エキストラアビリティ
「ダイチ様、御無事デスカ?」
「強敵に勝って気が抜けただけだ。というか見た目だけ見たらお前の方がよっぽど重傷だぞ、イグニース」
座り込んだ俺の元へと駆け寄ってきたイグニースの姿を見た俺は苦笑するのを押さえることが出来なかった。なにせ今のイグニースはあのタイターンの斧の一撃を受けて頭部から腰の辺りまで唐竹割り気味に引き裂かれ、割けた間から後ろの風景が見えてしまっているのだから。
「我々ニトッテコノ程度ハ問題アリマセン」
「分かってるけど見た目の問題だよ、見た目の」
そう、彼らにとって見た目の傷はよっぽどの物でもなければ問題はない。そりゃ腕がもげればもげた腕は使用できないが、それでも生死に関わるわけではない。彼らにとって重要になるのはダメージだ。それこそゲームにあるようなHPが0にならなければ、どれだけからだが壊れようとも死ぬことは無いし、逆にどれだけ綺麗でも許容値を越えるダメージを受ければ死ぬこととなる。
目の前のイグニースも見た目こそ損傷が激しいが、実際に受けているダメージは許容範囲内なのだろう。
「はぁ、まっぁいいか。アエル、宝箱を頼めるか?」
別段深く追求しなければいけないようなことでもないため、その話を切り上げることにした俺はタイターンが消えると同時に出現した宝箱を一瞥し、イグニースと同じく駆け寄ってきた片腕を失った風の騎士へと問いかけた。
「ハッ、カシコマリマシタ」
どうやら片腕を失いはしても解錠や罠の解除に支障は無いらしい。
もしも無理な場合はどうしようか、などと考えていたことが杞憂と終わり少々ホッとしながらアエルが宝箱に向かうのを眺めた。
もし無理だったら誰かをしたの階層までやって弓持ちのやつを連れて来なけりゃいけなかったからなぁ。
どうやら宝箱に罠などはかかっていなかったらしく、すぐさま宝箱は開かれアエルは中にあった物を手に俺の下へと戻ってきた。
「コチラヲ」
「本か……………………」
本か。フロアボスとの戦いで得られるアイテムの中で、最もレアリティが高いと思われるのが本だ。すでに第3階層までのフロアボスは各々100体以上は倒しているはずだが、得られたのは未だに2冊だけ。そう考えると一度の戦闘で手に入ったのは運がいいのだが……………………。何だろうこのものすごい"これじゃない"感は。
そう、まるで狩りゲーで苦労して倒した敵から剥ぎ取りをしたとき、欲しいものよりもレア度の高いものしか剥ぎ取れなかった時のそれに似た感じだ。
気にするのはよそう。
さて、手に入ったのはいったいなんの本なのか………………。
【魔物辞典~大型編・下巻~】
…………………………………………。
微妙だ。物凄く微妙だ。魔物の能力は魔物学のおかげで一目見るか、戦えばそれだけで得ることができる。対して辞典では相手の名前を知った上でそのページを探し出して読む必要がある。どう考えても使い勝手が悪いのですが。しかも大型編で下巻と言うことは名前がわかっていても載っていない可能性もあるわけだ。いや、本当に使い勝手が悪いだろこれ。
「ダイチ様、イカガナサイマシタカ?」
「あぁすまん、何でもない。
気を取り直して先に進むか」
そうしよう、この辞典については拠点に戻った後でゆっくり考えればいい。
魔物辞典を異次元ポケットに放り込み、床に突き刺さったままだったウィクトリアを引き抜き立ち上がった。
「大丈夫ナノデスカ?」
「次の階層に足を伸ばすだけだ。出ないと第4階層を突破したことにならないし、そうしなければ施設の拡充も出来ないだろ」
「ハッ、了解イタシマシタ」
「アロス、フルーメンを運んでやってくれ」
「ヴゥゥゥゥ………………」
「申シ訳ナイ、アロス殿」
気にするなとでも言いたげに欠けた頭を振りながらフルーメンを抱えあげたアロスを最後尾に、俺達は部屋の奥に設けられた階段を上った。
「あれ?」
階段を上った先にあったのは小さな小部屋。そこには転送用だろう魔方陣が1つあるだけだった。それ以外には何も、扉も何もなかった。
「何も無い?
というか、今までフロアボスの部屋の奥っていきなり階段があるんじゃなくて、まず転送用の魔方陣がある部屋じゃなかったか?」
「ソウデスネ、確カニ階段ハ転送ノ間ノ奥ニ設置サレテイマシタ」
「階段と部屋の位置が逆で、次の階層への扉がない。どう言うことだ?」
疑問を口にした俺だったがそれに答えられる者はここにいない。床に描かれた魔方陣を睨み付けるが、それで何かがわかるわけでもない。
「まぁいいか。たぶんこいつは拠点に戻るための物だろうし、とりあえず入ろう。後のことは後で考えればいい」
意を決して魔方陣へと足を踏み入れる。魔方陣から光が立ち上ぼり、俺の体はここではない場所へと転送された。
「おかえりなさいませ、主様」
拠点へと転送された俺を出迎えたのはフェンだった。周囲を見回してそこが拠点にある転送の間であることを確認した俺は、彼女が出発前と変わらぬ場所に立っていることに気が付いた。
もしかして俺が出発してからずっとここに立って待ってたの?
