森の集落
俺がカーリウスから連絡を受けたのは森に設けた夜営用の拠点に寝泊まりするようになって3日が過ぎた頃だった。
「ゴブリン以外の集落?」
「はい、種族名は不明ですがあきらかにゴブリンとは違いました。
褐色の肌に銀色の髪の合間からは長く尖った耳が覗いており、体格は人とそう変わりはありませんでした。
発見したのは転送用魔方陣南の夜営拠点から南東に進んだ位置で
報告をあげているのはカーリウスの兄弟(そう呼んでいる)の1人だ。個人として特定するためか髪を後ろで縛って纏めている。カーリウス本人はその集落の情報を集めるために残り、彼を報告役に送り出したらしい。
「わかっった、ごくろうさんだったな。
テラ出る準備をしてくれ。
案内の方頼むぞ」
「ハッ」
「はっ!」
2人に指示を出して考える。森の中にいてとんがり耳の褐色の肌。こりゃ確率でダークエルフが来たんじゃないのか?
そう思うと口角が上がるのを抑えることができない。
本当にダークエルフならまず対話といこうか。対話っていっても降伏勧告だけど。大人しく傘下に加わるならよし、加わらないなら武力でもって制圧するのみ。
うん、フェンもカーリウスもアピスも皆性格は違えど従順だしな、反抗的な娘をしつけるのも面白そうだな。男なら誰しもがこんな想像の一度や二度はしているのではないだろうか?
言うこと聞かないなら蹂躙とか俺も思考が魔王っぽくなっているような気がするな。どう考えても邪悪な魔王だけど。
そんなわけで2日後、俺はカーリウスの弟の案内を受けてようやく件の集落の近くまで辿り着いたんだが、あれだなこの森はが広すぎる。どう頑張っても泊まり込みじゃないと探索しきることなんてできやしない広さだ。
「……………………御主人様」
「待たせたなカーリウス」
少し周りよりも大きめな木の上からカーリウスが飛び降りてきた。どうやら樹上に身を隠して集落を監視していたらしい。
「早速で悪いけど集落を見渡せる場所はあるか?」
「……………………こちらに」
先導がカーリウスの弟からカーリウスに移って森の中を進む。わずかに勾配のある獣道でもない場所を登ってゆくと少々大きな茂みに辿り着いた。カーリウスがその茂みを掻き分けて中に入るのに続く。茂みは大きいといっても何人も入れるような大きさではないのでフェン達は茂みの前で待機させている。
「……………………あちらを」
手で生い茂る葉を掻き分けそこから外を覗きこむと、件の集落が目に飛び込んでいた。
集落の規模はさして大きくないように思えるのは現代日本の街を知ってしまっているからだろうか?
森の中にぽっかりと空いた空間、といっても森の中よりも木と木の間隔が頭上に空を仰ぎ見れる程度に空いているだけで、空き地というには語弊のある感じだが。
そんな空間に存在する集落。木に寄り添うように建てられた家や、木を支柱の代わりにしたような建物。木の上に建てられているのは見張り小屋だろうか?
まるで森と一体化したような集落がそこにはあった。
そんな集落の中を歩くのは、確かに褐色の肌に銀色の髪から尖った耳が生えた存在。魔物学のアビリティから知らされる彼らの正体は間違いなく、ダークエルフだった。
ざっと集落を見回してみる。ある者は弓を手に離れた場所に撃ち込まれた杭を的に弓に鍛練を。ある者は大きな芋虫の吐き出す糸を紡ぎ、さらにその横には糸車を回す別のダークエルフの姿があった。藁を編んでロープを結っている者もいれば手にしたレイピアの手入れをしている者もいる。男女比は恐らく半々、仕事に男女の区別は無いのか弓を手に見張り小屋らしき場所に立つ女性のダークエルフがいれば、家畜なのだろう芋虫の世話をしている男性のダークエルフもいる。
ダークエルフだ。ふむ、エルフにしろダークエルフにしろ胸は小さい印象が俺にはあったんだが、ここのダークエルフは呪われた島から隔離された世界へ流れた某ダークエルフのようにボインなようだ。フェンもカーリウスもアピスも胸は大きくないが、これは別に大きいのが嫌いと言うわけではない。まぁ比較的小さい方が好きかな?程度である。それにそれとて小さい方がそれを気にしている娘をからかった時の反応が好きだからである。
唯一嫌うのは身体のバランスを崩し(身体の)景観を壊すようなでかすぎる胸ぐらいだ。あれだけは見苦しいと常々思っている。
世の中には大は小を兼ねるという言葉があり、その言葉が広がっているようなきらいがあるが、同時に過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もあることを知って欲しいものである。
といかん、話が逸れた。今は俺の胸の好みを話しているときじゃなかったな。
「カーリウス、あいつらはダークエルフだ。報告を」
「……………………はっ。
……………………正確な数は分かりませんが男女合わせても100人ほどで、そのひ比率は半々。
得意な得物はレイピアと弓。手札として精霊魔法を確認しています。戦闘は男女の区別無く行い、先日も男女のパーティーでビッグベアを1頭仕留めています」
「カーリウスから見て連中の実力はどれくらいだ?」
「……………………大したことはないかと。
……………………殲滅するだけなら私たちだけで十分に可能です。ただ殺さずに捕らえるとなると……………………」
俺の望みもちゃんと理解してるか。
「そのためには圧倒的な力の差が必要になってくるな。
よし、一旦引き上げるぞ。必要はないと思うが2人ほど残して監視させろ。何かありしだい連絡を」
「……………………承知いたしました」
カーリウスから視線を外してもう一度集落を眺める。次にここに来たときにはいったいどんな答えがもらえるのか、今から楽しみだな
「よし、皆引き上げるぞ。カーリウス、監視の件は頼むぞ」
「戻るのですか?」
フェン達を待たせているところまで戻り、引き上げることを告げると彼女は不思議そうに首を傾げた。
「フェン、俺の目的が何か言ってみろ」
「目的、ですか?
