03.田山圭太音信不通失踪事件(俺ベッドで撃沈編)
◇
本日をもって、めでたく追試が終わったヨウはたむろ場で携帯を弄っているところだった。
忌まわしい追試が終わったにも拘らず、ヨウの顔は険しかった。決して追試の出来が悪かったわけではない。寧ろ、響子その他諸々のスパルタ的な勉強法により定期テストより出来は良い筈だ。数学に関しては高得点を狙えるだろうと確信していた。
ではヨウの表情が険しい理由は何か。原因は一つしかなかった。
携帯を閉じて、ヨウはグルッとたむろ場を見回す。 仲間内の殆どは此処、スーパー近くの倉庫裏に集まっている。そう“ひとり”を除いては全員顔が揃っているのである。ヨウは溜息をついて己の携帯に目を落とす。数日前から何度も着信やメールを送っているのだが、相手から返事は無い。舎弟から一切連絡が入ってこない。
今日は水曜日、舎弟と連絡が取れなくなって早四日。
連絡がつかなくなったのは追試前日。皆で集まって追試の勉強を見てくれる筈の舎弟がドタキャンどころか無断で欠席した。どんなことがあってもメールの返事だけは早い舎弟。その舎弟がメールさえ返さないなんて。
ヨウは土曜の出来事を思い出していた。
ケイは向こうのチーム“山田健太”と呼ばれる中学時代の友と絶交宣言をした。
ケイには悪いと思いながらも素性を知るために弥生に頼んで山田健太について調べ上げたのだが、それはそれは味の悪い結果報告なもので、ケイと山田健太は中学時代に親友と称すべき仲の良さを誇っていたらしい。三年間、同じクラスであり、誰より仲が良く、毎日のようにつるんでいたと情報役は教えてくれた。
しかしケイは彼と絶交した。互いに対立しているチームに属しているその現状と己の立場を弁えて。
それで終われるならケイだって苦労はしていない。傷付く現実だったからこそ、彼は泣き崩れたのだ。想像を絶する苦痛だったに違いない。
(ケイは負けず嫌いだ。弱みを見せることを極端に嫌っている)
けれど、あの時のケイは虚勢すら張れず、自分の前で崩れた。
あんなにも弱ってしまったケイを見るのは初めてだった。もういいのだと諦めを見せ、自分に言い聞かせていたが……その姿は痛々しかった。
ケイは“因縁”でグループ分裂した自分達と違って自分の意思で相手と決別したわけでない。自分の立場とチームの友情を守るために、相手と決別せざるを得なかったのだ。相手もそれを十二分に分かった上で決別したのだろうと、ヨウは考える。
(俺達を選んだ結果が、ケイを傷付けることになった。か)
ヨウは眉根を寄せ、携帯を握り締めた。
自分のせいではないと分かっていつつも己が安易にケイを舎弟にしたから……と、脳裏に責任という二文字が過ぎる。無論、ケイは自分を責めていたわけではない。ただ境遇に苦言していた。決別した友を思って心痛を抱いていたのだ。
連絡がつかなくなってしまったケイは今頃、塞ぎ込んでいるのかもしれない。
あれだけ打ちひしがれていたのだ。簡単に立ち直れという方が無理だろう。
『ヨウ、嘘でもいい。正しいって言ってくれ』
懇願してきたケイに、嘘でもいいから“正しかった”と言ってやるべきだったのだろうか。判断をミスってしまったのだろうか。
言ってやれば、ケイは傷心を抱きながらも此処に来てくれたかもしれない。メールの返信をしてくれたかもしれない。ケイはいつだって自分のことを理解してくれていた。さり気なく陰から支えてもくれていた。なのに逆の立場になった途端これだ。
(ダセェ……何が舎兄だ)
舎弟に何も出来ないなんて……ヨウは自分の非力を自嘲した。
「ヨウ……ケイから連絡は?」
自分の世界に浸っていたヨウは副リーダーの呼びかけにより我に返る。
力なくかぶりを振ると、「そうか」困ったものだとシズがぼやいた。それ以上の責め立てる声は上がらない。彼なりの気遣いが垣間見えている。
