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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第二章 パーティ結束編
17/37

またしてもヤツが現れる



『ワイルドウルフの外套』

 防御力+5 対寒効果

 ワイルドウルフの毛皮を使った外套

 防寒の効果がある

 

 

「お、おおおおお………っ」


 俺は言葉にならない声を上げ崩れ落ちる。

 初めて錬成で防具が完成したのだ。


 苦節数週間。

 ようやく防具の錬成の第一歩を踏み出すことに成功した。

 小難しい鎧は無理でも、毛皮をそのまま体を覆うように加工してみようとしたところ、錬成できたのである。

 まあ、別に錬成しなくても毛皮をそのまま羽織るだけで問題ない気がするが、ちゃんとオーダーメイドのごとく身体にフィットした作りになっている点で有用だといえるだろう。

 外套なら難しい作業手順もない。

 むしろカットしてつなぎあわせるという、手作業でも出来る範囲だったが、この外套には継ぎ接ぎはなくまるで毛皮がその形をしていたかのような出来であった。

 

「正直性能的には布の服と変わらないけど、コレは大いなる第一歩だ! フハハハハ!!」


 思わず高笑いをしていたところ、アイラによる熱い壁ドンで俺は笑いを止めるのだった。

 

 

 

 

 俺はこの成功によって、防具の錬成に俄然意欲が湧いてきた。

 よくよく考えればなにも防具は鎧や手甲、グリーブだけではない。

 外套のような服の上から羽織るものでも防具なのだ。

 そして俺の錬成は+効果を生む精錬にも使える。

 毛皮を精錬というのもなにか可笑しな発想ではあるが、鉱石が出来て毛皮が出来ないわけがないと睨み、試行錯誤を繰り返していった。

 

 材料は他にもあったため牙や角も色々と試したところ、ワイルドウルフの牙で『麻雀牌』を、クックルーの羽根で羽毛布団を作ることに成功。

 錬成は武器や防具を作るだけではなく、様々なアイテム(といっても生活用品やら娯楽品でではあるが)も生産できるようだ。

 腕輪を作ったり銀塊を作れたことからもしやと思っていたのだが、このスキルは本当に可能性が広い。


 手持ちでは足りなかったため俺は、獣狩りだぁッ! と言わんばかりにセシリーとの連携、レベル上げを兼ねて狩って狩って狩りまくった。

 ワイルドウルフの群れなどは、推しとーる! とばかりに無双した。

 セシリーもあれから試行錯誤していたのか、確実なサポートで仲間を巻き添えにしない程度の技量を持ち始めた。

 時には雷ではなく風も駆使して、魔物をひるませたり俺達に追い風で支援したりもした。


 レベルが上ったせいかは分からないが、セシリーは風も圧縮して空気砲のような事もできるようになった。

 敵を切り裂くとまでは行かないが、風圧によって魔物の体制を崩し隙を作ることはできる。

 魔法はイメージが大切だ、といういい例だろう。

 雷でレーザーみたいな閃光をぶっぱなした時はさすがの俺も唖然としたがな。

 これも雷魔法のちょっとした応用だ、といったところなのだろうか。

 こんな使い方も出来るんじゃないか? みたいなことを言った気はするが、本当に出来るとは思わなかった。

 さすがのアイラも頭痛を堪えるように額に手を当てて呆れていたくらいだ。

 

 まあ、ともあれ俺はそんなこんなで倒したモンスターから集めた素材を片っ端から錬成していった。

 当たり前のように爆発を起こしてはテントから投げ出される俺を見て、セシリーが若干引いていたが、俺は今防具錬成に魂を縛られた人である。

 そんなこんなで毛皮の研究を試行錯誤しトライアンドエラーを繰り返したところ、ヤツは再びやってきた。

 

 

『大口真神の外套』

 防御力+30

 魔防御+20

 膂力+100

 敏捷+100

 体温調整 耐風 耐氷 耐火

 大口真神の加護を受けている外套

 

 

加護ヤツかぁぁぁぁ!!!!」


 加護シリーズ第二弾である。

 相変わらず唐突に現れる存在だ。

 そして当たり前のように超性能を秘めている。

 切っ掛けは俺は毛皮を錬成して外套を造り、そこに毛皮の重ねがけ…というのも違うが、より精細な細部に気を配り強度をあげようとしていたら+が伸びることが判明したのである。

 なんと言ったらいいのだろうか、細胞密度をあげる? 曖昧だがそんな感じだ。

 筋肉にも密度があるというし、皮膚にもあるのだろうと考えたのだが、どうやら成功だったようだ。

 そしてソレを繰り返した所、奴が降臨したというわけである。

 

「見た目は普通のマントというか袖のないオーバーコートなんだよな」


 出来上がったものを広げてみる。

 色調は濃い目のグレー。

 毛皮といっても毛はついていない。

 いつも羽織っていると毛皮は熱いだろうし、ダニやノミが発生するおそれがあるからだ。

 

