悔し恥ずかし
転送用魔方陣でとんだ先はとても見覚えのある空間だった。というか拠点じゃないか、ここ?
「ご主人様、お帰りなさいませ」
拠点だな。
お腹の上で手を重ねて頭を下げる狼娘メイドにいつも通りに返しながら周囲を見回す。
まずは天井。コロナを初めとしたドワーフの細工師が造り上げたシャンデリアが吊るされ、きらびやかに輝いている。
数が増えてるな。それ以外はいつも通りか。
次は壁。見た目は石造りの普通の壁だ。目立った汚れもなく掃除は行き届いているようだ。ちゃんと仕事をしているようで何よりだ。
最後は床だ。広い空間にいくつもの魔方陣が並んでいる。塵1つ落ちていないのは今も目の前にいるメイド達が手を抜くことなく仕事をしている証拠だ。最近は人数不足が問題として浮上してきていると言うのに助かる話だ。
結論、やはり拠点だ。間違っても森の第2階層ではない。
「俺達が出発してから何か変化はあるか?」
特にダンジョン関連で、と付け足してメイドに尋ねてみることにした。
「はい、ございますよ」
そうだよな、ダークエルフの集落で魔方陣を使用した程度で拠点に変化が……………………、なに!?
「なんだ、なにがあった!?」
「はい、魔方陣が新しく追加されました。丁度ご主人様がお立ちになられている魔方陣とそのお隣の魔方陣がそうです」
なに?
調べてみると、今まで俺が立っていた魔方陣はダークエルフの集落への直通のもので確かに新しく追加されたものだった。
メイドを仕事に戻させた俺は改めて新しく追加されたもう1つの魔方陣に足を踏み入れた。
足元の魔方陣から上る光消えればそこは森の中だった。ただし第1階層とは違うことはすぐにわかった。なぜならその場所はいつもの場所と違い開けた空間ではなかったからだ。
「どうやら森では階層から階層へと往き来することができないようですね」
フェンの冷静な声を聞きながら俺は思い切り肩を落とした。
「カーリウス、アピス」
「「はっ」」
「テラとアイアンナイトを率いているシャドウメイルに伝令。捕虜を新しい魔方陣から拠点に移送。特製の檻車も魔方陣を介して蜜蝋の牢へと移動させろ」
「かしこまりましたわ」
「……………………御意」
テラ達に命令してたときは椅子のふんぞり返って格好つけてたってのに、行きなり命令変更とか格好悪すぎる……………………。
新たに設置された魔法陣から移送されてくるダークエルフ達。その首には魔封じの首輪が填められていて、完全に戦うすべが封じられている。
「完全に裏目に出たな」
森の第1階層にあった最初の転送用魔法陣からダークエルフの集落へと守りを切り開く作業は続行させている。ダークエルフの集落から拠点への直通の転送用魔方陣がある以上道を切り開く理由は無くなっているが、このまま作業を終わらせるのは何かに負けたような気分になるので意地でも道を完成させることにしている。
俺が裏目に出たと思っているのは当然この事ではない。俺がそう思っていること、それは……………………。
俺が捕獲した2人のダークエルフだ。蜜蝋の牢に収容したダークエルフの移送は手早く行われており、間もなく完了することだろう。しかしあの2人は先に最初の魔方陣へ向けて送り出しており、今どこら辺にいるのか分かっていない。
当然だ、彼らよりも後に拠点に戻る予定だった俺が先に戻っているのだから。
「なんか一気にやる気が削がれたわ。
道ができるまで探索は止めよ。そういうわけだから各自自由にして良いって伝えておいてくれる?」
「はい、かしこまりました」
去って行くフェンを見送った俺はその足を玉座の間に向けた。探索を止めたのはいいが、これでかなりの空き時間ができることだろう。件のダークエルフも届いていない以上本当にやることがない。
「そうだ、大分前から頓挫してエナジーに頼らない戦力の拡充について研究するか」
そう思い付いたら即行動だな。丁度近くにいたメイドに倉庫から適当に素材を運ぶように指示をだし、玉座の間に向かいながら異次元ポケットの中身の物色を始める。
