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初めての制圧

 頭上を見上げて太陽が中天に差し掛かったのを確認した俺は、侍らせていたカーリウスを立たせてから自分も立ち上がった。


 待っていた伝令はすでに全て到着し、後は時が来るのを待つだけだった。そしてその時もまた今巡ってきた。


 立ち上がった俺に向けられる幾つもの視線を感じながら、背に背負っていたウィクトリアを引き抜き太陽へと掲げる。


 ウィクトリアの刀身が太陽の光を反射して眩く煌めいた。


「全軍、進め!」


 降り下ろしたウィクトリアの切っ先が示すのはダークエルフの集落がある方向。その出し示された方角へとリビングメイルの軍団が行進を始める。


 木々の間を4列になってリビングメイルの軍団が更新して行くのを見送り、その後を追うようにフェン達と共に俺も歩き始める。


 さぁ、作戦の始まりだ。






 おかしいな、これダンジョン物のはずなのに戦記物みたいになってる。






 森の中を進んでいると、前方が騒がしくなってきた。攻撃を受けたなどの報告は無いので、突然現れた俺達に集落のダークエルフが騒いでいるのだろうと推測する。


 その推測は正しかったようで、集落に到着してみればリビングメイル達が囲む集落には何事かと飛び出してきたダークエルフの姿があった。中には獲物手にしている者もいてなかなかに物々しい雰囲気だ。

 報告では集落内で子供らしきダークエルフの姿は見受けられなかったらしいので、おそらくほぼ全員が出てきているのではないだろうか?


 その様子をリビングメイル達の後ろから観察していると包囲が完了したことを告げる伝令が届く。それを伝えてきたカーリウスの妹に労いの言葉をかけ、俺はフェン達を引き連れてダークエルフ達の前へと姿を現した。


「貴様がこいつらの頭か?」


 そう問いかけてきたのは敵意をむき出しにしたダークエルフの男だった。よく小説などであるとおり一定以上の年齢に達すると老化が止まるのか、回りとの違いが分からず年齢を推測することはできそうにないな。


「そうだがなにか問題でも?」


 問いに対してそ答えてやると、ダークエルフが俺を睨む視線が鋭くなる。それを見たアピスが前に出ようとするのを手で制す。


「こんな真似をしていったいなんの用だ!?」


 彼がダークエルフのまとめ役なのだろうか?大分短気な気もするが、そこまで気にする必要も無いだろう。


「お前達に取引を持ってきた」


「取引、だと?」


「そう取引だ」


 いかにも悪いことを考えていますと言った表情で、胡散臭そうに見えるように仕草に注意を行う。

 何事もなく終わるのならそれでもいいが、できることな奴らとは戦いたいのだ。


 理由は簡単せっかくここまで準備したのだし、今の俺たちがどれくらいできるのかそれが知りたいのだ。


「そう、取引だ。俺に忠誠を誓え、そうすればお前たちを俺の配下の一員として迎え入れてやる。が、これを断ると言うのなら。

 俺はお前たちを捩じ伏せ奴隷として使ってやろう。返答やいかに?」


「…………………………ふざけるなっ!」


 そうだよな、ふざけた話だよな。普通に神経ならこんな話を取引と受けとる奴はいない。

 けどな、互いの戦力、力量に差がある場合。自分達の立場を得るためにはこんな話でも取引として受けざるを得ない場合もある。


 そして彼らからの返答は………………………、1本の矢だった。


「返答は言葉でしてほしかったんだがな」


 俺めがけて飛来する矢は、素早く俺の前へと飛び出したフェンによって打ち払われた。


「進め」


 抜き放ったウィクトリアをダークエルフ達へ向けて一言。リビングメイル達が無言で進行を開始する。


 タワーシールドを装備した槍持ちのリビングメイルを先頭に剣持ちが続き次いで斧持ちが。弓持ちはその場にて弓を構え、リビングメイル達へと矢を射かけるダークエルフへと矢を打ち返す。


「退け!引き込んで各個撃破するんだ!地の理は我々にある!!」


 大声で叫んで指示を出しているのは先ほどの男か。包囲された状態ではその指示もやむを得ないのだろうけど、数はこちらが圧倒的に有利。例え地の理が向こうにあろうともこの数の差を埋めるのは至難の技だ。しかも地の理があろうともここは防衛のための砦ではなくただの集落だ、地の理などあってないようなものだ。


「さて、俺達も行くか」


 手にしたウィクトリアを肩に担ぎフェン達を引き連れて、俺も集落へと足を踏み入れた。






 集落を歩く俺のもとに届く声、怒声、悲鳴、指示を出す声それらのほとんどがダークエルフのものだ。

 なにせうちの主力であるリビングメイル達は基本喋らず、レザー系ともなると動き回る音すらしないのだから静かなものだ。集落を駆け回っているだろうカーリウスの兄弟達も役割がらあまり喋らず音を立てずに動く。せいぜいアピスのコイトゥスの妹達の羽ばたく音や武器を打ち合わせる音ぐらいではないだろうか、こちらが立てる物音は。


