リル6
メイド頭から言い渡された窓ふきがもう少しで終わろうかと言うところで、またご主人様に呼びだされてしまいました。
「あ、あと少しなのにぃ・・・・」
恨みがましく廊下に敷かれた絨毯を踏みつけると、再びあの声が聞こえてきた。
「リル!」
その声に思わず舌打ちをしそうになります。
だって、しょうがないですよね?また、くだらない用事だと思うとついついしたくなるのも当然かと・・・・。
重い重いため息をつくと、いつの間にやらご主人様のお部屋の前にいました。
「・・・・失礼致します」
重い扉を開けるとそこには机の前で腕を組んでいるご主人様の姿がありました。
「・・・御呼びでしょうか?」
「・・・遅い」
ん?なにやらいつもと雰囲気が違うように思います。
というか、いつもに増して低い声はどうもお怒りのご様子?わ、私なにしましたか・・・・?
「も、申し訳ありません」
「・・・・お前はここに勤めてどれくらいだ?」
・・・はて?急になんなのでしょう?
「ご主人様がお戻りになる少し前からですから、もうすぐ1年になるかと・・・・」
「1年か・・・・。それなのに、まだお前は仕事を覚えられないのか?」
はい?急になんなのでしょう?
「私の頼んだものはきちんと届けられない。人の顔を見ては悲鳴を上げる。挙句の果てに黙って私の前から逃げだすとは・・・・」
・・・・最後の方はつい最近の事ですね。でも、頼まれたものをきちんと届けられないとはどういう事でしょう?
「あ、あの。ご主人様。頼まれたものを届けられないとは・・・・?」
「口答えまでするのか!?・・・・まぁ、よい。お前に先日頼んだものはなんだ?」
先日と言えば・・・・
「ご主人様の・・・パ・・・ぱんっ・・・・」
あぁ、恥ずかしくて小声になってしまいました。
「馬鹿者!誰がそんなものをお前に頼むか!!私は、パンを1ダースと書いたのだ!!」
え・・・・?えぇ!?
いやいやいや。待って下さい。確かに私はパンツって書いてあるのを確認しましたよ!!
それに店の主人さんも頼まれたものねって出してくれたじゃないですか!!
「ちゃ、ちゃんと確認しました!!メモにはパ、パンツって!!」
「ほう。それではそのメモとやらを見せて見ろ」
見せて見ろって・・・・。あ、下着専門店においてきちゃいましたよ。
「・・・・も、もってません」
「なら、お前が見間違えていないという証拠などなにもないではないか!!」
そんな事言われても・・・・。
きちんと確認したし、今まで何も言われなかったというのにどうして急にそんな事を言い出すのでしょうか?
悔しくて、おもわずこみ上げてくるものがありました。
「・・・・泣いても無駄だ。お前の様なメイドはもう必要ない。ほら、これに生活できる分だけのものが入っている。今すぐこの屋敷を出て行くんだな」
ほいっと放り投げられたそれは、まさしく違約金だった。
「・・・わ、わかりました。い、今までお世話になりました」
そういって、放り投げられたそれを拾い上げると私はご主人様の部屋を後にしました。
「・・・・うふ。やっとこの仕事から解放されるのね!!」
ご主人様の部屋・・・おっと、もうご主人様じゃなかった。
ベネディクト陰険侯爵様のお部屋から出て私はスキップをしながらメイド頭の部屋へ行き、クビになった事をつたえると、少し叱られたが思ったほどではなく、私は荷物をまとめて屋敷をあとにした。
え?クビにされて悲しまないのかって?
いや・・・今までクビにしたくてしたくてしょうがないってわかってた事ですよね?
違約金もらえたなら、もう用はありませんよ。
さて、これで、ゆっくりじっくり職探しが出来ますね。むふふふふ♪
思わずスキップしながらコーナ町へ向かった事は恥ずかしいので秘密にして下さいね。