既に仲間内にはケイの一件が知れ渡っている。ヨウ自身が望んで皆に話したわけではないが、チームである以上、この件は話しておくべきだと判断した。それ以前に、ケイと山田健太とのやり取りを見ていた弥生達の方から尋ねてきたのだ。
舎弟の名誉のために泣き崩れたことは伏せ、ヨウは一部始終を伝えた。少しばかりケイが傷付いている――と。
「やっぱり今日も来てないんっスね。ケイさん……会いたいっス……ケイざん……俺っち、寂しいっスっ」
どーんと落ち込んでいるのはケイを慕っている弟分のキヨタだった。
ここ数日、ケイに会えていないことが寂しくて仕方が無いらしい。「ケイさぁあああん!」キャンキャンと子犬のように吠えて会いたい気持ちを空に投げている。
「あいつ、何してるんだよ。手のかかる奴だな」
モトは親友を慰めつつ、ケイに悪態を付きつつも、心配の色を見せている。本心は憂慮で一杯なのだろう。
一番そわそわとしていたのはココロだった。
「ケイさん、大丈夫でしょうか」
あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、忙しなく動き回っている。響子に落ち着けと言われても、ココロはやっぱりうろうろするのだ。
気持ちが態度に表れているだけに苦笑いを零してしまう。
「ケイが来ないのはしょうがない。傷心が癒えるまで待つしかないよ」
皆の様子を見かねたハジメが意見する。
こればかりは本人の問題、自分たちが口を出せる問題ではないと口にした。
確かにそうだとヨウが首肯すると、「でもでもでもさ」このままじゃ不味いとワタルが反論する。何故ならばケイはヨウの“足”であり、ヨウの舎弟。長期間、不在されるとそこを日賀野チームが狙ってくる可能性がある。それだけ狡く、機転の利くチームなのだ。事が向こうのチームにばれる前に不在問題は解決させたいと意見した。
「向こうのチームも追試が終わる筈だしぃ、気は抜けないっぽーん。隙を見せたらシテやれるんば!」
これまたご尤もな御意見である。
しかめっ面を作るヨウを余所に、苛立ちを見せたのはモトだ。苛々すると軽く髪を掻き乱す。
「グズグズ引き篭もるくらいなら、表に出て来いっつーの。オレ達のことがそんなに信用ならないのかよ」
相談であれ愚痴であれ、此方は相手のはけ口になれるというのに。ブツクサ文句垂れるモトに同調したのは弥生である。木材から飛び下り、何かあれば仲間内に吐露して欲しいものだ。それとも信用されていないのだろうか。と、彼女はぶーっと脹れた。
「そうじゃねえよ」ヨウは弥生の考えを否定する。ケイは自分達に信用を置いている。それは確かだ。
「じゃあ何で」弥生の追及に珍しくココロがおずおずと意見する。
「あの……その、ただ言い難いんだと思います。み、皆さんを信用していないわけじゃないんですけど、『相談してもいいのかな?』と思っているのだと。ケイさん。皆さんに比べたら大人しい方ですから……私、なんとなく気持ちが分かります。私がケイさんだったら……同じようなことをしてしまいます。きっと」
さり気なくケイをフォローするココロはもじもじと指遊びをしながら自分の考えを主張する。
「で……でもやっぱり寂しいですよね」皆の気持ちも酌んで、またもじもじ。もじもじ。もじもじ。皆の顔色を窺っていた。
どちらの気持ちにも理解を示すココロの意見に頷き、ヨウはこれからどうすれば良いかと思考を巡らせる。ケイのことばかり気を取られてもいけない。ヤマト達のことも考えなければ。自分はチームのリーダー。一つに囚われていては物事が上手く回らなくなる。
しかし、ああ見えてケイはチームの要のひとり。
優れた土地勘とチャリの腕を持っている。喧嘩で使えないとはいえ、他面では大活躍している。今、抜けられては困る人物なのだが……。
抜 け る ?
