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油断大敵・調子に乗った者の末路

 戻ってきたテスカは外套の代わりに毛皮で作った胸覆いと少々丈の短いスカートを履いていた。腰には2振りのショーテルが下げられており、槍は鋼の手槍を作成中らしい。他にもコンボジットボウと吹き矢も作成してもらっているようで、暫くはショーテルだけで戦うつもりらしい。


 テスカを連れて工房を後にした俺は、拠点の案内もかねて畑へと向かいマザープラントの様子を見てみることにした。


「大地様、ようこそおいでくださいました」


 マザープラントの世話をするダークエルフの監督をしている狼娘メイドの出迎えを受けながらマザープラントを見上げてみるが、まだ最初の配下は生まれそうにないか。


「まだ時間がかかりそうか?」


「はい、素材となる死体の数も少なくまだ時間がかかりそうです」


「そうか」


 そういえば、死霊魔法で作り出したスケルトンも素材として活用できるんだし、ストックしてある全身骨格もマザープラントに与えるか。


「素材庫にあるスケルトンの死体(アンデット自体が死体という意見はスルーで)もマザープラントに与えておいてくれ」


「かしこまりました」


 メイドがダークエルフを連れて全身骨格を取りに行くのを見送ったところで、素材集めに動いているワイトに今後アンデット系の死体は全てマザープラントに与えるように伝言しておけばよかったことに気付いた。

 仕方ない、後で別のメイドに頼んでおこう。


「さて、次にいくか」


「はい」


 元気に返事をするテスカに対して俺はあくびを噛み殺す。さすがにそろそろ眠くなってきたな。あとの案内は他のに任せるか。


 そうと決めた俺はテスカと共に浴場へと向かった。さすがにフェン達もすでに上がっていたが俺はそのまま恥ずかしがるテスカの手を引いて浴場へと入っていった。


 ん、うちは全浴場混浴よ?






 なんとも爽やかな朝だ。気分がスッキリしている。俺の回りには見るも無惨な姿になった女達の姿もあるがな。


 先日寝る前に風呂を浴びた俺だったがそれで目が覚めてしまい、最初はただ寝るだけのつもりだったのが、テスカもダークエルフの姉妹も巻き込んだ(大自主規制)と相成った結果、サキュバスであるはずのコイトゥスを含めてK.Oしてしまった。今日は動けないかもしれないな、皆。


 てかまたエクストラアビリティ増えてるし、なんだよ『せいぎのみわざ』って。


 若干ひきつった笑みを浮かべているメイドに彼女達の世話を任せて玉座の間に向かった俺は、エナジーの残量を確認してからレベルアップ処理を行った。


 さて、フェン達が動けないとなると今日の森の探索は中止だな。さてどうするか。


 当面自分のレベルアップを優先するつもりだったのでレベルアップを行ったが、これでエナジーが大分減っている。配下作成実験を行うには少々心許ないか。


 困った、出来ることが一気に減ったな。


 ……………………久しぶりに始まりのダンジョンにいくか。1人で第1階層から第4階層までどれくらいでクリアできるか挑戦してみるのも面白いかもな。よし、そうしよう。


 玉座の間から食堂へ移動し手早く食事を終え、軽い弁当を作らせてから転送の間に向かう。


 最初は玉座の間に、その次は転送の間の奥にあった扉から出入りすることのできた始まりのダンジョン第1階層。ダンジョンの踏破をなした直後その扉は消えてしまい、今では第1階層でも転送用の魔方陣を使用しなくてはいけなくなった。


