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やりこみゲーマーの異世界生産職冒険譚  作者: スコッティ
第一章 パーティ結成編
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許してねスケベ心よ 甘い夢で肋骨が折られたの

「クク、ハハハハ!! 素晴らしいぞこの力っ!」


「………お前は竜的なオーブを手にしちゃったどこかの神族か」


 どこぞのラスボスのような高笑いを上げ敵を惨殺していく。

 いっそ魔物がかわいそうになる光景だ。

 

 坑道の探索はもはやピクニック感覚にすら感じられてしまった。

 天目一箇神の腕輪を装備したアイラに最早敵はおらず、突出したステータスの脅威をまざまざと見せつけている。

 攻撃力、防御力が激増させる効果もすごいのだが、なによりやはり注目すべきは器用+200だろう。

 明らかに昨日までのアイラと動きが違うのだ。

 ゲーム内でのステータスの役割として、器用というのは命中率やクリティカル率の上昇効果辺りが一般的だが、この世界ではどうも他に要素が絡むみたいである。

 ステータスを見て器用は攻撃力に関連するというは分かっているんだが、数字上ではその変化しか見て取れなかった。

 防御力は腕輪の+効果しか上昇していない。

 多分ではあるがメニュー閲覧では見ることの出来ない何かが器用と作用しているんだろうが……うーん。

 

「ハッ!! ……ふぅ」


 最後の一匹を鮮やかに斬り捨てたアイラは刀を静かに収める。

 どうやら考え事をしている内に戦闘が終了していたようだ。

 

「何か考え事をしていたようだが、戦闘中に気を抜くのは感心しないぞ?」


「とはいってもなぁ」


 アイラのその言葉は正論ではあるが、俺の出番は無に等しいため、俺としてはお前がそれを言うかね、状態だ。

 敵の索敵や牽制が俺の主な役割だったのだが、俺が敵の存在を認識する前にアイラは素早くその存在を察知して行動に移りだす。

 後はもう無双状態だ。

 俺はその光景を後方で見守るのみである。

 

「索敵すら必要ないんだから俺は何をすればいいんだよ」


「む……いやだが、しかし」


 俺の反論に自分の行動と照らし合わせ、その言葉に一理ありと感じてしまったのだろう。

 アイラは複雑そうに口ごもる。

 

「とは言えホントにその腕輪はすごい効果があるみたいだな。動きが素人ながらに昨日とは別人みたいだった。なんていうかキレみたいなものが増して見えたぞ」


「ああ、正直自分でもかなり驚いている。嘘みたいに身体が素直に動いて、素早くそれでいて理想的な剣閃を描いて刀を振れているのが実感できる。こういったモノは修練の積み重ねでしか会得できないはずなんだが……」

 

 そう言って自分の腕に装備されている腕輪に触れるアイラ。

 

「やはりお前の言うように、この世界は数値で計れる方程式みたいなものがあるんだろうな」


 俺がステータスの事を教えても懐疑的だったアイラも納得せざるを得ない効果を腕輪は発揮させているようだ。

 プラシーボじゃ説明できないほど動きが違えば、いかに疑問を持っていようと払拭させられるだろう。

 

「稀人か……歴史にその功績が刻まれているように、やはり大した存在だったな。こんなのモノを造れるのだからな」


「偶然の産物なんだがなぁ」


「偶然だろうとそもそも造れてしまう辺り、この世界では普通ではないさ」


「………確かに」


 稀人はほぼその存在が歴史的事件に関わっているという。

 恐らく俺みたいに特殊なスキルを持ってこの世界にやってきたんだろう。

 そして当時の人々とは影響を与える功績を残していき、記憶にも記録にも刻まれていった……そんなとこか。

 俺がそんなことを考えていると、アイラが、


「私は運がいいようだ。お前がこの世界になにを巻き起こすかは知らんが、間近で体験できそうだし。退屈とは無縁だな」


 そう言ってかんらかんらとのんきに笑う。

 俺はそんなアイラにため息を吐きたくなった。

 

「あんまり波瀾万丈な生き方をしたくないんだがなぁ」


「ははは、そういう人間ほど大きな事件に絡めとられていくものだ。まあ私も出来る限りのサポートはしよう。なにせ終生の仲になると歴史は言っているようだし、な」

 

