ざわ……ざわ……
「……………」
―――コトン
「……………」
―――コトン
「む………」
辺りは静寂。
俺達は一台のテーブルを前にして手元に並んだ陶器でできたような2~3cmの四角形の物体を並べ指で弄んでいる。
ぴりっとした雰囲気。
アイラはともかくセシリーまで顔に厳しさを宿している。
俺は指でソレを弄びながら思考。
―――考えろ……考えるんだ。
果たしてコレは最善なのか。
俺は間違っているのではないか。
そう思い辺りを見渡すと、
「………(ニヤリ」
「………(くすっ」
ダメだ、誘われている!
だがしかし、ここから逆転をするためには、ここで勝負をかけるしか無い。
くそ、頼むぜ。
俺は並べてあったソレのうちの一つを持ち上げ、
「――――いけぇ! リーチ!」
―――タン!
君に届け、と言わんばかりにテーブルへと叩きつける。
だが、
「ロン」
「ロンです」
「なにぃ!?」
俺の気迫は思いの外軽く散っていった。
「リーピンタンドラ1、8000。もうちょっと大きめを狙いたかったな」
「ボクはリーピンイッツードラが……あ、乗りました。ドラ2で12000。親だから18000ですね」
「俺の点数はボドボドダァ……」
前局までの持ち点19000。
つまりハコったのである。
ちなみに符計算ではなく簡易計算だ。
一応覚えようとはしたんだが、此方のほうが楽で計算しやすいしな。
「しかし、麻雀っていうのは面白いな。お前の世界にはこういった遊びがまだ幾つもあるのか?」
「………あったとしても教えねえ。お前らなんでやり始めて一週間もしないのにこんなに強いんだよ」
「あはは、ボク達の世界にはこういった遊びはありませんから。新鮮でした」
「そうかい……」
項垂れる俺。
魔物のドロップアイテムで錬成の練習がてらトランプやジェンガ、オセロなどを作った俺だが、これがアイラとセシリーには大好評だった。
この世界には娯楽というのはあまり存在せず、あるのは原始的な鬼ごっこや手毬のようなものだけだったのだ。
元の世界で旅の途中、やることといえばみんなでワイワイとゲームだろう。
たとえば修学旅行なんかは夜トランプをして朝寝坊しかけたというのは俺意外にも多数いるはずである。
軽い気持ちで色々作っては教えていったらコレがまたこいつらの強いこと強いこと。
元の世界でのアドバンテージなんてあって無きが如しだ。
ちくしょう、コレが格ゲーやスマッシュ兄貴ーズなどのゲームソフトなら無双をかましてやれたものの。
俺は雀牌を怒りに任せてぐしゃぐしゃとかき混ぜた後、馬車の窓から外を見やる。
外は快晴で雲ひとつない。
太陽が実に爽やかさに大地を照らしている。
何となくこの敗残者が、と言われてるような気がして、何となく腹がたった。
さて、今俺達はイアンの街を離れて4日ほどの街路を馬車で移動している。
目的地はルルード。
アマヴァンス大坑道や鍛冶師がいるという国境沿いの街である。
当初は徒歩で行こうと思っていたのだが、Cランクになるまでに討伐依頼や魔物刈りをひたすらしていた俺達は坑道での稼ぎを含めるとかなりの大金を持っていた。
なので、無駄遣いというわけではないが、一回馬車に乗ってみたかったこともあり、馬車で次の目的地へと行くことになったのだ。
しかし馬車は思った以上にゆれない。
それに中が結構広い。
大型トラックの後ろの荷室くらいはあるかも知れない。
この世界の馬はかなりの馬力を持っているようだ。
それに何かの知識で馬車はめちゃくちゃ揺れると聞いたことがあるが、そんなことはなく、麻雀ができるくらいの余裕があった。
道がしっかりとしているためだろう。
アスファルトとはさすがに行かないが、非常に路面はなだらかだ。
コレもファンタジーということだろうか。
いや、なんでもかんでもファンタジーというわけでもないか。
整備している人でもいるのだろう。
途方も無い労力だと思うが。
そんなことを思いながら空を見上げ、
「後どれくらいなんだろうなぁ」
暇を持て余した俺がなんとはなしにつぶやくと、
「ふむ、大体後2日といったところではないか? 馬車に乗ったことがないからあまり分からないが」
「そうですね、徒歩よりは多少早いでしょうが、それくらいだと思いますよ」
「そっか」
2日かぁ。
長いのか短いのかわからないが…早く着いて防具やらを見てみたいもんだ。
そんなことを考えながら空から目線を外し、二人を見ると、
「次はポーカーだな」
「ボクは7並べがいいです」
思い思いにぶつを取り出し用意を始めている。
………俺よりこいつらのがこの世界を楽しんでるんじゃないのか?
