お酒は二十歳になってから
この話の中で、ふいんき(なぜか変換できない)という一文がありますが、それは誤字ではなく表現、ネタとして使っています。
もし知らなかったり分からなかった場合は、検索をしてみていただき、ああ、こういうネタだったんだな、というのを楽しんでいただければと幸いです。
一応説明としては凛々しいふいんき(なぜか変換できない)はアイラが微妙に残念である、という表現として使わせてもらっています。
沢山の読者を混乱させてしまい申し訳ありませんでした。
俺達は街に戻って魔法使いを探しだし、そしてその仲間とともに新たな旅へと出るのであった。
「………と、軽く考えていた時期が俺にもありました」
「魔法使いは数が少ない上にプライドの高いタイプが多いからな。そうそう簡単に条件の合う魔法使いを見つけることなんて出来ないさ」
「魔法使いかぁ……ファンタジー世界なら沢山存在するもんだと思っていたよ、俺は」
「お前はこの世界に夢を持ちすぎだぞ」
そう言ってアイラは手に持ったジョッキをぐいっと呷る。
そして、く~っと美味そうな声を上げた。
まるでCMにでも使われそうな絵面だ。
そしてどことなくおっさん臭いのが物悲しくもある。
そんなアイラの姿を見て、俺は一つため息を吐いた。
どうも最近、所々残念な部分を覗かせるんだよなぁアイラは。
美人ではあるが男前な男口調で、仙人のように剣を追求しているように見えて、俗世にまみれたような部分を持ち、実はお嬢様っぽいというアンバランスさ。
っていうか17だろお前は。
何平然と誰よりも美味そうに酒をかっくらっているんだ。
いやまて異世界だから条例なんてないのか?
辺りを見れば同じような年代の奴も平気で飲んでるし。
まあ異世界だからな、見た目以上の年齢もいるかもしれない。
エルフとか魔族とか。
あ、ちなみに俺は20だから元の世界でも合法だからな。
「………ん、なんだ? 私の顔をじっと見て。せっかく酒場にいるんだ、飲まずにいれば損だぞ?」
「………俺はあんまりアルコールには強くないんだ、ほっといてくれ。アイラこそ少しハイピッチじゃないか?」
「私はこの程度では酔わんよ」
「この前、街に戻っての凱旋祝だと言って浴びるほど飲んだ挙句、俺に介抱されて路地にもんじゃ焼きこさえてたのはどこの誰だったっけな」
「ば、馬鹿者! あれは久々で量を誤っただけだ! それに私は吐いてなどおらぬ!」
「はいはい」
「むぅ……なんだか最近お前の態度がぞんざいな気がするぞ」
それはお前がだんだんと残念になってきているからだ、とは口にしない。
最初あった頃は凛々しい雰囲気だったんだがなぁ。
最近のアイラは凛々しいふいんき(なぜか変換できない)である。
良くも悪くもお互い遠慮がなくなってきているんだろうな。
本当に良くも悪くも、だがね。
「はぁ……まあともかくとして、だ。しっかし今日で街に戻って一週間、さっぱり音沙汰なしか」
「それは仕方なかろう。パーティ結成僅かで人数は二人、これといった実績もなく信頼もない。おまけにランクはE止まり。さらに言えば若い冒険者はパーティを立ち上げては解散するものだという認識も強いからな、そんな私達みたいなパーティに入りたいという魔法使いはそうそういやしないさ」
「ギルドに張り紙での募集も一応出してもらってはいるんだがなぁ」
「魔法使いは貴重な存在だからな。高ランクパーティでも引っ張りだこで、魔法使いというだけでも駆け出しが高ランクパーティに囲われるという話も珍しくない」
「………夢のない話だ」
「現実はなんとやら、だな」
どこの世界も、っていうやつか。
才能がある奴は重宝される。
当然といえば当然だ。
「まあ根気強く粘るか、それともこの街ではなくもっと大きな街で募集をかけるか……いっそすっぱり諦めてしまうというのも手だぞ」
「とはいってもまだ一週間だからな、坑道での疲れもあるし急いでるわけでもない。幸い坑道で手に入れた鉱石やらは結構高値売れたから懐に余裕もあるし」
中でも銀鉱石はかなり高値で売れた。
武具の素材としては一流だし、生活用品や工芸品等の美術品でも重宝されている。
あって困るものではないし、俺が錬成して一手間加えることで精錬してあるから、銀鉱石というより銀塊の形で売ったからな。
思わずマジで? っと聞き返してしまうくらいの値段だった。
銀の精錬は手間がかかるらしく、精錬士という専門職もいるくらいらしい。
俺は帰りの荷物を軽くするために精錬して持ち帰ったわけだが、思わぬ副産物である。
そういった経緯で俺達は大金持ちとは言えずとも小金持ち程度の裕福さはあるわけだ。
こうして毎日外食で酒を飲める程度には。
「うむ、それだけでも坑道に行った甲斐が合ったというものだ。リュウの言うように急ぐ旅でもない、今は果報は寝て待て、だな」
「……ホントに食っちゃ寝してるだけだけどな俺たち」
懐に余裕ができた今、街に滞在するための日銭を稼ぐ必要がない。
ギルドで依頼をこなさずとも暮らしに困ることがないのだ。
腕を鈍らせない、ランクを上げる為にちょくちょく討伐依頼は受けているものの、俺もアイラもあえて高ランクになる必要が無いため、そう意欲的ではない。
高ランクじゃないと足を踏み得れることが出来ない場所も存在するが、そもそもそういった場所は危険度が高く殺伐としている場所が殆どだ。
無理して向かうことはないだろう。
「ま、それはいいとしても魔法使いか……ちょっと思いつきで動きすぎたかなぁ」
「まあいいではないか。果報を待つ間に英気を養うことも冒険者には必要だ。生き急ぐこともあるま―――む?」
お代わりのジョッキを片手にそう言葉を紡ごうとしたアイラの表情がこわばる。
次の瞬間、
―――ガシャン!!