常々仰っておられるハーレムとちーと、とやらでは?」
「……………………あぁ、うん、そうだな。確かにそれは俺の目的だ。うん」
確かに俺の言い方も悪かったけどさ。
「けどな、今俺が言いたかったのはそうじゃなくて、件の集落についての目的な。あ、ちなみにあの集落は予想通りダークエルフの物だったぞ」
「……………………生け捕りですか?ダークエルフの女性の」
「生け捕りにしたいのは男女両方だからね。戦力的な意味でだけど」
間違ってない、たしかにフェンが言ってることは間違ってない。けどなんだろうね!このちょっと横にはずれてるような感じは!
「殲滅するだけなら今の面子で十分に可能。けど生け捕りとなればできないことはないのかもしれないけど確実じゃない。
ならできる限りどちらの損害も少なくして生け捕るためには色々と準備をする必要がある。
フェン、急がば回れ、急いてはことを仕損じる、だ」
前のは違うような気もするが問題ない。フェンもなるほどって顔してるし。
さぁ、拠点に戻ってダークエルフを生け捕りにする準備だ。まぁ、こちらの戦力を見てそのまま降伏してくれればそれに超したことはないんだけどな。
配下をダンジョン潜らせた場合、潜った配下が魔物を倒せばそれだけで俺が使用できるエナジーが貯まるわけではない。魔物を倒した配下が拠点に戻ってきて初めてエナジーが加算されるようになっているのだ。
ダークエルフの集落から拠点に戻った俺はカーリウスの残りの弟たちを始まりのダンジョンと森に潜っている全ての配下に帰還命令を届けさせた。
そして今空間を拡張して広くなった玉座の間に全ての配下(ゴブリン等のバックスタッフと見張りに残したカーリウスの兄弟を除く)が集まっていた。
玉座に座る俺の手にはウィクトリアが握られ、左右にはフェンとアピスが立ち、アピスの斜め後ろにカーリウス。
俺から見て右手側に並ぶテラ、アエル、フルーメン、イグニース達エレメンタルナイツ。左手側にはグランディア、アクア、フラム、ヴィンディ達4人の精霊。
そんな彼らの背後には72体のアイアンリビングメイルが装備ごとに計8列に整列し、さらに後方には36体のレザーリビングメイル。レザーリビングメイルの右側にいつの間にか10体に増えていたゲル率いるパラライズスライムがまるで商品棚に並ぶ水饅頭の様に並んでいる。さらその反対側にはバトルスケルトンとワイトのコンビが5組並び、さらにその横には4人のアピスの妹達と見張りでここにはいない2人を除く残りの3人のカーリウスの兄弟。そしてこの絶景の中でも一際存在感を放つアロスが玉座の間の入り口にて待機していた。
総勢150の配下達。これが今俺の率いる全戦力である。
「はぁ、こりゃ壮観だな……………………。他の先をいく履修者には及ばないんだろうけど」
『肯定です。現在黄麻大地様の戦力は履修者全体で見ればまだまだ小規模です』
まだまだ小規模ね。まぁいいさ。適当に数だけ増やせばいいって問題でもないんだし。
「ダイチ様、配下一同御前ニ参上イタシマシタ」
「あぁ、ご苦労様」
さて、集まってもらったはいいが……………………。どうするか考えてなかったな。どうしよう。
「主様?」
勘のいいフェンが俺の顔色を伺うように呼び掛けてくる。
「あぁ、集まってもらったはいいがどうするか考えてなかった」
あ、フェンとアピスがこけた。
「……………………御主人様………………………………………………」
カーリウスも呆れ顔だ。
さて、どうした物か……………………。




