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飽きた

 タイターン戦で死に戻ってから(正確にはその後の宝箱のトラップで)そこそこ経った。あの後俺は三度始まりのダンジョンに挑み、今度こそ死にも取りすることなく第4階層も突破することができた。

 さすがに3回も宝箱のトラップで死に戻ることはなかった。本当によかった。

 タイターン撃破で手に入ったアイテムは『闇鎧ダークネスア』という闇属性の中装鎧だった。タイターンからドロップする物が鎧なのか、闇属性の装備なのか、それとも属性付加アイテムなのかはわからないが、そのうちアロス達で普通に勝てるようになったらそこら辺も確かめてみようと思っている。


 森の攻略も順調に進んでいる。すでに第2階層はクリアしており、第3階層もマップの半分を探索済みだ。第3階層に出現する魔物は全長3mはあるキラーマンティス。木々から半透明の身体を晒す精霊のドリアード。アダルトなファンタジー物では生殖豚として有名かつ大人気なオーク。精神系の魔法を使ってくる厄介な魔物、パン。泥をそのまま適当に人形へ固めたような悪趣味な造形のノーム。こちらは多少弱体化しているが 、始まりのダンジョン第2階層でフロアボスを勤めていた狼男。他にも前の階層でも出てきたトレントもおり、少しずつではあるが手応えのある敵が増えてきている。


 だが……………………。


「飽きてきた」


 何がかって?いつでも薄暗い森の風景にだ。魔王育成プログラムを受けはじめてからどれくらいの時間が経ったのかわからないが、娯楽の少ないここでの生活に、単調な風景を見続けるという行為が苦になってきたのだ。


 始まりのダンジョンを攻略していた頃は今以上に単調な風景だったが、あの頃は始まりのダンジョンに挑むことそもっとも刺激的だったためにそうは感じなかったのだが、さすがにこれだけの時間が経てば慣れてしまう。せめてもう少し娯楽があればと思うのは娯楽に道溢れた日本という国に生きてきた俺の悪い性なのだろうか?


 ん~、このままだとダンジョンに赴かずにフェン達との自堕落な生活に耽ってしまいそうだ。これを打開するにはどうすればいいのか……………………。


「他のダンジョンを解放するか」


 幸いここのところは新しい配下を作成したりせず、俺のレベルアップ以外にエナジーを消費していないためかなりの量が残っている。2つ3つダンジョンを解放しても余裕がある。


 そうしよう。問題はどのダンジョンを解放するかだけど……………………。まず山は却下だな。山なんて森に傾斜がついたぐらいしか差異がなさそうだし。洞窟も却下だ、始まりのダンジョンに森と狭っ苦しいダンジョンが続いているのだ。次はもっと開放的な場所がいいな。となると草原かな?


 海とかあればな~、そうすれば浜辺でみんなとキャッキャウフフと楽しめたのに。いや、キャッキャウフフなら渓流とか川のある場所ならできなくもないか。でもキャッキャウフフは海だよな。


 まぁいい、取り敢えず今回は草原を追加しよう。






 そんなわけで解放した『草原』のダンジョン。

 上を向けばまるで吸い込まれそうなほどに青い空と、そこを昇る太陽と流れる雲。視線を下ろせば一面を緑に覆われた大地が緩やかながらも起伏をつけながらも地平の彼方まで続いている。


 ……………………そう、続いている。


「広いなぁ、おい!」


 本当に広い。所々に木や茂みがポツンと存在している以外は何もなく、地平線まで見えるくらい広い。いったいどれくらい広いんだ?


「御主人様、私の眷属を放ちましょう。いくらカーリウスの兄弟たちとはいえこの広さは……………………」


 アピスはそう言って言葉を濁し、カーリウスが睨みながらもなにも言わないのはそれが正しいからだ。

 このような広い場所で斥候に必要なのは機動力だ。当然隠密能力も必要だが、それ以上に機動力が重要になる。何せこれだけ見晴らしがいいのだ、斥候役は長距離を素早く移動し情報を集めて持ち帰る必要が出てくる。カーリウスの兄弟達は隠密能力が高く身軽であるがために森では縦横無尽に動き回って貢献してくれたが、特別足が早いわけではなく、この草原ではその身軽さを活かすことができないだろう。


「そうだな、今は取り敢えずアピスの眷属に斥候役を頼もうか。

 急ぎ新しい斥候役を用意する必要があるな。それに俺たちの足も……………………」


 森や始まりのダンジョンのような狭い場所から、もっと広い場所に行きたくて解放した草原のダンジョンだったが、さすがに広すぎるだろ。こんな広い場所を何の乗り物も無しに移動するのはいくらなんでもごめん被る。