「今のところ自然交配による増産は進んでないんだよな」
俺の配下にゴブリンやコボルトは雄しか居らず、繁殖力が強いと言われる彼らの本領はいまだに発揮されていない。まぁ、ゴブリンやコボルトが増えたところであまり期待はできないんだけど。例の蛇人と蜂人のカップルも聞いてみたがそこまで進んでいないらしい。子作りの許可は出してるんだけどね。
まぁこの手の戦力拡充は生まれた子供を育て上げるのにも時間がかかる。そのため一番好ましいのはアピスの眷属達のようなタイプだな。勝手に増えて短時間で使えるようになるタイプ。
実はそっちについては1つだけ案がある。成功するかどうかは不明だが。
玉座の間の中央に大量の素材が積み上げられる。各種毛皮や骨といったゴブリンジェネラルや狼男を含んだダンジョン内に出現する魔物達の死体まで様々だ。共通するのはどれもが生物由来の物ばかりということ。
そしてさらに山と重ねられた素材の上に新たな素材を置く。市場で購入していた各種植物の種と森の第2階層から帰還する直前に見かけたのでついでに倒したトレントの材木だ。この種と材木が今回の配下作成の軸となる予定である。
「スキル『配下作成』…………ぬっ!?」
うぉ、アロスの時以来のエナジーの消費量だ。かなり貯まっていたはずなのにどんどん持っていかれてる。
床に描かれる魔法陣にその中央に浮かぶエナジーの塊。そのどちらもが今までで最大規模の大きさだ。
これは期待できるかもしれない。
いつも通り魔法陣から立ち上る光が消えると、そこには人1人が軽く入ってしまいそうな大きな袋を1つぶら下げた樹が生えていた。
成功、か?
大量のエナジーを消費したんだ、これで成功じゃなけりゃ泣きたくなってくるな。
確認のためにその樹のステータスを開く。
名前はマザープラント。ステータスは生命力がSと過去最大の値を示しているが、他のステータスがオールでFとスライムを下回ってい
る。いや、生命力がSだからそこまで悪い訳じゃないのか?
こいつには戦闘力を求めてるわけじゃないしそこはどうでもいいか。
アビリティは……………………。
『エナジー変換』に『魔物栽培』…………………………。
来た。これだ……………………。
素早くアビリティ大全集上級編を取り出してそれを捲ると、その中にこのスキルについてが載っていた。
エナジー変換の方は魔物の死体をエナジーに変換して吸収するアビリティであり、レベルが上がるごとにその効率が上昇してゆき、植物系の魔物によく見られるアビリティらしい。
そして魔物栽培。これはかなり特殊でエナジー変換ありきのアビリティで、エナジー変換でエナジーに変換されたエナジーの一部を貯蓄し、ある程度たまることで魔物の実らせると言う植物系の魔物専用のアビリティだ。栽培される魔物はエナジー変換でエナジーに変換された魔物の種類や質によって変わるとのことだ。
最高だ、大成功だ。まさしく俺の望んでいたスキルだ。嬉しさに小躍りしそうになるのを堪えながらマザープラントを見ると、何だか心なしか元気が無さそうだ。そう思った瞬間魔物学によりマザープラントについてに知識を得た。
「こいつ長時間土から離れられないのかよ!」
生命力がSとかめちゃくちゃ高いくせにそれが発揮されるのは植えられている時だけとか。
俺は急ぎイグニフェルを呼び出すとマザープラントを畑に運ばせて丁度次の種を撒くために耕され空いていた場所にマザープラントを植えさせた。ゴブリンに指示を出して水を与えると、マザープラントはみるみるうちに元気を取り戻していった。
「ふう、危なかった」
しかしまいったな。配下作成と命名、アビリティの取得は玉座の間でしか出来ないんだよな。複製はどこでもできるけど、命名ができないのは痛い。
できないものは仕方がないか。幸いマザープラントを植えたのは畑の端だ。ここからさらに空間を拡張してマザープラントを複製するか。
