竜平、異世界に立つ
~~~~~~THANK YOU FOR PLAYING………END.
「くぁああ~~~っと」
そう画面にメッセージが流れ、30秒ほど見つめ、それ以上何も起こらないことを確認すると、大きく息を吐き椅子の上で伸びをする。
偶にこういう最後のメッセージから時間が経つと、新たな展開へ…というゲームもあったりするからチェックは怠れないのだ。
一ゲーマーとして『創り手から用意されたモノは全て消化すべし』というのが俺の信条だったりするのである。
「しかしまあ、聞きしに勝るクソゲーだったな、この会社は潰れたほうが世のためだろ」
俺は眠気をこらえながらもなんとかクリアし、欠伸を噛み殺す。
しかし覚悟していたとはいえとんでもないものを掴まされたものである。
発売して2週間も経たない内に値崩れを起こし、通販サイトジャングルの評価は星2つ未満という散々なタイトルである『Crash of destiny』、通称COD。
基本RPGであるが、まず世界マップがなく、かといってグラフィックが綺麗でもなく、自由度のない非選択方式の強制イベントの連続の上、発売前人気No.1の幼なじみ美少女剣士ヒロインが主人公の親友にNTRされて、主人公は未練を引きずりながらも二人を祝福し国を去り放浪するという喧嘩を売っているんじゃないかと言わんばかりのストーリー。
それでも、百歩譲ってゲームとして面白ければ許せるところだが、戦闘システムはロードが長い上にカクカク3Dのゴミ挙動。
用意されたアイテムも鉄の剣から最強の武器まで4種類しかないという16bit機でももっと豊富に用意するだろうという貧相さ。
隠しイベもなく一本調子で、ラストバトルでは「ブゲラぁっ!」と言い残し消滅していくラスボス。
クソゲーオブザイヤーぶっちぎりで大賞まっしぐらである。
「まあ、斬新っちゃあ斬新だったわけだけどな」
決して褒め言葉ではないが。
「俺はどんなクソゲーでも愛する男、乃木竜平……」
さりげなく自分アピールをしてみるが、虚しいことこの上なかった。
そうしてもうひとつ欠伸をして、辺りを見れば、カーテンから漏れる陽の光。
どんなクソゲーをも愛する俺は、如何につまらなくともやっている時はそこそこは楽しめたりする。
遊び方というのは人それぞれで、どんなゲームでも楽しみ方はあるものだ。
アラを探して掲示板で笑い話にしたりすることだって一つの楽しみ方ではあるし、あえて最弱武器の剣やネタ武器で撲殺して「コレほどの力が貴様らに……っ!」とかラスボスの断末魔を聞いてみるとか等など。
今回もそんなある意味しょうもないが意外に達成感が有る試みをしている内に徹夜をしてしまっていたらしい。
今日は幸い休日。
今年で満20才を迎える男としては寂しい限りの休日であるが、これが俺なりの休日の楽しみ方であるのだからしょうがない。
「さて…CODは終わったし、次はこれでもやってみるか?」
積み上げられたケースから一つのゲームを取り出す。
タイトルは『世界を股にかけるRPG~異世界冒険記~』。
もうこの時点で地雷臭たっぷりであるが、俺のとっては逆にスパイスとなる。
不思議なことに発売年数が明示されておらず、掲示板でもそんなゲーム知らない、検索をかけてもHITしないという摩訶不思議なゲームだ。
ワゴンで100円で見つけたというワンコインゲームソフト。
俺のクソゲー魂に火をつけるには十分なシロモノであり、衝動買いしたのである。
「ま、最新ハード対応ってことはそれ程古いソフトじゃないんだろうけど……」
それでいて既にワゴンで100円、話題にもなっていないという素敵すぎるゲームだ。
俺はある種の屈折した楽しみを覚え、ゲームをセットし開始する。
しばらくして知らない会社のロゴが流れ、曲とともにゲームが始まるが、
「おお、いきなりキャラメイキングから始まるのかよ」
タイトル画面すらなくOPムービーもなしと来たか。
御託はいいんだよ! さっさとはじめろや! という挑戦的な造りに清々しさすら感じてしまいそうだ。
「名前はリュウ、と。種族は……まあ人族でいいか。性別はともかく身長体重も入力するのか? 反映させるとキャラの体格も変わるのか。意外に凝ってるじゃんか」
画面には顔のパーツや体格など様々な入力項目がある。
俺は基本的に主人公キャラにはリュウと名前をつけている。
本名が竜平だからリュウ。
結構感情移入をしてプレイするスタイルなのである。
そうして様々な項目を埋め、キャラを決定すると次の画面へ移行した。
「へえ、スキルなんかもあるのか。ユニーク、パッシブ、アクティブ……色々細かくステータスも分類されてるし、本格的なARPGなのかねぇ」
入力した数値を元に作り出されたキャラの性能はこうである。
名前・リュウ
種族・人間
性別・男
身長・178
体重・63
―――ステータス
LV・1
HP・32 MP・8
膂力・・16 魔力・・9 耐久・・12
精神・・8 敏捷・・11 器用・・4
幸運・・20
―――スキル
パッシブ
『膂力Ⅰ』『幸運Ⅱ』
『夜目』『感応』
アクティブ
『剣技Ⅰ』
『火炎Ⅰ』
ユニーク
『祝福』『奇跡』
→以降変更はききませんが、よろしいですが?
