大学生は賢くなるより、むしろバカになる?(体験談)
「おお! なかなか良いな!」
「そうか。素材的には銀には劣るけど、性能的には今までの銀の刀よりは上のはずだ」
「うん。いい感じできていると思うぞ。ただあえて不満をいうならちょっと違和感は感じるか」
俺の造った得物を嬉しそうに素振りするアイラ。
それなりに自信作だったので気に入って貰えてなによりだ。
『鉄のシャムシール』 +2
攻撃力+80
鉄で作られた曲刀。
これが今回の俺の成果である。
一応刀を造ろうと苦心したもののどういうわけか出来なかった。
多分だが製法がよくわかっていないためだろう。
だから刃の反った剣としてシャムシールになったのだと俺は考えている。
一応俺は日本人で、日本刀の作り方はなんとなくだが知っているが、流石に細かい部分の作業にまで精通しているわけではない。
知っていることは柔らかい鉄と硬い鉄の二種類を使って折れず曲がらずを実現している、玉鋼という素材から造られているという位か。
「厳密に言うならそれは刀に似せた刀っぽい反りのある剣だからなぁ。いやスマン、俺も詳しい刀の作り方は分からなくてな」
「ふむ、違和感はそのせいか。なに、特に不便するというわけじゃないし感謝しているさ」
「そう言ってもらえると助かる」
銀の刀は-6という強烈なバッドステータスが発生していたからな。
それと比べれば幾らかマシなのだろう。
しかし-6とはいえ刀を造ったっていうのはよく考えると凄いのかもしれん。
製法を模して造ったわけだからな。
俺が錬成で二種類の鉄を使い分ける感じでスキルを使っても爆発か曲刀ができるかの二択だったし。
鑑定眼が製法や詳しい材料を表示してくれればなあ。
「そういえば鞘は無いのか?」
「あ」
考え事に没頭していた俺の目を覚ましたのは、そんなアイラの言葉であった。
それから何回か坑道を行き来して様々な鉱石を集めること1週間。
坑道は思った以上に深く、まだ終着点に届いていない。
魔物の巣になっているのも原因だが、それ以上に俺が足をひっぱったのが大きい。
アイラが魔物をほぼすべて掃討してしまうのに対して、俺の弓はまったく当たらず戦力として機能しなかった為だ。
どうやらレベルアップのための経験値はダメージ量からの割合で発生するらしい。
つまり俺はダメージ源に全くなっていないのでレベルがサッパリ上がらないのだ。
奥に進めば魔物は手強くなる。
その内アイラも手こずるようになり、時間をかける内に挟み撃ちにあって俺が沈む。
そうするとアイラとしては撤退を余儀なくされるわけで、進める状況ではなくなるのだ。
後は鉱石の重さによる俺の疲労や荷物がかさばるなども苦戦の理由としてあげられるが、やはり第一の原因として上げるなら俺のレベル不足だろう。
そこでダガーを使ったりシャムシールを貸してもらったり色々工夫はしたが、俺に剣術の才能は全くなく、逆に接近した分危険だった。
いや剣道と剣術は全く違うんだと変に感心してしまったくらいだ。
刃を立てて敵を斬りつけるっていうのは想像以上に難しい。
そして敵は常に動いている。
魔物のレベルも15~20はあるため、レベル9の俺にはまさに無理ゲーである。
しかし、俺は考えた。
剣が駄目なら槍を使えばいいじゃない。
どこぞのアントワネットさんではないが発想の転換だ。
槍はある程度の間合いから攻撃できる。
そして刃を立てるなどの難しい技は必要なく、ただ突けばいいという扱いの利便さもある。
俺はアーチャーからランサーへとジョブチェンジを目指すのであった。
「よし、できた!」
俺は此処3日程(爆発多数で時間がかかってしまった)取り組んでいた、努力の結晶を手に持ち掲げる。
『ジルコンスピア』 +3
攻撃力+125
魔力+10
ジルコンで造られた槍。
魔力上昇の効果が付加されている。
今俺にできる最高の技術と最高の素材をふんだんに使った自信作だ。
魔力上昇効果は意図してつけたものではない。
ジルコン精錬の中で発生したものなので、恐らくは精錬されたジルコンが持つ付加価値なのだろう。
「いやあ、いいねやっぱり。苦労した甲斐があるというものだな」
うっとりと得物を見つめる。
しかし本当に苦労した。
前提として相手に当てる、ダメージ量を多くする、軽く扱いやすいという三原則が必須だったのだ。
