27.雪辱を果たせ五十嵐戦(赤と青③編)
「ヤマト! イヤ、起きる! イヤ、起きる!」
大量の鉄筋を退け、急いで下敷きになっているヤマトを引き摺り出す帆奈美はパニックに陥っていた。
「ヤマ……」名前を呼ぼうとしても言葉が続かない。彼の頭を触った途端、ぬるっと手の平に赤い体液がこびり付いたせいだ。こめかみから大量の鮮血を流す彼、先方の喧嘩の傷が癒えていないか傷が開いたのだろう。夥しい量の血にますます帆奈美は冷静を欠かした。
自分を庇って怪我をしてしまった。ヤマトが自分を庇って……嗚呼、どうすればいいのだ。どうすればこの血が止まるのだ。
取り敢えず、彼が火の粉から頭を守るために被せてくれたブレザーで止血しようと、それを患部に当てる。
そして彼の頭を膝に乗せ、帆奈美はヤマトを何度も揺すり起こそうと躍起になった。幸い、朦朧とだが彼に意識はあるようだ。「ヤマト!」必死の呼び掛けにようやく、「いつも……テメェは」微かにだがヤマトは反応した。
彼は苦痛に顔を歪めながら、いつもどおりシニカルに笑おうと努める。
「そんな……情けねぇ顔をする。いつも……そうだ。いつも……困った……お姫さんだな。どうすりゃお前は泣き止んでくれるんだろうな。まあ、泣き止ます相手は……俺じゃねえってことは確かだってことだよな……最初から分かっていたけどな」
アイロニー帯びた台詞を吐き、ヤマトは静かに瞼を下ろす。気を失ってしまったようだ。
「ヤマト、駄目!」こんなところで寝たら敵が、少しだけ頑張って仲間の下に行こう。応急手当してもらおう。そしたら寝て良いから。気を失って良いから。情けなく声が震えた。いつもだったら情けない声に反応し、皮肉を零すではないか。
なのに今、呼び掛けに無反応だなんて。
ぬっ、と視界が暗くなる。
恐る恐る顔を上げれば、先ほどヤマトに押されていた不良が目前に立っていた。手には散らばった鉄筋の残骸。一本抜き取って此方に歩んできたらしい。出血しているヤマトに鼻で笑い、ヤラれた分を返してやると相手は鉄筋を握り締めた。
その形相は明らかに憤っている。帆奈美は怪我人の頭を抱き締め、敵に睨みを飛ばした。自分にできる些細な抵抗だった。
相手は目でそいつを渡せと訴えてくるが、負傷人を腕に閉じ込めて首を横に振る。
すると向こうは面倒だとばかりに鉄筋を振り翳した。纏めてやってしまおう、と思い立ったのだろう。腕の中の荒い息遣いを感じながら、帆奈美は閉じ込める力を強くした。体を張って守ってくれようとした人に、自分も体を張って守らなければ、その念が強く自分を支配する。
キンッ、そんな甲高い金属音の悲鳴が上がったのは直後のこと。
自分と怪我人を守るように、前に出て振り下ろされた鉄筋を自分の持つ鉄筋で受け止めている背中に帆奈美は目を丸くした。
「畜生が!」
自分だけカッコつけるからこうなるんだと盛大な悪態を吐き、ヨウは相手の鉄筋を弾き、握っている鉄筋の先端で相手の鳩尾を突く。
ぐぇっ、蛙の潰れるような声音が辺りに散らばった。怯んだ相手の隙を見逃さず、ヨウは腹部を横蹴りして不良を伸す。
更に自分の後を追い駆けて来た取り巻きの一人に鉄筋を投げ付け、相手が避けたそのコンマ単位の隙を突いて捨て身タックル。敵と共に倒れたヨウだったが素早く身を起こし、相手の顔面に肘を落とす。顔を両手で押さえ、身悶えする不良に頭突きをしてトドメを刺した。