ヨウは人知れず血の気を引かせた。
まさか、ケイはこの機にチームを抜けようとしているのでは。今回の出来事はケイに相当なダメージを与えた。チームを抜ける可能性もなくはない。現にメールの返信が無いのだ。電話を掛けても繋がらない。誰も彼もを拒絶している可能性もある。
更に言えば、ケイは向こうのチームの頭に舎弟を誘われている。それは現在進行形だ。向こうに中学時代の友人がいるのならば裏切る……ということも。
そこまで考えて首を横に振った。
なんてことを考えているのだ、自分は。ケイに疑念を抱いてしまうなんて。今までケイの何を見てきたのだ。安易に考えてはならないことだ。
だが、舎兄の自分がそう考えてしまったのだ。仲間内が疑念を抱くのも時間の問題。いや、既に疑っている者も出ているかもしれない。ひとりが不穏な動きを見せるとチームの輪は乱れてしまう。それだけは回避しなければチームとして致命的だ。
追試が終わった今、リーダーの自分が動かなければ、いずれチームの輪の均衡が崩れてしまう。なあなあにしておけない。
「ハジメ、後のことはお前に任せる。今日から数日の日程を、テメェ中心に決めてくれ」
「僕が? そんなこと僕にできるかな」
ハジメはポリポリと頬を掻き弱気な態度を取る。適任だろ、ヨウは微苦笑を零した。
「割り当てはお前の得意分野だろ。弥生の掻き集めた情報を元に数日の日程を決めてくれ。終わったら俺にメールしろ。ワタル、テメェも手伝え」
「それはいいけど、ヨウちゃーんはどうするの? お出掛けするみたいだけどん?」
「俺はシズとケイの家に行く。これ以上、不在にされても困る。いいか、シズ」
「構わないが……」
だったら自分も行きたいとキヨタが名乗りを上げた。
どうしてもケイに会いたいらしい。そわそわしているココロもまた心配なようだ。名乗りは上げないものの、行きたそうな顔を作っている。
しかしヨウはそれを許さなかった。
チームメートのことはリーダーである自分と副リーダーのシズが面倒を看る。大勢で行っても迷惑になるだけだ。一方、チーム自体のことはチームメートに任せても大丈夫だろう。ハジメは相手の出方をよく考察する奴だし、ワタルもいざとなれば頭脳派に回る。二人が躓いても響子がサポートしてくれるに違いない。
それに……今のケイは弱っているに違いない。極端に弱い姿を隠そうとする奴なのだ。
その姿を見てもいいのはチームを纏めるリーダーと舎兄だけだと、ヨウは思っている。シズを連れて行くのはそういった意味合いがある。デリケートな問題は互いを傷付け合う可能性もある。仲間内を傷付けるわけにもいかない。
ヨウはシズ以外の同行の許可を下ろさなかった。
「ンと、随分リーダーらしくなったな」
煙草を吸いながら話を聞いていた響子は、ふーっと紫煙を吐き出しヨウに伝言を託してきた。
「ケイに“待っている”と言ってくれ。今回のことは何も咎めやしない。“アンタを待っている”。そうあいつに伝えてくれ」
微笑する響子にヨウは一つ頷いた。
「俺っちも“待っていますから”とお伝えて下さい!」うわぁああんと嘆くキヨタに苦笑いを浮かべた後、そわそわと落ち着きの無いココロに歩み寄り、軽く肩を叩いた。
「何かあいつに伝言あるか?」
「え?」ドキッとしているココロは目を泳がせ、あーうーと唸った後、小声で呟いた。
「れ、連絡して欲しいです。心配ですからと……言って頂ければ」
勿論、友達としての意味ですよ。
付け加えて言ってくるココロに笑声を漏らしたヨウは了解したと返答し、シズと共にたむろ場を後にした。
片隅で疑念が芽生えていた。もしかしたらケイはヤマト達のチームに入るのかもしれない、入ったのかもしれない、と。聞く限り、中学時代に培われた友情は根強そうだ。向こうの友情の惜しさ故に、自分達に背を向ける可能性だってある。あるに違いないのだ。無いとは言い切れない。
「――有り得ねぇ。だーれも出ないなんて。留守かよ」
さて、ケイの家にやって来たヨウとシズだが、何度呼び鈴を鳴らしても誰も出て来ないため、諦めて踵返しているところだった。
何度かケイの家に泊まりに来たことがあるため、彼の家までは容易に来れたのだが、誰も出ないとなるとどうしようもない。居留守を使われている可能性もあるが、それさえ判断もつかないため諦めて帰るしかない。
