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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第三章 刀修繕編
29/37

日本人なら米を食え

 

 

「ルペイン聖王国か……」


「フランツ帝国の隣国ですね。幸いこのルルードの街はルペイン聖王国側の国境付近ですから、さほど距離はありません。ただコンセラードとなると…」


「ふむ、大陸内地に近い場所だからな。それにルペイン聖王国は広い。かなりの距離を旅することになるだろう」


 ガンツさんからの情報を纏めながら、俺達はルルードのある酒場でこれからの旅についての相談を食事を兼ねてしていた。

 大陸全てに関しての地図は未だ作られてはいないが、人が行き来できる程度の場所の大陸地図は存在しており、それをテーブルに広げながら3人で頭を悩ませている。

 初めて見るこの世界の大陸地図。

 さほど詳細なモノではないが、大体の地形は書かれており、商人たちが通るであろう街道などが記されていた。

 

「コンセラードは此処、今私達がいるルルードは此処……海が使えればよかったのだがな」


 アイラが指でそれぞれの位置をなぞるように地図の上で滑らす。

 ルルードはフランツ帝国の西の国境付近、コンセラードはルペイン聖王国の西南側に存在する。

 海はそれぞれ北方に位置しており、船を使って経由すると逆に遠回りになってしまうだろう。

 

「結構遠いんだな。歩いて行くのもしんどそうだ、馬車でも調達するか?」


「それがいいと思います。幸いドラゴン討伐の報酬がありますから、これからの事を考えれば馬車を購入してもいいかもしれませんね」

 

 セシリーが俺の意見に頷く。

 行く街々での移動手段の確保は、タクシーや電車と違ってかなり面倒な手続きと時間が必要になる。

 それに何もコンセラードに行って旅が終わるわけでもない。

 移動手段と荷物の持ち運びを考えるとここでの先行投資もありだろう。

 

「コンセラード……ドワーフか。鍛冶と酒好きってのは世界が変わっても変わらないんだな」


 いやまあ、元いた世界では空想の種族だったが。

 

「極上の酒が必要とも言っていたな。極上と言っても何を用意すればいいものか」


 アイラが片手に持つジョッキを見ながら呟く。

 コイツは酒なら大抵何でもガブガブいくからな。

 値段だとか味だとかで選ばず、量で満足するタイプだ。

 しかも実に美味そうに飲むもんだから、ついつい俺も付き合って飲み過ぎてしまうことが多い。

 そして次の日に二日酔いで死にたくなるのである。

 

 しかし意外だったのがセシリーがうわばみだったことだ。

 アイラに負けず劣らずのピッチでグイグイいく様はなかなかに圧巻で、しかもどれだけ飲もうと顔にです、さらに次の日に残らない。

 相当頑丈な肝臓を持っているんだろう。

 羨ましい限りだ。

 

「極上ってくらいだから……まあ味もそうだけど希少価値も高いほうがいいんじゃないか?」


 ロマネコンティみたいな車が買えるようなワインとか。


「ふむ、高く希少価値がある酒となると、ルイーダの香草を使った火酒やプラチナホップで造られたエールなどがあるが…」


「それに東夷で造られるという日本酒なんていうのもありますね。一度飲んでみたいです」


「―――ぶはぁッ!」


 思わぬ言葉に飲んでいいたエールを吹き出してしまった。

 

「きゃあッ?!」

 

「うわぁ! な、何をするリュウ! ……ああ、私の串鳥が……っ」

 

「ごほ…ごほっ……す、すまん。思わぬ言葉を聞いたもんだから……ごほっ!」

 

 二人の抗議の視線が痛い。

 しかしまた日本かよ!

 よくもまあ、これだけ異世界に影響を与えたもんだ。

 このセリフ今まで何回言ったっけ。

 

「ゴホン……あ~、で、日本酒って存在するのか? っていうよりそんなに希少価値があるものなのか?」


「ん? ああ、そういえばリュウは日本出身と言っていたな」


「なるほど……そうですね。日本酒は過去の稀人が造った酒と言われていて、その製法は東夷の王朝により秘匿され、神聖な神酒とされており、生産量も少なく他国に流通されるのは非常に稀です。その価値は他国への交渉材料にもされるほどで、まず一般市民が目にすることはないでしょうね」


 神酒ときたか。

 俺のいた世界じゃ200円で買えたんだがなぁ。

 カルチャーショックってやつだな。

 

「しかし日本酒か……飲めないとなると懐かしさを感じるな」


 あまり強い酒が好きではない俺は好んで飲まなかったが、こうして異世界で神酒などと言われていると飲みたくなってくる。

 不思議なものだ。

 

「なに!? リュウは日本酒を飲んだことがあるのか!?」


「ぐえっ!」


 襟元を引っ掴まれる。

 微妙に酒の匂いをさせ、目の据わったアイラが俺を睨んでいる。

 

「い、いや…日本じゃ珍しくもなかったからぁぁぁぁあああ!?」


「どんな味だ! 一体どんな味わいだったのだ!!」


 俺の頭が襟を支点にシェイクされ始める。

 やめて! それ以上揺すると出る!

 異世界のマーライオンになっちゃう!