一丁あがりだと手を叩くヨウは急いで失神しているヤマトと、気が動転している帆奈美の下に駆ける。二人の前で膝を折るとまずは彼女と怪我の具合を確認。
「帆奈美、大丈夫か? ヤマトは……血の量が多いな。止血はブレザーじゃ無理だろ」
ブレザーでは止血に適していない。もっと吸収力のあるもので止血を試みないと。
必死にブレザーを患部に当てている帆奈美の手を退け、ヨウは近辺に落ちていたタオルを畳んで患部に当てる。帆奈美を拘束していた、あの忌まわしきタオルだ。
見る見る内に怪我人の血を吸い取っていくタオルの様子に、「やべぇな」傷は思った以上に深いかもしれないとヨウは舌を鳴らした。「ヨウ……ヤマト、どうなってしまうの?」震える声音で尋ねる帆奈美の肩に手を置き、大丈夫だとヨウは彼女を励ます。
「こいつは馬鹿でクソだが、こんなことでくたばる阿呆じゃねえ。俺が保証してやる。いいか、帆奈美。時間もねぇし向こうも待っちゃくれねぇから、一度しか言わねぇぞ、よく聞け。
この話が終わって十秒経ったら、二階フロア階段入り口までなりふり構わず走れ。そこで助けを呼ぶんだ。あそこにはワタルやアキラ達がいる筈だから、助けを呼んでこいつを運んでもらうよう頼め。こいつを連れてお前は外に逃げろ。此処にいても喧嘩の邪魔なだけだ。別に役立たずと言うつもりはねぇ。テメェにはテメェの役目がある。負傷したヤマトを病院に連れて行くんだ。病院に今すぐ連れて行けなくても、外で応急処置くれぇはできる筈。
外は外で喧嘩をどんちゃんしている。だから正面入り口じゃなくて、こっそりと裏口から出ろ。そこだったら人目もねぇ筈だ。
ゲホッ、煙が立ち込めてきやがった。とにもかくにも此処じゃ負傷したヤマトの体に害が及ぶ。俺の言う意味は分かるな? 帆奈美。テメェのやることはヤマトを救うために走ることだ。向こうは俺達に時間をくれねぇ。いいか、今から十秒だ」
「ま、待ってヨウ。私……ヤマトを置いて走れない。貴方だって、置いて行きたくない。言うこと……聞く義理も無い」
この期に及んでこの女は。
帆奈美にヨウは億劫と苛立ちを募らせるが、彼女の微動する体を目の当たりにし考えを一掃。
彼女は不安と混乱で一杯だろう。気が動転していて当たり前なのだ。自分を庇って大切な誰かが血を流す。誰だって気が動転するに決まっている。彼女だって例外ではない。自分だってきっと、彼女の立場に立たされたら気が動転も動転。説明を一度で理解して動け、という方が無理なのだ。
だけど時間が無いのも確か。
「走るんだ」
ヨウは強く彼女の細い右肩を握り締め、気をしっかり持つよう口調を強くする。
このままではヤマトが危ない。一旦此処にヤマトを置いて、自分は仲間の下に走るのだと指示。大丈夫、ヤマトが無防備で失神している間、自分がしっかり守るから。勿論、仲間の下に行く帆奈美のことも守ってやる。絶対に。
何故ならば今この瞬間だけでも、自分達は手を結んだ同志。仲間なのだから。
「不安なのは分かる。けどテメェがやらねぇと誰がやるんだ、この役目。帆奈美、行くんだ」
「ヨウ……」
