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ランナードラゴンでGO!

「ランナードラゴンの雄が7頭に雌が13頭。

 死体が10頭分に革が6枚、骨が4本と爪が3本。

 上出来だな」


 玉座に座って今回の戦いの戦果を聞いた俺は、玉座の間に集まった配下を見回して笑みを浮かべてその労を労った。


「イグニフェル、この革で鎧は造れるか?」

いいい

「ふむ、3組、いや2組造るので一杯だろうが造れるな」


「死体の方をばらした場合はなん組くらいいける?」


「全てばらしていいのなら、そうだな。時間はかかるがもう15組はいけるだろうな」


「1頭で1、5組ってところか。フルでか?」


「当然フルでだ。実際に作っれば多少の差はあるだろうがそのぐらいだろう。他の素材を合わせたり部分鎧を作るというのならもっといけるぞ」


 結構造れるな。と言っても全部ばらすつもりもないんだよな。ハーレムで革鎧を使ってるのはカーリウスと……………………、いやカーリウスだけか。

 ん、あぁマイアも革鎧装備なのか。となるとバックスもか。


「よし、死体の方は3体ばらそう。革鎧をフルで2組とカーリウスの鎧をこの革で造り直してくれ。マイアとバックスの鎧も別個に造れるか?」


「それぐらいなら大丈夫だろう。恐らく、いや確実に1頭分余ることになるがそれはどうする?」


「そっちはフェンのチャイナドレスとコイトゥスのローブ、テスカと朱苑の服と梅絹の着流しに……………………、出来るか?」


「ふむ、まぁやってみよう。出来るかどうかは、ギリギリだろうがな」


「足りなかったらもう1頭ばらしてくれて構わないぞ」


「そうならんよう善処しよう」


「よし、骨と爪なんかは自由に使ってくれ。そっちの方は全部お前に任せる」


 そうしてイグニフェルに素材に使い道を丸投げすると、イグニフェルは楽しそうに笑みを浮かべて配下のドワーフに指示を出して素材を運ばせ始めた。


「よし、マイア、バックス」


「「はっ」」


 名前を呼ぶと一歩前に進み出て跪く2人。生まれて間もないから仕方がないのかもしれないが、まだ堅いなぁ。


「いきなり悪いが、お前達にはランナードラゴンの調教をしてもらう。ランナードラゴンを俺やフェン達の騎乗用としてしっかりと仕付けてくれ。それとランナードラゴン用のスペースも作るからあいつらの繁殖も可能かどうかも試してほしい」


「かしこまりました」


 2人の表情が強張ってるなぁ。いきなりの大役でもあるし仕方がないとは思うけど頑張ってくれよ?


「さて、他のみんなも今回はよく頑張ってくれた。今日はもう休んで明日からいつも通りに動いてくれ。解散」


 解散宣言を聞いた配下達が一礼し練習でもしているのか揃った動きで退場して行き、玉座の間には俺の他にランナードラゴン戦に参加した俺のハーレムのメンバーが残った。


 うん、なんかやばそうな雰囲気。


「さて、主様?」


 フェンの俺を呼ぶ声がちょっと怖いです。


 あ、カーリウス何で玉座の間の扉の鍵を閉める?朱苑も梅絹も何で扉の前で仁王立ちになるのかな?


「コイトゥスから話は聞かせていただきました」


 にっこり微笑みながらも温度の低いフェンの声。


 俺はこの後盾を放り捨てて戦ったことをこってりとお説教されるのだった。


 夜になったら覚えてろよ。






 朝だ、久しぶりに清々しい朝だ。

 俺はベッドの上の惨状を目に入れることなく、浴場へ向かい寝汗とその他諸々の液体を洗い流した。


 今日はもう皆起き上がってこれないだろうし、どうしようかね。


 食堂で担当のメイドから朝食を受け取り、もはや指定席となっているテーブルへ向かう。

 本日のメニューはパンにレタスやトマトを中心にした野菜サラダ、カリカリに焼いたベーコンに目玉焼きである。どれもこれもこの拠点で作られた物だ。パンは市場で購入し育て増やした麦から作られており、サラダに使われている野菜も拠点の畑で主にゴブリン達が汗水流し結晶だ。ベーコンと目玉焼きもゴブリンとコボルトが世話している豚と鶏が元である。

 これらの料理を見るたびに思い出すのはここに来てしばらく食べ続けた菓子パン惣菜パン。菓子パンの方が比率が高かったような気もするがそれはともかく、あの頃からは想像すらできないほど改善された食事事情。どれも配下の魔物達の頑張りがあったからこその結果と言える。皆には感謝しないとな。


「うん、美味い」


 調理場のリーダーだというメイドが試行錯誤の末に完成させたというドレッシングをかけたサラダに舌太鼓を打ちながらここでの生活に想いを馳せた。






 ランナードラゴンとの戦いから1月ほど、あれから新たにランナードラゴンを見つけることはなかった。第2階層でもあれからダークエルフは見つかってないし、これらは初期配置以降リポップはしない魔物なのだろう。

