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ようやく第4階層のフロアボスに挑む準備が整った。
現在俺のレベルは32。
武装はウィクトリアに闇属性と防御力強化の付与を施した鋼の盾。同じく闇属性と防御力強化の付与を施した鋼の鎧。この鋼の鎧はギガースからドロップした物で、防御力はアイアンプレートよりも高くさらに動きやすいという現状最高の防具だ。ただこの鋼の鎧、胴体からブーツ、籠手までのセットになっているが頭部を守る物が無いため、狼娘メイド達が狼男の毛皮を鞣して作った革の兜を装備している。こちらは防御力強化のみが付与してある。
続いてテラ達は全員がレベル30になり、装備もそれぞれ鋼の武具を装備している。
そして本日の大本命のギガント・マキア・ゴーレムはレベル3。レベル3だ。
低いと思うかもしれないが、ギガース相手ではレベルが2に上がった時点で攻撃を身体で受けることが半分になり、レベル3にいたっては敵の攻撃を素手で掴むという具合でギガースを完封できるようになっていた。
アビリティも元から持っていた頑健、剛力に加えて大気中魔力吸収に魔力変換効率化、鉱石同化を習得しており頑健、剛力のレベルは20に達している。
アビリティといえばウィクトリアも新しいアビリティを覚えていたな。
たしか【鋭さ】に【頑健】の2つだ。このアビリティを覚えた恩恵は、正直わかりません。
だってねぇ?
第3階層までの敵はウィクトリア一振りするだけで倒せてたのに、そこに鋭さが増しました的なアビリティを覚えても、結局それって100%のダメージを与えていたところが120%のダメージ与えられるようになたって訳で、ダメージが数値やゲージみたいな視覚情報として知る術が無いのでは一撃倒せる事実に変更が変わりがないってことで。うん、実感のしようがないわ。
え、ギガース?そっちはそっちで与えられるダメージが小さすぎて実感できないね。
ただそれらもアビリティのレベルが低いからというのもあると思うんだ。つまり今後に期待ってことだ。
「準備はいいな?」
第4階層のフロアボスの間の扉の前で、背後を振り返りフロアボスに挑むメンバーをみまわした。
先頭に立つテラがうなずき、アエルもそれに習う。フルーメンとイグニースは自身の得物を掲げて見せ、その背後に立つギガント・マキア・ゴーレムも小さく頷いた。
……………………そういえばギガント・マキア・ゴーレムに名前を付けてなかったな。これから挑むのは未知なるフロアボス。十中八九巨人系統のフロアボスだと思うが、そうであってもその実力はやはり未知数なのだ。万全を期すためにも今ここで命名をしておこう。
「スキル『配下命名』アロス。さぁ、今度こそ準備はいいな?」
「ヴォォォ………………」
今まで唸り声ひとつ上げることのなかったギガント・マキア・ゴーレム、アロスの第一声か。
返ってきた返事に自然と笑みが浮かんだ。
再び扉へと向き直り、俺はフロアボスの待ち受ける部屋への扉を開いた。
その部屋は今までで一番広い空間だった。天井までの高さは、10mはあるんじゃないか?
目測で一辺が50mはありそうな正方形の部屋。その中央にそいつはいた。その手に剣を、槍を、斧を、槌、鎖付きの鉄球、チャクラムと合計6個もの武器を持ち、ギガースよりも頭一つ分は高い場所から部屋全体へ鋭い視線を向ける八面六臂の、巨人。
魔物学のアビリティのおかげで相手が何者かがわかる。
【タイターン】
レベル不明、弱点不明、アビリティも耐性も何もかも不明。名前以外の何も分からないのは俺の取得している魔物学のアビリティのレベルが低いからだろう。
何もわからないというなら一つずつ情報を得ていくだけだ。
「アロス前に出ろ、接近する前に魔法を試すぞ。ギガースの上位種だと思うから属性魔法は効かないと思うけど」
もし効くようなら儲けものだ。あ、グランディア達も連れてくればよかったか?
いや、ギガースの上位種の可能性が高かったわけだしそんなことはないか。というか効かない可能性のが高いんだし、判断ミスじゃないよな。
アロスが前に出るのと同時にタイターンも前に出る。
戦闘開始だ!