「ムカつくほど今なら、テメェの不安が分かってやれる。分かってやれるんだ。だから言うんだ。ヤマトのために走れって。本当はそういうお前の姿を見るのも癪だけどな――馬鹿みてぇだよな。俺、お前のことがいっちゃん嫌いな女なのに。もっと早くお前の気持ちを察してやれる気の利いた男になりたかったよ、安心しろ、テメェもヤマトも守ってやるさ」
一笑するヨウは呆ける彼女の肩を叩き、「行け!」直立して大喝破。背後から忍び寄っていた最後の取り巻きを相手取る。
下から上へアッパーを食らわせている間にも、帆奈美はヨウの喝破に弾かれ、行動を開始する。
ただし、すぐには走らず。自分の力をフルに出してヤマトの体を壁際まで引き摺り、安全な場所まで移動させていた。
ヤマトの身の安全は当然のことながら、ヨウのためにも帆奈美は怪我人の体を移動させたのだ。動かすことは危険だろうが、そこらに放っておくことは敵の不良に狙われてもっと危険だろう。壁際ならば、守る範囲も少しで良い、彼女はそう判断したうおうだ。さすがは喧嘩スキーのセフレ。喧嘩の心をよく得ている。
「すぐ戻る。ヨウ! 怪我しない、で! 絶対に!」
カタコトに、けれどしっかり自分の身を案じて駆け出す帆奈美。
彼女のその優しさにヨウは苦笑いしてしまう。ああくそっ、悔しいじゃねえかよ。今更になって彼女の気持ちが分かるなんて、不安に気付けるなんて、全力で守りたいと思う自分がいるなんて。悔しくて悔しくて自分自身に喧嘩を売りたい気分だ。
あの頃、自分は自分のことで手一杯だった。
分裂事件が起きている頃、自分の主張だけで手一杯だった。その間、仲間意識が強く心優しい彼女は不安で不安で堪らなかったに違いない。今放った自分の「大丈夫」、きっとあの頃の帆奈美も言って欲しかったに違いない。
喪心しているヤマトはどういう気持ちで、彼女に「大丈夫」の定義と安息を与えていたのだろう?
「おっと。そっちには行かせねぇ。テメェの相手は俺、だ!」
駆け出した彼女を追おうとした取り巻きの足を引っ掛け、相手のバランスを崩させる。
そしてそのまま相手の胸倉を掴み、壁際とは反対の方向に体を投げ飛ばした。地に体を叩きつけられ、敵の呻き声が聞こえたが気にする余裕などない。少しでも怪我人から敵を遠ざけるためにヨウは身悶えている敵の体を蹴り、ゲームの主犯を睨んだ。
それまで自分の取り巻きに戦闘を任せていた五十嵐だったが、ついに彼も動きを見せる。
ゆらっと体を揺らして一歩を踏み出す五十嵐は、「やってくれるじゃねえか」どことなく不機嫌に鼻を鳴らしていた。本当ならば人質を助けるかどうかで精神的攻撃を与えジワリジワリ追い詰めていく予定だったのに、余計な行動のせいで計画が狂ってしまったと顔にデカデカ書いてある。
「舐めていた」
まさか策士の日賀野大和が、たかがセフレの女のために無鉄砲に動く男だったとは。
人質奪還の代償として背負った“負傷”は彼の中で計算されていたことなのだろう。自分の計画を狂わすためでもあったのだろうが、まんまと一杯食わされた気分だと五十嵐は肩を竦めた。
「テメェとは違うんだよ」
額から滲み出る汗をブレザーの袖で拭い、ヨウは後ろで喪心している不良を一瞥する。
「あいつはああ見えて仲間思いだ。例え人質が帆奈美じゃなかろうと馬鹿な行動に出てただろーよ。ヤマトは卑怯を道具にしているが、それは全部仲間を守るため。テメェの卑怯とは別格だっつーの。手前だけのために喧嘩して、再び地元で名を挙げようとするテメェとはな!