「イグニースのフレイムホースのような騎乗用の魔物が欲しいですね」


「そうだな。けど無い物ねだりしてどうなるわけでもない。しばらくは自分の足で回ってみて馬なりなんなりを用意しよう」


「馬、かぁ。俺と俺の得物を一緒に乗せられるような奴だといいんだけどな」


 苦笑しながら持ち上げられる巨大な金棒。

 うん、確かにそういうところも注意して用意しなきゃだな。世紀末覇者の愛馬がごときごっつい馬が必要そうだけど。


「この草原でそういった魔物や祖体になる魔物がいるといいのですが」


「いなければ市場で探してみよう」


 馬系の魔物か、訓練されているなら馬そのものでもいいな。それを素材に配下作成をすればいいんだから。


「しかし、騎乗用の魔物となれば今までの配下の魔物ようにただ戦わせる、というわけにもいきませんわね。騎乗用に訓練する者が必要かと……………………」


「然り、今後騎乗用の魔物が増える可能性も考慮すれば、それも複数抱えておく必要もあるじゃろうな」


「そうですねー。地海空、森、砂漠これからいろんな地形を攻略するんですし、騎獣の種類も揃える必要がありますよね」


「ダンジョン1つ解放するだけで課題がドカンと増えたな」


 なにせ今だけでも新しい斥候役と騎獣の準備。騎獣の世話役に種類の用意だ。

 配下にしろ騎獣にしろいいものを作成するには1度じっくりと研究する必要があるだろうな。取り敢えず切りのいいレベル、次のスキルを覚えるのは55か、取り敢えずレベルが55になるまで草原の探索だな。


「よし、取り敢えず探索に行こう」


「はい」






「ぬぅお!?」


 奇声とともに掲げた盾を振るい、俺はのしかからんと縦の上から体重をかけてきた獅子型の魔物を後方へと投げ飛ばした。


「おいおい、本当に第1階層かここは?森の魔物と比べると大分手強いじゃないか」


「……………………森の魔物は基本身を隠すのに長けた者が多かった。けどここは隠れられる場所がかぎられています」


「隠れることができない故に、その分のリソースが身体能力に割り振られているだけで総合的な能力は変わらないということじゃろうな」


 梅絹の予想を聞きながら投げ飛ばした獅子型の魔物、グラスライオンに向き直る。全身を緑がかかった毛皮で覆い、特に深い緑色の鬣を持つ雄が1頭に、雌が26頭の群れだ。

 1頭の雄に雌が群れている姿は元の世界のライオンそのものだな。


「ダァァァァァァァッシャァァァァァッ!」


 グラスライオンへと駆けた朱苑が金棒を力任せに振り回すが、グラスライオンは軽やかに身体を舞わせ余裕の体でその攻撃を回避して見せる。


「ごめん遊ばせ」


 しかし、金棒を避けて着地したグラスライオンの前にアピスとカーリウスの2人が強襲する。

 朱苑の背後に身を隠していた2人はグラスライオンが地を蹴るとともに隠れていた朱苑の影から飛び出し、着地したばかりのグラスライオンへと迫り自身の得物を振るう。

 アピスのレイピアが額を穿ち、カーリウスの短剣が喉を掻っ切る。猛毒を備えた刃を受けたグラスライオンは案の定毒への耐性など持っていなかったらしく、身体を痙攣させて倒れ付した。


「毒は十分効くか。確かに総合的な強さは変わらないのかもしれないな」


 俺たちを円を描くように動きながら囲むグラスライオンを睨み付けてウィクトリアを握りしめる。


「とはいえ油断すれば首を掻ききられることになります」


「ごもっともだ、1頭1頭確実に仕留めていくぞ」


 雄の咆哮を合図に雌達が地を蹴る。向かう先は当然俺たちだ。


「朱苑、後ろのを牽制しろ」


「倒しちまってもいいんだろ」


 その台詞は死亡フラグだ。こんな雑魚相手死亡フラグとか止めてくれ。


「ネタは別の時にしてくれ!」


「え、ネタ扱いかよ!」


 死亡フラグ発言したら本当にそうなっちゃいそうだからな。


 実際朱苑じゃこいつらに攻撃を当てるのは難しいだろうし、あながち間違ってないと思う。当たれば一撃で仕留められるのだろうが、当たらなければどうということはない、である。まぁ彼女の防御力を考えれば、えぇい!あの鬼族の女は化け物か!これだけの攻撃でも!となる可能性もあるが。


 あ、どっちも赤だ。


「グゥガァァァァァァァァァァァァッ」


「っと、アホやってる場合じゃなかった!」


 飛びかかって来たグラスライオンの一撃を盾で受け止め、反撃を行おうとしたところにさらにもう1頭が飛び込んできた。とっさにウィクトリアを防御に回して攻撃を防ぐが、これで俺の手は封じられることになった。