「………まあお手柔らかに頼むよ」


 それで話は終わり、坑道の先を行くことにした。

 

 

 

 

 奥に進みながら順調に鉱石を発掘していく。

 昨日より奥に進んでいるためか、そこそこ良い鉱石があるようだ。

 

「お、銀鉱石だ。銀もそこそこ溜まってきたな」


「銀は装備品の材料としてはなかなかの材料だ。多少重く扱いづらいがな。これだけあれば防具なら鎧は無理でも手甲、武器ならナイフあたりは造れるんじゃないか? どうする、引き返すか? あんまり奥に進むとなると、荷物を嵩張らせてだと疲労はバカにならないぞ?」


「そうだな……」


 発掘した鉱物は基本的に俺のサックに入れている。

 前線で戦うアイラはできるだけ身軽でいなければならない為だ。

 というか俺は戦闘では全く役に立っていないため、荷物くらいは持たねばなるまい。

 結構な重量でかなり疲労はするが、そこはガッツを見せるべきだろう。

 

 まあでも確かに十分といえば十分な量は集まっている。

 ここらで引き返して時間を錬成に使うのも有りといえば有りなんだが。

 

「もう少し進んで珍しい鉱石がなければ引き返そう。何となく鉱石の種類が変わり始めてるようだ。ジルコンも少しだが見つけたことだし、あれば採掘しておきたい」


「ふむ、お前がそう言うなら私は構わんが。しかしこの坑道はジルコンも存在するんだな。そこそこ量もあるようだし、思ったよりずっといい鉱石が取れるみたいだ」


 モリア坑道は比較的街に近いため、発掘者も多く出入りしている。

 その為、貴重な鉱石は率先して持ち帰られてしまうのだ。

 ジルコンは銀と比べると耐久性は無いものの、加工が銀より簡単なため鍛冶屋にとっては扱いづらい銀より結果いい武具が作りやすい。

 店でも銀製品よりジルコン製のが高値で取引されることも珍しくないそうだ。

 

「そういえばリュウは弓しか使わないのか? ダガーも持っているんだろう、別にずっと後衛をしようと思っているわけではないんだろう?」


「弓以外か。そうだな、剣とか槍も折角の機会だから扱ってはみたいかも。あ、剣はアイラとかぶってバランスが悪いか」

 

「これからも二人だけのパーティと決まっているわけじゃないから、無理に剣以外にしようとしなくてもいいだろう」


「でも前衛二人剣士ってのはなぁ」


 お互いに背中を合わせて戦う、みたいな漫画的なのもいいが、どうしたってバランスは悪い。

 

「ま、確かに一理ある。幸い鉱石と時間は余るほどあるんだ、色々試行錯誤して見ることだ」


「だな、とりあえず武器防具の一式くらいは揃えたい。……何ヶ月もこんな坑道に潜るのは精神安定上避けたいことではあるけど」


「はは、それは私としても遠慮したいな」


「だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」

 

「動くな! 手が滑る!」


「…………」


「ふむ……なんという柔ら――いや、なんでもない」


「………なあ」


「うわ、腰細! どれどれ……っち! メジャーさえあれば詳しいサイズが計れる物を……いやこれはこれで」


「―――ふん!」

 

「へぶぅ!!?」


 拳でレバーを殴られた俺は顔面から地面へと叩きつけられる。

 それだけにとどまらず、2回ほどバウンドして俺の頭を支点にブレイクダンス。 


「あ…しまった、腕輪をしたままだった」


 そのままテントをぶち破り外へと放り出された。

 そしてようやく勢いも収まり俺は地面に放り投げられるように身を投げだした。

 