先手をとったのは俺とウィクトリアだった。根源魔法だしな俺たちは。
詠唱が必要無いっていうのは本当に助かる。魔法が効くかどうかの検証も手早くできるしな。
俺の放った電撃とウィクトリアの氷の槍がタイターンに迫り、電撃はチャクラムに、氷の槍は斧に打ち払われた。
「え?」
電撃を打ち払ったチャクラムがタイターンの手元に戻ってゆく。
あいつ何で魔法をわざわざ武器で打ち払ったんだ?それも感電という性質のある電撃をチャクラムという間接武器で、氷の槍は斧でと使う武器を選んでいる?
属性魔法無効を持つギガース達は武器で迎撃することすらしなかったぞ。
俺の疑問の答えはすぐに出た。
疑問を覚えながらも闇の球を、ウィクトリアが光の矢を放ち、詠唱が終わったテラ達の魔法がタイターン降り注いだ。
テラの土槍にアエルは無数の風の矢を。フルーメンが放つ水の槍にイグニースの炎の刃が並ぶ。
「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーッ」
タイターンが咆哮を上げて武器を振るう。闇の球と土槍は剣と槌で迎撃され、光の矢はチャクラムに打ち落とされる。水の槍は同じく槍に払いそらされてその背後の床を穿つ。炎の刃が斧に破壊され無数の風の矢は振り回された鎖付きの鉄球を盾にやり過ごす。
ただ風の矢の対処はそれでは不十分だったようだ。振り回され盾のように広がった鎖に大半の風の矢が防がれたが、いくつかの矢がすり抜け、タイターンの腕の一本から血が飛び散った。
「こいつ属性魔法無効じゃ無い!」
アエルの魔法がタイターンに傷を付けた瞬間、奴の持つスキルが見えた。
タイターンが持つスキルは物理耐性/中と属性魔法耐性/中の二つだった。
くそ、テラ達も連れてくるんだった!
だけどこれならギガースよりも戦いやすいか?
俺たちの魔法をやり過ごしたタイターンが駆け出した。かける速度はギガースなどよりもよっぽど速く、アロスが俺たちの前に出るよりも僅かに速く俺達の下へと迫っていた。
「くそっ!」
舌打ちを打ちながらウィクトリアを振るう。刀身から放たれるのはウィクトリアの根源魔法の電撃だ。さらにその影から地を這うように俺も電撃を走らせる。
しかしそれに対するタイターンの対応は的確だった。ウィクトリアの放った電撃は最初に俺が放った電撃と同じようにチャクラムに迎撃され、地を走る電撃はその進路上に剣を突き立て地面へと流される。
ウィクトリアの魔法の影から放ったというのに対応は完璧か。だが足を止めることはできた。
「ヴォォォォォォッ!!」
僅かに稼いだ隙にアロスが前に進み出て巨大な腕を振るった。
幾度となくギガースを打ちのめしてきた一撃は、タイターンの振るう槌と真っ正面からぶつかり合った。
拳と槌が弾きあう。
拳を弾かれ体勢を崩し空いた脇腹に鉄球が叩き込まれた。アロスが倒れまいと後退り、そこに槌の追撃が走る。
「ヤラセルワケニハイカヌ」
だがその槌にアロスの脇から斜めに発生した土柱が伸びる。テラの魔法だろう。
その魔法のおかげで槌の一撃は土柱を破壊するに留まった。
「囲め!」
細かい指示を出す暇など無い。襲いかかってくる剣をすんでのところで回避し、ウィクトリアを構え補助魔法の支援を受けてタイターンへと駆ける。
俺はタイターンの右側へ駆けた。タイターンの右腕が持つのは一番上の手にチャクラム、真ん中の手に剣、下の手に槌だ。
故に剣の間合いの内側に入り込めばそこは槌の間合いとなり、当然その槌が頭上から振り下ろされる。
タイミングはピッタリ。このままなにもしなければタイターンの振るう槌は俺の頭をトマトのようにグシャリと潰してしまうだろう。何もしなければだが。
