し遠慮をしたい光景ではあった。


「しかし見事に薬草ばかりだな……。まあ、薬草の群生地と考えればちょっとしたものなんだろうけど。あ、どくけし草も生えてる」


「イエニスタの森はランクC指定の場所ですから。Cランク以上の冒険者は基本的には薬草なんて狙いませんので、自然と保護されている形になっているのかもしれませんね」


「なるほどなぁ」


 さすがは安心と実績のセシペディアである。

 アイラも俺と同じようになるほど、とか言って頷いていた。

 やはりこの世界でも学歴による格差はあるのかもしれない。

 高卒と大学院卒では知識に差が出るのはしょうがないんだろうけど……まあ、この例えが的を射ているかはわからんが。


「ちなみにランクCとされているのはこの森に生息するフォレストウルフの存在が大きいようです。単体ではさほど強力な個体ではありませんが、群れを成して獲物や外敵を襲うので数が多く非常に厄介だとか」


「あー……人海戦術はどの世界でも単純だが厄介なモノなんだよな」


 トルイヌの大冒険で全体がモンスターハウスの階に出くわしたときは勘弁してくれって思うし。

 白紙の巻物を持っていて、せいいきって書けばある程度は問題ないんだけど。

 俺は妙に愛嬌のある太った商人の姿を浮かべながら腕を組んだ。


 ヤツは美人の嫁を貰っている上に世界を救った勝ち組である。

 戦闘に参加もしないで馬車でのほほんと鑑定ばっかしているくせに、勇者一行とか言われているという素敵過ぎる過去を持っているのだ。

 鑑定は勿論、練成も調合もできる俺のが役に立つぞ、と戦闘でのいらない子繋がりで対抗意識を燃やしてみる。

 とても空しい行為であった。


「それと、少し前ですがゴリラを目撃した、との情報もあったみたいです」


「……は?」


「え? いえ、ゴリラを目撃した、と」


「いや、繰り返さなくても聞こえたけれども」


「そうか、ゴリラか。それは厄介かも知れんな……」


「――えっ!?」


 セシリーはともかくアイラでさえもゴリラを警戒しているようだ。

 まあ、確かにそれなりに危険な動物ではあるんだろうけど。

 腕力も凄いが、握力は500kg以上だとか。

 しかしゴリラはその見た目と身体能力とは逆に、穏やかで平和主義である。

 基本的に草食性で、滅多に人を襲わない。

 心優しい動物といえるだろう。


「ふむ、世界が変われば動物も変わるのだな……いや、ゴリラはモンスターなのだからそうともいえないのか?」


 悩み始めるアイラを放置して、セシリーに話を聞く。

 どうやら俺の世界のゴリラとは完全に真逆で、敵を見ればすぐに襲い掛かってくるほど獰猛らしい。

 身体能力の高さは勿論だが、なにより生命力が異常に高いのだそうだ。

 致命傷を負わせたと思って油断していたところに、思わぬ反撃を食らい命を落とすといったケースは珍しくないのだという。

 基本的に森に現れるらしいが、偶に思わぬところに居ることもあり、そういったときは大変なようだ。

 目に付く敵をかたっぱしから殴り倒すという獰猛さによって、突然の襲撃による負傷者もでるし、単純に強いため高ランクの冒険者じゃないと歯が立たない。

 単純な攻撃力はドラゴンの尾の一撃にも劣らないという威力を誇る。

 ゆえにゴリラと聞けば大抵の冒険者は顔をしかめるのだそうだ。


「行動は単調ですが、高い身体能力に一撃の重さ、生命力……なによりいきなりの奇襲攻撃が非常に厄介なモンスターです」


「なるほどなぁ」


「ただ、イエニスタの森はかなり広いですから、単体で行動するゴリラに出会う確率は低いかと」


「うーん、その言葉で今、フラグが立ったような気がするがな」


「はい?」


「いや、なんでも」


 こういうお約束は得てして起こってしまうのが物語である。

 