「っ!?
主様、お身体は大丈夫なのですか!?」
俺に続いて転送されてきたテラ達の姿を見たフェンが焦り声を上げながら詰め寄ってくるのを苦笑しながら抱き締める。
心配してくれるのは嬉しいけど、俺にはテラ達と違ってちゃんと回復手段があるんだがなぁ。それに鎧に傷こそ付いているものの、大きな破損も身体の傷も傷薬で治してるし。
「大丈夫だ。少し疲れちゃいるがな」
抱き寄せたフェンの頬に口付けを行い、肩を抱いたまま玉座の間へと向かう。
『始まりのダンジョンの攻略おめでとうございます』
玉座の間へと入った俺にかけられたのはそんな言葉だった。
次の階層へ扉がなかった事を聞こうと思っていた俺は、尋ねる前に告げられた答えと思われる事実に足を止めていた。
「始まりのダンジョンの攻略?
つまり、ダンジョンは4階層で終了ってことか?」
『肯定です。始まりのダンジョンは全部で4つの階層から成り立つダンジョンでした。
黄麻大地様はこの第4階層にてダンジョンボスであるタイターンを倒したことにより、始まりのダンジョンをクリアしたことを報告させていただきます』
ダンジョンをクリア………………、つまり、それは………………。
「それは、もしかして………………」
『始まりのダンジョンをクリアしたことによって、魔王育成プログラムは第2フェーズへ移行することを報告します』
ですよね~、これだけで魔王になりました、なんてあるわけないよね~。
「それで、第2フェーズとやらに移行して、俺はどうすればいいんだ?」
『基本は今までと変わりありません。配下を揃えダンジョンの攻略を行っていただきます』
基本は変わらない、ね。
テラたちには好きに休むように指示をだし、外した鎧を狼娘メイドに預けて玉座に座る。傍らに立とうとするフェンを無理矢理膝の上に座らせて、彼女の柔らかさを堪能しながら人工精霊の言葉に耳を傾ける。
『第2フェーズでの変更点ですが、大地様には【草原】【砂漠】【森】【山】【山岳】【雪山】【渓流】【洞窟】【渓谷】【遺跡】の10のダンジョンを攻略していただくことになります。攻略する順番は大地様の任意で選んで頂いて構いません。
また、ダンジョンの攻略を始めるにはまずエナジーを消費することでダンジョンの解放を行っていただく必要があります』
おうおう、10個のダンジョンか。先は長そうだ。
「つまり、好きな順番で1つ1つ攻略して行けばいいのか?」
『肯定です。正確には1つのダンジョンの攻略に集中するも、複数ダンジョンを同時に攻略するのも、すべて大地様の采配に任されることになります』
「全て自由か。
もしかしてだけど、今まで階層を突破するごとにあった購入可能な施設の増加とか、システムの追加みたいなのは、今後ダンジョンをクリアしないと行われないようになるのか?」
『肯定です』
それぞれのダンジョンによって出てくる魔物は違うだろうし、つまり手に入るアイテム違ってくるはず。手広くやれば様々な情報とアイテムが手に入るがその分施設が揃うのに時間がかかる。1つに絞れば施設が整う変わりにアイテムや情報に偏りができる、ってところか。
『そして第4階層を突破したことで購入可能な施設が追加されていますので確認をお願いします』
さて、何が追加されていることだか。
ふむ、水洗トイレが追加されるのか。これで壺から解放されるわけか。それに浴場と穀物畑に鍛冶場の4つか。
嬉しいものばかりだ。ここに来てからどれくらいの時間が過ぎたのかわからなくなっているが、間違いなく一月、いや二月は風呂入ってないはずだ。
一応バスタブはあったけどさ、なんかあれって風呂に入った、って感じが薄いんだよね。サイズも足を伸ばしたら一人でしか入れない広さだし。今日はフェンと一緒に入ろう。んで風呂でいちゃつこう。
それに穀物畑か、米とかも採れるのかな?いや田んぼじゃなくて畑だから無理か?