その為まずはこの坑道で見つけた一番いい素材であるジルコンをメインにすることから始めた。
最初は見るも無残な強烈なバッドステータスの槍が出来上がったり、シャレにならないほど重くて普通に突くことも困難だったりと散々であった。
無論爆発も多発させており、最初の一日など記憶が飛んでいるほどだ。
だがその甲斐があってなかなかに強力な槍を作り出すことが出来た。
後はコレが実戦で使えることを祈るのみだ。
「む? その様子だと出来たみたいだな」
「ああ、かなりの自信作だ」
「ほお…」
外に出て素振りでもしようとしたところ、先客がいたようだ。
アイラはシャムシールを手に修練をしていたらしい。
鞘は一応既に造ってある。
鞘はアイラの使う流派では重要な位置を占めるらしく、結構手直しを求められて苦労したのは余談だ。
「ジルコン製か……なかなか美しい穂先だな。多少淡い透き通るような朱色をしているようだが」
「なんか精錬していく内にこうなってな。俺のいた世界だと確かジルコンって宝石だったような気がするし」
「ジルコンが宝石? そんな話は聞いたことがないな。金属ではないのか?」
「まあ俺のいた世界では、だからな。この世界ではどうなっているのかは俺にはわからん」
坑道で見つけた時は鉄鉱石のような形だったので、俺も金属だと思っていた。
しかし錬成を重ねていく内に赤く透き通って行ったのだから、この世界でももしかしたら宝石に分類されるのかもしれない。
あれ? 元の世界でもジルコンは金属だったか?
ジルコニウムとかあったような気もするが……。
そもそも鉄鉱石自体は石だよなぁ。
でも鉄は金属だ。
石から金属に変化するのか?
っていうか石と金属の違いってなんだっけ?
「ああああ~! なんか頭がムズムズしてきたどうでもいいよ金属と石の関係なんてさ!」
「? 金属と石は明らかに違うだろう。……いやまて、宝石と言われる金属も存在したな。あれは確か‥‥」
「やめろぉ! おれはしょうきにもどれない!」
世界の神秘が俺を侵食してくる。
所詮知識なんて必要なときだけ詰め込んで、試験が終われば捨ててしまうものだ。
2流大学在学中だった俺には難しすぎる問題である。
「そうだ『アダマンタイト』とかいったか。透き通るような青色で、あれは確かに宝石と言われるだけの価値はあったな」
「ああ、俺の知識にゲシュタルト崩壊が……ってアダマンタイト?」
アイラが呟いた言葉に反応する。
「ん? アダマンタイトがどうかしたのか?」
「アダマンタイトってこの世界では存在する、のか?」
俺の元いた世界では空想の物質だ。
アイラの言葉が本当ならこの世界では存在しているということになる。
「ああ、存在するぞ。極めて量が少なく貴重なモノだ。透き通るような青色をしていて加工が非常に難しいらしいが、反面とても優れた武具の材料にもなるとか」
「マジか……」
「マジだ。まあ普通はその美しさから観賞用に王室などで保有している位だがな。私も初めて見た時は思わず息を呑んだものだ。確かに金属でありながら宝石としての価値を持つのも頷ける話で……」
「へぇ、アイラは実物を見たことがあるのか?」
「うむ、子供の頃に城の宝物庫に父上に内緒で忍び込んだことがあってな。由緒代々伝わる我が家の家宝で………あ、いや、うん。み、見たことはあるぞ?」
途中ではっと我に返った様子で引きつるように口角を上げた。
やっちまった感満載である。
「………」
「な、なんだ?」
「………アイラってもしかして何処かの大物じゃあ」
「な、何を言う。私は平民の生まれで今は流浪の剣士だぞ? そんな大物だなんて事実は一切ないっ」
「………怪しい」
非常にな。
元来嘘を吐けるような性格ではないようだし、これはホントにもしかするともしかするな。
「ご、ごほん。そんな話はもういいだろう。私は食事の支度があるので失礼するぞ、ではな!」
そそくさとその場を離れようとするアイラだが、
―――ゴンッ!
「あいたーっ!?」
すぐ後ろに遇った木に額をぶつけて蹲り出す。
相当痛いのだろう、肩がプルプルと震えている。
「……またベタな」
なんというか偽っている苗字から何かあるとは思っていたが、アイラは予想以上のお嬢様なのかもしれないな。
それと意外にドジっ子属性もあるのかもしれない、と額を押さえて涙目のアイラを見て俺はそう思った。