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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第三章 刀修繕編
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白と黒を使えるといえば、記憶喪失とモップになるジジイを思い出す


「さて……」


 店から出た俺たちは宿屋へと向かい、部屋を2部屋とり、俺の部屋のほうにアイラ、セシリーが集まって顔を合わせていた。

 この国に来てからの夜は初めてだが、どうやらかなり冷えるようで、アイラはもちろん、セシリーも普段とは違う厚手の外套を羽織っている。

 先ほど買った防寒着なのだろう。

 まあ、俺は粋な神様のプレゼントでいつだって適温なんだけどな。


 というか大口真神の外套に覆われていない手とか足もぜんぜん寒くないのはどういう原理なんだ?

 触れた感触はあるけど、冷たいとも熱いとも感じるけど何故か寒い暑いとは感じない。

 びっくりするほどファンタジーな現象である。


「とにかく大前提としては刀を直す旅なんだから、まずはそこら辺を攻めていくべきかね。足がかりとしての日本酒はまだ造れていないけど、そもそも造り方が秘蔵されているらしいし、調べようがないという問題はあるが」


「とはいっても行くべき場所は決まっているんだ。それにお前の目的は異世界観光だろう? 私の刀は逃げはしないのだしな、急ぐことはないと思うぞ」


 アイラがその話題の逸品と思われる鞘に入った刀を手でもてあそびながらそんなことをいう。


「そんな事いったら異世界観光だって逃げないだろうが」


「ん? ああ、どの国にも季節や時期によって移動不可能な場所があるぞ。中には文字通り人が近づくと遠ざかって逃げる島、なんていう場所もあるらしい」


「マジで!?」


 さすが異世界ぱないな!

 

「まあそれほど顕著な場所ではないが、ルペイン聖王国にも季節によって変化を見せたり、やはり立ち入りができなくなったりする場所はあるしな」


「確かこのあたりだとイエニスタの森なんかがそうですね」


 アイラの言葉にセシリーが相槌のように言葉を挟んだ。

 その両手は温かい飲み物の入ったカップをつかんでる。

 ちびちびと口をつける様子は可愛らしいというより保護欲をそそる仕草だ。

 もともとセシリーは童顔だしな。

 俺より年上なのに旅の途中お年寄りに子供と間違われて飴玉をもらった時なんかは涙目で手のひらに乗る飴玉を睨んでいたしな。

 ちなみにアイラは背はさほど高くないがキリッとした目つきとシャープな顔筋で実年齢より年上に見えるタイプである。 

 

「イエニスタの森か……そうだな、この時期ならコスセナの樹が果実をつけているか」


「コスセナの樹?」


「ああ。どういった原理かはわからんが、コスセナの樹は果実をつける時期にだけ幹が非常に硬くなるんだ。それに軽く柔軟でもある。その特性から優れた弓の材料とされているな。ただまあ、柔軟ではあるんだが言ったように非常に硬くてな、かなり膂力のある人間じゃないと引けないとも聞く」


「おぉ……弓か、懐かしいな」


 アイラに会う前には重宝していた武器だ。

 弓はターン制ではない現実の戦闘において、遠距離からの攻撃がいかに凶悪な攻撃手段かを俺に教えてくれた武器である。

 その後は坑道で、暗い場所や狭い空間では使いづらく、小さな的には当てづらいという欠点によって槍へと主力武器の交代を余儀なくされた不遇の武器だ。

 俺が槍を選んだのは、小さな的を狙えつつ広い間合いで攻撃を行えるからだしな。

 弓は俺にとって意外と思い入れのある武器なのだ。


「それにこの時期に花を咲かせるシャビの花もイエニスタの森に生息しています。薬として重宝される花ですし、なにより美しいといわれているそうですよ」


「へぇ……」


  

 武器の材料もあれば、薬の材料もあるのか。

 

