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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第二章 パーティ結束編
25/37

優しさは盾になり、強さは剣になる

「うっし……それじゃ準備はいいか?」

 

 俺は皆に最終確認するように問いかける。

 アマヴァンス大坑道の最奥。

 一際大きく削られ広くなった岩盤のその奥に、俺様気分で寝っ転がってる巨体のドラゴンの姿。

 この畜生風情にリベンジを果たすために俺達は今、此処に立っている。

 

「……(こくん」


「……はい」


「いつでもいいニャー」


 此方の人数は四人。

 それぞれが覚悟を決めたように頷き返してくる。

 若干一名緊張感の感じられない奴もいるようだが、それはまあ置いておくとしよう。

 

「昨日話し合ったように、まずは先制攻撃でペースを此方へ持っていこう」


 とにかくまずやることは相手の隙を突いた先制攻撃による奇襲。

 お目覚めの一撃とばかりのセシリーによる魔法を皮切りに、各自が持てる最高の攻撃を初っ端に叩きこむ。

 そこからは状況に応じて、最善と思われる行動を取る。

 結局微に入り細を穿つような作戦を立てても、あのドラゴンが暴れ始めたら戦況はシッチャカメッチャカになるのだ。

 なら細かい作戦など逆にそれに気を取られるだけだ。

 

「よし……セシリー、頼んだ」


「………分かりました」


 俺の言葉に呼応して、セシリーが精神を集中し始める。

 手に持つ杖の先端が薄く光り始め、次第にその光は帯電したように熱を帯びバチバチと辺りを照らす。

 まるでスタンガンを何倍にもしたようなソレを、未だ俺達の存在に気づかないケイブドラゴンへと向けた。

 

「行きます! 疾れ雷、一迅の鏃―――『スパークアロー』ッ!!」

 

 瞬間、甲高い炸裂音とともに放たれる雷光の矢。

 狙いは寸分違わず、ドラゴンへとその矢は吸い込まれていった。

 

「ギャアアウウウゥゥゥアアアアッ!!!!!」

 

 突然の衝撃に全身を硬直させながら叫び声をを上げるドラゴン。

 よし!

 やはりセシリーの魔法は相手が67レベルのドラゴンだろうと通用する!

 俺はドラゴンの頭の上に表示されるHP残量が300以上減っているのを確認した後、

 

「行くぞ、突っ込めぇぇ!!」


「ニャー!」


「先日の借りを返させてもらう! ――――流派・『剣刃踏破』」


 俺の合図とともに一斉に飛び出す二人。

 神の加護の装備で固めているアイラが、一足飛びに凄まじいスピードで悶えるドラゴンの元へと誰よりも先にたどり着いていた。

 鞘にいまだ収まっている剣。

 だが、それはアイラにとって必殺の一撃に繋げる伏線にすぎない。

 

「その刃―――避けるすべ無し! 初伝『踏破閃光刃』!!」


 鞘から引きぬかれたその刃は、目視することする出来ないほどの速度で、まるで一筋の閃光が描かれたような軌跡を描きドラゴンの下腹部へと吸い込まれていく。

 

「ギィヤゥゥゥゥゥ!?」

 

 ドラゴンはその一撃に堪らず蹲る。

 だがそれで終わりではない。

 そのアイラの一撃の直後、続けざまにナールの追撃が迫る。

 バネのようにしなやかに疾走し、勢いそのままアイラの一撃で下がったドラゴンの横っ面に、

 

「ウニャー!!」


 捻りを加えた回転蹴りを浴びせる。

 ゴッ、という鈍い音と共にドラゴンがその体制を崩し、倒れ伏す。

 相変わらず、すげえ威力の蹴りだな……。

 獣人ってのは誰もがあんな身体能力を持っているのかねぇ。

 って、感心している場合じゃないな。

 俺もやることやらねえとな!

 突然の3連撃による困惑で身動きの取れないドラゴンに俺は自慢の相棒で追撃をかける。

 

「おらあ! 必殺、ドラゴンアイクラッシュ!!」


 まあ、唯の槍による突きの目潰しなんだけどな。

 立っているドラゴンなら届かないが、地面に横たわっているドラゴンになら俺でも顔――眼球に槍の一撃を加える事くらいは出来る。

 幸い狙いはそれず、ドラゴンの片目を潰すことに成功した。

 ここまでは順調。

 頭上に表示されるHPも半分を切りはじめた。

 

「効いてるぞ! セシリーもう一発だ!」


 俺のその言葉に頷くようにセシリーがもう一度精神の集中を始める。

 これでもう一発セシリーの魔法が決まれば、またその隙を突いてラッシュをかけられる。

 行けるか!?