 森の探索は第4階層へと至り、草原もまたイグニースの率いる騎甲

兵団(俺命名)と、アピスの宝玉蜂騎士団の活躍のお陰で第2階層へと到達している。やはりあのだだっ広い草原のダンジョンを探索するには足の有無は無視できない事柄のようだ。


 そして本日俺は草原へとやって来ていた。ランナードラゴン戦以降は時おり気分転換に訪れていたのだが、今回はそれが目的ではない。


「グルルルゥ……………………」


「おうよしよし、お前も思いきり走りたいよな。けど今日は我慢してくれよ」


 そう言って俺がペチペチと叩くのは甘えるように顔を擦り寄せてくるランナードラゴン(雄)。マイアとバックス達調教係が調教したランナードラゴンだ。その背にはイグニフェルとコロナの合作である鞍が着けられており、また胴にも鞍と一体型の装甲を着けていて、頭部、脚部も保護用の兜と脚甲を着けさせている。これに鎧をアイアンリビングメイルなどを跨がらせたりすればさながら竜騎兵のように見えただろう。残念ながら跨がるのは俺な訳だが。


「主様、こちらの準備も整いました」


 そう声をかけながら近づいてくるのは、同じような鎧を身につけたランナードラゴンを連れたフェンである。そしてその後ろには同じようにランナードラゴンを連れたコイトゥス、テスカ、朱苑、梅絹、そしてマイアの姿があった。

 今日はこれから調教の終わったランナードラゴンに騎乗して軽く草原を回ってみることになっているのだ。因みにここにいないのは宝玉蜂騎士団を率いて草原を飛び回っているアピスのみで、カーリウスはランナードラゴンは連れていないがマイアのそばに立っている。彼女はマイアのランナードラゴンに相乗りして斥候役を担うことになっているのだ。


「よし、早速乗ってみるか」


 元の世界では乗馬の経験など無かった俺が、まさか異世界でドラゴンに騎乗することになるとは御釈迦様でもわかるまい。


 俺が乗りやすいよう屈み込んだランナードラゴンの手綱を握り、鐙に片足を掛けてよっ、と一声上げて地面を蹴る。まるで自転車に跨がるように、しかしあきらかに違う感覚でランナードラゴンに跨が両足がしっかりと鐙に入れられていることを確認して騎乗したランナードラゴンの背を叩いた。


 準備ができたという合図を受けたランナードラゴンが立ち上がり、俺の視界が今までにないぐらい大きく開けた。


「おお、こいつはすげぇ」


 拠点の牧場でちょっとした訓練としてこのランナードラゴンに騎乗はしているものの、拠点の牧場と草原では広さが、視界の広大差が違う。なんとも言えない感動に襲われ、俺は呆然とそう呟いていた。


「世界が変わって見えますわ」


 側までランナードラゴンを寄せてきたコイトゥスが普段見ないようなどこか興奮した様子で言葉を溢すと、フェンや梅絹などが同意するように頷いた。


「しかり、少し視界が高くなっただけでこうも違うとは。いやはや世界がどこまでも広がっていくような錯覚を覚えるのぉ」


 首を背中側に向けながら甘えてくるランナードラゴンをあやしながら梅絹もまた興奮した様子で周囲を見回している。


「御館様ぁ早くいきましょうや。俺もこいつも早く暴れたくてウズウズしてるんだ」


 のっしのっしと歩いて来るこの中でも最も大きなランナードラゴンに跨がっているのは朱苑だ。彼女の得物は大きくそして重たいため、騎乗しているランナードラゴンもまた捕獲したランナードラゴンの中でも最も力の強いランナードラゴンが与えられていた。力が強い半面気性も最も荒いのだがどうやら朱苑とは気が合うらしく大人しく従っている。

 レベルや総合的なステータスが最も高いのは俺のランナードラゴンなんだけどね。今度こいつらにも命名してやらなきゃな。


「そうだな、けど今日は軽く回ってみるだけだからな。戦闘は極力避けるってことを忘れるなよ」


「あぁ、そういやそうだった」


 あからさまに落胆する朱苑に苦笑しつつ、俺はもう一度全員が騎乗できていることを確認して視線をマイアとカーリウスに向ける。


「それじゃぁ、先導役は任せたぞ」


 マイアとカーリウスが頷き二人の跨がるランナードラゴンが静かに歩き始め、俺達のランナードラゴンもその後について歩き始めた。

 回を重ねてランナードラゴンに慣れることが目的のため、今回はこの調子で草原を軽く回る予定となっている。


 今のところランナードラゴンがゆっくりと歩いているためか身体が上下に揺れることもなく、乗馬体験でポニーに乗るかのような(向こうでもそんな体験したこと無いが)のどかな雰囲気での道行きとなっている。