「ちなみにコスセナの果実も相当な美味だぞ。ただ実をつける時期が短いのと、収穫した果実は鮮度の落ちが異様に早いらしく、ただでさえ美味しい果実なんだが本当の美味しさは収穫者にしかわからないと言われているらしい」


 少しだけウキウキしたアイラが見た目だけはすまして言葉を紡ぐ。

 その様子からきっと好物であり、王宮だか大屋敷のご令嬢であるだろう目の前の女は、美味しいもぎたての果実とやらを食べた事がないんだろう。

 まあ、べつに俺も美味しいものは嫌いじゃないわけだが。


「うーん……果実はともかく、弓の材料は欲しいかもな」


 俺はコスセスの樹、弓の材料を想いながら腕を組む。

 できれば遠距離攻撃の手段が欲しいと思っていたところなのだ。


 正直な話、ドラゴンと戦って思ったのが槍は間合いが意外と近いということだ。

 人間や小型、中型のモンスターなら良いが、正直大型、ドラゴンみたいな超大型モンスターは槍の間合いなんてあってない様なものだった。

 神々の加護シリーズをダメージ源になるアイラとセシリーに集中させると戦力ダウンでいよいよ俺は役立たずになる。

 案の定一撃入れた後は反撃を食らって行動不能。

 まさにごらんの有様だよ、といった所だった。

 あちらでいうボス戦、こちらでいうなら強敵を相手にするんだったら主力に良い装備を集中させるのは当然の策だ。

 あのときのパーティーは剣士、魔法使い、モンク……俺はあえて言うなら調合士といったところか?

 戦闘での役割は俺のスキルの特性から、パーティー間のステータス管理や敵のHPの把握が主な仕事になる。

 そんな奴に攻撃力と素早さが激増する装備を持たせても宝の持ち腐れだ。


 そもそも俺は味方や敵のHP、MPを見る事ができるんだからどう考えたって後衛職が適任だ。

 飛びぬけたステータスや戦闘系スキルがあるわけじゃないのだ。

 あの戦いでは俺は中衛だとポジション取りを決めていたが、大型モンスターであるドラゴンには中衛と前衛は変わらない距離なのを失念していた。

 体が大きければ攻撃範囲も広くなる。

 当然のことだが、痛感させられる出来事だった。


 あのときの俺の失敗は攻撃に参加した事より、武器の選択ミスだと思っている。

 手持ちの武器には弓があったし、矢は俺からすれば無尽蔵に作れるため撃ち放題だ。

 弓自体は大した事なくてもジルコン製の矢とか金の矢、銀の矢を使用すればそれなりのダメージ源にはなっただろう。

 相手が大きいため当てやすく、ミスする可能性は低い。

 敵が小さいから弓から槍へ。

 強敵相手に戦術を使い長期戦をするなら、戦力分析のため後衛から全体のステータスを把握し、隙を見て攻撃する手段として槍から弓へ。

 そうやって相手によって武器を変えるという選択があってもよかったのだ。

 そもそも俺は生産職だからな。

 色々な武器を作って使えても良いはずだ。

 例えば銃とか。

 まあ、間違いなく構造がわからないから作れないだろうが。

 火縄銃ならいけるかもしれないけど、木や岩を簡単に両断するアイラを見ていると、そんな世界で銃が活躍できるのかは疑問ではあるのだが。

 

 とまあ、長々と考えてしまったが、要は鉱石はまだあるため、それ以外の素材を使って弓または遠距離武器が欲しい……と、そういうわけである。

 それを身振り手振りで2人に伝えると、


「ふむ、確かにドラゴンほどの相手となれば前線にリュウがいるのは危なっかしいと思っていたのだ」


「……思っていたんかい」


「私たちのパーティーには回復役がいないからな。下手をすると、とは思っていた。その役割をリュウがするものだと」


「ボクは魔法使いですが、治癒魔法が使えませんし……というより雷以外は全く……」


 そう言ってしょんぼりするセシリー。

 ん? ちょっと待て?


