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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第三章 刀修繕編
31/37

調合の新たな可能性

 

 

「全く商売人というやつは金にがめつい者ばかりか! 人の弱みに付け込むように金金と……! それ程金が好きなら金と結婚すればいいのだ! 希少価値だのなんだのと……」


「まぁまぁ、アイラさん……過ぎたことですから」


「セシリーは腹が立たなかったのか!? 彼奴等完全に私達の足元を見ていたぞ! どいつもこいつも商売人は人の情を持ちあわせておらん! 人非人だ、彼奴等は!」


「に、人非人……まあ、商売人は利に聡く、機を見るに敏ですから」


「ふん、利に聡いか……それがいつか仇とならなければいいがな。あんな阿漕な商売などしていればいつか痛い目にあうぞ、なぁリュウ?」


「……………」


「リュウ?」


「…………………………」


「なぁリュウと言ったんだ、なぁリュウ?」


「いだだだだだだだだ!! 頭が割れる! 卵のように割れてしまうっ! 何!? 何事っ!?」


 本を読んでいたら突然目の前が暗くなり酷い頭痛に襲われた。

 軋むように頭蓋骨が悲鳴を上げる。

 目線を上げると目の前にはアイラの手のひら。

 アイアンクローか!?

 指の隙間から青筋を立てたアイラの表情が伺える。

 

「分かった! ちゃんと話を聞く! 言い分を聞こうじゃないか! なんで人は言葉をしゃべると思う!? お互いを知り、理解しあうためなんだぞ!?」


「……ふん」


 気が収まったのか、俺の顔からアイラの手が離れる。

 締め付けられるような痛みから開放されたのだ。

 

「もういい。お前も人の話を聞かない輩か。私も心ない仲間を持ったものだ」


「いってて……いや、悪かったよ。でもなあ、何回も同じことの繰り返しじゃねーか。あれからもう数日も経ってるんだからさ」


 あれから。

 露天商で法外の値段をふっかけられた俺達は他の露天商を探したものの、やはり1kg15000を下回るところは存在しなかった。

 もちろん同時に日本酒も探したものの、日本酒自体は取り扱っておらず、今後も取り扱うことはないだろうという言葉を貰うことになるだけだった。

 結局俺達は馬車を購入し、余った金でこの先の路銀を引いた差額の分の米を買い、そしてそれを詰み馬車でルペイン聖王国へと向かうことにしたのだ。

 そうして今、3人が馬車に揺られながらのんびりと道を進んでいるというわけである。

 

 だがアイラは未だにあの時のことを根に持っており、事あるごとにそれを口にしては憤慨している。

 俺としてはもう過ぎたことなので、心機一転と行きたいところなんだが、アイラはそう簡単に割り切れる性格ではなかったらしい。

 

「過ぎたことは忘れ、それよりはこれからの旅を楽しく前向きに……なぁセシリー?」


「へ? ま、まあそのほうが建設的ではあるのでは、と」


 ちらりとアイラの様子をうかがいながらも俺に賛成の意を示すセシリー。

 それを見たアイラは、フン、と唇を尖らせそっぽを向く。

 相変わらず機嫌が悪そうではあるが、それ以上は何も言うことはなく不機嫌そうに腕を組んでいる。

 

「やれやれ……あれ、どこまで読んだか忘れちまった。どこだっけか」


 再び本を手に取りページをめくる。

 アイアンクローのせいか、記憶が飛んでしまっているようだ。

 

「それって露天商で買った調合指南書、でしたっけ? なにか役立つことでも書いてあるんですか?」


 セシリーが興味をもったのか、俺の隣にちょこんと座り書物を覗きこんでいる。

 学院時代は本を読みまくったセシリー。

 その性が疼いているのかもしれない。


「ん? ああ、そうだな。役立つというより興味深い、が正解かも。これは元々薬師の専門書らしくてな、色々な調合方法が書いてある。例えば良薬草なんかは本来作るのに1週間くらいはかかるんだとさ。それに結構手順も複雑だし」


「へぇ……リュウさんはサッと作ってしまうのでもっと簡単に出来るものかと」

 

「それが盲点だったのかもな。簡単に作れてしまうからこその弊害っていうか、過程には過程で重要な部分があるってことを失念していたよ。試行錯誤して、その経験が次に活かされる……そういった何気ない、当たり前な部分にでも発展のアイデアってのは転がってるみたいでな」


「なるほど……」


「普通に作れば1週間かかる。でもスキルを使えば一瞬だ。それはつまり手順や過程を飛ばすっていうだけでなく、時間すらも短縮できるって事でな。なんて言ったらいいのか……そうだな、チーズなんかがいい例かも」

 

「?」


 俺の言っていることが理解できないのだろう。

 セシリーが首をひねっている。

 

「チーズっていうのはいわゆる発酵食品だよな。時間をかけて作る食品。それを一瞬で作れるとしたら? どういう変化を起こしてるのか。発酵時間は? 酵素、乳酸菌の働きはどうなっているのか? それを調合に当てはめて考えるとな、結構面白いんだよ」


 調合スキルの利点は過程を飛ばして結果を引き寄せる所にある。

 錬成もそうだった。

 イメージで完成形を描き、それになぞるように型にはめていく。

 鉄が腕輪になったり剣になったりその形を変えるのはやはりイメージである。

 ならそれを調合で行ったなら?