「う…ぐぐ……ゴフっ! こ、殺す気かぁ……っ!」


 目がチカチカする。

 まるで火花が散っているようだ。

 おそらくHPもごっそり減っているに違いない。


「いや、そのスマン。だがお前もいけないんだぞ。嫁入り前の女性の体をベタベタと……」


「だからそれは錬成のためのイメージが大切で……げふぅ!!」


 口からただならぬ量の血を吐いてしまう。

 6番と7番がもっていかれたどころではないかもしれない。

 軍曹クラスの負傷なのではないだろうか。


「うわ、リュウ!? ちょ、ちょっとまてとりあえずコレを飲め!」


「ふごっ!」


 口の中に腰袋から取り出した良薬草の束をつめ込まれた。

 上から下から大惨事だ。

 しばらくモゴモゴとソレを咀嚼していると意識がしっかりとしてきた。

 6番と7番も痛みが薄れていく。

 ………薬草って骨折も治せるのな。

 どんな働きをしているのかは知らないが、そのことがわかっただけ不幸中の幸いか。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「………大丈夫に見えるか?」

 

「ほっ、それだけ喋れるならもう大丈夫だな。いや、我ながら会心の一撃を放ってしまった。かつてない手応えだったぞ」


 幕ノうt……アイラがははは、とのんきに笑う。

 俺が抗議を込めてジロリと睨むと

 

「な、なんだ? 私も腕輪の存在を忘れて手加減が出来なかったが……そもそもリュウが乙女の身体に無遠慮に触ってくるのが悪いだろう、うん」

 

「うん、じゃねーよ! 涅槃が見えたわ!」


「それだけ喋れるならもう大丈夫だな、良かった。しかし良薬草の効果は凄いものだな、これからの旅に役に立つに違いない」


「そういう問題じゃないだろうが!」

 

 話題をすり替えようとしているのが見え見えだが俺はだまされない。

 

「………いや、だがなぁ。やっぱりああいうのは関心せんぞ? 男のそういう気持ちは理解できなくはないがちゃんと合意の上で手順を踏んでだな」

 

「俺は武具制作の為にサイズを測ろうとしただけだ!」


「うそつけ。あれは間違いなく邪な目的が混同していた。発情した獣のような視線を感じたぞ」


「…………そんなこと無い。知的好奇心がほんの少しだけ先走っただけだ」


「それを人はスケベ心というんだ」


「し、心外な!」


 ただちょっと役得は感じていたけどさ!

 少し魔が差してしまったという、ほんのおちゃめな出来事だったんだ。

 

「大体採寸なら私が自分でやれば良い話だろうに」


「……だからそれだとイメージが大切な錬成じゃモノが出来ないんだって」


「しかしなあ、私だって女で羞恥心くらいあるんだ。他にやり方を考えて欲しいぞ」

 

「むう………仕方ない、色々配慮をするべきか」


 アイラは竹を割ったような性格はしていても、女性だったということだろう。

 結局、採寸は数字を見ておおよそのモノを造ってソレを基準とする製法を取ることにした。

 

 

 

 

「げほ、げほっ………な、何故だ?」


 錬成の失敗によって爆発でHPとMPを削られた。

 台の上にあった鉄の腕輪は見事に消滅していた。

 

「昨日はこのやり方を繰り返して行ったら天目一箇神の腕輪ができたというのに」


 俺はとりあえず薬草を齧りながら考えにふける。

 

 とりあえず天目一箇神の腕輪の性能は凄まじいモノがあったので、もう一つ作っておこうと昨日と同じ錬成を繰り返してしたら失敗した。

 手順などはちゃんと記録をつけているため問題ないはずだ。

 いったい何故なんだろうか?

 色々頭を悩ませていると、ふと頭に天目一箇神の加護という単語がよぎる。

 

―――もしかして一点モノなのか?

 

 神の加護と言うくらいだ、そんなにたくさん作り出せても有り難みがないだろうし。

 もしかしたら昨日あれ以上錬成を行えなかったのも、そういう部分が関係しているのかもしれない。

 加護が付加すると手を加えられなくなるというのは可能性としてはありえそうだ。

 てっきり鉄を精錬してこれ以上ない位になったからああいった超性能のモノが出来たと勘違いしていたんだが。

 

「どうにも法則性が見つからないな」


 ぼやくように呟き頭を掻いた。

 とりあえず考えていても仕方ない。

 もう一度作ってみて、駄目だったら他の素材で他の装備を錬成していくか。

 そう決めて、俺は再び作業に没頭していった。

 

 


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