メイド頭 1
「あぁ・・・・リル・・・。アンタとんでもない人に目つけられちゃったよ」
たった今出てきた部屋を振り返り深い深いため息が零れる。
「また、よりにもよってベネディクト様だなんて・・・・」
現在、私の勤める屋敷の当主、ベネディクト・マルサス侯爵。
お父上がなくなられた後、城で護衛騎士団長をしていた彼が呼びもどされ侯爵の座に座った。
勤勉で真面目。絵に描いた様な美男子。
そんな彼は、騎士時代から女性に人気があった事もあり、彼が戻ってきたときには募集していたメイドが殺到したものだ。
しかし、そんな彼にも欠点はある。
それが、『リル』だ。
彼がこの屋敷に戻る数ヶ月前からこの屋敷で働きだしたリルは私の姪だ。
彼女の母は私の姉だったが、彼女が幼いころに亡くなりそれ以来私が育ててきた。
私にもここの仕事があり、あまり構ってやれなかったが、素直にすくすくと育ってくれた。
・・・感情に素直すぎるところがたまに傷なのだが・・・・。
そんなこんなで、リルも私の元で働きたいと言いだし、ここにきたのだが・・・・。(私たちが血縁者と言う事は当主様以外には伏せてある。仕事を優遇したなどと言われる事を懸念して。)
「まさか、ベネディクト様に見染められるなんて・・・・・」
災難としか言いようがない。
確か、私の記憶違いでなければ彼女は侯爵の事を苦手としていたはず・・・・。
まったく人の話に耳を傾けようとしなかったベネディクト様は、リルの気持ちをご存知ない事は火を見るより明らかだった。
「・・・・どうしましょう?・・・・ベネディクト様にもリルにも話せやしない・・・・・」
再び深いため息をつくと、2人の事はとりあえず見守る事にした。
今後どのような事になろうが、2人とも成人した大人だ。わざわざ私が出ていく必要はないだろうと。
しかし、ここまで育てたのも事実。
リルを男爵様の養女に取られることには腹がたったが、陛下もそれを許可してしまったのであれば私が何を言ったところでどうにもならない。
どちらにしても、もし、本当にベネディクト様と結婚をするのであれば、身分はかわれど、かわいい姪と離れることはないだろうと思い口を噤んだ。
しかし、やはり娘のように育ててきたリルに何かしてやりたいと思い、リルの花嫁衣装には力を入れて取りかかる事にした。
「お金はベネディクト様持ちだし。この際、私じゃ作ってあげられない様な花嫁衣装作ってあげましょう!!」
・・・・リルは私が育てましたよ?何か?