複製はアビリティのレベルも同じになるし複製するのはもう少し成長してからにするか。
それとマザープラントの世話はダークエルフ達にやらせよう。ゴブリン辺りに監督させておけば屈辱やらなんやらが貯まって現状から抜け出そうとするのも出てくるだろ。その中で俺に忠誠を誓うのが出てくれば奴隷の地位から引き上げてやってもいいか。反逆する力なんて残ってないだろうけど、そういうのがいたら女はゴブリンに、男はサキュバスに与えるのもいいかも。たぶん連中にとってこれ以上に罰もないだろう。
後は死体の確保だな。素材屋は地味に高いからな。もう少し死霊魔法を使える配下を増やしたいな。とりあえず今はワイトを増やして対処させるか。
死霊魔法以外に死体を手に入れる手段がないか調べなきゃだな。
さて、エナジー結構消費したけど、あと2、3体は作成できそうだな。どうするか。
「ダイチ様~」
玉座の間に戻ろうと歩いているとどこか間延びした声がかけられそちらを振り向くと、なにやら長いものを抱えた見た目13歳ほどの少女が駆け寄ってくるのが見えた。少女は褐色の肌に金色の髪をツインテールにしており、見た目がより幼く見える。おまけに満面の笑みを浮かべているものだから見る人によってはもっと幼く見えているかもしれない。
「どうしたんだコロナ」
それは俺がハーレム要員兼細工師として作成したドワーフの少女であるコロナだった。
俺が立ち止まって問いかけると、彼女は短い足をさらに激しく動かしながら駆け寄ってくると、俺の前で急ブレーキをかけてそのままつんのめりそうになりながら立ち止まると、手に持っていた長いものを俺に差し出してきた。
「ダイチ様、ウィクトリアさんの鞘を作りました~」
言われて差し出された物をよく見てみると、それは確かに鞘だった。
サイズはウィクトリアにピッタリだ。大剣であるウィクトリアが引き抜きやすいように鞘の峰側は空いており、しかしそこから剣が零れ落ちることが無いように工夫もされているようだ。
だがその機能性以上に目を引くのは鞘の表面に施された細やかな細工飾りだ。芸術等にあまり詳しくない俺ですら感嘆の溜め息を吐いてしまうような精緻で緻密な飾りは、狼、蛇、蜂、蝙蝠そして金槌が描かれており、それが俺のハーレムを指していることは一発で分かった。
「これはすごいな。しかもこの細工は魔法陣の役割も兼ねているのか」
「はい~、ウィクトリアさんを鞘に納めると~、ウィクトリアさんの負っているダメージを回復してくれて~、ウィクトリアさんの魔力を吸収することで最大半径5m程の防御結界を張ることができるんです~」
本当に凄いな。
「よくやったな。さっそく使わせてもらおう」
背負っていた鞘からウィクトリアを引き抜き、鞘をコロナに渡してから新しい鞘にウィクトリアを納める。鞘の意匠とウィクトリアが絶妙にマッチして、元からそうあるべく作られた芸術品のようだった。
ウィクトリアもそれが嬉しいのか刀身から甲高い音が響く。
「ウィクトリアも気に入ったみたいだな」
「本当ですか~、嬉しいです~」
無邪気に笑うコロナの頭を撫でながら思う。どうせダークエルフは今日中には届かないだろうし、コロナにご褒美をあげるか。
「きゃ、ダイチ様~?」
「今日は可愛がってやる。いやか?」
抱き上げるとコロナから可愛らしい悲鳴が上がるが、問いかければ期待の籠った眼差しで俺を見上げてくる。答えなんて聞くまでもない。
その後俺はコロナを連れて(自主規制)
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名前:コロナ
性別:無
レベル:1
種族:ドワーフ
クラス:細工師
属性:無
生命力:B
力:B
魔力:C
素早さ:F
運:D
アビリティ
鍛冶LV24・細工LV32・付与魔法LV14・裁縫LV10・木工LV9・魔力視LV17・鑑定LV19
スキル
装備
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