 別にそれが手間だというわけではないが、でもやはり最初からあった物だけに寂しい思いがある。


 無くなったものはもう俺が何をしようともうどうしようもないんだけどな。


 なんとなく切なくなったのを感じたのか、背負った鞘の中でウィクトリアが震え、キィィィィン、と澄んだ音を響かせる。


 苦笑しながら柄を叩いて答えてやり、俺は始まりのダンジョン第1階層へと続く魔方陣に足を踏み入れた。






 ここに来るのも随分と久しぶりだな。


 脳裏に思い出される初めてダンジョンに入った時の記憶。あの時手にしていたのは銅の剣で、俺1人だけだった。

 だが今の俺の手には魔剣ウィクトリアがあり、ウィクトリアこそが俺の相棒である。


 鞘からウィクトリアを引き抜いて左右の道に視線を向ける。


 正面の道にはゴブリンが待ち構えており、左の道には大蠅、右の道には狼が。各階層にいる魔物は全種類仕留めていくか。


 そう決めて最初は正面の道を行く。初めてダンジョンに潜ったときと同じだ。


 少し歩いた先でゴブリンが出てくるのも同じ。


「ギギィィィィィィッ」


 カッパーダガーを手に奇声を上げて飛びかかってくるゴブリンに対してウィクトリアを振るう。

 対して力を込めずに振るったのだが、ゴブリンはカッパーダガーごと空中で真っ二つとなって俺の左右に落ちて光の粒子になり霧散し革の鎧が残された。


「ま、ゴブリンが相手ならこんなものか」


 ウィクトリアには油一つ付いていない。それを確認して革の鎧を拾いあげ、止めていた足を再び動かして道を進む。


 2匹、3匹と出てくるゴブリンを一刀の下に下して進んで行けばほどなくして俺が初めて死に戻ったあの広場にたどり着いた。俺は当然踵を返した。折角だし第1階層は全ルートを制覇しようと考えたからだ。


 転送用の魔方陣があるT字路に戻ってくるまでに復活していたゴブリンは僅か1匹だけだった。駆け足にどころか早足にもなってないんだけどな。最初の頃は往復する間に3、4匹は復活していたもんだけど、俺もそれだけ成長しているってことか。こんな些細なことだけど嬉しいもんだな。


 次に選んだのは左の道。現れるのは当然大蠅だ。


 天井近くをブンブンと羽音を立てて飛び回る姿に想わず苦笑してしまう。あの頃は体当たりしてくるのを待ってカウンターを当てる以外になかったものだが、今では……………………。


「ふんっ……………………!」


 僅かに呼気を漏らしながら跳躍し、頭上を飛ぶ大蠅の下へとたどり着きウィクトリアで真っ二つにする。空中で光の粒子になって霧散する大蠅がドロップしたのはカッパーダガーだった。


 落ちながらそれをキャッチして着地し、カッパーダガーを異次元ポケットに放り込んでため息1つ。


 魔法を使えばもっと手早く終わったのだろうが、なんとなくだが大蠅に魔法使うのは負けたような気分になりそうなので止めることにした。


 何に負けるものかって?自分自身にさ。


 同様の手順合計6匹の大蠅を倒しながら通路を往復した俺は、最後の通路に足を進めた。最後の通路、つまり、狼だ。

 俺が初めて敗北を屈した相手。多勢に無勢だろうが俺はあの時確かに狼に敗北したのだ。

 だが今はあの時とは何もかもが違う。レベルも装備も何もかもがだ。


 自然と笑みが浮かんでくる。それも微笑むとかそういった類いのものでは無く、もっと獰猛な笑みだったのだろう。


 最後の通路を進み遭遇した狼は……………………、腹を見せてゴロンと転がり服従のポーズを見せていた。






 なんじゃそりゃ


 思わず思考が停止してしまっていた。しばらくして再起動した俺は狼に近づき見下ろした後、しゃがみこんでその腹を撫でてみた。


「はっはっはっはっはっはっはっは……………………、くぅ~ん」


 どうやら先のゴブリンや大蠅とは違い戦力差というものを肌で感じ取り勝てないことを本能で理解したらしい。

 腹を撫でていると甘えたような声、というより甘えきった帰依をあげる始末だ。


「くぅ?」


 腹を撫でる手を止めると悲しそうな声をあげる。


「…………………………おすわり」


 ぼそりと呟いた一言に反応した狼が文字通り跳ね起きて目の前でおすわりをする。


「…………………………おて」


 差し出した手の上に狼の右前足が乗せられた。


「…………………………おかわり」


 今度は左前足が乗せられる。


「…………………………ふせ。おすわり。おて。おかわり」


 狼は言葉の通りに伏せ、座り、順番に前足を俺の手の上に置いた。


「…………………………頭いいな、こいつ」


 ……………………うん理解した。こいついつの間にか配下になってやがる。


 そのまま立ち上がり通路を先に進み始めると狼もまたその後をちょこちょことついて来るのでそこまま好きにさせることにした。


 そして先に進むこと件の広場。俺が初めて死に戻りした場所、なのだが……………………。


「「「「クゥ~~~ン」」」」


 回りには15頭の狼が尻尾をフリフリしながら俺のことを見上げていた。


 どうしてこうなった。


 通路を進み広場に到着するまでに遭遇した狼は、1頭も残らず腹を見せて降参し俺の傘下に下っていた。なんとも気の抜ける話だ。俺の意気込みを返して欲しい。


「はぁ、こんなにいたら攻略に邪魔だな」


 邪魔、の一言に狼達が反応し、一斉に耳が伏せられた。


「……………………全員拠点に戻ってなさい。拠点にいるメイドの言うことをちゃんと良く聞くように」


 さぁ行け、と本木た通路を指差すと、狼達は元気良く我先にと走り出した。


 あっ、という間に走り去っていった狼達にため息を1つ。ついて、改めてダンジョンの攻略を再開した。


 さて、狼の広場を抜けた先にあるのは……………………、大蠅の群れだっけ?


