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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第三章 刀修繕編
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日本の米はブランド品

 

 

 ルルードの街は日毎に待ちゆく人々の顔ぶれが変わる。

 それは貿易都市であることが一番の理由であるが、それだけではない。

 隣国ルペイン聖王国との国境であること、そして鍛冶屋が多いため冒険者の数が多く、そして依頼をこなした後の不要なドロップアイテムを売買し、それを目当てにまた他の商人や冒険者が集まってくるためだ。

 故に日毎に扱う商品が変わるなんて言うのは当たり前であり、昨日なかったモノがあったり、その逆もまた多い。

 露天商なんかはその典型といえるだろう。

 

「おお、やっぱ結構色々あるもんだな……」


 俺はずらりと並ぶ商品を見回しながら感嘆の声を上げる。

 古くなった剣やら鎧、それに腕輪等のアクセサリ。

 恐らく武具屋で新しい装備を調達し、不要になったものを売ったのだろう。

 大抵はボロボロだったが、まだ使えそうな武具もチラホラと存在する。

 

「昨日は聞き込みをしていたから気づかなかったけど、こうして落ち着いて見てみると面白いもんだな」


 鑑定眼を使いながら色々なものに目を移していく。

 その多くはやはり粗悪品だったが、たまに掘り出し物もある。

 

「アイラ、コレなんか面白いぞ? 反りはないけど結構な業物だ」


 俺は目についたソレを指さしてアイラに問う。

 アイラはふむ、とソレを見やる。

 

「ほぉ…確かに見事な刀身だな。材質は鉄、か?」


 基本的に刀剣は鞘に抜かれた状態で陳列されている。

 恐らく鞘に収まっているより、刀身を見たいという声があるためだろう。


「みたいだな。+の値は低いけど、対獣なんて効果がついてる。どうやって造ったんだろうな?」


 俺が錬成した武器にそういった効果が付属したことはない。

 獣ばかり倒したりしたのか、それとも剣を作る段階での工夫や、材料の比率なんかが関係してるのかもしれない。

 なかなか意欲を湧かせる一品だ。

 

「ツヴァイハンダーか。斬るというよりは叩き潰し断つといった使い方の武器だ。まあ、私には使いこなせそうもないな」


「やっぱ反りは重要か?」


「ああ、それに重量武器だからな。私のスタイルとは合わない」


「なるほどな」


 アイラは素早い身のこなしと、剣閃の速さが売りの剣士だ。

 一撃の重さより鋭さで相手にダメージを与えていく。

 スタイルに合わないというのもうなずける話だ。

 

「うーん、アイラは使わないとしても、どうしよう……結構欲しいかもしれない…」


 錬成の材料とするのもいいし、対獣という効果を検証もしてみたい。


「やめておけ。米に馬車、これからの路銀だって必要なんだぞ? それに見ろ値段を」


「値段? おわ! 鉄が主原料でこんなにするものか!?」


「対獣の効果かは知らないが、目利きの利く商人なんだろう。見たところ摩耗もあまりしていないようだしな」


「じゃあ以前造った鉄のシャムシール+3は結構高値で売れたりとか……?」


「さて、な」


 ワイワイとそんなことを話してるとセシリーが困った顔で、

 

「リュウさん、ボク達は剣を見に来たわけでは……」


「ん? ああ、そうだったな。米を見に来たんだったか」


 しかし、これだけ商品があると目移りしてしまう。

 さすがは貿易都市都市といったところか。

 

「だが、これだけ露天商が多いとなぁ」


 商店街とは違い、並ぶのは各地から巡ってきた品物ばかり。

 珍しいものがこうもあると興味が出てきてしまうのもしかないだろう。

 しかしまあ、セシリーの言うとおりまずは米を探さければならない。

 日本酒が作れるかは分からないが、というより恐らく造れないだろうが、米を見てみることはマイナスにはならないだろう。

 