「………さて、どうしようかね」


 出来上がったモノを眺めながら俺は思考に落ちていった。

 

 

 

 

 

「というわけで、加護シリーズ第二弾です」


「………まあ、別に今更とはおもうが」


「加護シリーズ?」


 アイラは呆れ、セシリーは首を傾げる。

 

「俺は前に天目一箇神の腕輪というある意味酷いモノを作ったことがあってなぁ。なんでも天目一箇神の加護を受けているとか何とか。ちなみに今度は大口真神の外套という名前らしい」


「はぁ……」


 セシリーはわかったようなわからないような顔をしていた。

 

「まあよくわからないよな。とりあえず論より証拠だ、身につけて見ればわかるだろ。ソレを羽織って身体を少し動かしてみな」


 そう言って俺は優しくセシリーに外套を肩にかける。

 俺に合わせて作っていたので少し大きめだ。

 セシリーは首を傾げながらも、いそいそとその外套を身につける。

 そして体を動かそうとしたら、

 

「え……ええ!? なんですかコレ!? うわあ!?」


 あまりにも身体が機敏に反応したのか、足をもつれさせる。

 そのままの勢いでべシャっと顔面からコケた。

 涙目になりながらも立ち上がろうとするが上手くいかないようで、手足をじたばたとさせるセシリー。

 だがそのじたばたはただのじたばたではない。

 敏捷+100補正のじたばたである。

 質量を持った残像のじたばたなのだ。

 迂闊に近づけば膂力+100の威力を持つじたばたでもある。

 

「よくわからんが補正の効果は出てるみたいだな……」


「ふむ、確かに見事な速さではある」


「少し笑えるけどな」


「………まあ否定はしない」


「うわああぁぁん! 助けてくださいぃっ」


 動くのをやめればいいんじゃね? という言葉を俺達はあえて言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、しかしコレもまたなんというか言葉に困るシロモノだな」


「使えそうにないか?」


「いや、私は腕輪を既につけているからな。だが、どうやら剣士の腕輪と違って天目一箇神の腕輪と大口真神の外套は効果が打ち消されないみたいだ。もはや私の身体とは思えないくらいの動きが可能になるぞ」


 そう言ってアイラは剣を収めたまま一本の木の前に立ち、

 

「………ふっ!」


 一瞬アイラの身体がぶれた。

 数瞬後、キンと鯉口が鳴る。

 その音とともに、目の前にあった木が次第にズレ始めた。

 そして大きな音を立てて木が崩れ落ちていく。

 

「……すっげぇ……」


 いつ剣を抜いたのか全く分からなかった。

 目の前にはまるでバターでも切ったような見事な切り口を残し真っ二つになった木。

 直径1mとは行かなくてもかなりの太さの木だ。

 それを一瞬で真っ二つにするなんて。

 

「………まるでどこぞの頬に十字傷のある抜刀斎みたいだ」

 

 あるいはこんにゃくがキレない怪盗の仲間か。

 俺が呆然としていると、アイラが此方を向き肩をすくめる。

 

「とまあこんな具合だ。普段出来ないことが出来てしまう辺り、相当なモノなのだろうな」


 そう言って外套を外し、俺に手渡す。

 

「腕輪は私の専用でいいとお前は言ってくれているからな。流石にこの二つを同時に駆使するのは気が引ける。リュウかセシリーが使うといい」


「とはいってもセシリーはあんな感じだが……」


「ならリュウが使えばいいさ。前衛だからってあまり道具に頼りすぎるのも一剣士としては、な」


「まあ、そういうことなら俺が使うか。槍に敏捷はあんまり必要かもだが、膂力+100の効果は魅力的だし」


 そう言って俺は外套を羽織る。

 おお、やっぱり不思議な感じだな。

 力が湧いてくるというか。

 俺はシャドーボクシング(なんちゃってだが)をしてみると、まるで自分の体じゃないかのように素早く拳が放てた。

 うーむ、コレは世界を狙えかもしれん。

 

「ふむ、変わった体術だな? いい動きをする」


「まあ、俺の世界の格闘技ってとこだ。なんちゃってだがな。しかしちょっとピーキーすぎるきらいもあるな。しかしまあ、せっかく造れたんだ、存分に活用させてもらおうかね」


 そうしてこの外套になれるためにアイラと模擬戦を行って行くうちの日が暮れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 そうして依頼をこなしながらセシリーのレベル上げ兼連携の練度を上げること数日間、俺達はCランクまで冒険者ランクもあげていた。

 セシリーもLVが15と飛躍的に上がった。

 もはやこの辺りでは敵なしといった感じである。


 すると次第に依頼内容に討伐系が少なくなってきていた。

 もともとこの街はフランツ帝国でも比較的平和な街であるため、Cランク以上の討伐依頼は少なかったのだ。

 魔物のLVも10~16あたりがほとんどだしな。

 それに強めの魔物は俺達が片っ端から片付けて行くため、周りの冒険者からの目も気になってきている。

 そんな中俺達は、今後のためのパーティー会議をすることにした。

 