 集落の奥へ向かう途中何度か気絶したダークエルフを引きずるカーリウスの兄弟達とすれ違った。彼らはこのままアピス達が作ったという蜜蝋の牢へと入れられるのだろう。


「順調に進んでるみたいだな」


「はい。順調過ぎるような気もしますが」


 強い熱波を感じてそちらに振り向けば、そこには召喚されたと思われる炎の蜥蜴の姿があった。精霊魔法によって召喚されたサラマンダーだろう。


 サラマンダーと相対するのはベアレザーリビングメイル達か。


 水属性が付与されているらしい斧の一撃で怯んだところを土属性を付与された槍で串刺しにされて現界を保てなくなったサラマンダーが消滅し、慌ててダークエルフが武器を手に前に出ようとするも矢じりがタンポンになった矢を顔に受けて怯み、剣持ちの盾で頭部を強打されて気絶させられる。


 本当に順調すぎるな。


 ベアレザーリビングメイルが気絶させたダークエルフを担ぎ上げるのを確認してから視線を前に戻す。


 思ってた以上に脆いな。始まりのダンジョンの最後があれだったから、第1階層といえどももう少し手応えがあると思ってたんだけど、見込み違いだったようだ。


 まぁ、何があってもいいように戦力を集めてここにいるんだし当然と言えば当然の結果と言えるんだけどね。


 とはいえこのまま終わるのもどうかって話だよな。俺も1戦ぐらいしておきたいところなんだけど。


 などと考えていると、カーリウスが突如前に飛び出して腰に指していたクリスナイフを振るう。金属が打ち合う音が響き、カーリウスに続いて飛び出したフェンの鉄棍が何かを打ち据えた。


「な……………………!」


 何事か、そう言う前にそれは姿を現した。カーリウスのように全身を黒衣で包み目元以外を隠したダークエルフが。そしてすぐそばにはダガーが転がっており、カーリウスがこの襲撃者の存在に気付き迎撃してくれたことに遅れながらに気付いた。


「油断大敵、か。カーリウス助かったよ」


 ダークエルフの暗殺者ってところか。姿を消していたのは精霊魔法によるものか?そういえば剣の世界の呪われた島でもダークエルフは姿を消してたっけか。こっちでも同じことができるのか。


 そしてこの暗殺者が一人だけと言う保証は無いよな。


 周囲を睨みながら気配察知と魔力察知に意識を向ける。気配察知には反応は無いが魔力察知がすぐそばに3つの反応を教えてくれる。暗殺者らしく自分の気配は殺せているが、姿を透明にするための魔法の魔力までは隠蔽できていなかったと言うことか。カーリウスが気付きフェンの反応が遅れたのも臭いはごまかせても体温までは無理だったのだろう。


 さて、魔力察知に反応があるとはいえ透明な相手なんて面倒すぎるな。なんとか暴き出せないものか、やってみるか。


 剣の世界のそれと同じなら、彼らの姿を消しているのは光の精霊の力によるもののはず。なら同じ光属性の力でその術を打ち消せないだろうか?


「試したいことがある。敵から俺を守るだけでいい」


 フェン達が頷くのを見て意識を集中させる。両の手に魔力を集めてそれを光の属性へと変換させていく。


 イメージはより強い力で相手の力を呑み込み塗りつぶすイメージ。それはすべてを呑み込む津波のごときイメージ


 光の属性を掌に集めて勢いよく打ち合わせる。掌に溜め込まれた光の属性を帯びた魔力が光の波動となって周囲を呑み込んでゆく。


「馬鹿な!?」


 驚きの声を上げたのは初めて聞く女性の声。声のした方を見れば先ほどの魔力察知に引っ掛かっていたらしきダークエルフが、先に昏倒させた男と同じ格好で術を打ち消された自分の体を見下ろしていた。


「余所見をするな!」


 動揺を露にするダークエルフに叱責の声が飛ぶ。


 それを聞きながら叱責の声を飛ばしたダークエルフへとウィクトリアの切っ先を向けて再度魔力を集め、解放する。術を解除されながらも俺たちへ攻撃を仕掛けようとしていたそのダークエルフを巨大な暴風の槌が直撃する。


 彼女は風の塊を受けた勢いのまま後方へ吹き飛ばされ、背後にあった家の中へと叩き込まれた。


「アピス」


「御意に」


 俺の呼び掛けの意味を理解したアピスは、ダークエルフが叩き込まれた家の中へと飛び込んでいく。

 術を解除されて動きを止めてしまった先のダークエルフはコイトゥスの魔法を受けて抵抗もできずに夢の中へと旅たっていっていた。


 瞬く間み味方が3人もやられたことに、残るダークエルフが悔しそうに目元を歪めているのを見て、俺はそれを無効化させるために動こうとしたフェンとカーリウスを手で制して前に出る。