「米は東夷からの輸入品ですから、そういった雰囲気の露天商、もしくは食品を取り扱ってる所を探すのが早いかと」


 そういいながらもセシリーはキョロキョロと露天商を見回している。

 東夷の露天商か。

 セシリーに事前に聞いた話では、東夷の人は俺と同じように黒髪が多いのだとか。

 東夷という国名、黒髪と来れば日本人みたいな顔立ちをしているのかもしれんな。

 

 ちなみにこの世界にきてからの俺の容姿は普通に日本人的な顔だ。

 キャラメイクしたはずなのに、何故か顔はさほど変わらなかったらしい。

 不細工とは言われなくてもイケメンでもない。

 もしキャラメイクした通りの顔だったら相当なイケメンのはずだったのになぁ。

 現実はレベルアップやらで身体や顔つきが多少引き締まって、まぁ普通? くらいである。

 

 スキルにイケメンみたいなモノが出るのを粘るべきだったか。

 まあ、こんなことになるなんてあの時には夢にも思わなかったし、今のスキルに別段不満もないがね。

 

 俺がそんなことを考えながら、米を扱ってそうな露天商を探しふらふらと歩いていると、

 

「ん?」


 露天商のうち、妙なモノを扱っている店を見つける。

 気になって、ふと足を運び並んでる品を見る。

 

「書物……? 珍しいな」


 本は国が管理してると聞いていたんだが。

 こうした露天商なら売っていても不思議ではない、のか?

 

「お? アンちゃん、なにか買ってくかい?」


「あ、いや……書物を扱っている店ってのは初めてなんでね、少し興味を惹かれて」


「なるほど。まあ最近は取り締まりが厳しいからな、おおっぴらにゃ売れないかもな」


「露天商ならではって事か……なるほどね」


 並んでいる書物を見ると、伝記物や創作物が多かったが、それ以外の本も混じっている。

 その殆どが旅に関係しそうもない物だったが、ある一冊だけが俺の目に止まった。

 

「……調合指南書? なあ、この本を少し見させてもらっていいか?」


「ん? ああ、構わねえよ。気に入ったら買ってくれや」


 店主に断りを入れその本を手に取る。

 調合指南書か。

 スキルの概念がないこの世界でも、調合は存在するんだな。

 

 考えてみれば薬や何かを作るのも調合といえば調合だしな。

 材料を混ぜ合わせ効能を上げたり、手を加えてその材料の持つ性質に変化を出したりする技術っていうのはあって当然なのかもしれない。

 

 パラパラとページを捲り内容に目を通していく。

 その中には俺の知らない、色々な組み合わせや、その手順などが明記されていた。

 

「良薬草……へぇ、普通はこうやって作るんだな」


 調合指南書には良薬草の事も書かれていた。

 ただ、薬草と薬草を組み合わせるというわけではなく、スキルで一発で作っていた俺にはわからない細部の手順、注意事項も書いてある。

 

 なるほど。

 普通に作ろうと思えばこうやって作らなきゃならないってことか。

 俺のスキルは色々な手順を省いて結果だけを引き寄せることが出来てたんだな。

 その手順の中には、何日かの熟成や、数時間の乾燥のような時間のかかるものまで含まれている。

 相当楽してたのか、俺。

 あらためてスキルの便利さを思い知る。

 

 しかしあれだな。

 こうして見ると俺のやってきた調合ってのは普通の手順で行われる調合で出来上がる物との差異はないんだな。

 覚醒丸や解毒丸もこの書には書かれている。

 材料は俺の調合レシピそのままだ。

 つまりそれって……存在するものは作れるが、存在しないものは作れないってことか?

 何日かかかる手間も俺のスキルなら飛ばすことが出来る。

 重要なのは材料であって手順ではない。

 逆を言えば材料さえあれば存在するものはスキルで作ることが出来る……ってことになる、のか?

