雷の活用法
「フッ!!」
「おりゃぁぁ!」
目の前には3匹の魔物。
俺とアイラはそれぞれフォーメーションを組み、アイラが最前線で剣を巧みに使い前線を築き、その内側で、俺は槍を持ってそのラインを維持するようにアイラのサポートに回る。
やっぱり槍というのは正解だったかもな。
一時はジルコンスピアの存在意義に涙を流した俺だったが、実際槍はある程度の距離を保ち、退き下がらせることも出来るため、前線維持の補助には持って来いな武器だったのだ。
アイラが前衛で魔物のヘイト管理。
俺は中衛でそのアイラが築きラインを越えようとする魔物を押しとどめる。
後衛にはセシリーが控えており、そのラインの内側で魔術での補佐。
そして大威力の魔法で敵を一掃する。
なかなか理にかなった編成である。
「………行けます!」
セシリーのその言葉に俺とアイラは目配せをして頷き、留めていたラインを放棄するようにセシリーと固まった魔物との直線上からその身を横っ飛びで距離を取る。
そして、
「―――奔れ雷、一迅の稲光『サンダースパーク』!」
セシリーが掲げたロッドから魔力光を発し、二人が飛び退いたその空いた隙間へ魔法を放つ。
その魔法は、大地に轟音を轟かせ、一直線に魔物へと向かう。
すさまじい威力を持つ『それ』は狙い違わず魔物へと直撃して一瞬で魔物を昇天させた。
まさしく必殺の一撃。
さすがは伝説に語られる魔法であるといえる。
だが、
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
「あばばばばばば………!」
「―――ああっ!?」
強力すぎる故に範囲が広く、俺達までも昇天していた。
「………なかなか貴重な体験だったな、うん」
「爆発以外でカーリーヘアーを経験するとは思わなかった」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい………っ!」
戦闘後、俺達は丁度あった大きな木の下で、薬草を齧りながら身体を休めている。
今の戦闘に関しての反省点を皆で纏める、話し合うためでもあった。
セシリーは恐縮して謝罪を繰り返し、五体投地をせんばかりの勢いである。
「いやまあ、セシリーの魔法の威力は凄いな。ココらへんの魔物はそれ程レベルが高いわけじゃないが、一瞬で消し飛ばしたんだからな………俺達とともに」
「うむ。流石は伝説の魔法だ。坑道クラスの魔物とて耐えられるものではないだろう………私達も含めて」
「すいませんすいません………っ! うぅ……っ」
平謝りのセシリー。
もう既に泣きが入ってる状態である。
「ああ、いや……俺達も少し距離を測りかねたところもあるし、そんなに気にすることは」
「でも……お二人を巻き込んで……」
「まあ、そこは慣れ部分でもあるしな。今回のことを次に行かせればそれでいいさ」
「うむ。セシリーはまだその魔法に慣れていないのだしな。一応私達も無事なのだ、気にすることはない」
へこむセシリーにそういう俺達。
HPはごっそり持って行かれたものの、死ぬような威力ではなかった。
セシリーが威力を加減していたためだろう。
初めて見た時のようなあの威力だったら、今頃俺達は涅槃へと旅立っていただろうしな。
「ま、それはさておき……。しかしなんだ、最後はともかくとして連携としては上手く言ったと思うんだが」
「私が最前衛で敵の撹乱。リュウがその後ろからサポート、防衛ラインの維持。セシリーは内側から魔法の援護、もしくは戦況を一変させる一撃を放つ。少し予想外はあったものの概ね上手く言っていたといってもいいだろうな」
新しくパーティに加わったセシリーをどう配置して、どう動いてもらうか。
数日ほどこれはどうだろうか、という議論を交わして実戦にうつしたのが今日。
アイラが言うように概ね上手く入っていただろう。
誤算だったのはセシリーの雷の魔法の威力。
流石は伝説の魔法と言われるだけ合って、凄まじい殲滅力と範囲を誇っていた。
事前に魔力を抑えるように伝えており、確かにその威力は抑えられていたのだろう。