「主様!」


 さらに死角から飛び出してきたグラスライオンの喉をフェンの鉄棍が打ち上げ、蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたグラスライオンと入れ替わるように襲いかかって来た雌ライオンの一撃を棍を地に突き刺すようにして跳躍、棍を手放し一撃が空を切った敵の首に腕を絡めて極め、地面に押さえつけると同時に軽々とへし折った。


「お見事です!」


 仕留めた獲物の上から立ち上がろうとするフェンへ当然グラスライオンが襲いかかるが、それをテスカが迎え撃つ。素早く繰り出された刺突の雨がグラスライオンに幾つもの傷を穿つ。たまらず後退する敵を追うことなく口許に槍の穂先を近づけると、テスカは躊躇わずにそこに付着した血を舐め取った。


「БЗПМГИЙυπθждЩбкгШЬЫЩТгаФШвпйбсьыршюыоксэщрпдНаХФЩНФЖБυφωζδβζ……………………」


 そしてよく聞き取れない言葉で何かを呟き始めると、傷ついたグラスライオンの周囲を黒い靄が覆い縛りつけ始めた。


「呪術か」


 その様子を横目に確認しながら2頭のグラスライオンを力任せに突飛ばして俺自身も後退する。


「ウィクトリア!」


 精神感応のアビリティを持つウィクトリアにはこれだけで十分。ウィクトリアの補助魔法によって全身に力がみなぎってくる。それを実感しつつウィクトリアを振りかぶり、その刀身に炎が纏う。


「魔導剣!」


 兄弟な炎の斬撃が体勢を立て直そうとしていたグラスライオンを一瞬で蒸発させる。ウィクトリアも魔力が上がってきてるためか、魔導剣の威力が大分上がっているな。


 よし、この調子で仕留めていこう。


「御館様ぁぁっ!」


 次の敵をと前方に注意を向けたところに届く朱苑の悲鳴じみた声。彼女がやられたのかと振り向きながら気配察知で感じ取った気配がそれを否定。振り返った俺の目に入って来たのは今まさに飛びかかって来たグラスライオンの姿。


 朱苑が抜かれたのか!


 朱苑とその周囲にまだ多くの気配があるのが気配察知にて確認できることから、抜かれたのはこの1頭だけなのが分かる。分かるがそんなことがわかっても意味がない。咄嗟に襲いかかって来るグラスライオンを迎撃しようとするがそれは間に合わず、首筋に噛みつこうとするところに腕を割り込ませるので精一杯だった。


「……………………ッ!!」


 グラスライオンの牙が腕に突き刺さり、激痛が走った。現在俺が装備している闇鎧ダークネスアは籠手や足甲が無く、新たに作ろうとイグニフェルに言われていたのだが重いからと断っていたのが完全に裏目に出た。


 激痛に歯を食い縛り、声を漏らさずにはすんだものの、俺はそのまま地面に押し倒された。俺の右腕に噛みついたままグラスライオンが前足を振り上げ、鋭そうな爪が光るそれを降り下ろしてくる。


「グゥッ、調子に、乗るな!」


 エクストラアビリティ『雷光師』。あのタイターンとの2度目の戦いで取得したエクストラアビリティを発動させる。全身から放たれる電撃が、自ら俺に噛みついているがゆえに避けることのできなかったグラスライオンを襲う。


 俺に噛みついていた牙から力が抜けて、その巨体が崩れ落ちながら光の粒子となって散って行く。


「御主人様、ご無事ですか!?」


 慌てて飛んでくるコイトゥスを手で制し、朱苑へと視線を向ける。彼女が相手取っている敵の数は現在7体。抜けた奴も入れれば8体ものグラスライオンを相手していたことになる。現状の7体が相手でも時おり抜かれそうになるの必死に抑えているようだ。これは彼女だけに足止めを任せた俺のミスだな。


「カーリウス、朱苑の援護だ!」


「……………………御意」


 アピスとともに5体のグラスライオンと戦っていたカーリウスが、一瞬の隙をついて毒が塗られたダークを放ち、敵の目を穿った。

 その結果を確認すること無く踵を返したカーリウスは、1人で敵を押さえる朱苑の下へと走り、意識が朱苑へと向いていたグラスライオンの1頭を不意打ちで仕留めてそのまま彼女の援護に入る。


「御主人様、傷の手当てを」


「ん、あぁ、頼む」


 フェンとテスカ、梅絹が周囲を固める中でコイトゥスの治療を受けるおれは、ズキンズキンと痛みを発していた傷が塞がれていくのを感じながら、根源魔法でグラスライオンを攻撃するのだった。








話のストックが切れましたので、またしばらく書き貯めたいと思います。出来る限りのこのお話を楽しみにしてくださっている読者の方々に忘れられない内に戻ってきたいと思っていますので、どうかまたよろしくお願いします。

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