 

「ふーむ……」

 

「どうだい、あんちゃん? それ以上は買ってもらってから見て欲しいんだがね」


「え、ああ。そうだな」


 手に持った書物に目を落とす。

 調合指南書の値段は流石に安くはないが、手の届かないほど高いというわけではない。

 俺の知らない調合レシピものっているし、この先役に立たないことはないだろう。

 幸いパーティ共有の資金以外の俺個人の持ち金で足りる額だ。

 本当なら違う使い方をするはずだったんだが、これも『良縁』とでも思っておくか。

 

「んじゃ、これ買うよ」


「おう、まいどあり!」


 少しばかり財布に痛い出来事だったが、先行投資と考えれば高くはない……と、やせ我慢。

 ポリポリと頬をかき辺りを見ると、アイラとセシリーは随分と先の方まで行ってしまっているようだ。

 ある店の前で立ち止まっているのが見える。

 俺は本を懐に入れ、二人に後を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「な、これだけの量でこれほど高いのか!」


 慌てて二人に合流するとアイラが声を荒らげ、店主と口論をしているところだった。

 何かあったのか?


「おいおい姉ちゃん、東夷ってのはコルウェーのさらに東だぜ? こちとら長い旅をしてきた手間賃ってのも含まれてんだ。これでも安いと思うがね」


「しかし、それでもこの額は異常すぎる!」


 口論するアイラを横目に困った顔をしているセシリーに話しかけた。

 

「……どうした?」


「あ、リュウさん……何処に行ってたんですか? 心配したんですよ?」


 少し頬をふくらませ、そういうセシリー。

 本人は怒っているつもりなのだろうが、何となく微笑ましく見えてしまうのはセシリーの年齢に合ってない容姿のためかもしれない。

 両手を上げ、まあまあと宥める。

 

「悪かった。少し気になるものを見かけたもんでな……で、何やってるんだアイツ?」


 なおも憤慨して問い詰めるアイラを指さしてセシリーに聞く。

 セシリーはその言葉に少し眉をひそめ、声を落として、

 

「実は米は見つかったんですが、その値段が……その、少しばかり想定を超える値段でして……」


「へぇ、見つかったのか。でも想定を超える? まあ、輸入品だしな」


 関税やら輸送費がかかっているんだろう。

 いや、関税があるかどうかはしらんけど。

 

「で、どんだけふっかけられたんだ?」


「実は……」


 ゴニョゴニョと俺の耳元でその値段を告げるセシリー。

 その値段は俺が考えてる値段と文字通り桁が違った。

 

「はぁ!? 1kgで15000ベール!? ボッタクリじゃねえか!」


 坑道で見つけた金鉱石を精錬した金塊1kgが18000ベールだった。

 精錬してこの値段である。

 米はグラム換算でほぼ金と同価値ということになる。

 

 この世界では1食辺り約50ベールだ。

 宿屋などは冒険者の数が多く、食事もなく部屋を貸してくれるだけなので50ベールと安くすむ。

 だが実際はそこに+αがあるからこそだ。

 ほとんどの宿屋は食堂や酒場を兼ねていることが多い。

 そういった副収入あってこその宿屋なのである。

 

 まあ、余談になってしまったが、15000ベールというのがいかに法外な値段かはそこからもうかがい知れるだろう。

 そりゃ、アイラも怒るはずだ。

 

「ボッタクリとはお言葉だ。俺は商売人だぜ? 東夷からの運送費や手間賃、仕入れ値と希少価値を考えりゃこれくらいにもならぁ。安全な旅での商売ってわけじゃねぇんだ。こっちだって命かけてるんだよ」


「ぐ……そう言われると……」

 

 確かにこの世界は魔物が存在するため、荷物を持っての旅は楽なものではない。

 この人が言ったように命がけでもあるんだろう。

 いや、でもそれを踏まえても……。

 

「どうすんだ? 俺は別にアンタたちに売らなくても他の街で、それこそ貴族相手に売ってもいいんだ。幾らでも商売相手はいる。………どうする?」


「…………」


 俺達は項垂れるようにため息を吐いた。

 ……所詮この世は弱みがある方が負けということなのだろう。


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