 薬草と薬草で良薬草。

 でも薬草は薬草であって薬草以外の何物でもない。

 じゃあ、薬草をちぎって二つにしてそれを調合したらどうなるのか。

 結果は良薬草ができなければおかしい。

 それが出来ないなら何故なのか、同じ物質でも個体差によって変化があるため、それに反応してのことなのか。

 この調合指南書を読んでるとそういった疑問が湧いてくるのである。

 

「まだ試したわけじゃないからな、もし俺が考えてるような事が出来るのなら」


 ニヤリ、と俺は笑う。

 

「日本酒、作れるかもしれないぞ?」


「なに!?」


 俺の言葉に反応したのはセシリーではなく、アイラだった。

 聞き耳を立ててたのかい。

 一瞬で俺の前まで移動すると俺が読んでいた本を取り上げた。

 

「ああ!? 俺の調合書が!?」


「作れるのか!? 日本酒!」


 俺の顔を覗きこむようにして詰め寄るアイラ。

 だから近い!

 コイツは酒の事になると何故こうなるのか?

 酒が好きなのは分かるが……。


「い、いや、もしかしたら……だよ。日本酒は材料が俺にもよくわからないし、調合がそこまで融通の聞くスキルだったらっていう前提の話だから………」


「むう……」


 そういうとスゴスゴと俺の前から離れていく。

 なんなんだ一体。

 馬車の中で暇なのかよ、全く。

 

 隣を見るとセシリーがころころと笑っていた。

 何がそんなにおかしいんだか。

 俺は一つため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 馬を木に繋ぎ、俺達はテントを張って野営の最中である。

 食事を終えて各自のテントへと向かいそろそろ皆寝静まる、そんな時間だ。

 俺は馬車の中で読んだ調合書の内容を思い出しながら、その本を片手にいつもの作業机の前で胡座をかいて置いてあるものを見据える。

 薬草だ。

 まず、この薬草を良薬草に調合することから始めようと思っていた。

 

 調合スキルは二つ以上のものから一つのものを作るスキルだ。

 その過程は問われない。

 ただ材料があれば作ることが可能だった。

 今までなら、だ。

 

 俺は薬草を二つにちぎると、それを作業台の上におく。

 考えが正しければ良薬草が出来る。

 深く深呼吸した。

 緊張しているのか心臓がバクバクとうるさい。

 久しぶりだよな、こういうの。

 物を作るというか実験の要素が強い。

 何かを考えて試す。

 ゲームをやっている時もこういった何かを試すっていうのはワクワクしたものだ。

 だから俺はやりこみゲーマーだと自称していたわけで。

 

「よし、やるか―――『調合』」


 二つにちぎれた薬草が薄く光を放ちだす。

 やはりこの状態でも調合は可能なのだ。

 

 後はイメージだ。

 錬成の時のように完成品を頭に浮かべる。

 過程を、本に書いてあった手順をなぞる。

 そして光が収まっていき、

 

「やった……!」


 そこにはいつもより小ぶりではあるが良薬草が確かにそこにあった。

 やっぱり可能だったようだ。

 

 二つのものという、どうにも曖昧な言葉で説明されていたが、よくよく考えれば同じものを掛けあわせて物ができるという時点でおかしいと気づくべきだったのかもしれない。

 例えば水は一つという括りで纏められるモノなのか。

 容器を2つ用意して一つの容器の水を分ければ、それは2つの水なわけだ。

 今やったように薬草を二つに千切れば、やはりそれは2つの薬草なのである。

 頓智の効いたクイズみたいなものだ。

 

「なるほどなぁ。って事は……」


 今度は側においてあった牛乳の入ったビンを取り出す。

 ルルードの街で購入したものだ。

 それを2つの容器に分ける。

 これで牛乳が2つ目の前にあるわけだ。

 

 さてここからが本番である。

 これを調合し昼にセシリーに言った様にチーズを造ろうと考えているのだが、果たしてうまくいくのかどうか。

 そもそも調合は薬をイメージさせる言葉で、こういう調理のような事に調合という言葉は使わない。

 だが、それが盲点だとしたら?

 材料さえあって、それによって造られるモノが結果のあるモノである場合、どうなるのか。

 錬成は過程と結果を上手くイメージしなければならなかった。

 だが、調合は過程を飛ばして結果を作ることが出来る。

 ならチーズをしっかりとイメージして調合すれば……。

 

 コレが上手く行けば俺の調合の革命である。

 米があるば日本酒が出来るということなのだ。

 それに限らず、様々な物を調合によって作り出すことが可能になるだろう。

 ヘタすれば料理もレンジでチンならぬ、調合でポンと出来る。

 まったく夢が広がるな。

 

「よし、やるか」


 先ほどと同じように深呼吸をする。

 そして、

 

「……『調合』」

 

 2つの容器の牛乳が光を放ち始める。

 コレは調合が可能である材料だという証でもある。

 チーズだ。

 牛乳を凝縮するイメージだ。

 

 そうやっていつもより長く丁寧に。

 結構神経のいる作業だ。

 何かの拍子に爆発してもおかしくない。

 というよりいつもの調子で調合していたら爆発していただろう。

 やはりイメージは大事なんだな。

 そして、

 

「………おおおっ!!」


 一つの容器は空。

 そしてもうひとつの容器には、

 

「為せば成る、だな」


 確かにチーズがそこに存在した。

 

 

 

次の更新はもう少し遅くなります、ごめんなさいm(__)m

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