 そう思った次の瞬間、

 

「ビギャアアゥゥッゥ!!」


「なっ!?」

 

 ドラゴンが倒れながらもその体を回転させ始める。

 安全マージンを取るように一撃を与えた後間合いをとっていた俺だが、ドラゴンは何も攻撃手段は牙やツメだけではない。

 尾がまだ残っていたのだ。

 

「しまっ―――グボォッ!!」


 意表を突かれた俺はモロにその一撃を食らってしまう。

 意識が持っていかれるようなその衝撃。

 弾き飛ばされ数メートルは飛ばされ岩盤に身体を叩きつけられた。

 

「!? リュウ!」


「リュウさん!!」


 軋むように身体が動かない。

 こりゃ骨が何本か逝ったかねぇ。

 おまけに意識が朦朧とする。

 ………くそ、油断した。

 そりゃさんざん爬虫類だの言ってたんだ。

 尻尾ぐらいあって当然だ。

 そもそも俺の役割はサポートでヘイト管理するアイラとナールの回復役だったはず。

 欲張っちまったツケかなコイツは。

 

「……ぐ……ぐぅ……」


 俺はかろうじて動く腕で腰袋の中にある良薬草を取り出す。

 コレを飲めば一応は動けるくらいまで回復できるはずだ。

 効き目はアイラに食らったリバーブローで証明済みである。

 6番と7番の尊い犠牲は無駄じゃなかったのかもしれん。

 だが、ドラゴンは本能で悟っているのか、それをさせまいと俺に向かって突進を仕掛けてくる。

 セシリーは魔法を中断してしまい、アイラは突然のことに気を取られ足を止めてしまっていた。

 何をしようにも間に合う間合いではない。

 

「マジ、か……」


 HPを半分削ったとはいえ、まだまだその力は健在のようで。

 これをくらったらさすがに死ねるなぁ。

 急ぎ薬草を口にしようとしても間に合わない。

 そしてドラゴンはその口を大きく開け、俺を噛み砕かんと―――

 

「ニャー!!!」


――――ドゴンッ!!


 いつの間にか目の前にいたナールがドラゴンのアゴを蹴りでかちあげる。

 死の宣告のようなその牙は俺の頭の上にわずかに逸れた。

 そして俺を抱えて、ドラゴンから間合いを離す。

 助かったのか……?

 俺がぼんやりとした意識でそれを眺めていると、

 

「早くそれを飲むニャ!」


 間合いを離したナールは俺を地面に放るとそう俺に怒鳴る。

 だが俺は腕が微かにしか動かず、そう急かされても身体が言うことを聞かない。


「ああ、もういいから飲むニャ! フンっ!」


「うごぉ……っ!!」


 ナールは俺の手から良薬草をひったくり、無理やり口の中へ捩じ込み始めた。

 モサモサするいつもの感触。

 爆発のたびにお世話になる、あの感触だ。

 っていうか喉に詰まる!

 窒息する!

 物を喉につまらせて死ぬって、俺は正月に餅食う老人かっ!

 そんな死に方は御免被りたいので、俺は根性でそれを噛み締め一気に飲み下す。

 喉が「パねえっす! コレ以上はマジ無理っす!」と悲鳴を上げていた。

 明らかに食道の広さ以上の内容物が胃に落ちていくのがわかる。

 

「ゲホッ……ゴホッ……死ぬ、ドラゴンに殺される前に死んでしまう……っ!」


「ウニャー、それだけ喋れるなら平気だニャ」


「お前な……いや、まあ助かったけどもう少し優しくだな……」


「ニャハハ! それも生きていればこそニャ」


 そう言ってナールは再びドラゴンへと駆け出す。

 俺が瀕死になってナールが抜けた穴は、アイラが必死の攻防でやり過ごしていた。

 ところどころに傷を負い、顔にはまるで余裕が無い。

 加護装備でブーストしていても、一人でドラゴンを相手にできるほどレベル差を埋めるまでには至っていないのだ。

 だがこれでナールが前線に復帰できる。

 後はセシリーだが。

 俺は後ろにいるセシリーの方を見ると、やはりというべきか恐慌を起こしていた。

 魔法のことなどもはや頭から飛んでしまっているのだろう。

 

「―――セシリー! 俺は死んでねえぞ! いや、死にかけたけどなんとか無事だ! 魔法に集中しろ!! 後先を考えなくてもいい、『アレ』を使え!!」


「………!」


 まだ痛む身体にムチを入れ叫ぶ。

 俺の言葉で状況が見えてきたのか、セシリーが魔法の集中に入る。

 ドラゴンの今までのHPの減り方から言って、後1~2発魔法を食らわせれば倒せる。

 だが、そんな悠長にしている時間はないだろう。

 前線の二人、ナールはともかくアイラの疲労はピークに近い。

 セシリーの精神状態も不安だ。

 故に一撃で決めなければならない場面だろう。

 

 俺は体を引きずってセシリーの側へと向かう。

 魔法はイメージが大事だという。

 特にアレは相当集中しなければならない。

 その集中を乱させないようにするのが、満身創痍な俺の今の役目だろう。

 前線の二人のサポートもしたいが、この体じゃ逆に足手まといになっちまうからな。

 

 剣戟の甲高い音が響き渡る。

 アイラとナールもドラゴンの必死の抵抗をいなしダメージを与えているがジリ貧だ。

 一瞬のようで永遠にも感じる長い時間。

 そしてセシリーの杖が雷光を帯び、魔法が完成した。

 後はぶっ放して、終了―――

 

「? グルゥゥゥゥゥ!!」


 ドラゴンの視線がセシリーへと向かう。

 魔力の奔流を感じ取ったのか、ギラリとした殺意の視線をセシリーに向け始める。

 最初食らわされたあの魔法を放ったのがセシリーであると理解していたのだろう。

 奴にとって今一番脅威である雷の魔法。

 ドラゴンはアイラとナールからセシリーに標的を変え、魔法を撃たせまいと突進を仕掛けてきた。

 

 まずい!