「へぇ~、ここが……」
周りを見ると広々とした町並み。
イアンもそこそ大きかったが、ここまでではなかった。
さすがフランツ帝国でも有数の街ルルードだ。
鍛冶が盛んな街というだけあって、民家も多いが、それ以上に武具屋や鍛冶屋が多く並んでいる。
道行く人も冒険者風の人が多く、中には人間とは違うだろう種族も多くいた。
顔や耳がネコ型だったり犬型だったりしている。
青いずんぐりとした猫型ロボットはいないみたいだが。
「凄い腕毛だな……あの人も獣人か?」
「馬鹿者、あれは腕の毛が濃い人族だ。獣人は皆耳が獣の形をしている。あとが牙があったり尻尾があったりもするな」
「ほぉ」
しかしやっぱり獣人はいたんだな。
前にアイラから聞いたことは合ったが、実際見てみるとまた変わった趣というか……ちょっと違うか。
とまあ、そんなことはいいか。
「さて、どうする? 少しこのままゆっくりするか?」
俺の言葉にアイラが顎に手を当て考える。
「いや、まずはギルドに行ったほうがいいだろうな。一応街を移ったという手続きをしなければな」
「なるほど。じゃあ、宿を探すのはその後でもいいか」
俺がそう答えると、アイラとセシリーは異存がないというように頷いた。
「いらっしゃいませ、なにかご希望ですか?」
「猫耳………っ」
「うるさいぞ」
アイラにそっと脇に発勁を打ち込まれた。
ピンポイントに入れられたソレは痛みと言うより苦しみだ。
思わず膝をつく。
ギルドで出迎えてくれたのは獣人と人族のハーフのサニアさんという人だった。
獣人はあまり人族と仲が良くないと聞いていたため、こういう職業にはつかないじゃないかと思っていたが、そうでもないらしい。
「では、ランクの確認をさせていただけますが?」
「うむ、『我が名のもとに』」
「えっと、『我が名のもとに」」
「………『我が名のもとに』」
促されるままにピアスを光らせる。
三人共Cランクで赤い。
「はい、ありがとうございます。ではパーティー名をお願いします」
「『エトランジェ』です」
ちょっと振り向いてみただけの、ってやつだ。
いやまあ、安直であることは認めるが。
俺達に共通することなんて、一緒に旅をしようっていうことだけだからなぁ。
「エトランジェですね………はい、確認が出来ました。ルルードの街は始めて訪れるので?」
「そうですね、イアンで結成したものですから」
受付の人は一つ頷くと、
「ではこの街について少し説明させていただきます」
そういって棚から紙を取り出す。
そしてそれを俺達の前に広げた。
見た感じ地図のようだ。
街の中ではなく街の周辺地域のではあるが。
「この街は非常に鍛冶が盛んな街です。多くの鍛冶師がこの街で職人として働いており、主な仕事は町外れにあるアマヴァンス大坑道の鉱石を発掘、もしくは魔物の殲滅といった内容になります。最近は鍛冶師自身が主向けるような治安ではなく、魔物が大量発生しておりますので。私達ギルドとしてはそちらを優先して受注していただけるととても助かりますね」
「ほお……」
「鉱石についてはお好きに採掘して頂いて構いません。ただ奥に行けば行くほど良質の鉱石がある代わりに強い魔物が生息しておりますので、ご注意を」
「そういえば主のような魔物もいる、と聞いたんですが」
「そうですね……正確にはいるかもしれない、ですね。なにせアマヴァンス大坑道はかなり広い上、枝分かれもしております。魔物が住み着き始めてからは最奥まで辿り着いたものがおらず、着いたとしても魔物に襲われたのか最奥の情報が届かないのです。以前凄腕のAランクパーティ8人が最奥の調査に向かい、行方不明となって以来それ以降最奥へ向かおうとする人はおらず……」
なるほど。
だから最奥にはそういった危険な魔物がいるんじゃないかってことになっているのか。
俺達が今Cランクパーティだから、2ランクも上のしかも8人が戻ってこないんじゃなぁ。
ふと横にいたアイラを見るとニヤリと口角を上げている。
あの、行く気なんですかね?
俺達普通に鉱石取りに来ただけですよね?
「分かりました。まあ、今のところ最奥に行くつもりもありませんので。他に注意することはありますか?」
「いえ、特には……」
「どうも情報感謝です」
俺は受付に礼を言ってギルドを後にした。
これで一応はこの街に滞在する手続きは完了したわけだ。
後は宿を探すだけなんだが、せっかくの旅。
急ぐことはないのだ。
街巡りくらいはしたいかもしれない。
防具なんかもとりあえず見て回りたいしな。
俺がその旨を二人に伝えると、問題ないという答えが帰ってきた。
なら遠慮無く見物させてもらおうかね。
ギルドから出て数分も経たない内に露天や店舗がずらりと並ぶ商店街があった。
武具を売っていたり、食材を売っていたりと千差万別。
しかしなかなかの品揃えだな。
こうやってズラリと並んでいると壮観である。
「凄いですね……なんか圧倒されてしまいます」
「イアンも栄えてはいるがルルードは貿易都市だからな。街に暮らす人も多くいるが、外国の陸路からの貿易も盛んなんだ。海も結構近くてな、そこからの海産業なんかも特色だろうな」
「へえ、海か。一度見てみたいな」
この世界にきてから海を見ていない。
というか海自体見たことが無かったりする。
海に面していない土地に住んでいたわけじゃないが、内地寄りだったため足を運ぶのがめんどくさかったためだ。
俺の友達(いや、少ないけどいたんだよ)は、似たもの同士が集まるという言葉通り非常に濃い奴が多かった。
そうなると遊びに行くにしてもゲームセンターや電気街、漫画喫茶、雀荘などに偏ってしまい非常にインドア……と呼べるかは分からないが、そういう場所が多かったのだ。
いや、ビームサーベルのようにポスターを挿したり、~氏、ござるよ、みたいなディープな部類じゃなかったけど。
まあ、そんな俺の歴史はどうでもいい。
「とりあえず、武具屋だな……どこにするかね」
武具屋と行ってもそれなりの数がある。
鍛冶屋が多いため、供給によって店が多くなっているんだろう。
アマヴァンス大坑道もあるしな。
需要と供給というやつだろう。
「とりあえず大きな店に入ってみるとするか」
周囲を見回してみて、多くの店の中でも一番大きいだろうと思われる武具屋へ向かうのだった。