だがそれでもその威力と範囲は並みの魔法以上(アイラ談)であり、安全マージンをとって効果範囲から離れようとした俺達にも余波が振りかかるほどだ。
「セシリー、やっぱり調整は難しいか?」
「………はい。威力を抑えようとはしているんですが、どうしても……すいません」
「うーむ……」
雷の魔法はコントロールが難しいらしく、どうしても大規模な余波を生じさせてしまうらしい。
力と破壊の象徴だもんなぁ。
まだ習得して日も浅いし、前例が無いわけではないが極めて稀なこの魔法の制御をどうすればいいか、なんていう知識を持っている人物は存在しないだろう。
とはいえ数メートル程度距離をとった所で雷の衝撃や圧力は回避できないだろう。
それは強みではあるが、弱点でもある。
十分な距離を取るために俺達が離れようとすれば、時間がかかるため、魔物を止めておく事はできない。
だからといって先程のように密集地帯に叩き込めば、ダーリンお仕置きだっちゃ! 状態になってしまうだろう。
さて、どうしたものか。
「伝承ではドラゴンすら一撃で屠るという威力らしいからな。仕方ないといえば仕方ないことなのかもしれんな」
アイラは齧った薬草を飲み込み、腕を組んで考え込んでいる。
「そんな威力の魔法を抑えこむのは至難の業か………収束……んん?」
少し引っかかる。
この世界の魔法には詳しくないため、どこまで出来てどこまで出来ないというのがわからない。
ただ威力の軽減、抑制はできるようだ。
なら、『形を変える』事もできるのではないだろうか。
「なあ、セシリー。通常魔法っていうのは炎や水を起こすんだよな」
俺の言葉にセシリーが頷く。
「はい………最も私は風を起こすことぐらいしか出来ませんでしたが」
自分で言ってそう落ち込む。
「ああ、いや、そういう意味じゃなくて。炎とかはどういう形で魔法となって現れるんだ?
「? 形……とは?」
俺の言ったことが分からなかったのか、セシリーは不思議そうに首を傾げる。
そんなセシリーに俺は言葉を続けた。
「例えば俺のいた世界では魔法はなかったけど、ゲームや映像でこういうのがあってな」
「げーむ……えいぞう……?」
そう言って俺はちょうどいい枝を手に取り地面に絵を書いていく。
書くのはわかりやすい炎の魔法。
「炎と言っても焚き火のように形を持たずに燃えるものもあれば、こうして炎を丸めて球状にして相手にぶつけるという魔法もある。これも火の魔法の範囲なはずだ」
「なるほど発火と火球ですね」
俺の書く絵にふむふむ、とセシリーが頷く。
やっぱりこの世界でもそういう魔法はあったか。
「………うーむ、しかしお前は絵心というものがないな」
「うるせえ!」
肩口から覗くアイラがふむふむと、俺の絵を罵倒する。
俺は漫画家志望じゃなかったんだよ!
ゲーム会社就職は夢見てた部分があったけどさ。
「ごほん、つまり同じ火を起こすにしても形は色いろあるわけだ。元いた世界の知識だと炎の勢いに指向性を持たせて一点に集中させたり、あるいは爆発というのも火という一つの形だとおもう」
カリカリと俺は地面に次々と書き起こしていく。
興味深そうに聞く二人。
アイラもなるほどと聞いている辺り、魔法に興味が全くないというわけではないらしい。
「でだ、コレを応用すれば雷にも形を持たせたり、あるいは余波に指向性を与えたりも出来るかもしれない………どうだ?」
そう言ってセシリーを見ると難しい顔で顎に手を当てている。
「雷に形を……ですか」
「そう。火球ならぬ雷球ってとこかな。後はレーザーなんかも確か電力の応用だったような……あれ、いやまてよ? 雷って電力……なのか? なるほどこの世界に元の世界の常識が通じるかはわからんが試してみる価値はあるな」
そう言って俺は電気エネルギーについてどんな発展性があるかをガンガン絵に書き込み、まとめていった。
その間アイラが、俺を呆れたような目で見ていたが、気にしないことにした。
「いきます……」
セシリーは静かに呼吸を整える。
魔法はイメージだといっていた。
集中力が成否に大きく関わっているんだろう。
「集え雷……っ」
ロッドをかざすと、そこからバチバチと放電しながら形をなそうとしている雷が現れる。
