二日目
翌日もシンデレラはベッドに横たわり、屋根裏部屋の天窓から星を見つめていました。
「今日も舞踏会だなんて、お姉さまとお母様は大変ね」
王子様のお妃様選びの舞踏会は一週間毎夜開催されるようでした。
一週間もの間毎日夜外出するだなんて想像するだに疲れる、とシンデレラは寝転がりながら思います。
「魔法をかけに来たぞシンデレラ」
「今日も来たんですか」
昨日と同様に光を集めつつ現れた魔法使いに、のっそりとシンデレラは身を起こします。
「舞踏会の期間中どこかで出席させれば俺の勝ちだ」
「いつの間に勝負に…」
「これは意地だ!絶対に舞踏会に出席させてお前を王子と結婚させてやる!」
「暇なんですか魔法使い様」
「とりあえず引きこもりのお前よりは暇じゃない」
「何をおっしゃいますか。こう見えて毎日毎日忙しいのですよ」
「ほう、具体的には何を」
「今日は家事をひと通り、それから趣味のお菓子作りをしてお母様とお姉さまに振舞ったあとは寝てました」
「暇じゃねえか」
「失敬だな!寝るのにも結構体力を使うんですよ!」
「知らねえよ!何ギレだよ!」
キレ返した魔法使いは椅子を引き寄せどすんと腰掛けます。
「ほら、一回素直に魔法にかかっちゃえよ。かかっちゃえばなんてことないって、外に行く気にもなるって」
「それは思考をおかしくする魔法ですね、怖いなこの人」
「人聞きの悪い事を言うな!お前も女なんだからお洒落して綺麗になりたいみたいな願望はあるだろう」
「……」
「あるだろう」
「ええ、まあ、そうですね。心の隅にちらっとないこともないです」
これはよくある「はい」を選ぶまでエンドレスな会話だと悟ったシンデレラはひとつも心のこもらない声で答えます。
あるだないだいう面倒くさい会話で時間を浪費するのは主義に反することでした。
「つまりそういうことだ。綺麗に着飾れば気分が上がる、誰かに見せたくもなる、つまり外に出たくなる、舞踏会に行きたくなる」
「とても論理的かつ画期的な論法ですね魔法使い様。そこでひとつお願いがあるのですが」
「なんだ、やっぱり変身させてもらいたくなったか」
「そろそろ10時で眠いので帰っていただけませんか」
「そこでひとつから何一つつながらない会話すぎるだろ!ていうかお前昨日普通に会話途中に寝てたよな、しかも立ったまま!」
「いついかなる時でもどんな体勢でも寝られるのが私の特技です」
どうです、と胸を張っていうシンデレラに魔法使いはため息で返します。
「お前俺が変質者だったらどうする気だ」
「不法侵入してる人のいう事でもないと思いますがそれは置いといて、あんなに舞踏会に行って王子と結婚してこいという人が私の貞操をどうこうしようとはしないと思いまして」
「具体的かつ生々しく現実的に考えてはいるんだな…」
「引きこもりだからといって知識がないわけではないんですよ、無駄に本は読んでます」
「へえ」
「ちなみにちゃんとエロい本も入ってます」
「聞いてないからな!?」
少し顔の赤い魔法使いに、この人案外純情だなと失礼なことを思いつつぼんやり昨日のことを思い出します。
「あ、そうだ忘れてた」
ありがとうございました、とシンデレラは頭を下げました。
「な、なんだ。まだ俺は礼を言われるようなことはなにも」
「昨日ベッドに運んでくださったのは魔法使い様ですよね。立ったまま寝ると朝起きた時体の疲れが取れないので助かりました」
「お前あのまま朝まで寝れんの…!?」
ありえないものを見る目で魔法使いは頭を下げたままのシンデレラを見つめます。
「いや、まあ…ぶっちゃけ放り投げただけだし、そんな深々と礼を言われることで…も…」
途中でなんだか嫌な予感がしてシンデレラに近づくと、すうすうと規則正しい息遣いが聞こえてきました。
「…………」
わかってた、と遠い目をしながら魔法使いは土下寝状態のシンデレラを突き飛ばしてごろんと横倒しにしてやりました。