テメェのことだ。どうせ地元で名を挙げている俺やヤマト達を甚振り、潰し、復讐して、前のように自分の天下を築き上げようとしているんだろう。正直に言って、地元が“あの頃”に戻るなんて俺は真っ平ご免だな。今の方が俺達不良も悠々とできる。そりゃ各々喧嘩はするけど、地域を支配する馬鹿はいねぇ。伸び伸びと喧嘩も遊ぶこともできる。
テメェが地元地域を支配していたあの頃は窮屈だったぜ。
何処でたむろするにもお前の名前が出てくるし、喧嘩を振ってくる不良達は一々テメェの名前を出して、逆らったらどうなるか分かっているんだろうな的な台詞を吐いてくる。小生意気な態度を取ったら、すぐに潰される。“五十嵐コール”には耳にたこができるかと思ったぜ。
ま、そんだけお前の力が凄かったってことは認めるけどな。
けど、俺はテメェのやり方も信念も認めねぇ。
今、テメェが催しているこのゲームも、あの頃のテメェのやり方も、俺はぜってぇに認めねぇ。『力量さえあれば他人なんざ意のまま』弱ぇ奴なんざ、弱いから悪い。気弱だから苛められたり、ストレス発散道具として扱われている。それが当たり前だと思っているお前のやり方を認める価値もねぇ。どーせテメェは俺達のことを“仲間ごっこをしている不良達”だと思って嘲笑うだろうがな。俺にとってあいつ等は居場所そのものなんだよ。不良だろうが地味だろうが、ンなもんカンケーねぇ。俺とつるんでいる奴等は皆、必要で大事な奴等なんだ。
だから五十嵐、テメェだけはぜってぇ許さねぇ。俺の仲間を甚振った挙句、病院送りにしたテメェだけは!」
パチ。
周辺の燃える炎が火の粉を放った瞬間、ヨウは足首に力を入れて素早く相手に向かった。
「ヤマトの方がテメェよか百倍マシだ。やり方はちげぇし、ソリも合わねぇけど……仲間を思う気持ちは俺と共通しているんだからな!」
ジャケットに両ポケットを突っ込んで気ダルそうにヨウの話を聞いていた五十嵐は、食い掛かってくる相手の拳を受け流して右膝を上げる。
名を挙げていただけあって、本人自身も手腕は相当なもの。軽い身のこなしに舌を鳴らしつつ、ヨウは蹴り上げてくる膝を片手で受け止めて相手の脛を狙うが、向こうは飛躍して後退。近辺に転がっていた空の赤いポリタンクを持ってヨウに投げ付けた。
小賢しいとヨウは空のタンクを振り払うが、隙を突いて五十嵐が駆けた。自分の脇をすり抜けて彼が向かった先は積まれたドラム缶の山。
ドラム缶の麓を容赦なく蹴り飛ばす五十嵐の不可解な行為に眉根を潜めるヨウだったが、麓の一缶が転がった拍子に上のドラム缶がバランスを崩し始める。
「しまった!」
ヨウは血相を変えて走った。
向かうは怪我人の下。相手はドラム缶を崩し、怪我人の下に雪崩れ込ませるつもりなのだ。
ターゲットを怪我人に絞るなんざ最悪だろう、なんて相手の卑怯非道な行為に思う間もなくヨウは怪我人の前に立ち、腕を取って抱えると、怪我人を引き摺るように連れて、その場から逃げた。
「重ぇ。てか……クソッ、なんで俺がこいつを守るとか。守るとか。手前で言ったものの……っ、なんか癪だっ。と、アッブネ?!」
ドラム缶が目の前に転がって来たため、ヨウは立ち止まってやり過ごす。
危なかった。ホッと胸を撫で下ろすヨウだったが、ガンッ、ゴンッ、ドンッ、次から次に転がってくるドラム缶の群に悲鳴を上げたくなった。
もはや喧嘩のレベルじゃないだろ、これ! てか、灯油とか持参して火を熾している時点で喧嘩のレベルを超してやがる! 後始末とか考えてないだろ! 警察沙汰にでもなったらクソメンドクセェのに!