「今から邪魔するって、メールで言ってみたんだけどな」
ヨウは荒々しく頭部を掻き、本人に会えなかった現実に嘆く。これでは手も足も出ない。
「自転車はあったようだがな……」
シズは車庫に置いてあったケイの愛チャリを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔を作った。居留守を使われている可能性は大だ。しかし本人もしくは身内が出てくれなければ、自分達は彼が家にいるのかどうかさえも確認することができない。
初っ端からの八方塞、出鼻を挫かれた気分だ。どうしたものか、本人に会わなければ意味も何もないのだが。
「ヨウ。あまり考えたくは無いが……」
もしやケイはヤマト達に接触しているのだろうか。シズは疑念を口にしてきた。やはりシズも考えてしまったのだ。ケイの裏切り、を。
「そんなことねぇよ」ヨウは強く否定するものの、己の中に芽生えている疑心は簡単に摘めずにいる。打ちひしがれているところを目の当たりにしているのだ。もしかしたらヤマトに見透かされて傷心に付込まれてしまった、ということも考えられる。
(今の状況が辛ぇって言ってたもんな。ヤマト達のところに行かなくても、チームを抜けるってこともあるかもしれねぇ……けど今のチームにはケイが必要不可欠だ。舎兄弟を解消するわけにもいかねぇ)
なによりチームを抜けられたら、自分がショックを受ける。ヨウは苦い感情を噛み締めた。
「ヨウ……情報収集をしてみよう。ケイと……馴染み深い人物は、いないのか?」
副リーダーに視線を投げる。
「自分達に胸の内を明かせず」チームメート以外の人物に相談している可能性もあるではないか。シズの意見に、ヨウはなるほど、と相槌を打った。その可能性は十二分にある。間接的にチームのことが関わっているのだ。第三者に泣きついている可能性も考えられる。
しかしケイと馴染み深い奴、馴染み深い奴、馴染み深い奴。ヨウの思い付く人物はひとりしかいなかった。
◇
「田山とは、ここ数日メールもしていませんけど」
大通りの一角にある、とあるコンビニ裏口前。
ヨウとシズはケイのクラスメートであり地味友で、チームメートにとって間接的な仲間でもある五木利二の下を訪れていた。
もっとも彼の連絡先を知らず、勤めているバイト先の場所しか認知していなかったので、利二と接触できるかどうかは大きな賭けだった。たまたまバイト中だった利二を見つけ、二人は客の振りをして彼に声を掛けた。勤務中の彼は二人の不良の出現に大いに驚いている様子だった(そして少しビビッている様子でもあった)。
頭の回転が速い利二は何かあったのだと察し、「十五分待ってもらえますか?」もうすぐ休憩だからと教えてくれる。そのため十五分、コンビニの外で時間を潰し、利二の休憩時間を待って現在に至る。
「田山と連絡が取れなくなった?」
事情を知った利二は、眉根を顰めてしまう。
詳しい説明を求められたため、ヨウは簡潔に事情を説明した。ケイと山田健太の間柄のことを。区切り区切りで相槌を打っていた利二は、すべての話を聞き終わると懇切丁寧に返事する。彼と連絡を取っていないため、何も知らない、と。
「そんなことがあったことさえ知りませんでした。申し訳ないですが、お力にはなれそうにないですね」
「うそだろ、五木もダメかよ。お前が一番可能性的にでかかったのに」
また手が無くなった。
ヨウは地団太を踏む。電話も駄目、メールも駄目、訪問も駄目、地味友も駄目。自宅の電話番号が分かればそっちに掛けるのだが、生憎誰もケイの家の電話を知らない。再び訪れた八方塞にヨウは軽く舌を鳴らすしかなかった。ここまで来ると苛立ちが募る。
「ヤマト達か……」
シズはますます疑念を口にし始める。
ヨウ自身も強く否定できなくなりつつある。八方塞なのだ。どうしても小さな可能性に目を向けてしまうのである。
「何を言っているんですか?」
ワケが分からないとばかり利二が険しい顔を作る。
「まさか田山が向こうのチームに寝返るとでも?」なら笑えないジョークだと彼は言い切った。それは有り得ない事だと明言する彼の瞳には、揺るぎない意思が宿っている。
「田山は貴方達のとても友情を大切にしています。それは傍らで見守っている自分が保証しますよ。きっとメールさえもできない事情があるんだと思います。田山はカッコ付けですが、連絡を疎かにして人に心配を掛けるような奴ではありません。あまり田山を疑わないで下さい、それとも田山が信じられませんか?」