「そろそろこの街から離れる頃合いなのかもしれんなぁ」


「ふむ、なら本来の目的とやらに出てみるか?」


「リュウさんの目的って、確か異世界観光………でしたか?」


 いつもの酒場で飲み食いしながら話しあう三人。

 あいかわらずうまそうに酒をかっ食らうアイラ。

 本当にコイツは17なんだろうか。

 セシリーも意外と負けずにハイピッチだ。

 この世界の人はアルコール耐性が強いのかもしれんな。

 まあ、それにしてもアイラは飲み過ぎだと思うが。

 

「ああ、セシリーたちはそうでもないかもしれんが、俺にとってこの世界はまるで違う世界感だからな。俺の元いた世界は魔法もなければ人類未踏の場所もほぼない。ネット……って言ってもわからないだろうけど、景色なんかもその場に行かなくても探せば簡単に見れたりするし、なんていうか不思議やロマンが無かったというか」


「ねっと……? 言ったことのない場所でも見れる……?」


「ほお、人が踏み込んでいない場所が無いというのも凄いものだな」


「………うーん、説明するのは難しいんだけどな。別に観光名所がないってわけじゃないんだけど、行きたいと思える場所もなかったというか」


 ほぼインドアのひきこもりだったからな。

 観光には金もかかるし、色々面倒なことが多かった。

 この世界は未踏の場所も数多く、なによりファンタジーな世界観だ。

 レベルという概念もあって魔物を倒せば目に見えて体力も腕力も強くなる。

 それにせっかくのチャンスだ。

 存分にこの世界観を味わってみたいという思いがある。

 

「どこかいい場所や行きたい場所なんかあったりするか?」


「………私は特にないな。しいていえば今より魔物が強い修行が出来る場所が好ましい」


「まあ、アイラそうだろうな。セシリーは?」


「そうですね……ボクも特には」


 困ったように眉をひそめるセシリー。

 あいかわらず酒を飲むアイラ。

 ひたすら飲んでいると思ったら、ん? と何かを考えついたようにグラスをテーブルに置く。

 

「………そうだな、一つ思い当たるというかリュウが興味ありそうな場所に心当たりがあるぞ」


「お、どこだ?」


「リュウは防具を造れないから防具を見てみたいと言っていたな。それなら彼処だろうな、鍛冶が盛んなあの街……フランツ帝国の西の国境にあるあの街、なんて言ったか」


「ルルード、ですか?」


「ああ、そんな名前だったな、うん」


 セシリーの言葉に頷くアイラ。

 

「ふーん、鍛冶の盛んな街ルルードか。そうだな、防具も作りたかったしその街に行ってみるのも有りか」


「あの街はフランツ帝国でも有数の武具生産が行われているし、何よりフランツ帝国最大で最古の採掘場であるアマヴァンス大坑道がある。一昔前からかなり強い魔物が蔓延り始めたとか、最奥には坑道の主がいるとも聞くしな」


 坑道か。

 思い出すのはあの鉱石と戯れる日々。

 最近は鉱石を弄って無かったからな。

 しかも鍛冶盛んなの街近くにあるなら既成品防具を参考にしながらの試行錯誤もできるだろう。

 坑道ばっかり行ってる気もするが、この世界を旅するには装備は必要不可欠だ。

 経験は無駄にはならないはずだしな。


「もう掘り尽くしたともいわれているが、リュウならあっさりと鉱石を見つけられるかもな。一応モリア坑道も掘り尽くしたとされる採掘場だったんだぞ?」


「? そうなのか?」


 いや、結構ガンガン見つけては掘ってたような気がするが。

 観察眼のおかげでもあるんだろうけど。 

 

「まあ、厳密には採掘量と採掘する労力の費用対効果がマイナスになったというべきか。鉱石が取れても採掘、精錬等の人件費がそれを上回っては運営は出来ないからな。労働力も無限ではないし他の坑道も沢山あるんだ。そちらに人材を派遣するほうが賢い選択だろうな」


 なるほど。

 俺のいた世界みたいに機械で大量採掘もできないし、ここに鉱石があるとピンポイントで見つけることも出来ないからな。

 手当たり次第のローラー作戦は人件費がバカにならない。

 掘れば掘るほど鉱石は少なくなるのは当たり前だ。

 少なくなった鉱石にこだわるより、まだガンガン掘れる他の採掘場で掘ったほうが効率的なんだろう。

 

「今はギルド管轄で冒険者の出入りは自由だ。まあ、魔物がかなり強力だと聞いている、依頼も多くあるだろうしな」


「そうか。俺は装備品程度の鉱石しかいらないからな。鍛冶も多いみたいだし、そこに向かってみるか!」


 そうして俺達はルルードの街へと向かうことになった。

 

 

 

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