 時折遠くから爆音が聞こえて来るのはイグニースかそれに同行しているフラムの魔法によるものだろう。今回の試乗については全員に通達し、イグニースの騎甲兵団とアピスの宝玉蜂騎士団に試乗に使うエリア周囲の敵を片付け敵を近付けないように命令してある。

 この音はその命令が忠実に実行されている詳細だろう。少し張り切りすぎのような気もするけれど。


「気持ちがいいですね」


「そうだな。平和だねぇ……………………」


 遠くから聞こえる爆音を意識しなければ間違いなく平和な景色だろう。平和ゆえに暴れられず少々不満そうなお人も1名いるのだが、まぁそこは仕方がない。我慢してもらおう。


 そうして時間にして2時間ほどかけて草原を進み、草原のダンジョンの出入り口まであと少しといったところでついに朱苑が吠えた。


「御館様!」


「はははは、はいはい」


 身体を動かすことが大好きな彼女にとって、とろとろと歩くだけというのはやはり大分ストレスがたまるらしい。ここまでよくおとなしくもったというべきかもしれない。


「マイア」


「なんでしょうかダイチ様」


 俺の呼び掛けに少し先を先導していたマイアがランナードラゴンを寄せながら問い返してくる。その背後に跨がるカーリウスは先の朱苑の声が聞こえていたのだろう小さくため息をついて視線を彼女へと向けている。


「魔法陣まで後どれくらいだ?」


「このまままっすぐに進めば10分ほどで到着しますが、なにかございましたか?」


「10分か。

 いやこうやって歩いてるだけだったから朱苑が痺れを切らしちゃってさ。

 あとはただまっすぐに進むだけならこいつらを走らせてもいいかと思ってな」


「そういうことですか。えぇそれならこの子達も喜ぶと思います」


 自分の跨がるランナードラゴンの首筋を撫でてやり、甘えた声を上げる亜竜にマイアもまた優しく手を這わす。ちらりと視線を背後に向ければ許可がおりるのを今か今かと待ち遠しそうに、乗騎とともにそわそわと身体を揺する朱苑の姿が見える。


「よし、それじゃ聞いての通りだ。皆最後は存分にランナードラゴンを走らせてやれ!」


「よっしゃぁぁぁぁっ。御館様ありがとうございます!」


 俺の言葉に真っ先に飛び出したのはやはり朱苑だった。跨がるランナードラゴンの腹に蹴りを入れて一気に加速させると金棒を片手に掲げて俺達を追い抜き先頭を走り抜けていく。


「全くあの子は……………………」


 その様子に呆れた声を上げるのは俺のハーレムのまとめ役が特に板ついてきたフェンである。深いため息とともに頭を抑える彼女に苦笑しながらテスカとコイトゥスが追い抜いていく。


「朱苑は私達が付きますので」


「フェンさんは御主人様と一緒に」


 喜声を上げて爆走する朱苑を追いかけていく2人を見送った俺は、残ったフェン、梅絹、マイア、カーリウスを見回して肩を竦めた。


「俺達も行こうか」


 全員が頷くのを確認し、俺もランナードラゴンを走らせた。のだが……………………。


「うぉっ!?」


 走り始めは問題なかった。徐々に加速して行きランナードラゴンの身体が上下に大きく揺られることもなく、騎乗したままでの戦闘もこれなら簡単にこなせると思った。それから数秒と待たずにそれが幻想であると思い知らされることとなった。

 それまでと変わらずランナードラゴンの身体が上下に大きく揺れることはなかったが、ランナードラゴンが一歩踏み出す度に大地を踏み締める反動である衝撃が突き上げとなって俺に襲いかかってきたのだ。


「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!」


 思っても見なかった衝撃に俺の身体が浮き上がる。半ば反射的にランナードラゴンの胴を挟む脚に力を込めた自分を誉めてやりたいが、それも焼け石に水。堪えきれずに俺の身体は跳ね上がり落馬(落竜?)しそうになり身体を倒してランナードラゴンの背に抱きつき身体を固定してなんとか落ちるのを回避する。のだがそれはさらなる悪手だったようだ。俺を背に乗せたランナードラゴンは騎乗者が伏せたことをどう判断したのか、ちらりと視線をこちらに向けると嬉しそうに嘶きさらに加速したのだ。


「主様!?」


「ダイチ様、伏せてはいけません!!」


 後ろから聞こえるフェンとマイアの悲鳴じみた声が届くが、今の俺にそれに応える余力はなかった。というかやっぱり伏せちゃダメだったか。どうせ死んでも生き返れるんだし素直に落馬すればよかったかも。


 ランナードラゴンが加速する。先を走っていた朱苑達を追い抜き一直線に。






 俺がランナードラゴンから落馬することになったのは魔法陣の横を駆け抜けイグニースやアピス達が安全を確保しているエリアを飛び出し、未だに未見であったモンスタープレイリーハンターという地に隠れたモンスターと遭遇したときだった。














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