「ほらね?」


 今、俺たちの目の前にはまさにゴリラといった風貌のモンスターが冒険者と争っていた。

 はじめてみるゴリラは当然のようにゴリラであり、それ以上でもそれ以下でもなく、まさにゴリラのごときゴリラであった。


「――な、なんでこんな場所にゴリラがいるのぉ!?」


 そのゴリラの相手をしているのは一人の女性冒険者。

 口調は慌てながらも行動は落ち着いた様子で、片手に持つ盾で上手くゴリラの攻撃をいなし、もう片手に持つ細身の剣で隙間を縫うように突きを繰り出していた。

 長く伸ばした色素の薄い金色とも茶色ともいえない中間色の綺麗な髪をなびかせ戦うその様子は、まさに絵画の構図といった美しさである。

 もっと言うならRPGパッケージのイラストの一枚絵のようだった。

 とたんに格調が下がってしまう例えではあるが。

 

「ふむ……正統派の騎士剣術だな」


 その戦いを隣で眺めていたアイラが、そんなことを口にする。


「正統派? 騎士剣術?」


「単独で敵を葬り道を斬り開くのが私が扱う剣術だが、自分も仲間も傷をつけさせないという信念の元に剣を振るうのが騎士剣術だ。騎士剣術にも流れがあって、攻守速のバランスや比率によって持つ武器も片手剣ではなく両手剣だったり、盾も大型から小型までと様々だな。中型の盾に細身の片手剣であれば攻守速バランスの取れた正統派の流れを汲んだ騎士剣術だろう」


「へぇ……」


 剣のことになると熱くなり饒舌になるアイラの説明は、半分も入ってこなかった。

 そんな俺の様子がわかったのか小さくため息を吐き、


「簡単に言えば盾を持てば騎士剣術。両手持ちまたは片手剣のみなら単に剣術と呼称されるな」


「それはわかりやすいな」


 今度の説明はわかりやすく、さくっと理解できた。

 そんなことを話しながら俺たちは遠巻きに戦闘を見守り続ける。

 ゴリラは見境なく近づく敵に襲い掛かるため、うかつに声をかけたり近づいたりすれば、今戦っている彼女やその仲間にとっても予想外の行動をとりかねない。

 だからあえて距離をとり見守っているわけなのだが。


「……おかしいな、仲間が見当たらないのは何故だ?」


「そういえば……」


 戦闘が始まってかなり時間がたっているのだが、ゴリラを相手にしているのは彼女一人だけである。

 驚きの声を上げていたところからすると、この戦闘は作戦とは思えない。


「……おいおい、もう既にってのは勘弁してほしいんだが」


「あの、さすがにそれは縁起が……」


 不吉な予想を口に出すのをセシリーが眉をひそめる。

 こういうのは言葉にすると本当になるからだと考えたのだろう。

 さっきもそうだったしな。


「ともあれ、どんな理由であってもこのまま単独が続くようなら危険を覚悟してでも割り込まないと彼女が危険だぞ? ゴリラは身体能力もそうだが、生命力とスタミナも無尽蔵だからな」


 そう言ってアイラは腰に差した剣に手をかける。

 もう既にアイラの中で行動は決まっており、後はタイミングを計っているんだろう。


「ならアイラが素早く斬り込んで、その後に俺も参戦。セシリーは後衛でチャンスがあれば魔法を叩き込んでくれ」


「了解だ」


「は、はい!」


 そうして、俺達はゴリラとの戦いに身を投じるのであった。

 



***



 

・リュウ LV32


 HP・283 MP・97

 

 膂力・・143(243) 魔力・・59(69) 耐久・・85

 精神・・52  敏捷・・105(205) 器用・・127

 幸運・・81


 攻撃力・402 防御力・226 魔防御・115


・装備


 ジルコンスピア+3

 鉄のハーフアーマー+3

 鉄のグローブ+3

 銀のグリーブ+3

 冒険者のピアス

 大口真神の外套


・スキル


パッシブ

『直感』『経験値Ⅱ』『弓Ⅰ』『槍Ⅲ』

アクティブ

『調合』『錬成』

ユニーク

『良縁』『鑑定眼』『観察眼』

『言語理解』『メニュー閲覧』


・パーティーメンバー

 1、アイリィ・ラドネイ LV33

 2、セシリー・マルティニーク LV28


・パーティーボーナス

 経験値上昇(小)

 LVUPステータス上昇補正(微)

 レアドロップ確率(微)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