足の裏に爆発を起こし、それをブースターに一気に加速。風を操り体勢を維持して槌の間合いのさらに内側、敵の懐へと飛び込み跳躍する。
ウィクトリアの刀身が闇を纏う。
魔導剣・闇。
黒き闇の軌跡を描いて振るわれたウィクトリアがタイターンの脇腹に一筋の傷を作る。
「ち、堅いな」
僅かに血が流出するのを視界の端におさめながら着地した俺は、着地の勢いのままの床を転がる。床を転がった直後俺が着地した場所をチャクラムが切り裂いて行く。
もしも着地したまま転がらなければ俺はあれに真っ二つんいされていたってわけか。
起き上がりと同時に再び足の裏で爆発を起こして瞬間加速を行い、十分に距離をとったところでタイターンへと振り返る。
「っ!」
タイターンと眼があった。背後に駆け抜けた俺は追って振り返ったというわけではない。やつにはそんな行動は不要だからだ。なぜならタイターンは八面六臂、八対の目が四方八方へと視線を巡らせ監視をしており、横だろうが背後だろうが、どこに回り込もうと奴の視線から逃げ切ることは不可能なのだ。
一番上の右腕が動く。同時に右へと飛び退けば今まで立っていた場所をチャクラムが切り裂いて行く。身体はタイターンへ向けたままチャクラムを目で追った。飛び去ったチャクラムはそのまま空中で弧を描いて進路を変えると持ち主の下へ戻って行く。
そしてそのタイミングこそ好機、俺の横を通過するチャクラムを追って再び走り出す。チャクラムが元の場所へ戻ろうと上昇するのと同時に、俺も跳躍する。風を操り空中で加速してチャクラムを追い越し、チャクラムを捕ろうと伸ばされた手に魔導剣を……………………!?
強い衝撃と共に視界が真っ白にそまった。続けてもう一つ衝撃を受けてどちらが上でどちらが下かも分からなくなった。
なんだこれは?
思考が混乱し続けて全身が痛みに悲鳴を上げ、そこで視界が回復し自分が床に転がっていることに気づく。
俺は今どこにいる?タイターンの背後?左側?
いったい何が起きた?
なかなか言うことを聞かない身体に舌打ちしてなんとか立ち上がる。異次元ポケットから下級傷薬を取りだした。
傷薬と名前が付いているのに患部に塗るよりも飲む方が効果が高いのはどうなんだろうな。
そんなことを思いながら栓を開けようとして、タイターンの一番上の左腕が振るわれたのが視界に映った。その腕が持つのは鎖付きの鉄球。大きく弧を描いて振るわれるそれが狙うのは、俺か……………………!
まずい、避けられない。
痛むからだは動こうにも緩慢にしか動けず、それを解消するには傷薬を飲むしかなく、しかし鉄球は俺がそれを飲んでいる間に、間違いなく俺を粉砕するだろう。
詰んだ。
タイターンとの戦闘が始まってまだ全くといってもいいほど時間が経っていない。狼男に完敗したときよりもなお短いだろう。
くそが、次は絶対に…………………………。
勝つ。そう思った俺の前に二つの影が滑り込んできた。
「ダイチ様!!」
「我ラガ主ニ、何ヲスル!!」
その二つの影に正体はフルーメンとイグニースだった。
盾を捨てて片手用の斧を両手で持ったイグニースが鉄球を下から豪快なスイングで強打し、さらに自身の身体を叩きつけるようにぶつかりその勢いと軌道を乱した。
「任セタゾ!」
「当然ダ」
吹き飛ばされすれ違うイグニースの言葉に静かに答えたフルーメンは、軌道を乱され勢いを失った鉄球へと地を蹴り、全身でぶつかりにいくようにシールドを叩き付けて鉄球を弾く飛ばした。
「………………助かった、俺は何をされた」
吹き飛ばされたイグニースが立ち上がるのを確認して、傷薬を飲み干してフルーメンに問いかける。
「槍デス。自身ノ背後デ回転サセタ槍ノ石突キデ叩キ落トサレタノデス」
「穂先じゃなかっただけ儲けものと考えるべきか」
タイターンにとっては蠅でも払うような感覚の一撃だったのだろうか?