「? 数値を弄れば変更の余地はあるってことか?」
ステータスもそうだが、初期入力でスキルも数値が変動するのか?
そう思いもう一度違う数値を入れ、キャラ決定前の画面に移行させる。
名前・リュウ
種族・人間
性別・男
身長・160
体重・80
―――ステータス
LV・1
HP・59 MP・2
膂力・・19 魔力・・3 耐久・・21
精神・・4 敏捷・・15 器用・・2
幸運・・10
―――スキル
パッシブ
『会心の一撃』
アクティブ
『斧技Ⅱ』『格闘技Ⅰ』
ユニーク
『鑑識眼』
→以降変更はききませんが、よろしいですが?
「………変わったが、なんとなくドワーフみたいになったなぁ」
背を低くし、体重を増やしてみたらこうなるとは。
「特徴を作ると偏るってことなのか?」
今度は身長を高くして、体重を軽く入力してみる。
名前・リュウ
種族・人間
性別・男
身長・193
体重・59
―――ステータス
LV・1
HP・19 MP・28
膂力・・9 魔力・・29 耐久・・2
精神・・31 敏捷・・15 器用・・13
幸運・・4
―――スキル
パッシブ
アクティブ
『火炎Ⅰ』『風Ⅱ』『水Ⅱ』
ユニーク
『精霊の加護』
→以降変更はききませんが、よろしいですが?
「貧弱だな~! まあこんなに偏ればそうなるだろうけど……全体的には優秀ではあるんだよな」
例えばスキル何かは平均的な数値を入れるより、偏らせたほうが強いのが現れやすいのだろう。
ステータスも尖るためか平均的に見れば優秀には見える。
「こういうゲームはゼネラリストよりスペシャリストのが扱ってて楽しいんだよな」
平均的に数値を伸ばすよりは、一点特化に伸ばしたほうが扱いやすいというのが俺の持論だ。
魔法も物理もどっちつかずの器用貧乏というのは、レベルを高くすれば強力なキャラになるのだが、低ければ容赦なく詰む。
やりこみ型の俺は低レベルクリアや最大ダメージを追求したりなどの楽しみ方も増えるため一点特化のが面白みがあるのだ。
「ま、さほど期待してるゲームでもないし、さくっと決めて……? ん? さっきとステータスが微妙に違う? スキルも…」
名前・リュウ
種族・人間
性別・男
身長・178
体重・63
これは自分自身のデータだ。
俺は感情移入型のゲーマーなので、こういうステはなるべく自分に近く設定しているのだ。
そしてここまではいいのだが、
「ユニークスキルに『良縁』なんてなかったし……ランダム性がある?」
そうして俺はポチポチと検証を続け、
「ステータスよりスキルを優先するのは当然として、パッシブやアクティブよりユニークのが貴重だよなぁ。出てこい出てこい……ユニークユニークっと」
そうして小一ニ時間程キャラ選択をいじっていると、
「………ふむん、これでいいかね」
最終的に決まったのは、
名前・リュウ
種族・人間
性別・男
身長・178
体重・63
―――ステータス
LV・1
HP・23 MP・7
膂力・・9 魔力・・7 耐久・・4
精神・・8 敏捷・・9 器用・・5
幸運・・6
―――スキル
パッシブ
『直感』『経験値Ⅱ』
アクティブ
『調合』『錬成』
ユニーク
『良縁』『鑑定眼』『観察眼』『言語理解』
→以降変更はききませんが、よろしいですが?
「なんか軒並みステが貧弱になってしまったけど、ユニークが4つもあればしょうがないのか? ………しかも生産職みたいだし」
こういうところは痛し痒しなんだが…まあやりこみはやるつもりだしな。
調合や合成なんて面白そうだし、まいっかね。
そうして決定ボタンを押すと、
『スタートボーナスを選んでください』
・基礎能力アップ
・スキルランクアップ
・ユニークスキル増加
「おお! もう一つユニークが増えるんなら選択肢は一つだな」
迷わずユニークスキル増加を選択する。
『ユニークスキル『メニュー閲覧』を追加しました』
「………メニュー閲覧? なんじゃそりゃ?」
ゲームのメニュー画面のことか?
そんなのが開けなかったらクソゲーどころか、バグの領域なのだが。
『では、貴方の異世界の旅が良きものでありますように……』
その瞬間、
「な……っ! なんだ急に目眩が……」
まるで意識が吸い込まれるようにブラックアウトした。
「マジかよ……」
そうして俺は気が付くと草原に立っていたのである。