 

「ちょ、アイラさん! それ以上は!」


「む……あ、ああ。すまん、少し興奮したな」


「……おえっ…ぷ……」


 喉元まで来た酸っぱいモノを何とか堪えた。

 俺の出番っスよね! ヒャッハー! と言わんばかりに上の口から出ようと主張するヤンチャなヤツを必死になだめる。

 落ち着け、明日になったらちゃんと別の口から出してやるから!

 そんな俺の熾烈な戦いを知らないアイラは、一つ呼吸挟んで、

 

「で、どうなんだ?」


「………あ~、やばかった。ふぅ、日本酒だっけ? 俺は一応日本人だからな、そりゃ飲んだことはあるさ。というより日本人なら飲んだことない奴は20歳未満くらいだろ。まあ、それ以前に飲む奴もいるだろうが」


「20歳? 何故だ?」


「俺の国では20にならないと酒を飲んじゃいけないって法律があるんだよ。購入できないしな」


 そういうとアイラが顎に手を当てふむ、と首を傾げる。

 横にいるセシリーも同じような表情だ。

 

「法律で20にならないと成人とはみなされないんだ。んで、それまではどんなに悪いコトやっても罪が軽くなるんだ。責任能力がないってな……あれ、18だったっけ?」


「20………ということは私は酒も飲めずに、何をしても罪に問われないということか?」


「ボクは23ですから、大丈夫ですね」


「「なにぃ!?」」


「へっ?」

 

 セシリーの思わぬ言葉に俺とアイラは目をむいてしまう。

 23!?

 中学生でも通りそうな外見なのに、俺より年上だとは。

 そりゃ創作でエルフは長生きするとは知っていたはいたが。


 そんな俺達の反応を見て、セシリーは不思議そうにしていたが、次第に気づいたのか、

 

「エルフはある程度まで育ったら見た目がほとんど変化しなくなるんです。ハーフであるボクも数年前から成長が止まってしまって……もう少し身長が欲しかったんですが」


 しょんぼりとそう語るセシリー。

 なんということだ。

 それが事実ならエルフの村に行けば、ある趣向の人たちにとってのエデンが存在するというのか。

 いや、俺は胸の大きいお姉さん系が好きだから、俺にとってのエデンとはならないが。

 

「まあ、うん…セシリーはな……そのままで、な?」


「いいんです……どうせボクは子供っぽいので」


 拗ねたように俯く。

 そういう仕草が似合ってしまう辺り、察するべきだろう。

 

「うん、いや……その、なんだ……そうだ! リュウ、日本酒の話だ! それで!?」

 

 無理やり話をかえようとアイラが俺に矛先を変える。

 ええ~…?

 それでって言われてもな。

 

「ん~……一応、米と麹で造るってのは知ってるんだがなぁ。造れって言われてもたぶん無理だぞ?」


「米? あの米か?」


「あの米、と言われてもな。見てみないことにはわからんが…っていうかあるんだな、米」


 テーブルの上には俺が吹き出した酒で少し濡れたパン。

 今までの食事では米は出てこなかった。

 でもこうしてアイラの言葉と、稀人の日本人の多さから言って、恐らくは存在するのだろう。

 日本人のソウルフードだからな、米は。

 

「貿易の盛んなルルードになら米は流通してるかと。ただ、米というのは東夷の特産品ですからね。他国での生産は難しいですから。少し値段が高くなるとは思いますが」

 

「生産が難しい?」


「はい、ヴァステン大陸には様々な国がありますが、気候風土によってその国々はそれぞれ特色を持ちます。国を挟むだけで急激に土地柄が変わってしまうんです。それによって国境線が引かれているわけですが、例えば東の隣国ドーツ王国のさらに東、コルウェー国になると気温が劇的に下がります。そうなるとある作物は育ち、ある作物が育たなくなったりと国としての変化が出るわけです」


「ほぉ……」


「なぜそんな気候や風土に変化が出るのか、というのはまだ解明されていませんが、それが逆に国としての特産品に価値を持たせる部分もあるわけです。そうしてお互いに無いもの有るものを取引して上手く国同士が共存しています」


 なるほどなぁ。

 半分くらいしか理解できなかったが、気候の変化が国々で激しく変化するのか。

 地球はぁ~まぁ~るいのだぁ~から、自転や公転とか緯度、経度、地軸の傾きで気候が変化するわけだが、それがもっと複雑になっているってことか?

 いや、ファンタジー世界にそんな科学の理屈は通用しないか。

 海の王様になりたい漫画でも島によって全然気候が違うしな。

 

「だから東夷からの輸入による米以外は、出来損ないが多く売れないんです。適した土地で作ったわけではないから当たり前ではありますが。そうなると値段も自然と上がりますから」


 そう言って喉が渇いたのか、エールをぐいっと煽るセシリー。

 ……結構強い酒なんだけどな。

 

 まあ、米は流通はしていても、値段は高いと。

 今回もセシペディアはさすがだな。

 愚民政策下でもなんともないぜ。

 

「まあ、見てみるだけで買うかは分からないしな。とりあえず明日辺り露天商でも見に行くか。馬車も用意しなきゃいかんしな」


 米か。

 おにぎりを作れるくらいは買ってもいいかもしれん。

 そう思いながら、俺もエールを一口含んだ。

 

 

 

あらすじの追記の通り、この度、ホビージャパン様より書籍化されることになりました。

後、新章のプロット見直し修正のため更新が少し遅れると思います。

ごめんなさい。

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