それでも受けたダメージは傷薬一本では回復しきれないほどだ。
「強い、な」
そんなことは最初っから解りきっていたことだ。だが、俺は本当に理解していたわけではなかったのだろう。しっかり理解していたのなら、俺はグランディア達も連れてきていたはずだ。
もしもフロアボスにギガースと同様に属性魔法無効のアビリティがあったとしても、グランディアなら前衛に立ってその拳を振るっていただろう。アクアなら補助魔法だけでなく、床を凍らせたりと幅広く支援を行うことができた。またフラムとヴィンディもその炎や風で目眩ましなどをおこなうことがでくたはずだ。
だというのに、属性魔法が効かないと決めつけて連れてこなかった。
「それに比べて俺は……………………」
もう2本傷薬を飲み干してタイターンを睨み付ける。
やらかしてしまったことはもどうしようもできない。二度と同じ失敗をしないことを心に誓いタイターンを睨み付ける。
「フルーメン、イグニース。いくぞ。そして絶対に、勝つ」
「「ハッ!!」」
フルーメンと俺のそばへと駆け戻ってきたイグニースに声をかけて心を引き締める。タイターンに打ち落とされた時に手放してしまったウィクトリアの位置を確認し、俺は地面を蹴った。
どれくらいの時間戦っていたのか、時間の感覚がおかしくなっている。
タイターンから距離を取り今日何本目になるか分からない魔力薬を取りだし、飲む時間も惜しくそのまま頭から被る。当然飲むよりも回復量が減ることになるが、1分1秒が惜しいこの状況で贅沢は言っていられない。
戦況はどちらに傾いているにか、俺自身分かっていない。八面六臂のタイターンは剣と斧、チャクラムを持っていた腕をすでに失い、右側の面も2つを潰すことに成功している。
対するこちらの被害も大きい。俺のように薬による回復手段の無いテラ達は片腕を失っていたり、その身をひしゃげられていたりしていて、ただでさえ少ない魔力もよくて後一回魔法を使える程度しか残っていないだろう。
常にタイターンの正面に立って戦っていたアロスの消耗も激しい。ギガースでは僅な傷を付けることすらできなかった腕の金属部は、歪み傷つきすでにその原型を留めておらず、両腕は全体に罅が走り身体の各所が欠けて周囲に破片を撒き散らしている。特にひどいのが頭部で、頭の右半分が粉々に砕けてしまっている。正直あまりもちそうに無さそうだ。
さらにもう一本魔力薬を使おうと異次元ポケットに手を突っ込み、顔をしかめる。
「今のが最後だったのか……………………」
まさか今までで溜め込んできた魔力薬を使い切るとは。
魔力薬の代わりに傷薬を取りだし、それも残りが僅かでしかないことを確認してさらに顔を歪める。傷薬を被って各所の痛みが退いていくのを感じながらタイターンを睨み付ける。
テラとアエルがそれぞれ左腕と右腕を失い、アエルは魔法を使えば攻撃手段がなくなる。フルーメンは右足が潰れて激しい動きができず、イグニースは頭から腰の辺りに至る特大の傷を負っていてその背後まで見えてしまうような重傷、でありながら実質それは見た目だけで斧も盾も手元にあり機動力も落ちていない。つまり四人の中で唯一普段通りのパフォーマンスを保っていると言うことか。
けどそれだけか。このまま戦い続けても底の見えてきた俺達に勝機はない。何か、一気に勝負を決める手段が無ければ……………………。
現在の俺の所持アビリティは【剣術】【盾術】【鎧術】【根源魔法】【付与魔法】【死霊魔法】【ジャンプ】【ダッシュ】【鑑定】【気配察知】【魔力察知】【直感】【魔物学】の14個。スキルは【配下作成】【配下命名】【配下複製】【精強】の4つに各種魔法。
今現在求められているには一気に勝負を決めるだけの何か。まずは今俺にできることの確認だ。
剣術のおかげで戦えるようになった俺だが、それだけでどうにかなるような相手ではない。盾術や鎧術のおかげで守りが向上しているものの今欲しいのは攻撃の力だ。
根源魔法はおそらく俺だけで出せる最大火力の攻撃方法だろうが、残り少ない魔力でタイターンを妥当できるだけの威力を出せそうにはない。
付与魔法と死霊魔法はそもそも攻撃向いていない。
ジャンプ、ダッシュも行動を補助するためのもので、鑑定と魔物学も攻撃に使用することができる代物ではない。気配察知、魔力察知、直感もだ。配下作成などのスキルもそういった用途のものではない。
うん、打つ手が無い。