だがそれは球と言うよりは核を持ち、そこから紫電が発生しているような、そんな形であった。
「行け……!」
放たれる先は、一本の木。
核は一瞬で樹の幹へと吸い込まれていく。
そしてバチっ! という放電音と共に、樹の幹が感電の余波によって弾けた。
余波とはいっても木の内部からのものであり、周囲への影響はなさそうだ。
核は木の表面ではなく内部に侵入して感電を起こしたのである。
つまりスタンガンを受けた状態というわけだ。
「……おお~」
俺は思わず拍手をする。
隣を見るとアイラも拍手している。
セシリーは帽子のつばで顔を隠すように照れていた。
「ど、どうでしょうか?」
おそるおそる聞くセシリーにグッと親指を立てて返す。
それを見たセシリーは頬をゆるめ、笑顔を見せた。
「いや、思いつきだったけど案外うまく行くもんだなあ」
雷は殺傷能力が高いというのがこの世界の常識である。
だが、リュウは元の世界でスタンガンというものをしっている。
感電は危ないことは確かだが、非殺傷の主な手段でもある。
この世界の力学に現代力学が通用するのかという気持ちがあったが、どうやら一定の成果を得られたらしい。
範囲攻撃ではなく、個人攻撃ではあるが、攻撃手段があるというその一点の価値は非常に大きい。
「しかしファンタジーだったり力学は通用したり……よくわからん世界だなホント」
まあ、偉い人が解明してきた物理法則とかを俺は詳しいわけではないが。
薬草齧ったら骨折が治ったとか医者に喧嘩売ってるシロモノとかあるしな。
「まあ難しく考えるだけ損か。やれることはやれる。出来ないことは出来ない……それだけだぁな」
嬉しそうにしているセシリーに向かって俺は歩いて行った。
「うーむ」
俺は野営のテントで一人ぶつぶつと目の前の物体を眺めていた。
『ワイルドウルフの牙』
・ワイルドウルフが落とすドロップアイテム
武器や防具の装備品に徴用される
換金アイテムでもある
レアドロップ
『ワイルドウルフの毛皮』
・ワイルドウルフが落とすドロップアイテム
衣服に重用される
換金アイテムでもある
『ゴブリンの角』
・ゴブリンが落とすドロップアイテム
装備品に重用される
換金アイテムでもある
『クックルーの羽根』
・クックルーが落とすドロップアイテム
日用品に重用される
換金アイテムでもある
『クックルーのクチバシ』
・クックルーが落とすドロップアイテム
武器や防具の装備品に重用される
換金アイテムでもある
レアドロップ
あれから連携を試すべく色々なモンスターと戦ったが、どうにもレアドロップのドロップの確率が上がっているような気がする。
坑道の時はさほど落とさなかったのだが、どうも今回は結構頻繁に落としてくれたようだ。
このへんのモンスターはレアを落としやすいのだろう?
他に違うことといえばセシリーが仲間に加わったことだが……。
そなみにセシリーのレベルもググっと上がった。
こんな感じである。
・セシリー・マルティニーク
LV9
HP45
MP136
膂力9 魔力73 耐久8
精神57 敏捷10 器用14 幸運4
しかし魔力の伸びが著しいな。
成長率UPが多少効いているんだろう。
経験値Ⅱの効果もあってかなり順調だといえる。
「ん? 成長率UPか……」
そういえばパーティボーナスってステータスにあったよな。
セシリーが加わったことで何か変化したんだろうか。
そう思い俺のステータスを見てみると、
・パーティーメンバー
1、アイリィ・ラドネイ LV21
2、セシリー・マルティニーク LV9
・パーティーボーナス
経験値上昇(小)
LVUPステータス上昇補正(微)
レアドロップ確率(微)
「なるほど、パーティーが増えるたびに色々ランクアップやら種類が増えるのか」
経験値上昇が小の上昇している。
セシリーのレベルアップも俺の経験値Ⅱとパーティーボーナスの経験値上昇に恩恵を受けたのだろう。
実に便利かつ優秀なボーナスとスキルである。
重複するって説明されていたからな。
「ってことは、仲間が増えればさらに増えたりするのか。もう少し仲間を探して
みるのもありか?」
俺はない頭を絞って考えこむのだった。