こめ、久しぶりに食いたいなぁ。
でも穀物畑なら麦は勿論蕎麦の実も採れるのか?うどんと蕎麦もいいな。
そして鍛冶場か………………。これでようやく武器の入手を敵のドロップに頼らざるを得ない状況から脱せるな。問題は鍛冶アビリティ持ちの配下だな。ゴブリンやコボルトがハンマーを手に金床に向かっている姿が想像できん。
やっぱり鍛冶と言ったらドワーフだよな。ドワーフを配下に加えるにはどうするべきか………………。
捕まえるにしろ配下作成をするにしろ、どこかで見つけて来なきゃなぁ。渓谷か、いやそれよりも洞窟かなぁ。
最初のダンジョンは洞窟にするかな。洞窟なら鉱石も採れそうだしな。
『最後に1つ重要な変更点がございます。
今まではどれだけ武器を酷使しても壊れることの無いようにプロテクトがかかっていましたが、これからはそのプロジェクトが解除されます。今後はこまめに整備を行い壊れることの無いように御注意を』
うわぁ、マジか。え、それってウィクトリアにも適応されるのかな?ウィクトリアは俺の武器として産み出したけど、配下の魔物だし適応されないといいんだけど。
『また、エクストラアビリティの取得により、プログラム卒業要項の1つをクリアしましたので市場の使用が可能になりました』
はい?エクストラアビリティってなに?
『エクストラアビリティとは魔王やごく一部の勇者が持つ特殊なアビリティです。
エクストラアビリティは魔王育成プログラム履修者でも自由に取得することの出来ないアビリティです。魔王育成プログラム履修者は比較的取得確率が上がっていますが、それでその力を強くイメージし、強く強く心のそこから望まなければ取得することの出来ないようになっております。
大地様はダンジョンボスであるタイターンとの戦闘中にエクストラアビリティを取得することに成功しました』
「主様、おめでとうございます」
人工精霊の言葉を聞きながら思い浮かぶのはタイターンを倒した時のあの一撃だ。あの一撃がそのエクストラアビリティとやらのお陰ならあの威力も納得がいく。
胸に顔をつけるフェンの髪をすきながら目を閉じて自分のステータスを
確認する。
▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀
名前:黄麻大地
おうまだいち
性別:男
レベル:32
職業:魔王候補生
クラス:魔法戦士
生命力:D
力:C
魔力:C
素早さ:D
運:B
エクストラアビリティ
重力操作
超振動
アビリティ
剣術LV40・盾術LV35・鎧術LV18・根源魔法LV41・付与魔法LV31・死霊魔法LV29・ジャンプLV24・ダッシュLV31・鑑定LV40・気配察知LV35・魔力察知LV31・直感LV26・魔物学LV34
スキル
・根源魔法/炎/雷/風/土/水/氷/光/闇
・付与魔法/炎/風/土/水/氷/雷/光/闇
・死霊魔法/フィジカルカース/コールアンデット
・配下作成
・配下命名
・配下複製
・精強
装備
武器1:魔剣ウィクトリア
武器2:鋼の盾(闇属性付与・防御力強化)
頭部:ハードレザーヘルム(闇属性付与・防御力強化)
上半身:布の服
防具:鋼の鎧(闇属性付与・防御力強化)
下半身:革のズボン
足:鋼の鎧(闇属性付与・防御力強化)
▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀
あったな。
【重力操作】に【超振動】か。というか2つも取得してるんですけど?
「なんか2つも取得してるけどいいのかこれ?」
重力操作、タイターンが避けようとして失敗したのってこれのおかげか?
『問題ありません。過去の履修者のエクストラアビリティ最高保持数は100個、一度に取得された最高記録は6個。平均同時取得数は3個ですので、大地様はむしろ平均よりも少ないですね』
左様ですか。
『ただしエクストラアビリティの最速取得記録は第2フェーズ、ダンジョンクリア数1ですので、大地様はこの記録を塗り替えたことになります。おめでとうございます』
ん~、おめでとうと言われてもなぁ。それがどんだけすごいことなのかわからんからなぁ。
まぁいいか。
「それはそうとこいつらがどんなアビリティなのかが問題だよな。名前から大体の推測はできるけどさ」
『エクストラアビリティは取得者が造り出したアビリティです。類似するアビリティはある可能性もございますが、その根本は製作者である取得者にしかわかりません』
その製作者である取得者の俺が理解してないんだが、これは自分で検証しろってことなのかね。
『では遅くなりましたが市場の説明をさせていただきます。
市場とは文字通り人々が集まり様々な物のやり取りを行う場所でございますが、この市場を使用できるのは魔王育成プログラムの履修者の中でもエクストラアビリティを取得している方に限られます。また他にもプログラム卒業者も訪れており、そういった方から配下作成についてなど情報を交換する場として使用することも可能です。
市場では出品物の購入が可能であり、また自身所有するアイテムや配下を売買することが可能になっております。他履修者との交流よりもこちらが本来の用途ですね』
はぁ、一気に便利なりそうだな。自分のところでは手に入らない物なんかも手に入れられるようになるわけか。
「売買に使用するのって、やっぱり施設購入に使うのと同じお金なのか?」
『肯定です』
こりゃ計画的にお金を使う必要が出てきたなぁ。とりあえずは施設を整えることから始めるか。
でも今日は浴場とトイレだけ設置してしばらく休もう。ここに来てから休日なんて作らなかったしな。




