ベネディクト8
最近、私はおかしい。
ん?元からおかしかったって?
失敬だな。
「・・・・クト!・・・ディクト!ベネディクト!!」
「ん?」
ふと気付けば、隣りにレイがすごい形相で立っているではないか。
「ったく、何度呼べば気づくんだ?いい加減にしてほしいよ。まったく」
ぶつぶつと何か独り言を言っている弟を横目に私は眉を寄せる。
「おい、独り言はやめろ。気味が悪いぞ?」
私の言葉にどうやらカチンと来たらしいレイはますます眉を吊り上げて怒鳴った。
「兄上に言われたくない!!!リール嬢がいなくなってからというもの、リール嬢馬鹿どころか仕事まで手に着かなくなってきてるじゃないか!!」
彼の怒りはもっともだった。
この頃はリルの事を考えると心配で心配で仕事が手に着かなくなってしまっていた。
「大体、リール嬢を嫁に迎えようと言うのが間違っているんだ。一介のメイドにそこまで入れ込んで、侯爵の名が廃るぞ?」
「・・・廃れたくなければ、お前が継げばいいと言っているだろう?別に侯爵家が廃れようが潰れようが、私はリルがいればそれでいい」
私の言葉に、レイは頭を抱えていた。
私自身、少しおかしいとは思うがどうにもこうにもリルがいないと力が出ない。
彼女を妻にする為にしている事とはいえ、もし、外に出ている間に悪い虫がついたらどうする!?
リルの様な可愛い娘に悪い虫がつかないわけがない。
あぁ、やはり外に出すべきではなかった。
今頃、リルは泣いているかもしれない。
む、迎えにいかなければ。
そう思うと体が勝手に部屋の外へ向かって歩いていた。
「ベネディクト!!どこへ行くんだ!!まだこんなに仕事が残っているだろう!?」
部屋の外へ一歩足を踏み出したところで、レイに捕まってしまった。
「・・・・はなせ」
本気でレイを睨む。
「やめろ。恐ろしい顔で睨むな。・・・わかった。リール嬢の動向を探らせる・・・。といってももうすでに知っているんだろう?なら、ベネ宛に手紙を預かって来てやる。だから、仕事してくれ」
手紙・・・・。
リルからの手紙・・・。
それは、かなり嬉しい。
思えば彼女からそんなものを貰った事はなかった。
「・・・・必ずだぞ?期限は3日だ。それまでに彼女の手紙を持ってこなければ私は仕事があろうが彼女の元へ行く」
そう宣言すると、呆れたように頷きレイは部屋を後にした。
リルからの手紙・・・・。
それを思うと、目の前に重なった書類の山を早速片付け始めた。
書類に目を通し、判を押す。
ダメな書類には、訂正もしくは代替案を出す様に書き記す。
一通り目を通し終えると息を吐いて天井を見上げた。
その時・・・。
トントン
部屋の扉が叩かれた。
レイかと思い入室を許可すると、メイド頭ともうひとり見知らぬメイドが入ってきた。
「・・・何用だ?」
メイド頭からリルの報告は常に聞いているが、もう一人メイドがいると言う事はその事ではないのだろう。
「お忙しいところ申し訳ありません。先日、辞職しましたリールに変わり新しいメイドを雇いましたので、ご報告に参りました」
メイド頭がそう言うと、メイド頭の後ろにいたメイドが横から出てきて頭を下げた。
「・・・この度こちらで働かせて頂く事となりました、マーサと申します。宜しくお願い致します」
「・・・あぁ」
リル以外興味もなかったので私はそう返事をした。
「では、こちらの者が今後ベネディクト様の傍に着きますので、宜しくお願い致します」
そう言うと、メイド頭と新しいメイドは部屋を後にした。