「のわっ!? って、ああ!?」
俺達のテーブルに勢い良くグラスが飛んできた。
その衝撃で俺のグラスが割れ、つまみの串鳥が水浸しになる。
気付けばアイラは自分の分の串鳥はしっかりと確保していたらしく難を逃れていた。
得意げにすまし顔をするアイラ。
そんな余裕が有るなら俺の串鳥も守って欲しかったんだが。
って、それよりも、
「な、なんだぁ一体!?」
グラスが飛んできた方を見ると、5人がテーブル席に座って口論を始めている。
どうやら酔っぱらいの喧嘩に巻き込まれた形のようだ。
かなりエキサイトしているのか周りのことが目に入っていない。
「喧嘩かぁ? ったく、とばっちりを食ったな」
「全く、迷惑な客もいたものだ」
「す、すいません。今すぐ代えのものを用意しますので!」
店員が俺たちの惨状を知って駆けつけてくる。
自分が悪いわけじゃないのに、恐縮そうにして代わりまで用意してくれるようだ。
いい店だ。
これからも贔屓にしよう。
「ああ、頼む」
「ありがとう………しっかしマナーの悪い客もいたものだな」
テーブルを店員が持ってきてくれた布巾で拭きながらぼやく。
見たところ冒険者風の集団のようだが。
「大方依頼にでも失敗したのだろう。それっぽい事を口にしては責任のなすりつけ合いをしているようだ」
アイラがチラリとその集団に目を向け、興味がなさ気に呟いた。
「まあ、よくあることだな。運がなかったということだろう、あいつらも……私達もな」
「ホントだよ、酔いが一気に覚めた気分だ」
気を取り直して新しく運ばれてきたグラスを手に取り、口をつけようとすると、
「―――大体、テメエがあの時しっかり敵の意識をひきつけることができてりゃこんなハメにはならなかったんだろうが!」
「ああ!? オマエがヘボな腕してるからだろ!? 役割分担の役割も果たせない無能がよくいうぜ!」
「弓兵が……っ! 前線に出てからそんな口を利けってんだよ!」
さらにヒートアップしたらしいその集団の怒声が耳に入ってくる。
聞くに堪えない罵り合いだ。
アイラもすました顔をしてはいるものの、迷惑そうに眉が寄っていた。
「あ、あの、これ以上は迷惑だと思うんです! この話は此処を離れ帰った後にでも……!」
「あん? ―――そうだよ、そもそもオマエが糞の役にもたたねえ魔法しか使えねえから……!」
「トールズ出身だとか抜かしてたから期待してりゃ、屁みてえな風しか起こせない……挙句にビクビクと臆病に後方から援護にならねえ援護ときた! ありゃあ何の冗談だぁ!?」
「そ、そんな……っ! ボクは自分の役割を……」
「魔法使いってのはもっと大層な存在だと思っていたがよ……っケ!」
「パーティに置いとけば箔がつくってんでこれまで言いたいこと我慢してたが―――」
なんとはなく耳を傾けていた口論だが、何やら風向きが変わってきたようだ。
「(…………おいおい、なんか変な方向に話が進んでるぞ? 唯一の良心を持っているっぽい魔法使いらしき人が槍玉に上がり始めた)」
集団の中で唯一激高せず、仲間を宥めようとしていた存在が逆ギレで吊し上げを食らいそうになり始めている。
そんな中、アイラは顎に手を当て、そういえばと口を開いた。
「(トールズ……と言っていたな、確か魔法使い専門養育施設がある街の一つがそんな名前だったはずだ)」
「(へぇ、そんな施設あるんだな)」
「(まあ一国に一箇所程度ではあるがな。魔法使いは珍しい為それでも定員割れはしょっちゅうだそうだが)」
「(本当に少ないんだな魔法使いって)」
頭に血が上っている上、酒を飲んだ酔っ払い達。
ヘタに刺激するのも上手くないので、聞こえないようにコソコソと話し合う。
しかし魔法使いがそんなに希少な存在だとは思わなかった。
トールズか、もうしばらく待って魔法使いが見つからなければその街にでも言ってみようか。
そう考えていると、
―――パァン!
「あう……っ!?」
ついに手が出たのか、その魔法使いが頬を張られ、床に身を投げだした。
そしてその拍子に帽子が脱げ、髪が床に広がる。
綺麗な黄金色をした長い髪だった。
思わず目を奪われる。
ローブで身を包んでいたため分からなかったが、件の魔法使いは女性だったらしい。
「―――アイツ等ッ!」
瞬間的に頭に血が上る。
それはアイラも同じだったようだ。
「流石にもう静観は出来んな。冒険者同士の口論は珍しくもないため口を出さなかったが、手を出すのはやり過ぎだ―――それが女性ならなおさら、な」
俺達は同時に立ち上がる。
椅子にかけてあった獲物に手にとり、床に倒れている女性へと駈け出す。
なおも罵ろうとする奴らから遮るようにアイラと俺の獲物が交差した。
「そこまでだ酔っぱらい。女性に手をあげるなど言語道断と知れ」
「聞くに耐えないんだよ馬鹿野郎! 酒でセクハラにパワハラ、挙句に暴行とか15年以下の懲役又は50万円以下の罰金じゃすまねえぞコラァ!!」
「あ、あなた達は……?」
不思議そうに俺たちを見つめる女性。
これが俺達にとって運命の出会いになるとは、この時点での俺達には知る余地もなかった。