ならば今まで彼の何を見てきたのだと、彼の口調が次第次第に厳しくなる。
眼光を鋭くする利二は意外と物申す奴らしく、言葉を重ねた。
「貴方達は勘違いをしています。田山という男を。あいつは強くもなければ弱くもない。ただ、自分の範囲内で出来る限りの努力を重ねる。そういう男ですよ。事情を聴く限り、田山は無理をし過ぎてるんだと思います。周囲が思う以上に無理に無理を重ねて……ついに自分の中で何かが爆ぜてしまった。そんな気がします。
田山だって器用じゃない。何かに苦しんでいる時は、周囲に気遣える余裕なんて無いんですよ。連絡を寄こすことも、チームのことを考えることも、自分がどれほど周りに心配を掛けているのかすら、まったく分からない状況なんです。あいつはきっと悩んでいるし苦しんでいる。自分達が思う以上に。
それでもあいつが周りに気遣いを見せ始めたなら、それはまたあいつが無理し始めた証拠。筋金入りのカッコ付け馬鹿ですから。田山は。負けず嫌い、と言っても良いかもしれませんね。何故頼ってくれないのだと思うかもしれませんが、繰り返し言います。田山も器用じゃない。頼ることさえ見えないことがある。
ではその時、自分は何をすべきか? 田山と同じようにカッコをつけて、あいつを支えてやることです。頼ることを気付かせてやることなんです。何かあいつが無理して馬鹿なことをしようとしたら、全力で止めたい。
荒川さん、田山はそういう奴ですよ。あいつが必要以上に無理する時はいつだって友達のためなんです。そして自分のためだって言い聞かせているんです。そんなあいつを、どうして疑おうとするのか、自分には正直理由が見えません。少しだけ貴方達に嫉妬を覚えているんですよ。自分にとってあいつは一番の友。その友が最近こちらに顔を見せてくれない。寂しかったりするものです。舎弟だから仕方が無いかもしれませんが……それでも自分は胸を張って言えることがある」
険しい顔から一変、彼はどこかしら勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「いつだってあいつを信じている。自分は、最後まであいつを信じきれると断言できるんですよ。信じられないあなた方のチームとは、舎兄弟とは、所詮そういうものなのでしょうか? なんにせよ、田山を悪く思うことだけはやめて下さい。切に願います。何か連絡があったら報告しますので。それでは」
呆気取られている不良二人に一礼し、利二は踵返してコンビニの裏口へ戻って行く。
我に返ったヨウとシズは顔を見合わせ、苦々しい笑みを浮かべた。本当に言ってくれる奴だ。不良相手に臆せずあそこまで言ってくれるなんて。度胸があると言うか、なんと言うか。さすがはケイのダチ、彼と体を張って喧嘩をしただけある。
何だか悔しくなった。疑ってしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「なんだよ。俺の立場がまるでねぇじゃねえか」
まだまだ舎兄としても、リーダーとしても自覚が足りない。力量も不足している。仰るとおり、舎弟の何を見てきたのだろう。
肩を竦めるシズは「言われたな」舎兄の面目丸潰れだぞ、と茶化してくる。それには触れないで欲しいものだ。今、猛省しているところなのだから。
ヨウは気持ちを改めた。毒言を吐いてきた利二に感謝をしたい。今の言の葉たちで気持ちが吹っ切れた。疑いの芽が摘まれたのだ。
疑うことはもう止そう。
利二の言うとおり、ケイはメールさえ出来ない状況に陥っているのだ。部屋で塞ぎ込んでいるのかもしれない。一番辛い状況に立たせられているのはケイなのだ。そのケイを支えようとするどころか、疑心を向けてしまうなんて。
「もっかいケイの家に行こう」
ヨウはシズに提案した。
もう一度、居留守を使っている可能性の高いケイの家に行こう。今度は出て来てくれるかもしれない。ひょっとすると出掛けていて、その道の途中で出くわすかもしれない。会えずとも情報をつかめるかもしれない。彼の家に行けば会える可能性が高くなるのは確かだ。
なんにせよ動かなければ、ケイに会う可能性はゼロなのだ。
だからもう一度、ケイの家へ。