 後衛で魔法使いのセシリーがドラゴンの突進の一撃なんて喰らえば瀕死では済まない。

 畜生風情のくせに頭が回る奴だな、おい!

 こうなったら、アレをやるしかねえな。

 俺は背後にいるセシリーに背を向けながら声をかける。

 

「セシリー! 集中を切らすな! それで打てる隙を見つけたらに迷わず放て! 何があっても集中だけは切らすなよ!」

 

「え……は、はい……っ」


 俺は腰袋から良薬草と以前作ってあった覚醒丸を取り出す。

 眠りから覚ます効果を持つ覚醒丸だが、これまで使うこともなく腰袋の奥に眠っていた。

 こんな所で初めて役に立つとはな。

 人生何があるかわからんもんだ。

 

「リュウ! セシリー! 逃げろぉぉッ!!」


「く、ウニャァァ!!」


 アイラとナールが慌ててドラゴンを追いかけるも、二人は反応が遅れ間に合わない。

 このまま行けば俺とセシリーはドラゴンに轢き殺されるだろう。

 普通のモンスターによる攻撃など比ではない威力の突進だ。

 まるで建物が速度を得て俺たちに襲いかかってくるようなものである。

 チラリ、と後ろを見るとセシリーは不安そうにしているが、それでも魔法の集中をとぎらせてはいない。

 

「ふぅ~……」


 俺は迫り来るドラゴンを見据えながら一つ息を吐く。

 禍福は糾える縄の如し。

 楽は苦の種、苦は楽の種。

 ホントなにが自分の為になるのかわからないもんだな。

 どんなことでも使い道ってのはあるもんだ。

 例えば日々、俺が日常的に行っては仲間に呆れた顔をされる行動でもな!

 もうすぐ其処までドラゴンが迫りきている。

 さっきは良くもやってくれたな。

 倍返しだ!

 俺の痛みを思い知れ(・・・・・・・・・)! 

 

「――――『調合』!」


 俺は無理やり良薬草と覚醒丸を調合させる。

 この組み合わせは新たにアイテムを創りだす組み合わせではない。

 言わば絶対に失敗する組み合わせなのだ。

 そしてそれが行われたらどうなるか。

 答えはもう分かるだろう?

 

―――――ドゴォォォンッ!!!

 

「ギイイヤァァァウゥゥゥゥッ!!!??」

 

「ぎゃあああああああっ!!!」


 爆発するんだよ。

 俺ごとな。

 

 俺は爆風によって吹き飛ばされ、キリモミ状態で宙を舞う。

 ああ、この感覚はいつになっても慣れないんだよなぁ。

 俺は今、宙に飛ばされている。

 だが、ドラゴンはその体重から爆風でたたらを踏む程度で収まっていた。

 そう、それこそが狙い。

 お前は重いからな、こうなるだろうと予測はしていたんだよ。

 今、セシリーの魔法の射線上にはドラゴンしかいないんだ!

 

「今だ! 撃て、セシリィィィィッ!」

 

「はい! ――――穿て雷光、全てを貫く暴虐の剣……『サンダーペネトレイト』ッ!!」


 セシリーの杖から凄まじい雷光の熱線が放たれる。

 それはドラゴンを飲み込む勢いで焼き尽くさんとする雷の砲撃。

 まさに力と破壊の象徴とされる雷の本領である。

 この魔法はセシリーのほぼ全魔力を注ぎ込み放たれる、伝説の魔法使いが誇る最大最強威力の最後の切り札(エース・イン・ザ・ホール)

 MPを使い尽くせば気絶してしまうため、最初には使えなかった魔法。

 さすがのドラゴンもコレには耐えられないだろう。

 まあ、HPが満タンで元気いっぱいの場合は分からなかったが、半分以下に削られた今なら耐えられる道理はないだろう。

 坑道が眩い光で埋め尽くされる。

 目を開けていられないほどの光量。

 そして、しばらくの後、徐々に光が収まっていく。

 セシリーが力尽きたように膝を付き荒い息を上げ、顔を上げたその先にはピクリとも動かない腕と足、翼を引きちぎられたドラゴンの死骸が横たわっていた。

 それを見たセシリーはパチパチと目を瞬かせ、辺りをキョロキョロと見回した後、再び俯く。

 帽子越しに覗く微かに震えながらも口角を上げる唇。

 そして彼女は杖を手放し、手を固く握りしめた。

 

 今彼女はどんな感情を抱いているのか。

 何を想いその手を握りしめたのか。

 

 落ちこぼれと揶揄された少女。

 今、恐怖を乗り越え強大な敵を打ち倒した、小さく、繊細で、臆病な魔法使い。

 

―――その想いの答えはセシリーだけが知っている。



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