急いでヤマトを背負い、ドラム缶の雪崩れから逃げる。
相変わらず火の手は広がる一方、寧ろ火事にでもなりかねない勢いなのだが、五十嵐はどれほどの灯油を持参して二階フロアにばら撒いていたのだろう。やることなすことすべてメンドクサイ奴だと思いつつ、ヨウはヤマトを連れて逃げた。勝利の一旗を挙げるにはまず怪我人を第一優先として考えなければ。
それに彼女に守ると宣言してしまったのだ。守れなかった、では示しもつかないではないか! ……それに泣くではないか、守れなかったら彼女が。泣かれたら困る、すこぶる困る。
(あ、そうか。ヤマトの奴……だから帆奈美を放っておけなかったのか。不安に駆られたあいつが、隠れて泣いていたのを放っておけなかったから)
好意を寄せてるなら尚更だよな。
苦笑を零したヨウだが、「五十嵐卑怯だぞ!」正々堂々と勝負しやがれ、気持ちを切り替えて相手に勝負の異議申し立てをする。
ドラム缶の攻撃も止んだところだ。今度こそ怪我人を安全な場所に隠して、相手と拳の勝負をしたいところなのだが。
パチパチッ、燃える炎と空気の煙たさに咽ながらヨウは相手を目で探す。
手摺付近までやって来たが相手は見つからない。まさか手摺を乗り越えて? ……いや、下ではタコ沢達がドンパッチしている。五十嵐の姿は見つからない。
何処からとも無く鼻で笑う声が聞こえた。
一体全体何処から声が、警戒心を高めていたその時「右後ろだ」弱々しい声が助言してくる。急いで前へ跳躍すると、右後ろから勢いづいた巨大S状フックが飛んでくる。クレーン車の先端についているようなそのS状フックは天井の鎖と連なっており、金属の重量感は見るからにありそうである。
「油断しているんじゃねえ……」荒い息遣いで悪態を付いてくる怪我人はどうやら気がついたらしい。
「テメェのせいだっつーの」背負っているせいで見えなかったのだとヨウは憮然と答える。
「くたばりそうなら遺言くらい仲間に伝えておいてやる。ヤマト」
「そりゃありがてぇ……後で……覚えてやがれ」
「うるせぇ怪我人。この貸し、三倍どころか十倍で返せ、よっ、とっとっと?! アッチィ!」
先ほどのフックが反動で戻って来たため、それを可憐に避けてみせたヨウだったが、その際灯油が撒かれている床へ避けてしまい、制服のズボンに火が点いた。
「アチッ!」どうにか自分の足で揉み消すヨウに、「マヌケ……」何をしているんだとヤマトは溜息を吐く。
コノヤロウ。人が必死こいて守ってやっているのにその言い草、この場で落としてやろうか。こめかみに青筋を立てるヨウだったが、ゼェゼェ息をついている相手にそんなこと出来る筈も無く。早く仲間達が此処にやってくることを願った。でなければ、自分も喧嘩に集中できない。
その時だった、別の巨大S状フックがヨウの死角に襲い掛かったのは。
避けることも儘ならず、どうにか怪我人のヤマトをその場に落としたまでは良かったが、そのまま勢いづいた重量感あるS状フックのせいで手摺から上半身を越してしまう。上半身が手摺向こうに持っていかれるのならば、胴と繋がっている下半身も自然と持っていかれる。
「荒川!」ヤマトの怒声を耳にしつつ、ヨウは現状に瞠目するしかなかった。やべっ、このままじゃ落ちる。
「ヨウ―――!」
ガックンと体が揺れ、強い力で体を前に引き戻されたのはその直後。
脱臼してしまうんじゃないかというような痛みが肩に走ったが、それ以上に、驚いたのは……「うわっちっ!」「うぎゃっつ!」勢いのまま転倒するヨウは、助けてくれた相手を下敷きに。呻き声を上げている救世主はヨウの下でもがいている。
「アイテテテ。あーあ……何もこんな時まで、ブラザーと同じ運命を辿ろうとしなくてもいいじゃないっすか兄貴。落ちたら、モロ俺と運命共同体。というか、退いてくれっ、重い! ヨウ、マジ重!」
まったくタイミング良過ぎるだろ、我がジミニャーノ舎弟くんは。
ヨウは思わず笑声を漏らしてしまったのだった。