「……魔法使いが治癒魔法を使えるのか?」


「……は?」


「あ、いや普通魔法使いって言えば攻撃魔法専門で、治癒魔法は神官みたいなヒーラーとかが担うのかと」


「お前は何を言ってるんだ?」


 俺の疑問が意外だったらしくセシリーはおろか、アイラまで目を、丸くしてこっちを向く。

 この驚き方からして、この世界では常識だったらしい。

 

「……ああ、そうか。お前は稀人だったな。魔法が存在しない世界といっていたから知るはずもない、か」


 そう言ってアイラが先を続けた。


「セシリーのように雷を起こす事に特化した専門魔法使い……とでもいうのか、そういうのはかなり珍しい。大抵の魔法使いは得意な魔法はあっても、他に数種類の魔法が苦手なりにも使えるはずだ。その中にはもちろん治癒魔法も含まれる」


「……分類すれば攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法、付与魔法等に分かれ、素養で使えない事はあっても、そのどれもが同時に覚えることが可能です。偶に魔法学校に通わず自覚をしないまま魔法を使う人がいますが、そういった人も学べば素養次第で色々な系統を扱うことができるんだそうです」


「だから魔法使いは貴重であり、パーティーで重宝されるんだ。遠距離からの魔法攻撃、ブレス等の広範囲攻撃の防御、味方の身体能力向上、そして傷ついた仲間を癒してくれる。言っただろう? 駆け出しでも高ランクのパーティーに囲われることは珍しくないと。これがその理由だな」


「……魔法使いってすげえんだな」


 俺の世界では魔法なんてモノはなかったし、空想の産物だったからなぁ。 

 基本的にゲーム、RPGだと回復魔法、攻撃魔法でわかれてて、両方使える職業は見かけなかったし。

 

「しかし素養か……」


 セシリーのユニークスキルには『雷の天凛』というスキルがある。

 それがおそらくあの非常識な威力の雷魔法を使うための条件なんだろう。

 だが、それとは別にアクティブスキルに『風Ⅰ』も存在している。

 それに関係するスキルは『巫女』か『精霊の加護』であるはずなんだが、そこで疑問が発生する。

 じゃあなんで他の魔法も使えなかったのか。

 精霊の加護が風魔法にかかってる可能性がありそうではあるが、水や防御系の魔法も使えてもよさそうな響きのスキルではある。

 真面目なセシリーが魔法学校で習う魔法を風以外全く使えなかった時点で可能性としては低そうだ。

 この世界では、まだセシリーにしか魔法使いに会ったことがないので、今度魔法使いに会ったらこっそりとスキルを覗かせてもらおう。


「まあ、この話はひとまず置いておいて、話を戻すか」


「む……そうだな」


「はい」


「俺としてはメイン、サブに使うにしても弓が欲しい。せっかく練成できるんだから、いい素材でオーダーメイドの逸品を作りたいしなぁ」


 もしかすると変な神様の加護も付くかもしれないけどな。


「それとは別にそれだけの素材だったら、今後も何かに使えるだろうしな。俺としてはそのイエニスタの森に行ってみたいんだが、どうだろう? アイラには遠回りさせてしまう事になるが」


 俺は二人の顔を見てそう口にすると、二人は顔を見合わせて苦笑し始めた。

 

「このパーティーはお前が異世界観光をしたいといって仲間を集めたメンバーなんだぞ『リーダー』。私たちに否はないさ、なあセシリー?」


「はい。ボクはお二人と旅をしたいというのが目的なので、特に場所がどうというのはありませんし」


「……そっか。じゃあ目的地はイエニスタの森って事で、詳しい場所をギルドに聞いていこう。もしかしたらイエニスタの森で並行して依頼をこなせるかもしれないしな」


 目的地が決まり、なんとなく一息つく。

 坑道ばかり行っていたからな、大自然に囲まれた森が次の目的地というのは、結構乙なものなのかもしれないな。






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