 一瞬後退する素振りを見せていたダークエルフだったが、俺の行動を見て屈辱を感じたのか、その目に険のある光を宿すと姿勢を低くして襲いかかってきた。


 一矢報いようと思ってのことなんだろうけど、報わせてやるわけにはいかないんだよ。


 姿勢を低くしながら放たれた投げナイフを風を巻き起こして吹き飛ばす。それによってわずかにだが砂煙が巻き起こり姿勢を低くしていたダークエルフの姿が隠れた。


 けどそれは向こうにとっても同じこと。そしてこのような場合事前にこの状態になることを知っていたか、また予期していたかで次の行動に差が出ることになる。


 有利なのは、俺だ。


 互いの姿が砂煙によって隠されると同時に俺は跳躍する。空中で身体を捻り宙返りを決めて着地した場所はつい今までダークエルフがいた場所。砂煙が晴れれば俺が今までいた場所にダガーを振るうダークエルフ。

 あるべき手応えが無いことにその動きが鈍り、無防備な背かに手を乗せる。


「タッチオブパラライズ」


「あぐっ!?」


 俺が触れた箇所からダークエルフの身体にどす黒い電流が駆け巡り、悲鳴を上げて倒れようとするのを片手で支える。


 今使用したのは触れた相手の自由を奪う死霊魔法だ。相手に触れなくてはいけないぶんその効果も高く、ダークエルフもご覧の有り様だ。


「お、さらしを巻いてるのか、結構でかいぞ」


 俺が相手をしたダークエルフがどうも胸が他よりも小さいようだったので、懐に手を突っ込んでまさぐってみたのだが、さらしでだいぶ締め付けているようだ。触った感じではむしろ他のダークエルフよりも大きいのではないだろうか?


「くっ、んふぅ………………………」


「主さま、こんなところで何をしてるんですか」


 大きな胸の触り心地を楽しんでいたらフェンに怒られてしまった。

 仕方がない、このダークエルフは先に持ち運ばせて楽しむのは拠点に戻ってからにするか。


 今日のために市場で購入してきた魔封じの首輪を取り出してダークエルフにはめ、武装解除代わりに裸にひんむいてから拘束して近くにいたウルフレザーリビングメイルを呼び寄せて、彼らにダークエルフを拠点に運ぶように命じる。ついでだったので家の中へと吹き飛ばしアピスが捕まえてきたダークエルフも同じように拘束して運ばせることにした。


 最初の襲撃者とコイトゥスに眠らされたダークエルフは男だったので蜜蝋の牢へと放り込ませておくことにした。






 それから数分後には戦闘は終了していた。

 捕虜になったダークエルフは男女合わせて107人。内訳は男が56人に女が51人だ。また捕虜にできなかったダークエルフも存在する。といっても逃げられたわけではなく、捕まることを良しとしなかった奴らが自決を行った結果だ。それによって死亡したダークエルフは全部で7人だというのがリビングメイル達からの報告だ。


「作戦は大成功、と言ったところか」


「そうですね、ダークエルフのほとんどを捕獲しこちらの被害はリビングメイル達の多少の損傷のみ」


「私とコイトゥスの妹達にも目立った被害はございませんわ」


「……………………私のところも、同じです」


 本当に大成功だな。死に戻りも無いし。


「デハコレカライカガナサイマスカ?」


 戦後処理をレザーリビングメイル達に任せて報告に来ていたテラに視線を向けながら考える。考えるといっても出来ることなんて限られてるんだけどな。


「そうだな、予定通りいこうか。

 テラ、アエルはダークエルフの見張りだ大丈夫だとは思うがもしもの場合もあるからな。フルーメンとイグニースは森を切り開いて道を造れ。アイアンリビングメイル達も森を切り開いて来ているはずだからそこまで時間もかからないだろう。配下采配についてはお前たちに任せる。

 道ができ次第、拠点へダークエルフの移送を開始しろ」


「了解シマシタ」


「スグニ準備ニカカリマス」


「それじゃ、俺達は第2階層の様子を見に行くとするか」


 そう言って俺が目を向けたのは集落の丁度中心にある、集落内では最も大きな樹。その根本には大きな虚がありそこに転送用の魔方陣が設置されているのは確認済みである。


 立ち上がりカーリウスが俺の座っていた椅子を片付けるのを待ってから虚へと向かう。始まりのダンジョンでも何度もお世話になった魔方陣がうっすらと光を放っている。


 一度背後に続くフェン達に視線を向けて、俺は転送用魔方陣に足を踏み出した。







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