いやいや諦めるなよ。このダンジョンに来てからの日々、見聞きした事から何かヒントを探せ。
と言ってもそう簡単に出てくるはずが無いのだが。
視界に映るタイターンと戦うテラ達。彼らを作成した時のことが不意に思い出された。
あの時は最初サキュバスを作ろうとして失敗し、人口精霊から素材を使用すること、いや自身にあった方法を探すことを薦められたのだ。そして俺が思い付いたのが革鎧を素材にする方法だった。
人口精霊が言うには配下の生成は俺の力量もそうだが、それ以上に俺のイメージにかかっていると言っていた。
そしてそれは根源魔法にも通じる話だ。根源魔法とは火や水、風や土などを操る術であり、炎の矢や風の刃などは全て自身でイメージして初めて形を成すのだ。力量が伴い呪文を唱えることができればそれをなせる系統魔法と違い、難しく自由度の高い魔法。それが根源魔法だ。
イメージすること。それができるかどうか理屈を考えるのではなく、とにかくイメージすること。ここでは何よりもそれが必要なのではないか。
賭けよう。タイターンに打ち勝つために。やつを倒す力をイメージするんだ。
残る魔力を全身に駆け巡らせる。こういった魔力の操作は根源魔法にとっては基礎中の基礎。一切の魔力を外に漏らすことなく全身に駆け巡らせ、巡回させる。
「ヴゥゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
俺が何かをしようとしていることに気づいたのか、アロスが咆哮し、全身から魔力の光がこぼれ出す。今まで温存してきた魔力を使いフィジカルブーストを発動したのだろう。防戦一方になりかけていたところから一転し一気に攻勢にでるアロス。敵の振るう槌を防御もせずに弾き返し、放った拳が防御に回った槍を軋ませる。さらに伸ばした腕が鉄球繋がる鎖を持つ腕を掴む。
エレメンタルナイツもまたここを正念場と思ったのか、テラ達の魔法がタイターンへと放たれる。
テラの放つ土の鎖が槍を持つ腕に絡み付き、アエルの風の刃が動きのとまった鎖を持つ腕に傷を負わせる。アクアの水の鞭は槌を振るう腕を押さえ、イグニースの爆炎が後方を監視していた顔を焼いた。
タイターンの動きが止まる。
アロス達が作り上げてくれた絶好の機会。
ウィクトリアが残る魔力を全て込めて補助魔法を掛けてくれる。
イメージしろ、タイターンを倒す力を。
そして俺は地を蹴った。
アビリティのダッシュの恩恵で短い距離でも十分に速度を得ることができた俺は、助走の勢いを余すことなく使って跳躍する。
ゴブリンジェネラルとの戦いの時には無様を晒してしまったが、今回はあのようなこともなく間違いなくタイターンの頭上へと到達し、眼下の獲物を睨み付ける。
それに気づいたタイターンが全力で抗い、まず魔法による戒めを振りほどかれる。
全力で魔力を注ぎ込んでいたのか、速くも魔力光が弱まってきていたアロスに槌が振るわれその拘束からも解放される。
頭上の俺を驚異と認識したのか、タイターンがその場を離れようとするそぶりを見せた。
逃がすわけにはいかない。
イメージしろ、タイターンを逃がさず倒す力を!
イメージした瞬間、タイターンが何かに押さえつけられたかのように片膝をついた。鎖を手放し槍を両手で掴んで防御の構えを取る。
イメージしろ!タイターンを逃さず、防御ごと叩き伏せる力を!!
「くぅぅらぁぁぁぁっ、えええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
魔力だけでは足りないと思った。身体の奥そこへと溜め込まれていたエナジーを引きずり出すて全身に巡らせる。
魔力がエナジーが俺とウィクトリアを包み今まで感じたことの無い力となって放出される。
タイターンへと落下する速度が上がり、ウィクトリアにその速度も何もかもをも込めて振り落ろす。
轟音が辺りを揺るがした。
重量のあるものが地面に叩きつけられた時には生じるような、重く大きく、爆発のようで長々と響き鳴動させるかのような轟音が、戦場である室内を満たし、揺らし、支配した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………………………」
床を切り裂き刀身の埋まったウィクトリアの柄を握りしめたまま、俺は周囲を見回した。
俺の放った一撃により圧し斬られその肉片を撒き散らされた元タイターンのそれらが光と弾け散ったのを確認し、その場に座り込んだ。