 思い出した瞬間げんなりしてしまうのは許して欲しい。何せどれだけレベルが上がろうと気持ち悪いものは気持ち悪いものだ。


 でやって来た大広間。案の定頭上を巨大な蠅がブンブンと羽音を立てながら飛び回っているのが見える。

 1匹ずつならともかく、この数を魔法抜きで1匹1匹ジャンプして仕留めるの面倒だな。


 右手に魔力を集中して根源魔法を発動。頭上を飛び回る大蠅達が濃い霧に包まれ、続けて放った電撃が霧の中を満たした。


 霧が晴れるよりも早く、合計10個の戦利品が霧の中から落下してきた。


「こんなものか。けどやっぱりこのレベルになっちまうと始まりのダンジョン第1階層は楽勝だな。負ける要素が見つからんな」


 はっはっは、と笑いながら戦利品を拾い上げるが、ドロップしたのは今では使い道のない銅製の武器ばかり。市場で売っても二束三文にしかならないし、配下も武器はすでに鋼製のものを使ってるし、本当に使い道がないんだよな……………………。

 せいぜい潰してインゴットにして鍛治レベルが低いやつの経験値稼ぎか?今さらうちにこれが糧になるような鍛治レベルの奴もいないけど。


 さて、次がフロアボスのゴブリンジェネラルか。さっさと終わらせて第2階層に向かうとしようか。






「ギギ、ギギィィィィィィッ」


 相変わらず奇声を上げて飛びかかってくるゴブリンの姿にため息がこぼれた。大剣を肩に担ぎ後方でふんぞり返っているジェネラルゴブリンを一瞥し視線を目の前のゴブリンに戻す。


 まずは雑魚を片付けよう。


 ゴブリンが武器を持つ手を振り上げるよりも速くその懐に飛び込みウィクトリアを一閃。ゴブリンの首がボールのようにポーンと撥ね飛ばされる。


「続けていこうか」


 首を撥ねたゴブリンが光の粒子となって消えて行くよりも速く、次のゴブリンの懐へと飛び込み今度は胴を真っ二つにする。さらに踏み込みその後ろで事態を把握できていなかったゴブリンを返す刃で切り捨てる。


 とにかく動く。敵が動くよりも速くとにかく動く。敵に近づきウィクトリアを振るう。


 そうやってゴブリンを切り捨て、瞬く間に周囲から取り巻きを排除して見せた。


「グルァァァァァァァァァァァァァッ!」


 ゴブリンジェネラルが怒りの咆哮を上げるのを聞いて、俺はそれを鼻で笑った。


「グルゥゥゥグルァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 ゴブリンジェネラルが大剣を構え走り出す。その姿は日本の剣術である示現流のそれに似ていた。似てるだけで中身は別物っていうか偶然似てるだけだろうがね。


 駆けるゴブリンジェネラルに対して俺もウィクトリアを構えて地面を蹴った。床にその切っ先が触れて火花が散る。


 敵の大剣と俺のウィクトリアが交差する瞬間、俺はエクストラアビリティの重力操作と超震動を発動させる。


 手応えは無かった。ウィクトリアは振り抜かれ、ゴブリンジェネラルの剣が俺に届くことはなくすれ違い……………………、背後でゴブリンジェネラルが倒れるのを感じた。


 振り返るとちょうどゴブリンジェネラルが光の粒子となって消えるところだった。


 そして残される大きな宝箱。


「……………………これが最初は5人がかりで苦戦した相手が今や1人で楽勝か。

 ふ、俺も成長したな」


 いやー、この調子なら全部楽勝かな?

 いや、さすがにタイターンもいるしそれはないか。


 うん調子に乗ってると足元掬われることになる。油断大敵ってやつだな。それさえちゃんと理解してれば俺に敗けは無い!


 さぁ、宝箱の中身を回収して第2階層に向かうか。


 ウィクトリアを鞘に戻し、ゴブリンジェネラルが倒れた場所に現れた宝箱の下へと向かいその蓋を開けた。






 俺の視界が真っ白に染まった。

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