プロローグ
何もないがらんとした寒々しい風景。それが今俺の前に広がる物だった。暖かさという物を感じさせない薄暗い光がどこからともなくその場を照らし、照らし出されているのは光沢すらない石の床に石の壁、石の天井。窓一つなく扉もない殺風景な部屋。背中に感じるのも冷たい石の感触であり、視線を動かせば自分が意志の玉座に腰掛けていることがわかる。
「いったい何がどうしてこうなった?」
誰もいない場所で思わずこぼれた独り言に答える物はいない。が、自分が気が付く前、最後にあったことを思い出した。
それは、まぁ何ともばからしい話なので簡単に説明させて貰うと、町中で行き倒れていた自称異世界の神様を助け、そのお礼に可能な範囲で願いを叶えると言われたので『異世界でチート貰ってハーレムが欲しい』と半ば冗談半分本気なアホらしい願いを告げたのだが『さすがにそれは無理だけどチートになれる可能性があってハーレムを作れる可能性がある場所に送ることはできるよ』と言われ二つ返事で頷いたのが最後の記憶。そして気が付けばこの場所にいた訳なんだけど………………。
移動の過程は全く思い出せず、まるで瞬間移動でもしたのかといった感じだ。もしそうならあの自称異世界の神様とやらの言葉はは事実かそれなりの力を持っているという訳なのだが、このような殺風景な石でできた部屋でどうしたらチートになれる可能性とハーレムを手に入れる可能性があるというのだろうか?
とりあえずこうして石の玉座に座っていても仕方がないので、本当に何もないのか室内を調べようとしたところで、それが脳裏に響いた。
『黄麻大地様でよろしいでしょうか?』
「はい!?」
突如脳裏に響いた声に慌てて周囲を見回すが、当然見えるのは殺風景な室内のみで誰もいない。まるで漫画やアニメに出てくる念話なるものらしき声の主を捜そうとするも見つかるわけがない。
『いきなり失礼致しました。私は『魔王育成プログラム』進行アドバイザーである人工精霊という存在です』
訳の分からない単語が出てきた。魔王育成プログラムとはなんぞね?
そう問いかけるとアドバイザーなる人工精霊は間を置くことなく説明をしてくれた。
なんでも俺達で言うファンタジー世界における魔王を育成するという名前そのまんまのプログラムらしい。このプログラムを受けた者はプログラム修業とともに数ある異世界の内の一つに送られ、そこで魔王として活動することになるらしい。ただし魔王と言ってもその活動は千差万別で、昔の漫画にあるような悪逆の限りを尽くす魔王になってもよし、現地の人々との共生を目指してもいいし、それこそどこぞに引きこもっても別に構わないというのだからよくわからない。
このプログラムを受ける理由も様々で、俺のようなチートだハーレムだと言う理由も多く、というかそれが最近の大半らしい。他にも復讐の為だったり世界征服の野望を持っていたりと本当に色々だとか。
そして肝心のこのプログラムの内容はダンジョンを攻略しながら魔王にふさわしい能力を身につけることらしい。なんでも特殊なダンジョンでふつうではあり得ない効率で実力を上げることができ、また配下の育成やその他魔王として必要な物事を揃えるのが目的とのこと。俺の願いのチートやハーレムも、プログラム修業後に行く世界でチート級の力を振るえるようにここで修行し、好みの配下を集めて自分でハーレムを作ることができると言うことらしく、まさしく自称異世界の神様が言っていた『チートになれる可能性があってハーレムを作れる可能性がある』というものだった。
『ただし、このプログラムを受ける場合元の世界に一切戻ることができなくなりますが、黄麻様はこのプログラムを履修いたしますか?これが最後の確認となります』
どうしようか、元の世界への未練は当然、ある。ただ両親との関係は冷え込み、というか喧嘩別れして一人暮らしを始めてから一度も顔を合わせてないし、友人は多くとも特に仲のいい友人も彼女もおらず、好きな職に就けた訳でもなし。あるのは先の気になる漫画やアニメ、ゲームといった未練だけ。我ながら安っぽい未練だ。言ってて悲しくなるな。
うん、受けよう、この話。
『最終意思確認を終了しました。これより『魔王育成プログラム』を開始します』
こうしてどこにでもいるような30まで後数年というごく普通の青年だった俺、黄麻大地の魔王候補生生活が始まったのだ。
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名前:黄麻大地
性別:男
レベル:1
職業:魔王候補生
クラス:未定
生命力:E
力:E
魔力:E
素早さ:D
運:B
アビリティ
スキル
装備
上半身:Tシャツ
下半身:ジーパン
足:底のすり減った安全靴